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014 百華繚乱(仮)③

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 僕は、勇者パーティをクビになった。冒険者たちはこういった情報には敏感だ。僕が勇者パーティをクビになったことは、もう既に知れ渡っていることだろう。冒険者たちの嘲りには、愉悦があった。彼らにとって、ある意味、自分たちの代表、顔役である勇者パーティに僕のような無能が居ること自体許せないことだったのだ。そんな僕がようやく勇者パーティから排除されて喜んでいるのである。

 しかも、勇者パーティをクビになった僕が、拾ってもらった先のパーティでも無能を晒している。冒険者たちにとって、僕の凋落は酒が進む楽しいショーなのだ。

「はぁ…」

 自分の嫌われっぷりにため息が零れてしまう。僕は冒険者としてやっていけるのだろうか…?

「あんなヤツらの言うことなんて気にしちゃダメよ! あんなヤツらなんてね、いつか、まとめてポイしてやるんだから!」

 「ふんすっ!」と鼻息荒く息巻くルイーゼ。腕を組んで冒険者たちの居る酒場の方角を睨み付けるようにしている。どうやら、ルイーゼも冒険者たちの僕を見る目に気が付いたらしい。

「クルトはすごいのよ! なんでも知ってるし、すごく荷物持てるし、あと、クルトが居るとなんだか調子が良いし!」

 今日、僕が語ったことなんて、冒険者なら誰でも知ってるような当たり前の情報だ。荷物が持てると言っても、たしかに鍛えたから人並み以上には持ち運べるけど、ポーターの中では下から数えた方が早い所詮はポーターもどきである。そして、最後のルイーゼの調子が良いに関しては、もはや僕は関係ない。

 でも、ルイーゼが一生懸命僕のことを励まそうとしてくれていることはよく分かった。その気持ちだけでも嬉しい。

「そうですね。外野の陰口など気にする必要はありません。クルトさんの知識と経験は、私たちを確実に導き助けてくれました」

 ラインハルト……良い奴だな。イケメンだし、さすがのフォローだ。伊達にハーレムパーティを率いているわけではないようだね。ただラインハルトを羨ましがっていた自分が恥ずかしくなる。

「これからもクルトさんには私たちを教え導いてほしいのですが……いかがでしょう? 今後も力になってくれませんか?」
「それって…!」

 期待はしていた。でも、無いだろうと諦めていた。ラインハルトは、今後も僕を冒険に誘ってくれるつもりだ。これはかなりありがたい。

「そうね! クルトも入っちゃいなさいよ、あたしたちのパーティに!」

 え!?

 ルイーゼが花咲くような笑みを浮かべて僕に手を伸ばす。僕をパーティメンバーに誘う? 正気? 僕はこの手を取っていいのだろうか?

 ラインハルトが言っていたのは、たぶん冒険への誘いだ。今回のように、また臨時のメンバーとして僕を冒険に誘うつもりだったのだろう。これだけでも十分ありがたい。

 でも、ルイーゼが言ってるのは、パーティメンバーへの誘いだ。僕を正式に『百華繚乱(仮)』のメンバーに誘っている。今回一緒に冒険しただけの関係である無能な僕をパーティメンバーに誘う。正直、ルイーゼの正気を疑うレベルの愚行だ。

「いや、それは……」

 控えめに言っても、僕は無能だ。僕より優れたポーターなんていくらでも居る。またアンナたちのようにルイーゼたちに迷惑をかけて、疎まれ、捨てられるのではないか。真にルイーゼたちのことを思うのならば、この手を取るべきではない。その方がお互いとって良いのではないだろうか。そんな考えばかり浮かんでしまう。

「クルト、この手を取りなさい。大丈夫! あたしが誰にも文句なんて言わせないわ! もちろん、あなたにもね!」

 そう言ってウィンクするルイーゼは、女神のように美しかった。

 僕はルイーゼに見惚れ、思わず彼女の手を取りかけて、ハタと気が付く。これってパーティの総意なのだろうか?またルイーゼの暴走なのでは?

「本当に僕がパーティに入ってもいいの?」

 僕は他のメンバーへの確認の意味も込めて尋ねる。

「いいに決まってるじゃない!」

 そう即答するのはルイーゼだ。たしかに、ルイーゼはそう言うだろう。問題は他のメンバーの反応だ。

「ルイーゼは一度言い出したら聞きませんから。あぁ、もちろん私はクルトさんを歓迎しますよ」

 そう言って、やれやれと肩を竦めて諦め顔のラインハルト。しかし、僕がパーティに入ることには賛成なようだ。

「そうね。ルイーゼが言い出したことだもの。いいんじゃないかしら?」

 イザベルも頬に手を当てながら賛同してくれる。

「あーしもさんせー。クルクルかわいいし」

 マルギットが陽気な声で賛成してくれるけど、軽いなー……クルクルって僕のことだろうか? かわいいなんて初めて言われたよ。

「私も、賛成…です。その…優し、かったから」

 最後に残ったリリーも賛成してくれる。つまり僕は、『百華繚乱(仮)』の全員にパーティへの加入を認めてもらえたことになる。たった1日一緒に冒険しただけなのに、なんだか夢みたいな話だ。たぶん、僕への同情もあるんだろう。それでも、こんな僕を認めてもらえたことが、とても嬉しかった。心が救われた思いがした。

「みんな……ありがとう…!」

 僕は両手でルイーゼの手を取り、頭を下げた。少しでもこの感謝が皆に伝わるように。

「これからよろしくね、クルト」

 ルイーゼの輝くような笑顔に、僕は照れながら答える。

「いろいろ足らない僕だけど、よろしくおねがいします」
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