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008 英雄の卵と安全地帯
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出発する前は、このパーティ大丈夫だろうかと不安に思っていたが、蓋を開けてみれば大丈夫どころか英雄の卵が居た。結局、ダンジョンのボスであるゴブリンキングも1人で倒してしまったルイーゼ。彼女の強さは僕の想像以上だった。ルイーゼの強さは、百華繚乱(仮)の面々にとっても予想外のことだったようだ。皆がルイーゼの強さに驚いていた。
それもそのはず。つい昨日まで、ルイーゼの強さは普通の初心者冒険者と変わらなかったそうだ。ラインハルトとの模擬戦では負け越していたらしい。それが、今日になったら突然強くなっていた。その原因は不明だ。ラインハルトじゃないけど、少しもやもやしたものを感じる。
「心当たりとかは無いの?」
「無いわね。けど、今日はなんだか調子がいいの!」
そう笑顔で答えるルイーゼはかわいいけど、不安にもなる。突然強くなったのなら、突然元に戻ることもありえるだろう。それがもし戦闘中だったら……。あまりルイーゼの強さに頼りきりになるのは良くない。ルイーゼがいつ元に戻ってもいいようにバックアップをしっかりしないと。
「とにかく、ルイーゼが想像以上に強くなってるのは分かったわ」
「ふふーん!」
イザベルの言葉に胸を張って得意げな笑みを見せるルイーゼ。そんなルイーゼもかわいらしい。
「でも、それじゃあパーティの連携の練習にはならないの。ルイーゼは敵を攻撃禁止よ」
イザベルの言う通り、ルイーゼが敵を全て倒している現状では、連携の練習なんてあったものじゃないのは確かだ。攻撃禁止は言い過ぎかもしれないけど、ルイーゼには攻撃を控えてもらうしかない。
「えー…」
「えーじゃないわよ。これはルイーゼの為でもあるんだから。防御に専念していれば、戦闘中に強さが元に戻っても大丈夫でしょう?」
「それはそうかもだけど……なんだかもやもやしそうだわ」
不満そうな声を上げたルイーゼだけど、イザベラの言葉にしぶしぶ頷いたのだった。
◇
「では、ここからは当初の予定通りパーティの連携を確認しましょう」
パンッと手を叩いてラインハルトが話を進める。どうやら彼はパーティの司会進行をすることが多いみたいだ。こういうことはパーティリーダーであるルイーゼがやりそうなものだけど、彼女は細かいことが苦手なようで、ラインハルトが担当することが多い。このパーティの副リーダー、もしくは影のリーダーはラインハルトと云えるだろう。
「クルトさん、この近くに安全な場所はありますか?」
「安地ならすぐ近くにあるよ」
僕は『ゴブリンの巣窟』の地図を頭の中で広げて答える。安地を求めるってことは、拠点を構えて定点狩りかな?
「そうですか。案内をお願いします」
「分かった。僕の言う通りに進んでね」
僕は了解を返すと、パーティを安全地帯まで案内するのだった。
◇
「ここが安全な場所……ですか?」
僕がパーティを案内したのは、洞窟の袋小路になっている場所だ。只の行き止まりだね。ラインハルトが不思議そうな声を上げるのも無理はないかな。
「貴方、道を間違えたの?」
「いや、ここで合ってるよ」
僕はイザベルに自信満々に頷いて返す。ここには何度かお世話になったからよく覚えているんだ。
「え? どゆこと?」
「さあ?」
マルギットとルイーゼが不思議そうに顔を見合わせていた。
「この行き止まり一帯が安地なんだよ。ここはモンスターが湧かない場所なんだ」
ダンジョンのモンスターは、倒せば煙になって消えるし、現れる時は煙のように唐突にポッと湧いて現れる。僕ら冒険者は、モンスターが唐突に現れることを“湧く”もしくは“ポップ”と呼ぶ。
モンスターがどこに湧くかは分からないけど、ダンジョンによっては、ある程度の規則性が見つかっている。その中の1つが“安全地帯”通称“安地”の存在だ。安地ではなぜかモンスターが湧かない。僕ら冒険者は、この安地を駆使してダンジョンに挑むのだ。
安地にパーティの拠点を置いて、“釣り役”と呼ばれる者が、モンスターをパーティの拠点である安地まで誘き寄せる。そして、安地でモンスターを迎え撃つ。
なぜ、わざわざ誘き寄せてまでして安地でモンスターと戦うかと云えば、事故を防ぐためだ。モンスターと戦っていたら、すぐ横にモンスターが湧いて襲いかかってきてパーティが壊滅したなんて事態を避けるためだ。
安地までモンスターを誘き寄せて迎撃し、モンスターを殲滅していく。そして、次の安地までの道が確保できたら、次の安地へと移動する。そうして少しずつダンジョンの奥に進んでいく。これが基本的なダンジョンの攻略方法になる。
ただ、それは安地の場所が分かっていればの話。まだ挑戦者が少なく情報も少ない高難易度ダンジョンや、新しくできたダンジョンなんかは安地の情報もなにも無いところから手探りで始める必要がある。安地の情報というのは、時に驚くような高値で取引されることもある価値の高い情報だ。
ただまぁ、今回はレベル1のダンジョンの安地の情報だ。『ゴブリンの巣窟』は、冒険者なら一度は来たことのあるほど人気のあるダンジョンだし、冒険者なら大半の人間が安地を知っているだろう。安地の情報の価値なんて小遣い稼ぎにもならないほど、ジュース一杯分の価値でもあれば上等な部類だ。それなら気前よくタダで教えて恩を売った方が良い。『百華繚乱(仮)』の面々は、ポーターもどきである僕を冒険者と扱ってくれる貴重なパーティだ。なるべく心証を良くして、次に繋げたい。
それもそのはず。つい昨日まで、ルイーゼの強さは普通の初心者冒険者と変わらなかったそうだ。ラインハルトとの模擬戦では負け越していたらしい。それが、今日になったら突然強くなっていた。その原因は不明だ。ラインハルトじゃないけど、少しもやもやしたものを感じる。
「心当たりとかは無いの?」
「無いわね。けど、今日はなんだか調子がいいの!」
そう笑顔で答えるルイーゼはかわいいけど、不安にもなる。突然強くなったのなら、突然元に戻ることもありえるだろう。それがもし戦闘中だったら……。あまりルイーゼの強さに頼りきりになるのは良くない。ルイーゼがいつ元に戻ってもいいようにバックアップをしっかりしないと。
「とにかく、ルイーゼが想像以上に強くなってるのは分かったわ」
「ふふーん!」
イザベルの言葉に胸を張って得意げな笑みを見せるルイーゼ。そんなルイーゼもかわいらしい。
「でも、それじゃあパーティの連携の練習にはならないの。ルイーゼは敵を攻撃禁止よ」
イザベルの言う通り、ルイーゼが敵を全て倒している現状では、連携の練習なんてあったものじゃないのは確かだ。攻撃禁止は言い過ぎかもしれないけど、ルイーゼには攻撃を控えてもらうしかない。
「えー…」
「えーじゃないわよ。これはルイーゼの為でもあるんだから。防御に専念していれば、戦闘中に強さが元に戻っても大丈夫でしょう?」
「それはそうかもだけど……なんだかもやもやしそうだわ」
不満そうな声を上げたルイーゼだけど、イザベラの言葉にしぶしぶ頷いたのだった。
◇
「では、ここからは当初の予定通りパーティの連携を確認しましょう」
パンッと手を叩いてラインハルトが話を進める。どうやら彼はパーティの司会進行をすることが多いみたいだ。こういうことはパーティリーダーであるルイーゼがやりそうなものだけど、彼女は細かいことが苦手なようで、ラインハルトが担当することが多い。このパーティの副リーダー、もしくは影のリーダーはラインハルトと云えるだろう。
「クルトさん、この近くに安全な場所はありますか?」
「安地ならすぐ近くにあるよ」
僕は『ゴブリンの巣窟』の地図を頭の中で広げて答える。安地を求めるってことは、拠点を構えて定点狩りかな?
「そうですか。案内をお願いします」
「分かった。僕の言う通りに進んでね」
僕は了解を返すと、パーティを安全地帯まで案内するのだった。
◇
「ここが安全な場所……ですか?」
僕がパーティを案内したのは、洞窟の袋小路になっている場所だ。只の行き止まりだね。ラインハルトが不思議そうな声を上げるのも無理はないかな。
「貴方、道を間違えたの?」
「いや、ここで合ってるよ」
僕はイザベルに自信満々に頷いて返す。ここには何度かお世話になったからよく覚えているんだ。
「え? どゆこと?」
「さあ?」
マルギットとルイーゼが不思議そうに顔を見合わせていた。
「この行き止まり一帯が安地なんだよ。ここはモンスターが湧かない場所なんだ」
ダンジョンのモンスターは、倒せば煙になって消えるし、現れる時は煙のように唐突にポッと湧いて現れる。僕ら冒険者は、モンスターが唐突に現れることを“湧く”もしくは“ポップ”と呼ぶ。
モンスターがどこに湧くかは分からないけど、ダンジョンによっては、ある程度の規則性が見つかっている。その中の1つが“安全地帯”通称“安地”の存在だ。安地ではなぜかモンスターが湧かない。僕ら冒険者は、この安地を駆使してダンジョンに挑むのだ。
安地にパーティの拠点を置いて、“釣り役”と呼ばれる者が、モンスターをパーティの拠点である安地まで誘き寄せる。そして、安地でモンスターを迎え撃つ。
なぜ、わざわざ誘き寄せてまでして安地でモンスターと戦うかと云えば、事故を防ぐためだ。モンスターと戦っていたら、すぐ横にモンスターが湧いて襲いかかってきてパーティが壊滅したなんて事態を避けるためだ。
安地までモンスターを誘き寄せて迎撃し、モンスターを殲滅していく。そして、次の安地までの道が確保できたら、次の安地へと移動する。そうして少しずつダンジョンの奥に進んでいく。これが基本的なダンジョンの攻略方法になる。
ただ、それは安地の場所が分かっていればの話。まだ挑戦者が少なく情報も少ない高難易度ダンジョンや、新しくできたダンジョンなんかは安地の情報もなにも無いところから手探りで始める必要がある。安地の情報というのは、時に驚くような高値で取引されることもある価値の高い情報だ。
ただまぁ、今回はレベル1のダンジョンの安地の情報だ。『ゴブリンの巣窟』は、冒険者なら一度は来たことのあるほど人気のあるダンジョンだし、冒険者なら大半の人間が安地を知っているだろう。安地の情報の価値なんて小遣い稼ぎにもならないほど、ジュース一杯分の価値でもあれば上等な部類だ。それなら気前よくタダで教えて恩を売った方が良い。『百華繚乱(仮)』の面々は、ポーターもどきである僕を冒険者と扱ってくれる貴重なパーティだ。なるべく心証を良くして、次に繋げたい。
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