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15.木の上で
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「それで、次はどこへ行くのよ、クリス。ぶらぶら歩き続けるのかしら」
「うーん、セイカちゃんさえよければ、そろそろ中央多目的公園へ行きたいわ」
具体的かつ即答すぎるわね。
「いいけど……目的は?」
「ディアナのライブが野外ステージで行われるのよ!」
誰よそれ……それにライブ?
本当に、ファンタジー世界にしては……まぁ、こんな変なバングルがあるくらいだし、電子機器もたくさんあるのだろう。神の力を借りた電子機器が。
「ライブにも機材がいるわよね……今まで軽く気になってはいたのだけど、神の力を電子機器に閉じ込めていいわけ?」
「え。うーん……昔から魔道具はあるけれど、確かにそんな視点で考えると遊び目的の魔道具の発展は遅いかもしれないわね。特に大人向けは。開発に罪悪感をもってしまう人が多いからかしら。ただ、ライブでは音響振動を周囲に広げる魔道具が使われるし、必要なのは楽器だけ……の可能性もあるわ。私も詳しくはないの」
「なるほど……」
私もあっちの世界でのストリートライブをする人の持ち物なんて気にしたことがなかった。
「神の力を閉じ込めると言っても、その特性を活かしているという考え方もあるわ。光の魔法は普段あまり意識していないけれど魔電荷というものを帯びているらしいの。それでね、その光の粒子は実は原子核の周りをグルグルと――」
「ごめん、もういいわ。ディアナって人のことを教えて」
理科は苦手だった。そうか……神の力はそっち系なのか。覚えるのは諦めよう。雰囲気で使おう。
「ふふっ、最近人気が出てきたアーティストよ。音楽販売店では、好きな楽曲を購入して持ち込みの再生機器にインプットするの。このバングルにも入れられるわ。ディアナの楽曲は本の付録になることが多かったけれど、少しずつ知名度が上がってきたのよ。公園での野外ライブなんて、これが最後かもしれないわ! しかもしかも、なんと私の地元である都市ラハニノス出身なのよ!」
興奮してる……。やっぱりこの子、人懐っこいわね。よく話すし、沈黙があっても楽しそうにしているからあまり気にならない。
この天真爛漫な彼女のことを、ヴィンスも妹のように感じていたのかもしれない。
★☆★☆★
公園内部に入ると、のどかな雰囲気……のはずなのに奥に行くにつれて人が多くなってきた。
「やっぱり人が多いわね。護衛さんに、こんなところに来てとあとで怒られそうだわ。安全面も考えて、この辺りの木の上で待ちましょう」
「……ここに来る予定だって言ってないわけ?」
「当然よ。ぶらぶら歩くわって。ここにディアナが来ることはメイドちゃんからこっそりと情報を得たのよ」
メイド……一度、使用人部屋にも連れていってもらった。彼女のお陰で楽しく話はできたし、アドルフ様とヴィンスは二歳差で、小さい頃はなんでも上回られてしまってよくヴィンスが拗ねていたなんて話も聞いて……これ以上は悪いかなと早めに戻った。
クリスは、アドルフ様がクリスのことを可愛いんだよねと昔から話していたと聞いて顔が赤くなっていた。
なんか、怪しいのよね……許可を出すついでに何を話すかもアドルフ様があらかじめ根回ししていた気がする。あの人、腹黒そうだし。王子なのだから、そうでなくてはいけないのかもしれないけれど……私の好みではないわ。
「この木なんて、よさそう! セイカちゃん、のぼるわよ!」
言うが早いか、私の腰を持って抱えるように跳んだ。
「わ! ちょっ! 何!」
あっという間に高い木の幹の上だ。
「お転婆すぎね……本当に貴族のご令嬢なの?」
自分でも魔法を使って体を浮かせ、服を整えつつボソッと聞いてみる。
「王都に住んでいたわけじゃないもの! お兄様にも何度も手合わせをしてもらったわ」
「そう……」
活動的なタイプなのね。王都に呼び寄せられたのは最近なんだっけ……知り合いがいないから学園に一緒に来てと言われていたものね。絶対にこの子はすぐ友達ができるタイプだけど。
一応、入学手続きはさせてもらった。立場上、好きな時に行けばいいらしい。特別扱いだ。入学式に行くかどうかは決めていない。
円形の野外ステージの裏には簡易な建物があり、警備の人がたくさんいる。あの中にディアナという歌手がいるのかもしれない。
「そういえば、大きな建物がここに来るまでにもあったわね。あれはなんだったのかしら」
「運動施設よ。予約制で卓球もできるわ」
「卓球!? なんでよ!」
「え……む、昔からあるのだけど……」
「何よそれ、なんでそんなものがあるのよ」
「そ、その反応だと、セイカちゃんの世界にもあったのね」
「そうよ」
「奇遇ね。人が考えることって、どの世界でも同じなのかしら」
「どうなのかしらね……」
「あ。そういえば、卓球は王家の人が考案したと習ったわ。ダニエル・ロマニカ国王陛下ね。……約七百年前の国王様よ」
「……そうなの……」
もしかして今までの聖女の誰かが提案したとか? 卓球好きの聖女って、どんなよ! いや、聖女は千年前だし違うか。もしかして魔女の提案? 人間が卓球で遊んでいるのを見るのが趣味で王家の人に提案したわけ?
