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13 花嫁と祝宴2

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 ギンシルの背後に立っていたのは漆黒の肌に山羊のような角を持つ異形のものだった。髪は長く白銀のように光っている。服を着ていないのか、髪や眼、唇以外は真っ黒で夜の闇との境がわからない。それがギンシルを背後から抱きしめていた。

「なるほど、其方そちの花嫁からは抗いがたい香りがしておるな」
「手を出さないでくださいよ」
「わかっておる。それに……ふむ、これも悪くはない」

 白銀の髪がシュルシュルと蠢く。それがギンシルの手足に絡みつくと、再び「ひぃっ」と情けない悲鳴が聞こえた。ギンシルの両手は白銀の髪によって頭上高くに持ち上げられ、太ももには白銀の髪が絡み股を広げるように動いている。それにギンシルが抗おうとしたのは一瞬で、あっという間に足を持ち上げられ大股開きの状態になった。
 蛙をひっくり返したような股間にはズボンも下着もなく、ギンシルは目を白黒させていた。体を必死に捩るが太ももやすねに絡みつく髪は離れることがなく、ますます股を開かせている。

「ねぇ、あれはなぁに?」

 つぶやくようなリシアの問いかけに、ユリティが「兄君は古の神に気に入られたようですよ」と答えた。

「いにしえのかみ?」
「わたしの遠い親戚のようなものです」
「ふぅん」

 誰か尋ねたリシアだったが、答えに興味はなかった。リシアにとってこの世界はユリティが中心で、それ以外はどうでもいい。腹違いの兄が辱められている姿を見ても憐憫や嫌悪感を抱くことさえなかった。再びユリティに視線を戻したリシアは、まるで酔っているかのように黒眼をうっとりと細める。

「兄様のことなんてどうでもいい。ねぇユリティ、はやくちょうだい」
「わかっています。花嫁の体を慰めるのはわたしにしかできないことですからね」
「はやく」

 再び神官服越しに体を擦りつけ始めたリシアの背中をユリティが宥めるように撫でる。そうして片手をすべらせるように動かし、裾の切れ目から中へと手を忍ばせた。そのまま指を尻たぶの奥へと進ませ、すでに濡れている交合口をトンと撫でる。

「あっ」

 リシアの腰がカクンと落ちかけた。それを腰に回した手で支えたユリティが「片足を上げて」と耳元で囁く。

「足……?」
「そう、わたしにもたれかかるようにしながら……そう、上手ですよ」

 褒められたリシアの頬がうれしそうに赤くなる。褒められて気をよくしたリシアは、さらに片足をグンと持ち上げた。足を上げれば必然的に交合口が顕わになる。いつの間に取り出したのか、猛々しくそそり勃つ欲望をそこにグゥッと押し当てた。

「あ……!」

 驚いたのは一瞬で、リシアの顔には喜びの表情が浮かんでいた。「はやく」とうわごとのようにつぶやくと、すぐに熱塊がズルンと奥へと入ってくる。「ああんっ!」と悩ましい声を上げながら、リシアの花芯から少量の蜜がこぼれ落ちた。

「相変わらずすぐに出してしまいますね」
「ユリ、ティだか、らぁっ」
「ほら、そう食い締めないで。それでは奥まで入りませんよ」
「やだっ、奥まで入れて、奥、いれてぇ」
「では、わたしに抱きついて。そう、上手ですよ」

 上げていたリシアの片足の膝裏に手を差し込むとグッと持ち上げた。爪先立ちになっていたもう片方の足がわずかに宙に浮く。支えを失った体は必然的に自重で沈み、それを待っていたかのようにユリティの熱塊がズブズブと肉壁を押し開いた。
 その衝撃と強烈な快感にリシアが声にならない嬌声を上げた。それに重なるようにギンシルも悲鳴を上げる。

