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その後 愛しい狼への贈り物1
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シーグラスのストックを入れた箱の中から、やや灰色がかった青色の硝子を取り出して灯りにかざす。硝子全体が淡く光り、真ん中に入った白い線が浮き上がるように一層白く見えた。「やっぱりジンっぽいな」なんて思いながらかざす角度を変える。
青灰色の綺麗な髪で、左側の耳の後ろの一部分だけ銀色が混じっているジンの髪の毛。普段、銀色の部分は髪を結んでいるからか目立つことはない。きっと働いているカフェでも、その部分に色がないことに気づいている人はいないだろう。
一度、どうしてそこだけ銀髪なのか聞いてみたが本人もわからないということだった。「もしかしたら母さんが銀髪に近かったからかもね」と言われたとき、ドキッとしてしまった。
(そりゃ、ジンにだって両親はいるよな)
これまでジンの過去を聞いたことはない。俺自身、親父が同じ仕事をしていたと話したくらいで詳しい話はしていなかった。
この島は昔から流れ者たちを多く受け入れてきた。そういう人たちにルーツを持つ人も多い。だからか互いに過去を詮索しないのが当たり前で、流れ者を受け入れていた親父も根掘り葉掘り尋ねることはしなかった。
俺もそれが普通だと思っていた。だからジンにも尋ねなかったが、不意に「母さん」なんて言葉を聞くとドキッとする。
(ジンの両親って、どんな人だったんだろうな)
ジンは自分のことを狼だと言う。そんな話を信じているわけじゃないが、それでもほんの少しそうかもしれないと思い始めていた。それは匂いのことだったり言動だったり……それに、あの目だ。人間とは明らかに違う琥珀色の目を見るたびに狼かもしれないと思うことがある。
それでもジンを怖いとは思わない。狼だったとしても違う何かだったとしてもジンはジンだ。
(でも、もし本当に狼だったとしたら両親も狼ってことだよな……?)
人にしか見えない姿の狼がいるなんて話は聞いたことがない。ただ、この世界は想像以上に広いのも事実だ。島を囲む海のはるか向こうには様々な大陸や島があって、たくさんのルーツを持つ人たちが住んでいる。なかには狼をルーツに持つ人たちだって……。
(さすがにそれはないか)
そもそも狼は獣だ。ふさふさの毛に四つ脚で移動する生き物だ。それが人間の姿をしているうえに俺みたいな男に欲情し、さらにはつがいという名のパートナーにするなんてあり得るだろうか。
「難しい顔してどうかした?」
「……っ」
急に声をかけられて肩が跳ねてしまった。声のほうに視線を向けると仕事部屋の入り口にジンが立っている。
「カグヤ?」
「あ……いや、ちょっと考え事してたから」
「そう? もしかして何か気になることでもあった?」
「いや、アクセサリーのデザインを考えてただけだよ」
「そっか。でもあんまり無理しないで」
優しい言葉にホッとした。狼だったとしてもジンはこんなに俺を想ってくれている。
(そうだ、ジンが何者だったとしても関係ないじゃないか)
俺が好きになったのは目の前で俺の心配をしているジンだ。相変わらず眉を少し下げた表情で俺を見る姿に愛しさがこみ上げてくる。
(こんなでかい体した男なのに、なんで可愛く見えるんだろうなぁ)
「カグヤ、疲れてるなら寝たほうがいいよ?」
「そうだな」
心配性で世話焼きのジンの言葉に頷き、この日は作業をやめることにした。
翌日、ジンが最近できたという店のプリンを買ってきた。どうやらジンは甘いものが好きらしく、たまに人気店のスイーツを買ってきたりする。今日は雑誌で紹介された店だったらしく観光客に混じって長蛇の列に並んだのだと笑った。
