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アールエッティ王国で読んだ教本には、妊娠した妃は様々な体調の変化で役目を果たせない場合があると書いてあった。自分もそうなるのだろうと覚悟していたが、どうやら僕にはそういった変化は起きないらしい。
懐妊がわかった直後に血が薄くなることはあったものの、それも食事を変えたおかげか半月足らずで改善された。気鬱になることもなく、むしろ精力的に仕事に向き合うことができている。これも優秀な医者であるアフェクシィ殿のおかげに違いない。
「ただ、食事だけがなぁ」
昔から何でもおいしく食べる僕だが、ついに揚げ物がまったく食べられなくなった。極端に辛いものや甘いものも受けつけなくなり、しばらくスイーツも口にしていない。そのあたりはアフェクシィ殿が料理長に相談してくれていて、最近は優しい味付けの料理がテーブルに並ぶようになった。
「そういえば、甘い物はまったく駄目なはずなのにこれだけは平気なんだよな」
目の前のカップを見て、思わず笑ってしまった。
カップには新鮮なミルクと卵、それにバニラを使った温かなミルクセーキが入っている。砂糖を使っていない程よい甘さだからか、これだけは毎日飲むことができた。
「もしかして、僕と殿下の香りを混ぜた香りに似ているから平気なんだろうか」
自分で言ったことなのに思わず苦笑してしまった。
そういえば、殿下はこの砂糖が入っていないミルクセーキが小さい頃から大好きだったそうだ。いまでは飲む機会が減ったと話していたが、いつでも飲めるようにと王宮内に大きな鶏小屋まで作ってあるのだという。
「だから毎朝鶏の鳴き声が聞こえるんだな」
おかげで僕もおいしいミルクセーキを飲むことができる。卵もミルクも体によいからと、アフェクシィ殿も勧めてくれた飲み物だ。
「ということは、お腹の子はミルクセーキで育っているということにもなるのか」
つぶやいた言葉に、今度こそ声に出して笑ってしまった。だって、お腹の子は言わば殿下の濃いミルクの香りと僕の甘いバニラの香りの結晶のようなものだ。その子がミルクセーキで育っているなんて、なんだかおかしくなってしまう。
「いや、この子がミルクセーキが好きで、だから僕もミルクセーキが好きになったのかもな」
膨らんだお腹をさすりながら、「父上と母上の香りは、もっといい香りなんだぞ」と話しかけた。そうして目の前にあるカップを手に取り、くんと香りを嗅ぐ。とてもいい香りだとは思うが、やはり僕と殿下の香りには敵わない。
あの濃くて甘い香りは、嗅ぐだけで体いっぱいに幸せが満ちてくる。いつまでも嗅いでいたいし、何度でも溺れたいと願わずにはいられない香りだ。嗅ぐだけで恍惚としてきて、体の奥からじわりと熱が広がり……。
「……っ」
しばらく嗅いでいない濃厚な香りを思い出したからか、下半身がじわっと熱くなってしまった。慌ててカップをテーブルに戻して画材工房の書類を手に取ってみたものの、内容はさっぱり入って来ない。それでも無理やり文字を読み進めようと試みたが無駄なあがきだった。「参ったな」と思いながら窓の外に視線を移す。
懐妊がわかってから半年が過ぎようとしている。空はすっかり冬支度といった色合いで、アールエッティ王国で見ていた長い冬の空を思い出させた。すでにノアール殿下の誕生日も過ぎ、あとは子が生まれるのを待つばかりだ。
そんな僕は、少し前からお腹の奥に熱を感じるようになっていた。大抵は殿下と口づけをしたあとだったが、殿下の濃いミルクの香りを嗅いでも熱くなる。何かよくない兆候ではとアフェクシィ殿に尋ねたところ、それもΩの特徴なのだと聞いて驚いた。
「子がいるというのに、発情に似た状態になるなんてなぁ」
