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036 求婚?

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 マルギット、イザベル、リリーの【勇者】体験も終わり、中層のコボルトも一掃され、いよいよ下層に行こうというところでハタと気が付いた。それは、もう一度ルイーゼとラインハルトを【勇者】にした時だ。なんと、もう1人【勇者】に指名できるようになっていた。

「ステータスオープン」

 クルト 男
 体力100 魔力3
 状態:普通

 筋 力:17
 知 力: 7
 耐久力:13
 器用さ:11
 素早さ: 9

 ギフト:【勇者の友人】レベル5

 やっぱりギフトのレベルが上がってる! しかも、レベル4を超えて一気にレベル5だ。ギフトのレベルが上がると、スキルが強化されたり、新たなスキルを覚えたりする。僕の勇者の選定のスキルも強化され、【勇者】に指名できる人数が2人から3人に増えた。それだけではなく、新たなスキルも獲得した。新たなスキルは使いどころが微妙だけど、【勇者】に指名できる人数が増えたのは、とてもありがたい。【勇者】はとても人気なのだ。

 新たに【勇者】を体験した3人も、再び【勇者】になることを熱望した。【勇者】の力に飲まれているわけではなさそうだけど……【勇者】になった時の快感や全能感はすごいからね。ルイーゼやラインハルトも含めて、力に飲まれて無茶をしないように気を付けないと。僕がこう思えるのも、一度自分で【勇者】の力を体験したからだ。失うものも大きかったけど、あれもいい経験になったのかな。もしかしたら、神様は僕にそのことを気が付いてほしくて、大きな代償と引き換えに自身を【勇者】にするスキルを与えてくれたのかもしれないね。

「あのね、あーし【勇者】になりたいなーって」
「あの! その…私、も…!」

 マルギットとリリーが上目遣いに僕を見つめる。美少女2人に見つめられて、くらくらしてしまう。無条件にYESと答えたいけど、残念ながら残る【勇者】の枠は1つだけ。僕は3人の内2のお願いを断らないといけない。くぅー…なんて辛い立場なんだ…!

 いつまでも悩む僕に痺れを切らしたのか、イザベルがカツッと足音を響かせて僕に急接近する。吐息がかかりそうなほどの、これからキスでもするのかという距離だ。僕の鼓動が跳ね上がり、頬が熱くなるのを感じる。

 イザベルの顔が僕の顔に近づいてくる。このままだと本当に…! 僕はいきなりの展開に緊張で動けなくなってしまった。イザベルの美しい顔が僕の横へと通り抜ける。キスじゃない…?

「ねぇ」

 イザベルが僕の耳元で囁く。イザベルの吐息が耳にかかって武者震いのようにゾクゾクしてしまう。

「結婚しましょう?」

 無意識に頷きそうになり、危ないところで止まった。結婚…? 誰と誰が? 僕とイザベルが? なんでいきなり結婚?

「はあー!?」
「これはまた……」
「え!?」
「なる、ほど…!」

 イザベルの発言に驚いたのは僕だけではなかった。皆も驚きの声を上げる。

「どういうことよ!?」

 そう言って僕とイザベルの間に割り込むように入ってきたのはルイーゼだった。間にルイーゼが入ったことにより、イザベルとの間に距離ができ、僕はようやく緊張から立ち直ることができた。どうやら呼吸も止まっていたらしい。久しぶりに息を吸うことができた。空気が甘い気がするのは、イザベルの匂いだろうか? それともルイーゼ?

「ごめんなさいね、ルイーゼ。私も欲しくなってしまったの」
「ごめんじゃなくて! え!? どういうこと!?」
「これはなんと言ったらいいか……」
「あの…!」

 突然のことに混乱しているのは僕だけじゃないらしい。ルイーゼとかすごい慌てっぷりだ。自分より慌ててる人を見ると、なぜか冷静になれるよね。いや、冷静になったところで事態はまるで分からないんだけどさ。

「ベルベルは、クルクルのこと好きになっちゃったの?」

 マルギットのその言葉に、皆の視線がイザベルに集まる。そうだね。一番気になるのはそこだね。どうなんだろう?

「正確には、“これから好きになる”かしら?」
「これから?」
「今は好きじゃないの?」

 ルイーゼとマルギットの問いにイザベルは頷いて応える。

「今はせいぜい良い人程度ね」
「それなのに結婚ってどゆこと?」
「そうよ! なんでいきなり結婚なのよ!?」
「考えてもみなさいな。こんな強力なギフトにマジックバッグも持ってるお金持ち。人柄も悪くなさそうだし、彼ってすごい優良物件よ?」

 なんだか褒められているみたいだ。ドヤっておくところだろうか?

「いや、でも……その……好きとか、あ、愛してるとかは…?」

 マルギットが頬を赤らめてモジモジしながらイザベルに尋ねる。なんだか言い慣れてなくて、かわいらしい乙女な反応だ。男慣れしてそうな印象だったけど、実際は初心なのかな?

「そうよ! なんだか動機が不純だわ!」
「あの…!」

 マルギットの言葉に続いてルイーゼも声を上げる。ちょっと厳しい言い方だけど、ルイーゼの言ってることも分かる。イザベルは結局、僕のことをどう思ってるんだろう? あと、さっきからリリーがなにか言いたそうだけど、どうしたんだろうね?

「愛というのはね、2人で育むものなのよ。きっかけはなんでもいいの。今より未来に目を向けないと。そうでしょう?」
「うん」

 イザベルに見つめられて、思わず見惚れて頷いてしまう僕は意思が弱いのかもしれない。

「あの…!」
「え?」

 ちょちょんとローブを引っ張られて、僕はようやくイザベルから意識を取り返す。引っ張られた方を見ると、リリーの青い瞳と目が合った。身長差から自然と上目遣いになって、リリーがクラクラするほどかわいらしい。さっきまでイザベルに見惚れていたのに、自分の節操の無さに呆れてしまう。でも、かわいいものはかわいいんだよ。

 今日のリリーは一段と輝いて見えた。頬をピンクに染めて、青い大きな潤んだ瞳が僕だけを見つめている。その瞳に吸い込まれると錯覚するほど、僕はリリーにドキドキしていた。

「その…!」

 リリーの唇があわあわと動き、キュッと結ばれると、再び言葉を紡ぐ。

「わた、私と、誓いの口付けを…!」
「えぇ!?」
「リリたん、なに言っちゃってるの!?」

 リリーの突拍子も無い言葉に、ルイーゼとマルギットが驚きの声を上げる。でも、リリー本人は本気なのか、目を閉じて唇を淡く綻ばせ、本気のキス待ち顔だ。なんで?

 もしかして、人生初めてのモテ期というやつに突入したのかな?
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