箱から出てきたのは黄色がやや強い昔ながらのプリンだった。いま流行りの“レトロ可愛い”というやつだろうか。そんなことを思いながら瓶を見ていると、一口食べたジンが「うわー、懐かしい味だ」と声を上げた。
「懐かしい味?」
「昔、母さんに作ってもらったのと味が似てる」
(母さん)
その言葉にまたもやドキッとした。
(気になることはさっさと聞いたほうがいいんだろうけど……)
過去を詮索しないほうがいいと思っているのに、やっぱり気になる。プリンを見ながらしばらく考えた俺は、よしと決意して尋ねることにした。
「あのさ、ジンの両親なんだけど……その、やっぱり狼なのか?」
「父さんは狼だけど、母さんは人間だよ」
あっさりと答えが返ってきた。
「狼と、人間」
「うん。母さんは銀髪っぽい金髪の大陸出身の人で、父さんは俺の髪と同じ色の狼。そういや目も父さんと同じ色だから、俺は狼の血が濃いのかもしれない」
「狼の血……」
「あ、でも顔立ちは母さんに似てるかも。小さい頃は女の子によく間違われてたみたいだし」
街一番の美人だった母親に父親が一目惚れをし、熱烈求愛の果てに結婚したのだとジンが話を続けた。そして両親のいいとこ取りのようなジンが生まれたのだという。
「その、ご両親は元気なのか?」
「二人とも元気で暮らしてるよ。ここから北西にずっといったところにある街に住んでる。あ、でも今頃は北の街に移ってるかもな」
「北西ってことは、大陸か」
「そう、一番大きな大陸の古い街。ただ、夏になると北の街に移動するんだよね」
「季節によって引っ越すのか?」
「引っ越すっていうか、夏は北の街で冬は南のいま言った街に住んでる。父さんが暑がりで母さんが寒がりだから、擦り合わせた結果って感じかな」
「そうなんだ」
狼は夏に弱いのか。しかし、それならジンはどうして常夏のこの島に来たんだろう。
「おまえは暑いの平気なのか?」
「うん。たぶん母さんに似たんだろうね。それで行き先も南の島にしようと思ったんだけど、ここに来て正解だった。こうしてカグヤに出会うことができて、つがいにもなれたわけだし」
嬉しそうなふわりとした笑顔を向けられると、やっぱり照れくさくなる。それを誤魔化すように質物を続けたた。
「そういや、なんでこの島に来たんだ? 旅行とか?」
「違うよ。狼はある程度大きくなったら両親の元を離れる習性なんだ。いわゆる独り立ちってやつかな。新しい土地に移って、そこでつがいをみつけて自分の縄張りを作るんだ」
「それでこの島に?」
「そう。狼は住んでいないみたいだったし、それならゆっくりつがいを探せるかなと思って。それがまさか、こんな早くに出会えるなんて驚いた」
「……もしかして、ほかにも狼がいるのか?」
「この島にはいないよ。近くにほかの狼がいると縄張り争いになるから、住む前に慎重に匂いを探るんだ。この島は狼の匂いがしなかったし、いまは僕の匂いがするはずだから別の狼が来ることはないと思うよ」
ジンの話に目眩がしてきた。話の内容はそのまま動物の縄張りだとかにしか聞こえない。
「それに、つがいができると狼は神経質になるんだ。それで昔は自分の巣につがいを囲ってたらしいんだけど、いまはそんなことできないからなぁ。とくにつがう相手が人間だと『それは監禁だろ!』って怒られかねないし」
「母さんがよくそう言って怒ってたから」なんて笑っているが、どこからどこまでが本当なのかわからなくなってきた。いや、ジンが嘘を言っているとは思わないが、うまく理解できない。
(……深く考えるのはよそう)
そうだ、ジンが狼だろうと人間だろうと関係ない。これからもいままでどおり二人で暮らしていくだけだ。そう思って話題を変えることにした。
「そういやジンっていくつなんだ? その、独り立ちするってことは成人してるってことだよな?」
何気なく聞いた年齢だが、なぜかジンが灰褐色の目をさまよわせている。
(もしかして思ってたよりも若いのか?)
