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第二章

055 2つ飛ばし

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「おい、あれ六華の連中じゃねぇか……」
「あれが噂の……」
「今度はレベル4のダンジョンに行ったらしいぜ……」

 僕たち『融けない六華』の登場に、ギルドにたむろする冒険者たちが波を打つように騒めき、まるで徳の高い預言者に道を譲るかのように左右に割れた。注目を集めているね。あの『コボルト洞窟』の事件以来、僕たち『融けない六華』は、なにかと注目を集めるようになっていた。間違いなく新成人のパーティでは一番の知名度だろう。その実力も『コボルト洞窟』で示してみせた。まさしく新進気鋭の冒険者パーティと言えるだろう。

 王国の未来は明るいともっぱらの噂だ。一昨年には勇者を擁する『極致の魔剣』が大活躍し、そして今年は『融けない六華』があの勇者パーティを超える活躍をしている。ここツァハリアス王国は、多数のダンジョンを擁する冒険者の聖地。冒険者の活躍が王国の発展を支えている。その冒険者に一昨年、そして今年と2つの新たな輝く大きな星が続けて加わった。そのことを冒険者の黄金期が来たと評する者も居る。そして新たな変革の前触れ、世代交代の時期だと言う者も居る。そして、彼らは王国の更なる発展が訪れることを無邪気に信じていた。

 まぁうん。その噂になってるもう片方の『極致の魔剣』だけど、勇者の力を失ってるから皆が期待するような冒険者の黄金時代だとか、世代交代だとか、起こらないと思うよ。それにしても、『極致の魔剣』はこれからどうするんだろうね? 不気味なくらい動きが無い。ミスリル貨を奪ったことで動きが鈍っているとかかな? だとしたら嬉しいのだけど……。

 開かれた道をルイーゼを先頭に進む僕ら『融けない六華』に向けられるのは、好奇の視線だけではない。

「レベル3ごときが偉そうに……」
「だな……」
「見た目が良いから優遇されてんのさ。じきにボロが出る……」

 当然、僕たちの活躍を快く思わない連中も居る。特に世代交代だと揶揄された老舗のクランやパーティからの視線が厳しい。そんな敵意さえ混じった視線を一身に浴びるのは、パーティの先頭を歩くルイーゼだ。普通なら尻込みしそうなものだけど、彼女の足取りに戸惑いや恐れは無い。真っ直ぐに前を見つめ、淀みなく進む姿は美しい。

 そんなルイーゼと同じくらい視線を集めている者がいる。

「なんでまたアイツなんだ……」
「運だけは良いな……」
「チッ、クソがっ!」

 意外に思うかもしれないが、それは僕だ。ポーターもどきたちから、嫉妬混じりの悪意ある粘ついた視線が注がれている。視線って重いんだね。その重さに思わず背筋が曲がりそうになってしまう。でも……! 僕はルイーゼを見習って、負けてたまるかと、むしろ胸を張った。

 ルイーゼは強いな。羨ましくなるくらい強い。僕もそうありたい。変わりたい。僕も自分を“華”だと誇れるようになりたい。皆の仲間だと誇れる自分でありたい。いろいろ足りない僕だけど、いつかは……!


 ◇


「え!? 次は『万魔の巨城』にするの!?」

 注目を集めた冒険者ギルドでの用も終わり、パーティメンバー皆で酒場で打ち上げをしている時だった。次はどのダンジョンを冒険しようかという話題になった途端、ルイーゼが宣言した。『万魔の巨城』に行きたい、と。冗談のようにしか思えない言葉だけど、ルイーゼの目は本気だ。本気で次は『万魔の巨城』に行きたいと言っていることが伝わってくる。

 『万魔の巨城』はその名の通り、巨大な城タイプのダンジョンだ。そのダンジョンレベルは7。今日行った『オーク砦』のダンジョンレベルは4。3つもレベルがかけ離れている。

 普通の冒険者パーティは、当然ながら1つずつ攻略するダンジョンのレベルを上げていく。しかし、卓越した実力を持つ冒険者パーティは、挑戦するダンジョンのレベルを1つ飛ばして挑戦することもあると聞いたことがある。だけど、1つ飛ばしは聞いたことがあるけど、2つ飛ばしなんて聞いたことがない。それも、序盤のレベル1や2のダンジョンを飛ばすのではなく、レベル5とレベル6のダンジョンを飛ばしてレベル7のダンジョンに挑戦するなんて前代未聞だ。

「本気…? というよりも正気?」
「正気だし本気よ!」

 僕にはとてもそうとは思えないけど……ラインハルトは? イザベルはどう思っているんだろう? ルイーゼの無茶を止めるブレーキ役の2人を見ると、考え込むように黙して喋らない。どうして? どうして2人はルイーゼの暴走を止めないの?

「ハルト?」

 僕が声をかけると、やっとラインハルトが少し俯かせていた顔を上げた。

「失礼、少し考えていたので……。クルトさん、ルイーゼの発言ですが、はたして本当にそれほどおかしなものでしょうか?」
「え…?」

 てっきりルイーゼの暴走を止めてくれるのかと思ったら、ラインハルトがおかしなことを言い出した。どうしちゃったの?
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