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011 心が腐る病
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その後も、僕たちは順調に危なげなくゴブリンを狩っていった。ラインハルトの指示は、危険を冒さない手堅い印象を受けるものだった。冒険者は危険な職業だからね。慎重すぎるくらいで丁度良いと思う。
もう既に3回、安地から安地への移動を繰り返し、洞窟の出口までもう少しという所で、ルイーゼが突然ぐずりだした。
「あー! もー限界よ! あたしもゴブリンを倒したい!」
ルイーゼは強すぎるため、ゴブリン攻撃禁止を言い渡されていた。パーティの連携の練習のためには必要な処置だったけど、どうやらルイーゼは、かなりフラストレーションが溜まっているようだ。倒せるのに倒してはいけないというのは、かなりストレスなのだろう。
言ってることは物騒だけど、なんだか駄々っ子みたいでルイーゼがかわいい。
「だいぶゴブリンを倒したし、練習はもういいんじゃない? そろそろルイーゼを解放してもいいと思うよ。我慢のしすぎは体に良くないって聞くし」
「クルト…!」
ルイーゼが頬を上気させ、花咲くような笑みで僕を見つめる。きっと賛同が得られて嬉しいのだろうけど、そんな表情で見られたら勘違いしてしまいそうだ。
「そうですね……分かりました。ルイーゼの攻撃禁止を解きましょう。ですが、ほどほどにお願いしますよ」
「分かったわ! シュッシュッ」
本当に分かっているのか、高速で剣を抜いて×の字を描くように振ってみせるルイーゼ。ふざけているように見えるけど、その剣の鋭さは尋常じゃない。やる気満々といった感じだ。さすがのラインハルトもこれには苦笑を浮かべている。
「そいじゃー、じゃんじゃん連れてくるねー」
そう言うマルギットの手には、小型のクロスボウが握られている。あのクロスボウが彼女のメイン武器らしい。他にも大振りのナイフを装備しているけど、抜かれたところはまだ見ていない。
「ルイーゼがやる気なら、私は休憩していようかしら」
「それもいいね。僕も休憩がてらドロップアイテムの仕分けでもしようかな」
黒いイブニングドレスを着たイザベル。その露出した白く眩しい胸の谷間を見ないようにしつつ、僕は答える。彼女の豊かな胸元は、とてつもない吸引力を持っているから大変だ。
「仕分けは冒険者ギルドがしてくれるのではなくて?」
イザベルの問いに、僕は心の中でガッツポーズをする。獲物がかかったからだ。
「そうだけど、事前にある程度仕分けしておくと、その分冒険者ギルドの査定にかかる時間が短くなるんだよ。皆疲れてるだろうから、待ち時間は短い方が良いでしょ?」
そうすることでパーティメンバーや冒険者ギルドからの印象を少しでも良いものにしたいという狙いもある。勇者パーティという後ろ盾を失った僕は、これから1人でポーターとして生きていかないといけない。これからは、こういった点で少しでも点数を稼いでいかなくっちゃね。
「そう。勤勉なのね」
イザベルが少し感心したように僕を見る。これだ。この感心が欲しかった。これで少しはイザベルの僕への信用が上がっただろう。あとは、イザベルがこの話を他のメンバーに話してくれることを祈ろう。願わくは、次の冒険でも僕が指名されますように。
「あの…!」
僕が心の中で祈っていると、リリーに声をかけられた。至近距離で見るリリーはヤバイ。分かっていても、思わず見惚れてしまうほど顔が良い。今はその顔に、揺らぎつつも決意を秘めた表情を浮かべている。
「私にも、その……手伝わせてください…!」
「え?」
手伝うって、もしかして仕分けを手伝ってくれるのかな?
仕分けは、僕が点数稼ぎのためにしている本来ならしなくてもいい仕事だ。そんな仕事を手伝ってもらうのは……。それに仕分けって決して楽しい仕事ではない。地味で目立たない正直あまりやりたくない仕事だ。何で手伝ってくれるんだろう?
手伝うことで得られるリリーのメリットが見えない。いや、まさか、もしかして、リリーは僕のことを意識して…?