てっきり二十代だと思っていたが十代だったんだろうか。それだとさすがに具合が悪い。というより、こういう関係になったらまずい年齢だと俺も困る。
「ええと、人間だと大体二十四、五歳くらいじゃないかな」
「人間だと……ってことは」
「狼だと……ええと、知りたい?」
少し眉を下げた顔に、俺は慌てて首を横に振った。狼だと違う年齢なんだと言いたいのかもしれないが、人間の歳さえわかればいい。これ以上理解できないことを聞いたところで俺にはキャパオーバーだ。
「もうすぐ誕生日だから、それが過ぎれば人間でいうところの二十七歳ってところかな。このくらいから人間と同じ年の取り方になるはずだよ」
人間と同じ年の取り方……やっぱり聞かなかったことにしよう。
「そういえばカグヤはいくつ? 見た感じだと、俺よりちょっと歳上って感じに見えるけど」
「今年二十八になった」
「え? もしかして誕生日終わっちゃったってこと? うそ、いつだったの?」
「年明けてすぐだから、まだおまえと出会う前だよ」
「そっかぁ、残念。それじゃあ来年は一緒に誕生日、お祝いしようね」
(来年か)
未来の予定を立てるジンの言葉に心拍数が少しだけ速くなる。
(そうだよな、来年もその次もジンと一緒にいられるんだよな)
そう思うだけで妙に胸が高鳴った。
「そういうおまえこそ、誕生日いつなんだよ?」
「ん? 俺の? ええと……あぁ、十日後だ」
カレンダーを見たジンが思い出したように答えた。
「おまえ、そういうことは早めに言えって。誕生日のお祝い、やるからな」
「独り立ちしてから気にしてなかったからなぁ。カグヤ、ありがとう。……うわぁ、どうしよう。カグヤと一緒の誕生日なんてドキドキする」
嬉しそうな顔をするジンに俺まで嬉しくなった。
(やっぱり俺はジンが好きだ)
狼だとか何だとか関係なく愛しいと思っている。一緒に誕生日を祝えるってだけで子どものようにワクワクしてきた。
「じゃあ、ちょっと豪華なディナーにしようか。大きな肉を焼いて、野菜も焼いて、そうだ、レッドバナナも焼いちゃおう」
「自分の誕生日なのに自分で料理するのかよ」
「だって、せっかくならカグヤにおいしいご飯食べてもらいたいし」
ジンの言葉につい笑ってしまった。そういうところがジンらしい。
「じゃあ、俺はとびきりのケーキを買ってくるか」
「ありがとう。楽しみにしてる」
ジンの心底嬉しそうな顔を見ながら、俺はもう一つプレゼントを用意しようと考えた。
青灰色の綺麗な髪で、左側の耳の後ろの一部分だけ銀色が混じっているジンの髪の毛。普段、銀色の部分は髪を結んでいるからか目立つことはない。きっと働いているカフェでも、その部分に色がないことに気づいている人はいないだろう。
一度、どうしてそこだけ銀髪なのか聞いてみたが本人もわからないということだった。「もしかしたら母さんが銀髪に近かったからかもね」と言われたとき、ドキッとしてしまった。
(そりゃ、ジンにだって両親はいるよな)
これまでジンの過去を聞いたことはない。俺自身、親父が同じ仕事をしていたと話したくらいで詳しい話はしていなかった。
この島は昔から流れ者たちを多く受け入れてきた。そういう人たちにルーツを持つ人も多い。だからか互いに過去を詮索しないのが当たり前で、流れ者を受け入れていた親父も根掘り葉掘り尋ねることはしなかった。
俺もそれが普通だと思っていた。だからジンにも尋ねなかったが、不意に「母さん」なんて言葉を聞くとドキッとする。
(ジンの両親って、どんな人だったんだろうな)
ジンは自分のことを狼だと言う。そんな話を信じているわけじゃないが、それでもほんの少しそうかもしれないと思い始めていた。それは匂いのことだったり言動だったり……それに、あの目だ。人間とは明らかに違う琥珀色の目を見るたびに狼かもしれないと思うことがある。
それでもジンを怖いとは思わない。狼だったとしても違う何かだったとしてもジンはジンだ。
(でも、もし本当に狼だったとしたら両親も狼ってことだよな……?)
