55 / 77
第二章
055 2つ飛ばし
しおりを挟む
「おい、あれ六華の連中じゃねぇか……」
「あれが噂の……」
「今度はレベル4のダンジョンに行ったらしいぜ……」
僕たち『融けない六華』の登場に、ギルドにたむろする冒険者たちが波を打つように騒めき、まるで徳の高い預言者に道を譲るかのように左右に割れた。注目を集めているね。あの『コボルト洞窟』の事件以来、僕たち『融けない六華』は、なにかと注目を集めるようになっていた。間違いなく新成人のパーティでは一番の知名度だろう。その実力も『コボルト洞窟』で示してみせた。まさしく新進気鋭の冒険者パーティと言えるだろう。
王国の未来は明るいともっぱらの噂だ。一昨年には勇者を擁する『極致の魔剣』が大活躍し、そして今年は『融けない六華』があの勇者パーティを超える活躍をしている。ここツァハリアス王国は、多数のダンジョンを擁する冒険者の聖地。冒険者の活躍が王国の発展を支えている。その冒険者に一昨年、そして今年と2つの新たな輝く大きな星が続けて加わった。そのことを冒険者の黄金期が来たと評する者も居る。そして新たな変革の前触れ、世代交代の時期だと言う者も居る。そして、彼らは王国の更なる発展が訪れることを無邪気に信じていた。
まぁうん。その噂になってるもう片方の『極致の魔剣』だけど、勇者の力を失ってるから皆が期待するような冒険者の黄金時代だとか、世代交代だとか、起こらないと思うよ。それにしても、『極致の魔剣』はこれからどうするんだろうね? 不気味なくらい動きが無い。ミスリル貨を奪ったことで動きが鈍っているとかかな? だとしたら嬉しいのだけど……。
開かれた道をルイーゼを先頭に進む僕ら『融けない六華』に向けられるのは、好奇の視線だけではない。
「レベル3ごときが偉そうに……」
「だな……」
「見た目が良いから優遇されてんのさ。じきにボロが出る……」
当然、僕たちの活躍を快く思わない連中も居る。特に世代交代だと揶揄された老舗のクランやパーティからの視線が厳しい。そんな敵意さえ混じった視線を一身に浴びるのは、パーティの先頭を歩くルイーゼだ。普通なら尻込みしそうなものだけど、彼女の足取りに戸惑いや恐れは無い。真っ直ぐに前を見つめ、淀みなく進む姿は美しい。
そんなルイーゼと同じくらい視線を集めている者がいる。
「なんでまたアイツなんだ……」
「運だけは良いな……」
「チッ、クソがっ!」
意外に思うかもしれないが、それは僕だ。ポーターもどきたちから、嫉妬混じりの悪意ある粘ついた視線が注がれている。視線って重いんだね。その重さに思わず背筋が曲がりそうになってしまう。でも……! 僕はルイーゼを見習って、負けてたまるかと、むしろ胸を張った。
ルイーゼは強いな。羨ましくなるくらい強い。僕もそうありたい。変わりたい。僕も自分を“華”だと誇れるようになりたい。皆の仲間だと誇れる自分でありたい。いろいろ足りない僕だけど、いつかは……!
◇
「え!? 次は『万魔の巨城』にするの!?」
注目を集めた冒険者ギルドでの用も終わり、パーティメンバー皆で酒場で打ち上げをしている時だった。次はどのダンジョンを冒険しようかという話題になった途端、ルイーゼが宣言した。『万魔の巨城』に行きたい、と。冗談のようにしか思えない言葉だけど、ルイーゼの目は本気だ。本気で次は『万魔の巨城』に行きたいと言っていることが伝わってくる。
『万魔の巨城』はその名の通り、巨大な城タイプのダンジョンだ。そのダンジョンレベルは7。今日行った『オーク砦』のダンジョンレベルは4。3つもレベルがかけ離れている。
普通の冒険者パーティは、当然ながら1つずつ攻略するダンジョンのレベルを上げていく。しかし、卓越した実力を持つ冒険者パーティは、挑戦するダンジョンのレベルを1つ飛ばして挑戦することもあると聞いたことがある。だけど、1つ飛ばしは聞いたことがあるけど、2つ飛ばしなんて聞いたことがない。それも、序盤のレベル1や2のダンジョンを飛ばすのではなく、レベル5とレベル6のダンジョンを飛ばしてレベル7のダンジョンに挑戦するなんて前代未聞だ。
「本気…? というよりも正気?」
「正気だし本気よ!」
僕にはとてもそうとは思えないけど……ラインハルトは? イザベルはどう思っているんだろう? ルイーゼの無茶を止めるブレーキ役の2人を見ると、考え込むように黙して喋らない。どうして? どうして2人はルイーゼの暴走を止めないの?
「ハルト?」
僕が声をかけると、やっとラインハルトが少し俯かせていた顔を上げた。
「失礼、少し考えていたので……。クルトさん、ルイーゼの発言ですが、はたして本当にそれほどおかしなものでしょうか?」
「え…?」
てっきりルイーゼの暴走を止めてくれるのかと思ったら、ラインハルトがおかしなことを言い出した。どうしちゃったの?