お腹に子がいる間は発情しないが、性欲が消えることはないのだと言われた。平たく言えば、妊娠していてもαを求める本能は抑えきれないということらしい。
「Ωというのは本当にすごいんだな」
アフェクシィ殿からは「交わるのでなければ問題ありませんよ」とも言われた。適度に欲を発散することで心身共に安定するはずだとも聞いている。
この話はノアール殿下も一緒に聞いていた。おかげで、その日の夜から早速あちこちを触られるようになってしまった。殿下いわく「ランシュのためにできることは何でもしよう」ということらしいが、あまり熱心に触られると抑えがきかなくなるというか何というか……。
「駄目だ、仕事にならない」
もうすぐ夕食の時間だ。殿下からは「仕事は夕食の前まで」と言われている。残っていたミルクセーキを飲み干し、ため息をつきながら書類を片付けることにした。
「あの、殿下、別に今夜は……」
「こんなに香りを放っているのにか?」
「発情しているわけじゃないんですから、そんなに香りがするはずがありません」
「いいや、以前よりも香りが強くなっている」
そう感じるのは、以前はまったく香りがしなかったせいだ。それに、いまはお腹に子がいるから発情することもないし香りが強くなることもない。僕からほんのり香りがしたとしても、それはΩとして自然なことだとアフェクシィ殿も話していた。
「殿下、」
「さぁ、おいで」
大きな枕を背にベッドに腰掛けた殿下が足の間に座るように促してきた。そうして微笑みを浮かべながら見つめられたら、僕には座るという選択肢しかなくなる。
ベッドに上がり、殿下に近づいてから背を向ける。そのまま殿下の胸にもたれかかるように座ったら、膨らんだお腹を労るように撫でられた。
(大きくなったな)
自分では驚くくらいの大きさだと思っているが、一般的な妊婦よりも随分小さいのだという。これも男のΩの特徴だと言われた。男のΩは体の構造上、女性のように生みやすくはできていない。そのせいか十カ月待たずに生まれることが多く、子も小さい体で生まれてくるのだそうだ。そのため、お腹の膨らみ方も小さいのだと聞いた。
「男のΩはいろいろ大変なんだな」と目を瞑りながら考えていると、お腹を撫でていた殿下の手が別の動きをし始めていることに気がついた。慌てて目を開けると、夜着の裾のほうで殿下の手がゴソゴソと動いている。
お腹が少し膨らんできた頃から、僕の夜着は姫君たちが着るようなものに変わった。寝るときにお腹を締めつけないようにという配慮なのだろう。普段身につけるズボンもお腹周りがゆったりしたものになり、結ぶ腰紐も幅が広くお腹全体を温められるものに変わった。
その夜着の裾側のボタンを殿下が外しているのだ。手を止めてもらおうと足を動かすと、太ももあたりの裾がはだけたのがわかった。ということは、お腹のすぐ下あたりまでボタンが外されているということだ。殿下の手を止めなければと両手を伸ばしたが、それよりも先に夜着をめくった殿下の手が下着の紐にかかったのがわかった。
「殿下、だから今夜は大丈夫、って……んっ」
さらけ出されたナニを握られ、思わず声を漏らしてしまった。それに気をよくしたのか、殿下の右手がゆっくりと僕のナニを擦り始める。
「でん、か……っ」
ナニの先端をくりくり撫でられ、慌てて殿下の右手をギュッと握った。ナニの先端を撫でられるのが苦手だと殿下も知っているのに、ナニを擦りながら器用に先端をくりくり撫でている。片手でそんなことができるなんて殿下はどこまで器用なんだ。そうだ、殿下が器用なだけで、決して僕のナニが小さいわけじゃない。
(って、そういうことじゃなくて、先は駄目なんだ……って)
最後の発情のときに濡れた下着で散々先端を擦られたからか、あれ以来触られるだけで鋭い快楽を感じるようになってしまった。