「これはまたき香りよの。祝宴には贅沢な供物、いや、きかな」
「お気に召しましたか」

 ユリティの声にさえ感じるのかリシアが「んふ」と鳴くように声を漏らした。それに微笑むユリティに古の神が「きかな」と笑う。

「腹にもよく目にもよい。ほれ、同胞はらからもいつになく興奮しておる。これでは、ただの人らは耐えられぬであろうの」
「羽虫たちは捨て置いていただいてかまいません。あとで処分しておきましょう」
「やれ、其方は恐ろしいの。まがりなりにも当代の神官王、羽虫とはいえ此奴こやつらのあるじであろう?」
「主に従わぬ従僕は処分しなければなりません。どうせ処分する者たちゆえ、思う存分楽しんでいただいて結構と言ったまでのこと」

 ユリティが腰をグッと突き上げた。それに体ごと揺さぶられ、リシアの体を凄まじいまでの快感が貫く。あまりの快楽に黒髪を乱しながら頭をゆるゆると振ったところで、話し声以外の音がしていることにリシアが気づいた。
 話しているのはユリティと“いにしえのかみ”という二人で、少し離れたところから悲鳴や喘ぎ声が聞こえる。そこにグジュグジュ、ヌチュヌチュという濡れた音も混じっていた。それより近いところから「ひぃひぃ」と聞こえるのはギンシルの声だ。そこに「ほれ、もそっと尻を上げよ」と重なるのはユリティと話していた声だ。

(なぁんだ、ギンシル兄様も、可愛がられてるんだ)

 リシアの口元がつややかに笑った。リシアがそう思ったのは「もっと」だとか「いかせて」だとかいうギンシルの声がしたからだ。その声にますますリシアの顔が妖艶なものへと変わっていく。
 あちこちから悲鳴や嬌声が聞こえる。濃密な薔薇の甘い香りに精臭が混じり夜の空気を一層淫靡なものに変えていた。悲鳴が混じる音、欲望渦巻く匂い、古に行われた宴のような空気にリシアの表情がトロンととろける。

(僕は、こういうのをたぶん知ってる)

 経験したことがないのに知っている。遠い昔にもユリティとこうしたことをしていた気がする。

(あのとき……僕は金色だった)

 いまのような射干玉ぬばたまの黒髪に黒眼ではなく全身が黄金に輝いていた。それが愛しいのだと口づけてくれたのは……。

(ユリティしかいない)

 かつて悦びを与えてくれた愛しい人の感触を思い出したリシアの全身が発火したように熱くなった。ドクン、ドク、ドク、ドクンと心臓が力強く脈打つ。呼応するかのように腹の奥が熱くなり、そこを再び愛しい人に濡らされたいのだという強烈な感情がリシアの中で渦巻いた。

(今度こそ、僕にあなたの血をちょうだい)

 恍惚としていた黒眼がすぅっと細くなる。真っ白な頬は赤く染まり、漆黒の髪が汗でつややかに光った。

「ユリティ、ちょうだい」

 今度こそ血をもらわなくては。そうしなければ再び忌々しいものに連れて行かれるかもしれない。抗えばこの柔な体などすぐに消え去ってしまう。そんなことになれば再び愛しい人が悲しむ。あのときのように哀しみ怒り我を失い、この世界を壊してしまうかもしれない。

(それでもいいけど)

 何もない世界でもユリティさえいてくれればいい。夢うつつの中でうっとりと微笑むリシアは、次の瞬間体の奥深くを貫かれ激しく体を震わせた。

「あ……――!」

 あまりの衝撃にリシアの体がギュッと強張った。つられるように交合口も締まり突き上げる熱塊を締め上げる。それに一瞬眉を寄せたユリティだが、続けて何度も最奥をこじ開けるように腰を打ちつけた。

「やれ、其方は強引じゃの」
「花嫁の望みを叶えるのは、わたしの役目、ですからね」
「其方の逞しき逸物では花嫁であっても辛かろうて。ほれ、このようにじっくりと愛でるように突き破ってやるのがよいのだ。おお、そう絞り取ろうとするでない。存分に注いでやるゆえに、ほれ、食い締めては悦いところを突いてやれぬぞ?」

 古の神の声を耳にしながら、リシアは与えられる残酷なまでの快感に夢中になっていた。それ以上に甘く香る首筋が気になって仕方がない。そこに口づけたくて歯が疼く。

「ユ、ティ、」
「ようやく花開きましたか」
「はな……?」
「あなたが花嫁として目覚めたということですよ」
「んあっ!」
「さぁ、望むままにわたしに口づけなさい」
「んぅ!」