「あれが噂の……」
「今度はレベル4のダンジョンに行ったらしいぜ……」
僕たち『融けない六華』の登場に、ギルドにたむろする冒険者たちが波を打つように騒めき、まるで徳の高い預言者に道を譲るかのように左右に割れた。注目を集めているね。あの『コボルト洞窟』の事件以来、僕たち『融けない六華』は、なにかと注目を集めるようになっていた。間違いなく新成人のパーティでは一番の知名度だろう。その実力も『コボルト洞窟』で示してみせた。まさしく新進気鋭の冒険者パーティと言えるだろう。
王国の未来は明るいともっぱらの噂だ。一昨年には勇者を擁する『極致の魔剣』が大活躍し、そして今年は『融けない六華』があの勇者パーティを超える活躍をしている。ここツァハリアス王国は、多数のダンジョンを擁する冒険者の聖地。冒険者の活躍が王国の発展を支えている。その冒険者に一昨年、そして今年と2つの新たな輝く大きな星が続けて加わった。そのことを冒険者の黄金期が来たと評する者も居る。そして新たな変革の前触れ、世代交代の時期だと言う者も居る。そして、彼らは王国の更なる発展が訪れることを無邪気に信じていた。
まぁうん。その噂になってるもう片方の『極致の魔剣』だけど、勇者の力を失ってるから皆が期待するような冒険者の黄金時代だとか、世代交代だとか、起こらないと思うよ。それにしても、『極致の魔剣』はこれからどうするんだろうね? 不気味なくらい動きが無い。ミスリル貨を奪ったことで動きが鈍っているとかかな? だとしたら嬉しいのだけど……。
開かれた道をルイーゼを先頭に進む僕ら『融けない六華』に向けられるのは、好奇の視線だけではない。
「レベル3ごときが偉そうに……」
「だな……」
「見た目が良いから優遇されてんのさ。じきにボロが出る……」
当然、僕たちの活躍を快く思わない連中も居る。特に世代交代だと揶揄された老舗のクランやパーティからの視線が厳しい。そんな敵意さえ混じった視線を一身に浴びるのは、パーティの先頭を歩くルイーゼだ。普通なら尻込みしそうなものだけど、彼女の足取りに戸惑いや恐れは無い。真っ直ぐに前を見つめ、淀みなく進む姿は美しい。
そんなルイーゼと同じくらい視線を集めている者がいる。
「なんでまたアイツなんだ……」
「運だけは良いな……」
「チッ、クソがっ!」
意外に思うかもしれないが、それは僕だ。ポーターもどきたちから、嫉妬混じりの悪意ある粘ついた視線が注がれている。視線って重いんだね。その重さに思わず背筋が曲がりそうになってしまう。でも……! 僕はルイーゼを見習って、負けてたまるかと、むしろ胸を張った。
ルイーゼは強いな。羨ましくなるくらい強い。僕もそうありたい。変わりたい。僕も自分を“華”だと誇れるようになりたい。皆の仲間だと誇れる自分でありたい。いろいろ足りない僕だけど、いつかは……!
◇
「え!? 次は『万魔の巨城』にするの!?」
注目を集めた冒険者ギルドでの用も終わり、パーティメンバー皆で酒場で打ち上げをしている時だった。次はどのダンジョンを冒険しようかという話題になった途端、ルイーゼが宣言した。『万魔の巨城』に行きたい、と。冗談のようにしか思えない言葉だけど、ルイーゼの目は本気だ。本気で次は『万魔の巨城』に行きたいと言っていることが伝わってくる。
『万魔の巨城』はその名の通り、巨大な城タイプのダンジョンだ。そのダンジョンレベルは7。今日行った『オーク砦』のダンジョンレベルは4。3つもレベルがかけ離れている。
普通の冒険者パーティは、当然ながら1つずつ攻略するダンジョンのレベルを上げていく。しかし、卓越した実力を持つ冒険者パーティは、挑戦するダンジョンのレベルを1つ飛ばして挑戦することもあると聞いたことがある。だけど、1つ飛ばしは聞いたことがあるけど、2つ飛ばしなんて聞いたことがない。それも、序盤のレベル1や2のダンジョンを飛ばすのではなく、レベル5とレベル6のダンジョンを飛ばしてレベル7のダンジョンに挑戦するなんて前代未聞だ。
「本気…? というよりも正気?」
「正気だし本気よ!」
僕にはとてもそうとは思えないけど……ラインハルトは? イザベルはどう思っているんだろう? ルイーゼの無茶を止めるブレーキ役の2人を見ると、考え込むように黙して喋らない。どうして? どうして2人はルイーゼの暴走を止めないの?
「ハルト?」
僕が声をかけると、やっとラインハルトが少し俯かせていた顔を上げた。
「失礼、少し考えていたので……。クルトさん、ルイーゼの発言ですが、はたして本当にそれほどおかしなものでしょうか?」
「え…?」
てっきりルイーゼの暴走を止めてくれるのかと思ったら、ラインハルトがおかしなことを言い出した。どうしちゃったの?
0
お気に入りに追加
573
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう
果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。
名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。
日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。
ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。
この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。
しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて――
しかも、その一部始終は生放送されていて――!?
《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》
《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》
SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!?
暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する!
※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。
※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。
俺の召喚獣だけレベルアップする
摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話
主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った
しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった
それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する
そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった
この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉
神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく……
※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!!
内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません?
https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる