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第三十五話『投擲訓練』

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「さ、特訓を始めるよ〜!」
とヒカルが笑った。

個別訓練三日目は、ヒカルだ。
リオンと格闘訓練、ニコと剣術訓練と続いて、3日め。
ヒカルと投擲訓練になる、はずだ。

「ボールでやってもいいんだけど、本物がいいよね〜」
と言いながら、ガッチャガッチャと道具箱を抱えてくるヒカル。

「本物?」
と僕が聞く。彼女はナイフを取り出した。

「まさか、これを投げ合うの?」
「いやいや、さずがに私もそれは危ない!リオンやニコちゃんほど運動神経よくないしね!投げるのはともかく、投げられたら私も当たっちゃうから!」
と笑う。

確かにそうだ。
リオンとニコは反射神経がおかしい。

「私のは、これだね〜。これに当てる訓練をしよう!」
と五つ並んで立ててある丸太を指差す。

「じゃ、私やってみるね」
とヒカルは、その横一列に並んでいる丸太から数メートル離れた真ん中にたった。

「はい、はい、ほい、ほい、はい」
と、変な掛け声をかけつつ、笑顔でシャッシャッシャ!と投げる。

「まじすか・・・」
すぱ、すぱ、すぱっと。
足くらいの太さしかない、丸太にすべて、ナイフが刺さっていた。しかも、凄く早い。

「こんな感じ!」
とヒカルが笑う。

「これは・・・また・・・大変な・・・」
と僕が、ヒカルの才能に驚愕する。

「よし、じゃ、行ってみよう!」
と腕を大きく振って笑顔でスタートの合図を出したヒカル。

「使っていいナイフは10本ね!外れたら取りに行くこと!」
「なんだ・・・と・・・」
外れたら取りに行く。

つまりダッシュ。
朝も走ったのに、また走る。
とにかく走るのが体育会の基本か・・・。

「10本連続で当てたら終わりにしていいからね〜!」
とさらっと、とんでもない目標を出す。

「な・・・なるほど。とりあえず、やってみよう!やってみないと難易度もわからないし・・・」

とりあえず、一本ナイフを取り出した。
「とりゃ」
とシュッとナイフを投げた。

すると、狙った丸太にかすることなく、スイーッと飛んでいってしまう。
「ああ・・・あんな遠くに・・・」
そう、自分で投げた、ナイフは遥か先に。
あれを自分で取りに行かなければならないのだ。

軽く投げればいいという気もするだろうが。
軽く投げると多分刺さらない。

「これは、なかなかハードな訓練だぞ・・・」
と言いながら、訓練を続ける。
10本あった、ナイフもあと一つになってしまった。

「頼む、あたってくれ!」
と祈りながら、最後の一本を投げる。

すると、サクっという音がした。

「うおぉぉおぉぉぉぉぉ!!」
あたったぁ!

「やったわね!タカシ!」
と自分の修行をやりながら、こちらを向いたニコが言う。

「ついに・・・ついに・・・当たった!」
「うん、まだ一個だけどね」
とニコが笑った。

そう、まだ先は長い。
長いがちいさな最初の一歩だ。
不可能なことではないということがよく分かった。

「よし、やるぞ!」
と、先への希望が見えた僕は。
外してしまった、ナイフを拾いに走った。
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