人にしか見えない姿の狼がいるなんて話は聞いたことがない。ただ、この世界は想像以上に広いのも事実だ。島を囲む海のはるか向こうには様々な大陸や島があって、たくさんのルーツを持つ人たちが住んでいる。なかには狼をルーツに持つ人たちだって……。
(さすがにそれはないか)
そもそも狼は獣だ。ふさふさの毛に四つ脚で移動する生き物だ。それが人間の姿をしているうえに俺みたいな男に欲情し、さらにはつがいという名のパートナーにするなんてあり得るだろうか。
「難しい顔してどうかした?」
「……っ」
急に声をかけられて肩が跳ねてしまった。声のほうに視線を向けると仕事部屋の入り口にジンが立っている。
「カグヤ?」
「あ……いや、ちょっと考え事してたから」
「そう? もしかして何か気になることでもあった?」
「いや、アクセサリーのデザインを考えてただけだよ」
「そっか。でもあんまり無理しないで」
優しい言葉にホッとした。狼だったとしてもジンはこんなに俺を想ってくれている。
(そうだ、ジンが何者だったとしても関係ないじゃないか)
俺が好きになったのは目の前で俺の心配をしているジンだ。相変わらず眉を少し下げた表情で俺を見る姿に愛しさがこみ上げてくる。
(こんなでかい体した男なのに、なんで可愛く見えるんだろうなぁ)
「カグヤ、疲れてるなら寝たほうがいいよ?」
「そうだな」
心配性で世話焼きのジンの言葉に頷き、この日は作業をやめることにした。
翌日、ジンが最近できたという店のプリンを買ってきた。どうやらジンは甘いものが好きらしく、たまに人気店のスイーツを買ってきたりする。今日は雑誌で紹介された店だったらしく観光客に混じって長蛇の列に並んだのだと笑った。
箱から出てきたのは黄色がやや強い昔ながらのプリンだった。いま流行りの“レトロ可愛い”というやつだろうか。そんなことを思いながら瓶を見ていると、一口食べたジンが「うわー、懐かしい味だ」と声を上げた。
「懐かしい味?」
「昔、母さんに作ってもらったのと味が似てる」
(母さん)
その言葉にまたもやドキッとした。
(気になることはさっさと聞いたほうがいいんだろうけど……)
過去を詮索しないほうがいいと思っているのに、やっぱり気になる。プリンを見ながらしばらく考えた俺は、よしと決意して尋ねることにした。
「あのさ、ジンの両親なんだけど……その、やっぱり狼なのか?」
「父さんは狼だけど、母さんは人間だよ」
あっさりと答えが返ってきた。
「狼と、人間」
「うん。母さんは銀髪っぽい金髪の大陸出身の人で、父さんは俺の髪と同じ色の狼。そういや目も父さんと同じ色だから、俺は狼の血が濃いのかもしれない」
「狼の血……」
「あ、でも顔立ちは母さんに似てるかも。小さい頃は女の子によく間違われてたみたいだし」
街一番の美人だった母親に父親が一目惚れをし、熱烈求愛の果てに結婚したのだとジンが話を続けた。そして両親のいいとこ取りのようなジンが生まれたのだという。
「その、ご両親は元気なのか?」
「二人とも元気で暮らしてるよ。ここから北西にずっといったところにある街に住んでる。あ、でも今頃は北の街に移ってるかもな」
「北西ってことは、大陸か」
「そう、一番大きな大陸の古い街。ただ、夏になると北の街に移動するんだよね」
「季節によって引っ越すのか?」
「引っ越すっていうか、夏は北の街で冬は南のいま言った街に住んでる。父さんが暑がりで母さんが寒がりだから、擦り合わせた結果って感じかな」
「そうなんだ」
狼は夏に弱いのか。しかし、それならジンはどうして常夏のこの島に来たんだろう。
「おまえは暑いの平気なのか?」
「うん。たぶん母さんに似たんだろうね。それで行き先も南の島にしようと思ったんだけど、ここに来て正解だった。こうしてカグヤに出会うことができて、つがいにもなれたわけだし」
嬉しそうなふわりとした笑顔を向けられると、やっぱり照れくさくなる。それを誤魔化すように質物を続けたた。
「そういや、なんでこの島に来たんだ? 旅行とか?」
「違うよ。狼はある程度大きくなったら両親の元を離れる習性なんだ。いわゆる独り立ちってやつかな。新しい土地に移って、そこでつがいをみつけて自分の縄張りを作るんだ」