優しく撫でられただけなのに、いまも情けなくなるほどトロトロに濡れてしまっている。それを先端に伸ばすように殿下の指が動き、さらに全体に塗り広げるようにくびれを擦るせいでクチュクチュといやらしい音がし始めた。
「ひゃっ」
くたりともたれかかっていた頭が少し起こされたと思ったら、うなじに口づけられた。
「相変わらず敏感だな」
「でん、か……っ」
「甘くておいしそうな香りがしている」
「殿下、……っ」
これ以上情けない声が出ないように慌てて唇を噛み締めた。
殿下に噛まれて以来敏感になったうなじだが、子ができてからはますます感じやすくなったような気がする。殿下もそれに気づいているようで、こうして触れ合うときに頻繁に口づけられるようになった。駄目だと訴えても「おいしそうな香りだ」と言ってくんと鼻を鳴らし、ちゅうっと吸いつかれてしまう。
「んっ!」
一際強く吸われ、背中がぞくんと震えた。甘い痺れがうなじから背中を伝い、腰を震わせながらお腹の奥を刺激する。これでは子によくないのではと思うのだが、アフェクシィ殿いわく「男性Ωの場合、産道が柔らかくなり子が生まれやすくなると書かれていましたから大丈夫ですよ」とのことだった。
「産道」という言葉に「それはもしや尻の……」と思ったが、すぐに考えを振り払った。生むまで知らなくていいと思っているのに、いろいろ気になってつい尻の心配をしてしまう。そんなに気になるならアフェクシィ殿に尋ねればいいのだろうが、聞いてしまうと生む勇気が萎えてしまいそうでますます尋ねられない。
「ランシュ、余計なことは考えるな」
「ん……っ」
今度は耳を優しく噛まれて吐息が漏れた。そのまま首筋を吸われ、最後にもう一度うなじを吸われる。そうしてほんの少し歯を当てられた瞬間、僕のナニが子種をぴゅるっと吐き出した。そのまま絞り出すように擦られ続け、腰がブルッと震える。
(……気持ち、いい……)
思わずそんなことを思ってしまった。子がいるのにこれでいいのかと思わなくもないが、Ωというのはやはり普通と違うのだろうと無理やり納得する。
「さぁ、体が冷える前に着替えよう」
「はい……」
くたりとしている間に殿下が手際よく下半身を拭って下着を交換し、夜着まで整えてくれた。されるがままというのは子どもに戻ったみたいで恥ずかしいが、吐精した後は力が抜けてどうしても動きが緩慢になってしまう。そんな僕を見た殿下が「それでは体が冷えてしまうな」と言い、気がついたら着替えさせてくれるようになっていた。
「ランシュ、横になれるか?」
すっかり整えてもらった夜着に若干頬を熱くしながら「大丈夫です」と答え、ゆっくりと枕に頭を載せる。そんな僕にふかふかの布団を掛けた殿下が、なぜかそのままベッドから離れるように歩き出した。
「殿下?」
どこへ行くのだろうと頭を動かすと、ちょうど視線の先に殿下の隆々とした股間が見えた。
「あー……ええと、手でしましょうか?」
同じ男として、そのままではつらいことは十分に理解できる。
「いや、大丈夫だ」
「横になったままになりますが、たぶんできると思いますよ?」
「それでも腹に負担がかからないとは言い切れないだろう」
「それはそうかもしれませんが……」
しかし、僕ばかりしてもらってというのも悪い気がする。
「子が生まれて体が落ち着いたら、いつでも触れあえるんだ。これから何度でも発情するのだし、そうだな、発情していなくても抱きたいと思っている。そのときの楽しみにとっておこう」
「……それは、なんというか」
どう答えていいのかわからず視線を逸らすと、近づいてきた殿下に「腹が空かないくらい孕ませてやろう」と耳元で囁かれ「ひゃっ」と情けない声が出てしまった。