「その……」
僕の疑問が顔に出ていたのか、リリーがおずおずと話し始める。
「私は、役、に…立てて、いないから……」
リリーの言いたいことは、僕には痛いほどよく分かった。自分がパーティの役に立てていない無力感。そして、申し訳無さ。僕がいつも感じていたものだ。
他の皆が力を合わせて命懸けでモンスターと戦っているのに、自分には何もできない無力感は、とても辛いものだ。僕はそれを延々と感じてきたから分かる。アレはゆっくりと心を腐らせる猛毒だ。
アンナが、アレクサンダーが、ルドルフが、フィリップが、僕を無能と蔑み始めたことに、僕は心のどこかでホッとしたものを感じていたんだ。慰められるより、罵倒された方が心が軽くなることもあるんだよ。だから、他の人から見れば酷い仕打ちを受けても、無能なのだから仕方ないと諦め、劣悪な環境になっても勇者パーティに居続けた。
勇者パーティを追い出されて気が付いたけど、僕の心はとっくに腐っていたんだろう。
もう既に3回、安地から安地への移動を繰り返し、洞窟の出口までもう少しという所で、ルイーゼが突然ぐずりだした。
「あー! もー限界よ! あたしもゴブリンを倒したい!」
ルイーゼは強すぎるため、ゴブリン攻撃禁止を言い渡されていた。パーティの連携の練習のためには必要な処置だったけど、どうやらルイーゼは、かなりフラストレーションが溜まっているようだ。倒せるのに倒してはいけないというのは、かなりストレスなのだろう。
言ってることは物騒だけど、なんだか駄々っ子みたいでルイーゼがかわいい。
「だいぶゴブリンを倒したし、練習はもういいんじゃない? そろそろルイーゼを解放してもいいと思うよ。我慢のしすぎは体に良くないって聞くし」
「クルト…!」
ルイーゼが頬を上気させ、花咲くような笑みで僕を見つめる。きっと賛同が得られて嬉しいのだろうけど、そんな表情で見られたら勘違いしてしまいそうだ。
「そうですね……分かりました。ルイーゼの攻撃禁止を解きましょう。ですが、ほどほどにお願いしますよ」
「分かったわ! シュッシュッ」
本当に分かっているのか、高速で剣を抜いて×の字を描くように振ってみせるルイーゼ。ふざけているように見えるけど、その剣の鋭さは尋常じゃない。やる気満々といった感じだ。さすがのラインハルトもこれには苦笑を浮かべている。
「そいじゃー、じゃんじゃん連れてくるねー」
そう言うマルギットの手には、小型のクロスボウが握られている。あのクロスボウが彼女のメイン武器らしい。他にも大振りのナイフを装備しているけど、抜かれたところはまだ見ていない。
「ルイーゼがやる気なら、私は休憩していようかしら」
「それもいいね。僕も休憩がてらドロップアイテムの仕分けでもしようかな」
黒いイブニングドレスを着たイザベル。その露出した白く眩しい胸の谷間を見ないようにしつつ、僕は答える。彼女の豊かな胸元は、とてつもない吸引力を持っているから大変だ。
「仕分けは冒険者ギルドがしてくれるのではなくて?」
イザベルの問いに、僕は心の中でガッツポーズをする。獲物がかかったからだ。
「そうだけど、事前にある程度仕分けしておくと、その分冒険者ギルドの査定にかかる時間が短くなるんだよ。皆疲れてるだろうから、待ち時間は短い方が良いでしょ?」
そうすることでパーティメンバーや冒険者ギルドからの印象を少しでも良いものにしたいという狙いもある。勇者パーティという後ろ盾を失った僕は、これから1人でポーターとして生きていかないといけない。これからは、こういった点で少しでも点数を稼いでいかなくっちゃね。
「そう。勤勉なのね」
イザベルが少し感心したように僕を見る。これだ。この感心が欲しかった。これで少しはイザベルの僕への信用が上がっただろう。あとは、イザベルがこの話を他のメンバーに話してくれることを祈ろう。願わくは、次の冒険でも僕が指名されますように。
「あの…!」
僕が心の中で祈っていると、リリーに声をかけられた。至近距離で見るリリーはヤバイ。分かっていても、思わず見惚れてしまうほど顔が良い。今はその顔に、揺らぎつつも決意を秘めた表情を浮かべている。
「私にも、その……手伝わせてください…!」
「え?」
手伝うって、もしかして仕分けを手伝ってくれるのかな?
仕分けは、僕が点数稼ぎのためにしている本来ならしなくてもいい仕事だ。そんな仕事を手伝ってもらうのは……。それに仕分けって決して楽しい仕事ではない。地味で目立たない正直あまりやりたくない仕事だ。何で手伝ってくれるんだろう?
手伝うことで得られるリリーのメリットが見えない。いや、まさか、もしかして、リリーは僕のことを意識して…?
「その……」
僕の疑問が顔に出ていたのか、リリーがおずおずと話し始める。
「私は、役、に…立てて、いないから……」
リリーの言いたいことは、僕には痛いほどよく分かった。自分がパーティの役に立てていない無力感。そして、申し訳無さ。僕がいつも感じていたものだ。
他の皆が力を合わせて命懸けでモンスターと戦っているのに、自分には何もできない無力感は、とても辛いものだ。僕はそれを延々と感じてきたから分かる。アレはゆっくりと心を腐らせる猛毒だ。
アンナが、アレクサンダーが、ルドルフが、フィリップが、僕を無能と蔑み始めたことに、僕は心のどこかでホッとしたものを感じていたんだ。慰められるより、罵倒された方が心が軽くなることもあるんだよ。だから、他の人から見れば酷い仕打ちを受けても、無能なのだから仕方ないと諦め、劣悪な環境になっても勇者パーティに居続けた。
勇者パーティを追い出されて気が付いたけど、僕の心はとっくに腐っていたんだろう。
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