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016 理解理解

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 僕の『百華繚乱(仮)』への加入は、パーティリーダーであるルイーゼの鶴の一声によって電撃的に決まった。他のパーティメンバーも僕を歓迎してくれて、恥ずかしながら、僕は泣きそうだった。というか、ちょっと泣いた。なんだか久しぶりに人の温かさに触れた気がしてウルッときてしまったのだ。それでもなんとか堪えたけどね。男が泣くなんて、ちょっと情けないだろ?

 その後、僕たちは冒険者ギルドから報酬を受け取った。1人頭、金貨1枚と大銀貨2枚の儲けが出た。レベル1ダンジョンで金貨の儲けが出るなんて異例のことだろう。もうルイーゼがバッタバッタと薙ぎ倒して、僕1人では持ち運べないくらい、山のようにドロップアイテムを拾って来たからね。普通は、それだけの腕があったら、もっと稼げる高レベルのダンジョンに行く。わざわざレベル1ダンジョンでチマチマと稼ぐ意味は薄い。

 予想以上の儲けに気を良くした僕たちは、そのまま近所の酒場で、打ち上げ兼僕のパーティの加入のお祝いをすることにした。僕のパーティへの加入を祝ってくれるなんて、とても嬉しい。また涙が溢れそうになったのは秘密だ。

 今日の冒険の反省会なんて蹴飛ばして、皆が僕のパーティ加入を祝福してくれる。僕が主役のお祝いの席のお酒はどんどん進み、だんだんいい気分になってきた頃、僕は衝撃の事実を知らされる。

「えっ!? 誰もラインハルトと付き合ってないの!?」

 僕は、てっきりラインハルトがハーレムを築いているものだとばかり思っていた。だってラインハルトはイケメンだし、気遣いもできる男から見ても良い男なのだ。ラインハルトの恋人が複数人居てもおかしくはないと思ったんだけど……まさかの0人である。意外すぎてビックリだ。

「あ!もしかして、パーティ内で恋愛はしない主義だとか? 外に恋人が居るんでしょ?」

 面倒を嫌ってパーティ内で恋愛をしない人というのはけっこう居る。そもそもパーティ内での恋愛を禁止しているパーティも多い。恋愛事のゴタゴタでパーティが解散するのは、実はよくある話なのだ。

「あはは……残念ながら、私に恋人はいませんよ……」

 そう言って苦い笑みを浮かべるラインハルトに嘘は無さそうだ。このイケメンに恋人が居ない……妙だな……。

「ハルトの恋人ねー……ごめんだけど、あたしは嫌だわ」
「そうね。私もごめんだわ」
「あーしもー! いやーごめんね、ハルハル! あーしらはほら、友だちだから!」
「ごめん…ね?」
「なぜ私がフラれたみたいになってるんですか!?」

 意外にも女性陣からのラインハルトの評判はあまりよろしくないようだ。いったいなぜ…?

「ラインハルト、良い奴じゃん。顔は良いし、皆を纏めてくれるし、引っ張ってくれるし、細かいところにも気が付いて気を使ってくれるし……」
「クルトさん……」

 僕がラインハルトの良いところを指折り数えていると、ラインハルトが感動したように声を震わせる。

「でも、ハルトって面倒なのよねー…」
「そうね。ハルトは理想が高いのよ。完璧主義で、細かいところをいつまでも言ってくるから相手をするのも面倒なのよね」
「それなー。ハルハルは一言で言うとメンドーなのよ!」
「ごめん…ね、ハルト君…」
「あの、皆さん? 傷付くので本人を前に直接言うのは止めてください? これでも控えてる方なんですよ…?」

 ラインハルトがしょんぼりと肩を落とす。

「でもほら、細かいところまでしっかり意識できるのって冒険者に向いてるんじゃない? 冒険者ってほんの些細なことで命を落とすこともあるって聞くし……」
「クルトさん……」

 あまりに可哀想になって僕がラインハルトをフォローすると、ラインハルトが再び感動したように声を震わせて僕を見る。しばし見つめ合う僕とラインハルト。

「なになに? ひょっとして、おホモだち?」
「違うよ!」
「違います!」
「ぶー」

 残念そうにブーイングするマルギット。彼女は何を求めてるんだろうね……。


 ◇


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、ラインハルトたちと別れて、独り寂しく安宿を取る。ラインハルトたちは、王都の同じ団地で育った幼馴染らしい。5人纏まって家に帰っていった。お互いの家も近いし、夜も遅い時間なので、ラインハルトが全員家まで送っていくらしい。やっぱり僕には、ラインハルトは気の利く良い奴に思えるのだけど……女の子の感性って分からない。

「ふぁ……」

 僕は不意に出た欠伸を噛み殺して安宿のベッドに倒れ込む。狭い部屋だ。ベッドも木枠の中に藁を敷き、その上にシーツを被せただけの物。それでも、こんもりと大量に敷き詰められた藁が、僕の体をボフンと受け止めてくれる。

「今日はいろんなことがあったな……」

 突然パーティを追い出されて、ルイーゼたちに会って、パーティに誘われて……。一時は生きていけるのかも心配だったけど、なんとかなって良かった。ルイーゼたちには感謝してもし足りない。

「僕に何か返せるものがあるといいんだけど……」

 僕は無能だからなぁ……。

「ステータスオープン」

 僕の目の前に今の僕の状態を数値化したデータが現れる。

 クルト 男
 体力83 魔力3
 状態:微酔

 筋 力:17
 知 力: 7
 耐久力:13
 器用さ:11
 素早さ: 9

 ギフト:【勇者の友人】レベル3

 ステータスの閲覧は、【勇者】とついでに【勇者の友人】にのみ許された特別なスキルだ。【勇者の友人】である僕には自分のステータスしか閲覧できないけど、【勇者】は他者のステータスを閲覧することもできるらしい。

 僕はこのステータス閲覧を自身の体調管理の一助にしていた。病気や怪我が一目で分かるのはありがたい。それに、ステータスの数字は、鍛えれば上がる。筋力なんて、最初は7だったのに、今や17もある。最初の倍以上の数値だ。これも毎日筋トレをした成果だ。成果が目に見えて分かると、人は努力を続けられるのだ。今日もこれから日課である筋トレである。

 しかし、筋力は17のままかぁ……もう随分17のままだ。あるいは、僕の筋力は17で打ち止めかもしれないな……。僕は元々細身のもやしっ子で、筋肉が付きにくい体質だ。むしろ、17まで伸ばせたことを喜ぼう。

「あれ…?」

 僕のギフト【勇者の友人】がレベル3になってる…! 今までずっと2だったのに……もしかして、ギフトが成長した…!?

 思いもよらなかった事態に、胸がキュッと息苦しくなり、胸の鼓動がうるさいくらいに高鳴る。

 僕はゴクリと固唾を飲むと、震える手でステータス画面の【勇者の友人】をタップする。

「あぁ……」

 そして、僕は全てを理解した。
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