上 下
53 / 77
第二章

053 突然の商人ムーヴ

しおりを挟む
「実はこの剣、折れても再生するんだよ」
「どういうことよ?」

 ルイーゼの言う通り、普通はいきなりこんなこと言われても分からないよね。これは一度見てもらった方が早いかな。

「ハルト、この剣折ってくれない?」
「それは……折れないことはないと思いますが……本当にいいんですか?」

 僕はラインハルトに白い剣を渡して力強く頷く。

「ポッキリやっちゃって!」
「では……ふんっ!」

 ラインハルトが白い剣を床に叩きつけると、先程よりも大きな打撃音と共に、まるで鈴の音のような高い音を響かせて、白い剣が中ほどからポッキリと2つに折れた。勇者の力があるとはいえ、すごいな。

「これでいいですか?」
「うん。ありがとう、ハルト」

 僕がラインハルトから剣を受け取ると、ルイーゼたちが悲しそうな顔で口を開く。

「あーあーあー……」
「ほんとに折っちゃうし……」
「大丈夫、大丈夫だから」

 僕はルイーゼたちを宥めながらマジックバッグから“ある物”を取り出す。

「水差し?」
「うん」

 僕が取り出したのは水差しだ。しかし、ただの水差しじゃない。実はこれも宝具なのだ。“永遠たる水脈”と大層な名前が付いているが、その名の通り、永遠に新鮮な水が出てくる水差しである。この宝具のおかげで、僕たちの水問題は一気に解消された。間違いなく有能な宝具だ。まぁイザベルには「そんなどこの水かも分からない水を飲むのは気持ち悪い」と不評だけどね。

「これに水をかけると……」

 僕は白い剣の折れた刀身に水をかけていく。すると、まるで水が凍ったかのように固まり、白い刀身が形作られていく。まるで刀身が成長するかのように素早く伸びていく。水をザッとかけただけで、すぐ元通りだ。

「え? 水かけただけで?」
「すご…!」
「まるで氷柱ね」

 氷柱という表現はピッタリだね。

「こんな感じで、折れたり欠けたりしても水をかければすぐ元通りになるから、多少手荒に扱っても問題ないよ」

 僕は白い芸術品のような剣を鞘に仕舞うとルイーゼに差し出す。

「名は“手折られぬ氷華”ヴァージン・スノー」

 宝具の剣と聞くと、火や雷を纏ったり、強力なビームを出したりする宝具を想像しやすいけど、中にはこんな宝具もある。宝具の能力として地味な部類だけど、有能な宝具だと思うよ。鋭い切れ味を誇る名剣と言ってもいい宝具だし、文字通り不朽の名剣だね。

「氷華……」

 ルイーゼがおずおずと手を伸ばしてヴァージン・スノーを受け取った。これでルイーゼの武器の問題は解決だね。今思ったけど、『融けない六華』のリーダーの愛剣がこれってなかなか運命的なものを感じるね。もっと早く渡してもよかったかな。

 そうだな。僕が持ってる宝具だけど、皆に使ってもらった方が絶対に良いよね。僕が持っていても宝具の持ち腐れだし。

 ということで、露天商よろしく絨毯の上に宝具を並べていく僕。剣が5本に大剣が1本、槍も1本あるし、あとはナックルダスターまであった。これはリリーに使ってもらおう。武器だけじゃない。防具や装飾品の宝具もある。

「クルト? 急にどうしたのですか?」

 いきなりせっせと床に宝具を並べ出した僕を見て、ラインハルトが疑問の声を上げる。

「宝具だけど、僕が持ってても仕方ないから皆に使ってもらおうと思って。もっと早く気が付けばよかったな……。よかったら使ってよ」
「これが全て宝具ですか…?」
「うはー! しゅげー! クルクル商人みたい」
「本当に使ってもいいの? 宝具って高価なんでしょ?」
「全然使っていいよ。むしろ使ってください。使わない方がもったいないから」
「そういうことなら……」

 皆、宝具に興味はあったのか、僕の出した宝具を見始めた。

「これはどんな効果が?」
「これは“心を灯す温かな光”ビッグトーチだね。効果は光る」
「……それだけですか?」
「うん。それだけ」

 まぁ中には微妙な宝具もあるけど、そこは許してほしい。

「ねーねー、これはー?」
「これは……」

 こうして僕は、レベル4ダンジョンのボス部屋で暢気に商人の真似事を始めるのだった。


 ◇


「それにしても……」

 僕は選ばれなかった宝具をマジックバッグに片付けながらマルギットを見つめる。マルギットは軽くステップを踏みながら、その膝下を覆う真っ赤な脚甲の調子を確かめていた。あの派手な脚甲も宝具である。名前は“衝撃の赤雷”ブーステッド・シェルブリット。発動すると、まるで足裏が爆発でもしたかのような勢いの推進力が生まれるだけの宝具だ。普通に使うとコケるだけである。そんな扱いの難しい宝具を敢えて選択したマルギットの真意は分からない。

「ひゅー! かっけー!」

 マルギットがキラキラした瞳でブーステッド・シェルブリットを見ている。もしかしたら、その効果ではなく見た目に惹かれたのかもしれないね。それでいいのかと思わなくもないけど、マルギットが幸せならOKです!
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...