 突き上げられながら、リシアは必死にユリティの首筋に顔を埋めた。そんなリシアの耳元でユリティが甘く淫らに囁きかける。

「わたしの血を口にしたあなたは、わたしだけの贄になる。もう二度と奪われることはない」
「ユ、ティ」

 体を震わせながらリシアが唇を舐めた。そうしてゆっくりと口を開き、目の前の肌にかぷりと咬みつく。最初に感じたのは甘い香りだった。続いて口いっぱいに広がる芳醇な味に黒眼を細める。嚥下するたびに目の前で光がチカチカと点滅し腹の奥がカッと熱くなった。

(これで……僕は、ユリティだけのもの)

 リシアの体から薔薇にも似た香りが放たれた。裏庭の薔薇より清々しく感じるのは、かすかに柑橘のような香りが混じっているからだろう。それは贄が神々を惑わす淫らな香りと金竜が漂わせていた高潔な香りが混じり合った瞬間だった。
 恍惚としていたリシアの体をさらなる衝撃が襲った。最奥を切っ先でググッと押し上げられ背中がピンと伸びる。

「あ……あ……気持ちいい、どうしよう、気持ちいい……」
「そのまま身を委ねなさい」
「おく、ねぇ、突いて、もっと、いっぱい、ぐりぐりって、奥、ずんって、ひぃっ! ひぁあっ、奥、くる、きちゃうっ! や、すごいの、くる、……っ」
「あぁ……中がこれでもかと絡みついて……ふふ、ははは、さすがはわたしの花嫁。天にも昇る心地よさです」
「あ、ぁ、ぁぁ、あぁ、ぁ、きちゃう、くるっ! ぁああっ、いっちゃう、いく、ぃく、ぃっちゃ、ぅ……――――っ!」

 心臓がドクンと跳ねた。目の前で星が瞬き頭が真っ白に弾け飛ぶ。それでもリシアはユリティの首筋から漂う甘い香りを追っていた。そうして初心な咬み痕に唇を寄せる。甘い肌をぺろりと舐めた瞬間、リシアの花芯からトロトロと蜜がしたたり落ちた。

「なんと甘美な香り、淫靡な姿、極上の供物であることか!」
「お気に召しましたか?」
きかな、きかな。極上の供物、たしかに受け取った。礼に其方の呼ぶ声に応えてやろう。こちら側の安寧にも手を貸してやろうぞ」
「ありがとうございます」
「それにしても花嫁の背のもの、それはそうして舞うものであったか」

 古の神が指摘したように、リシアの背中を飾るドレスの刺繍はまるで蝶が羽ばたくように美しく、それでいてなまめかしく動いていた。

「我が花嫁は金竜の翼は持ちませんが、こうして蝶のように美しく舞うのですよ」
「やれ、其方が惚気とは」

 カッカッと笑う声に悲鳴が混じった。それに重なるようにギンシルが悲鳴を上げる。

「ひ、ひっ、ひぃ、も、むり、むりぃ……!」
「何を言うか、宴はこれからよ。ほぅれ、もっと奥に注ぎこんでやろう」
「ひぎぃっ! やめ、おく、むりぃっ! こわれ、こわれる、ぅ!」
「よいよい、我の精は傷を治すゆえ、何度壊れようとも存分に悦楽を享受できようぞ」

 リシアの頭がカクンと後ろに倒れた。快感でとろけた黒眼に、山羊の角と漆黒の腕に揺さぶられている次兄の姿が映る。その奥では神官服を着た数人の男たちが異形のものに組み敷かれていた。それぞれ悲鳴のような嬌声を上げながら腰をヘコヘコと動かしている。

「……なぁんだ、みんな、気持ちよさそう……」

 リシアの黒眼がさらにとろけた。そうして愛しい人に視線を戻し、ギュッと抱きつく。

「でも、一番気持ちいいのは、僕だから」

 再び愛しい人の肌に口づけたリシアは、いまだ硬いままの熱塊をさらに奥へといざなうように腰をくねらせた。
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