そんな僕の頭をポンと優しく撫でた殿下は、額にチュッと口づけてから寝室を出て行った。熱くなった頬を撫でながらせめて起きて待っていようと思っていたのに、気がついたらすっかり眠ってしまっていた。
懐妊がわかった直後に血が薄くなることはあったものの、それも食事を変えたおかげか半月足らずで改善された。気鬱になることもなく、むしろ精力的に仕事に向き合うことができている。これも優秀な医者であるアフェクシィ殿のおかげに違いない。
「ただ、食事だけがなぁ」
昔から何でもおいしく食べる僕だが、ついに揚げ物がまったく食べられなくなった。極端に辛いものや甘いものも受けつけなくなり、しばらくスイーツも口にしていない。そのあたりはアフェクシィ殿が料理長に相談してくれていて、最近は優しい味付けの料理がテーブルに並ぶようになった。
「そういえば、甘い物はまったく駄目なはずなのにこれだけは平気なんだよな」
目の前のカップを見て、思わず笑ってしまった。
カップには新鮮なミルクと卵、それにバニラを使った温かなミルクセーキが入っている。砂糖を使っていない程よい甘さだからか、これだけは毎日飲むことができた。
「もしかして、僕と殿下の香りを混ぜた香りに似ているから平気なんだろうか」
自分で言ったことなのに思わず苦笑してしまった。
そういえば、殿下はこの砂糖が入っていないミルクセーキが小さい頃から大好きだったそうだ。いまでは飲む機会が減ったと話していたが、いつでも飲めるようにと王宮内に大きな鶏小屋まで作ってあるのだという。
「だから毎朝鶏の鳴き声が聞こえるんだな」
おかげで僕もおいしいミルクセーキを飲むことができる。卵もミルクも体によいからと、アフェクシィ殿も勧めてくれた飲み物だ。
「ということは、お腹の子はミルクセーキで育っているということにもなるのか」
つぶやいた言葉に、今度こそ声に出して笑ってしまった。だって、お腹の子は言わば殿下の濃いミルクの香りと僕の甘いバニラの香りの結晶のようなものだ。その子がミルクセーキで育っているなんて、なんだかおかしくなってしまう。
「いや、この子がミルクセーキが好きで、だから僕もミルクセーキが好きになったのかもな」
膨らんだお腹をさすりながら、「父上と母上の香りは、もっといい香りなんだぞ」と話しかけた。そうして目の前にあるカップを手に取り、くんと香りを嗅ぐ。とてもいい香りだとは思うが、やはり僕と殿下の香りには敵わない。
あの濃くて甘い香りは、嗅ぐだけで体いっぱいに幸せが満ちてくる。いつまでも嗅いでいたいし、何度でも溺れたいと願わずにはいられない香りだ。嗅ぐだけで恍惚としてきて、体の奥からじわりと熱が広がり……。
「……っ」
しばらく嗅いでいない濃厚な香りを思い出したからか、下半身がじわっと熱くなってしまった。慌ててカップをテーブルに戻して画材工房の書類を手に取ってみたものの、内容はさっぱり入って来ない。それでも無理やり文字を読み進めようと試みたが無駄なあがきだった。「参ったな」と思いながら窓の外に視線を移す。
懐妊がわかってから半年が過ぎようとしている。空はすっかり冬支度といった色合いで、アールエッティ王国で見ていた長い冬の空を思い出させた。すでにノアール殿下の誕生日も過ぎ、あとは子が生まれるのを待つばかりだ。
そんな僕は、少し前からお腹の奥に熱を感じるようになっていた。大抵は殿下と口づけをしたあとだったが、殿下の濃いミルクの香りを嗅いでも熱くなる。何かよくない兆候ではとアフェクシィ殿に尋ねたところ、それもΩの特徴なのだと聞いて驚いた。
「子がいるというのに、発情に似た状態になるなんてなぁ」
お腹に子がいる間は発情しないが、性欲が消えることはないのだと言われた。平たく言えば、妊娠していてもαを求める本能は抑えきれないということらしい。
「Ωというのは本当にすごいんだな」
