上 下
54 / 77
第二章

054 罠師

しおりを挟む
 そんな一見単純そうで、しかし考えが読めないマルギットだけど、今回のダンジョン『オーク砦』攻略でのMVPを決めるとしたら、間違いなく彼女だ。モンスターの撃破数が多いというわけではない。マルギットは勇者化していないので、オークの撃破数は僕と同じく0だ。では、何がそんなにすごかったのか。それは彼女のギフトが深く関係している。

 マルギットのギフト【罠師】はすごい。罠の場所が分かるだけではなく、罠の所有権とでもいうべきものまで奪うことができる。所有権というのは、ちょっと分かりにくい表現かもしれないけど、マルギットの話を聞いてると、彼女の感覚的には、どうも所有権のような感じみたいだ。

 まず、マルギットは罠の位置が感覚的に分かるらしい。

「罠みっけー!」

 罠を見つけると、マルギットは近寄っていき罠の傍で床や壁に手を着く。そして、深呼吸1つ分くらいの時間そうしている。

「よし! あーしのになったよー!」

 この“マルギットの”になると、罠は作動しなくなる。正確には、僕たちパーティメンバーには罠が作動しなくなる。どういう原理かはよく分からないけど、罠が僕たちに対して機能しなくなるのは確かだ。

 罠というのは、通常は1回もしくは既定の回数発動すると無力化してしまう物だ。ワイヤートラップで矢を放つ罠があったとして、1度ワイヤーの仕掛けが発動して矢を放ってしまったら、後はもう無力な置物になってしまう。

 しかし、普通ならとっくの昔に無力な置物になっているべきダンジョンの罠は、まだ稼働している。どうも時間が経つと仕掛けが復活するらしいというのが通説だ。そして、ダンジョンのモンスターはダンジョンの罠にかからないことでも知られている。

 でも、この“マルギットの”になると、僕たちとは逆に、普通なら罠にかからないハズのモンスターが罠にかかるようになる。“マルギットの”になると、罠が僕たちの味方になるのだ。

 他にも罠を拾ったり、ストックしたり、設置したりもできるらしい。罠に関してかなり汎用性の高いギフトみたいだ。そして、これ以上は無いってくらい冒険者向きのギフトだ。日常生活で罠を仕掛けたり仕掛けられたりなんて滅多に無いことだと思う。街中ではなんの意味も無い死にギフトだ。それが、冒険者になると途端に輝き出す。ダンジョンなんて罠の宝庫と言えるからね。高レベルダンジョンなんて即死トラップ満載である。それらを全て無効化し、利用すらできるマルギットの【罠師】は、とても冒険者向きのギフトだ。

 マルギットのギフトの性能を知らなかった僕は、彼女を試す意味も込めて、罠が多いことで知られるここ『オーク砦』を選んだわけだけど……とんでもないものが出てきたね。まさかここまですごいギフトが出てくるなんて思いもよらなかった。試すだなんてとんでもない話だったね。マルギットは罠のスペシャリストだ。それでいて驕ったところが無い。実はマルギットってすごい人物なのではないだろうか?

 僕がマルギットを尊敬の眼差しで見ていたら、彼女の碧の瞳と目が合った。運命かな?

「んー? なにクルクル? もしかして、見惚れてた?」
「え……?」

 何を言ってるんだろうと思ったら、マルギットが両腕を開いて手を頭の後ろへとやり、胸を張って腰をしならせた。いわゆるセクシーポーズだけど、体のラインがモロに出るピッチリした装備のマルギットがやると破壊力がすごい。すご過ぎて直視できない。

「あれー? クルクル、顔赤くなってなーい?」

 “にししっ”と無邪気に笑うマルギットは、自分の魅力をちゃんと理解しているのだろうか?

「あらマルギット、抜け駆けは感心しないわね。貴女もクルトが好きだったの?」

 そんなマルギットにもしなだれかかるようにして現れたのはイザベルだ。僕に流し目を送りながらマルギットの耳元でなにかを囁く。すごい色気だ。本当に年下? 本当に15歳?

「ちょ!? ちが!?」

 イザベルから“なにか”を囁かれたマルギットが顔を真っ赤にして首をブンブン横に振った。いったい何を囁かれたんだろう? とても気になる。

「クルトも、マルギットよりも私を見なさいな」

 そう言って黒いドレスの胸元を下に引っ張っていくイザベル。え!? そんなに下げちゃうの!? 見えちゃいけないところまで見えちゃうよ!? 僕は慌てて視線を外そうとするけど、まるで磁石のように視線がイザベルの胸元に吸い寄せられてしまう。すごい吸引力だ。

 イザベルからなんとか目を逸らすと、なにか不思議なことをしているリリーが目に入った。なにをやっているんだろう? 手を胸の端に当てて胸の中央に向かってゴソゴソ動かしているけど……。

「私、も…見て…!」

 見てって……ひょっとしてリリーも胸をアピールしたいのだろうか? でも、その……言っちゃかわいそうだけど、リリーの胸って全然無い。真っ平らだ。今も胸を寄せて上げようとしているのだろうけど、服がクシャクシャになっているだけである。なんだこのかわいい生き物。

「ちょっとそこ! なにやってるのよ! ハレンチなのはいけないんだからね! とくにイザベル!」

 ルイーゼが、まるで僕を守るようにイザベルたちとの間に入りイザベルたちを威嚇する。

「ちょっとくらいいいじゃない。ねぇ?」

 イザベルの流し目が僕を見るけど、僕からはなにも言えないよ。

「さあ皆さん、遊んでないでそろそろ帰りますよ。家に帰るまでが冒険ですからね」
「「「「「はーい」」」」」
「よろしい。良い返事です」

 まとめ役のラインハルトに促されて、素直に帰る準備をする僕ら『融けない六華』のメンバーたち。ラインハルトの言う通り、家に帰るまでが冒険だ。ここはダンジョンのボス部屋。ダンジョンの最奥。僕たちは、ようやく折り返し地点に着いたに過ぎない。気を引き締めないと! 僕は両手で頬を叩き、自分に活を入れるのだった。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

処理中です...