「それでこの島に?」
「そう。狼は住んでいないみたいだったし、それならゆっくりつがいを探せるかなと思って。それがまさか、こんな早くに出会えるなんて驚いた」
「……もしかして、ほかにも狼がいるのか?」
「この島にはいないよ。近くにほかの狼がいると縄張り争いになるから、住む前に慎重に匂いを探るんだ。この島は狼の匂いがしなかったし、いまは僕の匂いがするはずだから別の狼が来ることはないと思うよ」
ジンの話に目眩がしてきた。話の内容はそのまま動物の縄張りだとかにしか聞こえない。
「それに、つがいができると狼は神経質になるんだ。それで昔は自分の巣につがいを囲ってたらしいんだけど、いまはそんなことできないからなぁ。とくにつがう相手が人間だと『それは監禁だろ!』って怒られかねないし」
「母さんがよくそう言って怒ってたから」なんて笑っているが、どこからどこまでが本当なのかわからなくなってきた。いや、ジンが嘘を言っているとは思わないが、うまく理解できない。
(……深く考えるのはよそう)
そうだ、ジンが狼だろうと人間だろうと関係ない。これからもいままでどおり二人で暮らしていくだけだ。そう思って話題を変えることにした。
「そういやジンっていくつなんだ? その、独り立ちするってことは成人してるってことだよな?」
何気なく聞いた年齢だが、なぜかジンが灰褐色の目をさまよわせている。
(もしかして思ってたよりも若いのか?)
てっきり二十代だと思っていたが十代だったんだろうか。それだとさすがに具合が悪い。というより、こういう関係になったらまずい年齢だと俺も困る。
「ええと、人間だと大体二十四、五歳くらいじゃないかな」
「人間だと……ってことは」
「狼だと……ええと、知りたい?」
少し眉を下げた顔に、俺は慌てて首を横に振った。狼だと違う年齢なんだと言いたいのかもしれないが、人間の歳さえわかればいい。これ以上理解できないことを聞いたところで俺にはキャパオーバーだ。
「もうすぐ誕生日だから、それが過ぎれば人間でいうところの二十七歳ってところかな。このくらいから人間と同じ年の取り方になるはずだよ」
人間と同じ年の取り方……やっぱり聞かなかったことにしよう。
「そういえばカグヤはいくつ? 見た感じだと、俺よりちょっと歳上って感じに見えるけど」
「今年二十八になった」
「え? もしかして誕生日終わっちゃったってこと? うそ、いつだったの?」
「年明けてすぐだから、まだおまえと出会う前だよ」
「そっかぁ、残念。それじゃあ来年は一緒に誕生日、お祝いしようね」
(来年か)
未来の予定を立てるジンの言葉に心拍数が少しだけ速くなる。
(そうだよな、来年もその次もジンと一緒にいられるんだよな)
そう思うだけで妙に胸が高鳴った。
「そういうおまえこそ、誕生日いつなんだよ?」
「ん? 俺の? ええと……あぁ、十日後だ」
カレンダーを見たジンが思い出したように答えた。
「おまえ、そういうことは早めに言えって。誕生日のお祝い、やるからな」
「独り立ちしてから気にしてなかったからなぁ。カグヤ、ありがとう。……うわぁ、どうしよう。カグヤと一緒の誕生日なんてドキドキする」
嬉しそうな顔をするジンに俺まで嬉しくなった。
(やっぱり俺はジンが好きだ)
狼だとか何だとか関係なく愛しいと思っている。一緒に誕生日を祝えるってだけで子どものようにワクワクしてきた。
「じゃあ、ちょっと豪華なディナーにしようか。大きな肉を焼いて、野菜も焼いて、そうだ、レッドバナナも焼いちゃおう」
「自分の誕生日なのに自分で料理するのかよ」
「だって、せっかくならカグヤにおいしいご飯食べてもらいたいし」
ジンの言葉につい笑ってしまった。そういうところがジンらしい。
「じゃあ、俺はとびきりのケーキを買ってくるか」
「ありがとう。楽しみにしてる」
ジンの心底嬉しそうな顔を見ながら、俺はもう一つプレゼントを用意しようと考えた。
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