アフェクシィ殿からは「交わるのでなければ問題ありませんよ」とも言われた。適度に欲を発散することで心身共に安定するはずだとも聞いている。
この話はノアール殿下も一緒に聞いていた。おかげで、その日の夜から早速あちこちを触られるようになってしまった。殿下いわく「ランシュのためにできることは何でもしよう」ということらしいが、あまり熱心に触られると抑えがきかなくなるというか何というか……。
「駄目だ、仕事にならない」
もうすぐ夕食の時間だ。殿下からは「仕事は夕食の前まで」と言われている。残っていたミルクセーキを飲み干し、ため息をつきながら書類を片付けることにした。
「あの、殿下、別に今夜は……」
「こんなに香りを放っているのにか?」
「発情しているわけじゃないんですから、そんなに香りがするはずがありません」
「いいや、以前よりも香りが強くなっている」
そう感じるのは、以前はまったく香りがしなかったせいだ。それに、いまはお腹に子がいるから発情することもないし香りが強くなることもない。僕からほんのり香りがしたとしても、それはΩとして自然なことだとアフェクシィ殿も話していた。
「殿下、」
「さぁ、おいで」
大きな枕を背にベッドに腰掛けた殿下が足の間に座るように促してきた。そうして微笑みを浮かべながら見つめられたら、僕には座るという選択肢しかなくなる。
ベッドに上がり、殿下に近づいてから背を向ける。そのまま殿下の胸にもたれかかるように座ったら、膨らんだお腹を労るように撫でられた。
(大きくなったな)
自分では驚くくらいの大きさだと思っているが、一般的な妊婦よりも随分小さいのだという。これも男のΩの特徴だと言われた。男のΩは体の構造上、女性のように生みやすくはできていない。そのせいか十カ月待たずに生まれることが多く、子も小さい体で生まれてくるのだそうだ。そのため、お腹の膨らみ方も小さいのだと聞いた。
「男のΩはいろいろ大変なんだな」と目を瞑りながら考えていると、お腹を撫でていた殿下の手が別の動きをし始めていることに気がついた。慌てて目を開けると、夜着の裾のほうで殿下の手がゴソゴソと動いている。
お腹が少し膨らんできた頃から、僕の夜着は姫君たちが着るようなものに変わった。寝るときにお腹を締めつけないようにという配慮なのだろう。普段身につけるズボンもお腹周りがゆったりしたものになり、結ぶ腰紐も幅が広くお腹全体を温められるものに変わった。
その夜着の裾側のボタンを殿下が外しているのだ。手を止めてもらおうと足を動かすと、太ももあたりの裾がはだけたのがわかった。ということは、お腹のすぐ下あたりまでボタンが外されているということだ。殿下の手を止めなければと両手を伸ばしたが、それよりも先に夜着をめくった殿下の手が下着の紐にかかったのがわかった。
「殿下、だから今夜は大丈夫、って……んっ」
さらけ出されたナニを握られ、思わず声を漏らしてしまった。それに気をよくしたのか、殿下の右手がゆっくりと僕のナニを擦り始める。
「でん、か……っ」
ナニの先端をくりくり撫でられ、慌てて殿下の右手をギュッと握った。ナニの先端を撫でられるのが苦手だと殿下も知っているのに、ナニを擦りながら器用に先端をくりくり撫でている。片手でそんなことができるなんて殿下はどこまで器用なんだ。そうだ、殿下が器用なだけで、決して僕のナニが小さいわけじゃない。
(って、そういうことじゃなくて、先は駄目なんだ……って)
最後の発情のときに濡れた下着で散々先端を擦られたからか、あれ以来触られるだけで鋭い快楽を感じるようになってしまった。
優しく撫でられただけなのに、いまも情けなくなるほどトロトロに濡れてしまっている。それを先端に伸ばすように殿下の指が動き、さらに全体に塗り広げるようにくびれを擦るせいでクチュクチュといやらしい音がし始めた。
「ひゃっ」