私もゴシックロリータを流行らせてもいい気がしてきたわ。あの世界観がないのは寂しすぎる。……ヴィンスに相談してみようかな。さすがに不謹慎かな。
そんなことをゴチャゴチャ考えているうちに司会の人が挨拶をして、ディアナが現れた。
「うーん、セイカちゃんさえよければ、そろそろ中央多目的公園へ行きたいわ」
具体的かつ即答すぎるわね。
「いいけど……目的は?」
「ディアナのライブが野外ステージで行われるのよ!」
誰よそれ……それにライブ?
本当に、ファンタジー世界にしては……まぁ、こんな変なバングルがあるくらいだし、電子機器もたくさんあるのだろう。神の力を借りた電子機器が。
「ライブにも機材がいるわよね……今まで軽く気になってはいたのだけど、神の力を電子機器に閉じ込めていいわけ?」
「え。うーん……昔から魔道具はあるけれど、確かにそんな視点で考えると遊び目的の魔道具の発展は遅いかもしれないわね。特に大人向けは。開発に罪悪感をもってしまう人が多いからかしら。ただ、ライブでは音響振動を周囲に広げる魔道具が使われるし、必要なのは楽器だけ……の可能性もあるわ。私も詳しくはないの」
「なるほど……」
私もあっちの世界でのストリートライブをする人の持ち物なんて気にしたことがなかった。
「神の力を閉じ込めると言っても、その特性を活かしているという考え方もあるわ。光の魔法は普段あまり意識していないけれど魔電荷というものを帯びているらしいの。それでね、その光の粒子は実は原子核の周りをグルグルと――」
「ごめん、もういいわ。ディアナって人のことを教えて」
理科は苦手だった。そうか……神の力はそっち系なのか。覚えるのは諦めよう。雰囲気で使おう。
「ふふっ、最近人気が出てきたアーティストよ。音楽販売店では、好きな楽曲を購入して持ち込みの再生機器にインプットするの。このバングルにも入れられるわ。ディアナの楽曲は本の付録になることが多かったけれど、少しずつ知名度が上がってきたのよ。公園での野外ライブなんて、これが最後かもしれないわ! しかもしかも、なんと私の地元である都市ラハニノス出身なのよ!」
興奮してる……。やっぱりこの子、人懐っこいわね。よく話すし、沈黙があっても楽しそうにしているからあまり気にならない。
この天真爛漫な彼女のことを、ヴィンスも妹のように感じていたのかもしれない。
★☆★☆★
公園内部に入ると、のどかな雰囲気……のはずなのに奥に行くにつれて人が多くなってきた。
「やっぱり人が多いわね。護衛さんに、こんなところに来てとあとで怒られそうだわ。安全面も考えて、この辺りの木の上で待ちましょう」
「……ここに来る予定だって言ってないわけ?」
「当然よ。ぶらぶら歩くわって。ここにディアナが来ることはメイドちゃんからこっそりと情報を得たのよ」
メイド……一度、使用人部屋にも連れていってもらった。彼女のお陰で楽しく話はできたし、アドルフ様とヴィンスは二歳差で、小さい頃はなんでも上回られてしまってよくヴィンスが拗ねていたなんて話も聞いて……これ以上は悪いかなと早めに戻った。
クリスは、アドルフ様がクリスのことを可愛いんだよねと昔から話していたと聞いて顔が赤くなっていた。
なんか、怪しいのよね……許可を出すついでに何を話すかもアドルフ様があらかじめ根回ししていた気がする。あの人、腹黒そうだし。王子なのだから、そうでなくてはいけないのかもしれないけれど……私の好みではないわ。
「この木なんて、よさそう! セイカちゃん、のぼるわよ!」
言うが早いか、私の腰を持って抱えるように跳んだ。
「わ! ちょっ! 何!」
あっという間に高い木の幹の上だ。
「お転婆すぎね……本当に貴族のご令嬢なの?」
自分でも魔法を使って体を浮かせ、服を整えつつボソッと聞いてみる。
「王都に住んでいたわけじゃないもの! お兄様にも何度も手合わせをしてもらったわ」
「そう……」
活動的なタイプなのね。王都に呼び寄せられたのは最近なんだっけ……知り合いがいないから学園に一緒に来てと言われていたものね。絶対にこの子はすぐ友達ができるタイプだけど。
一応、入学手続きはさせてもらった。立場上、好きな時に行けばいいらしい。特別扱いだ。入学式に行くかどうかは決めていない。
円形の野外ステージの裏には簡易な建物があり、警備の人がたくさんいる。あの中にディアナという歌手がいるのかもしれない。
「そういえば、大きな建物がここに来るまでにもあったわね。あれはなんだったのかしら」
「運動施設よ。予約制で卓球もできるわ」
「卓球!? なんでよ!」
「え……む、昔からあるのだけど……」
「何よそれ、なんでそんなものがあるのよ」
「そ、その反応だと、セイカちゃんの世界にもあったのね」
「そうよ」
「奇遇ね。人が考えることって、どの世界でも同じなのかしら」
「どうなのかしらね……」
「あ。そういえば、卓球は王家の人が考案したと習ったわ。ダニエル・ロマニカ国王陛下ね。……約七百年前の国王様よ」
「……そうなの……」
もしかして今までの聖女の誰かが提案したとか? 卓球好きの聖女って、どんなよ! いや、聖女は千年前だし違うか。もしかして魔女の提案? 人間が卓球で遊んでいるのを見るのが趣味で王家の人に提案したわけ?
私もゴシックロリータを流行らせてもいい気がしてきたわ。あの世界観がないのは寂しすぎる。……ヴィンスに相談してみようかな。さすがに不謹慎かな。
そんなことをゴチャゴチャ考えているうちに司会の人が挨拶をして、ディアナが現れた。
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