くたりともたれかかっていた頭が少し起こされたと思ったら、うなじに口づけられた。
「相変わらず敏感だな」
「でん、か……っ」
「甘くておいしそうな香りがしている」
「殿下、……っ」
これ以上情けない声が出ないように慌てて唇を噛み締めた。
殿下に噛まれて以来敏感になったうなじだが、子ができてからはますます感じやすくなったような気がする。殿下もそれに気づいているようで、こうして触れ合うときに頻繁に口づけられるようになった。駄目だと訴えても「おいしそうな香りだ」と言ってくんと鼻を鳴らし、ちゅうっと吸いつかれてしまう。
「んっ!」
一際強く吸われ、背中がぞくんと震えた。甘い痺れがうなじから背中を伝い、腰を震わせながらお腹の奥を刺激する。これでは子によくないのではと思うのだが、アフェクシィ殿いわく「男性Ωの場合、産道が柔らかくなり子が生まれやすくなると書かれていましたから大丈夫ですよ」とのことだった。
「産道」という言葉に「それはもしや尻の……」と思ったが、すぐに考えを振り払った。生むまで知らなくていいと思っているのに、いろいろ気になってつい尻の心配をしてしまう。そんなに気になるならアフェクシィ殿に尋ねればいいのだろうが、聞いてしまうと生む勇気が萎えてしまいそうでますます尋ねられない。
「ランシュ、余計なことは考えるな」
「ん……っ」
今度は耳を優しく噛まれて吐息が漏れた。そのまま首筋を吸われ、最後にもう一度うなじを吸われる。そうしてほんの少し歯を当てられた瞬間、僕のナニが子種をぴゅるっと吐き出した。そのまま絞り出すように擦られ続け、腰がブルッと震える。
(……気持ち、いい……)
思わずそんなことを思ってしまった。子がいるのにこれでいいのかと思わなくもないが、Ωというのはやはり普通と違うのだろうと無理やり納得する。
「さぁ、体が冷える前に着替えよう」
「はい……」
くたりとしている間に殿下が手際よく下半身を拭って下着を交換し、夜着まで整えてくれた。されるがままというのは子どもに戻ったみたいで恥ずかしいが、吐精した後は力が抜けてどうしても動きが緩慢になってしまう。そんな僕を見た殿下が「それでは体が冷えてしまうな」と言い、気がついたら着替えさせてくれるようになっていた。
「ランシュ、横になれるか?」
すっかり整えてもらった夜着に若干頬を熱くしながら「大丈夫です」と答え、ゆっくりと枕に頭を載せる。そんな僕にふかふかの布団を掛けた殿下が、なぜかそのままベッドから離れるように歩き出した。
「殿下?」
どこへ行くのだろうと頭を動かすと、ちょうど視線の先に殿下の隆々とした股間が見えた。
「あー……ええと、手でしましょうか?」
同じ男として、そのままではつらいことは十分に理解できる。
「いや、大丈夫だ」
「横になったままになりますが、たぶんできると思いますよ?」
「それでも腹に負担がかからないとは言い切れないだろう」
「それはそうかもしれませんが……」
しかし、僕ばかりしてもらってというのも悪い気がする。
「子が生まれて体が落ち着いたら、いつでも触れあえるんだ。これから何度でも発情するのだし、そうだな、発情していなくても抱きたいと思っている。そのときの楽しみにとっておこう」
「……それは、なんというか」
どう答えていいのかわからず視線を逸らすと、近づいてきた殿下に「腹が空かないくらい孕ませてやろう」と耳元で囁かれ「ひゃっ」と情けない声が出てしまった。
そんな僕の頭をポンと優しく撫でた殿下は、額にチュッと口づけてから寝室を出て行った。熱くなった頬を撫でながらせめて起きて待っていようと思っていたのに、気がついたらすっかり眠ってしまっていた。
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