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2 花嫁の辛抱
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ようやく大神殿に到着した御神託の花嫁リシアだったが、その可憐な顔には不満の色が滲んでいた。
(十年も待ったのに)
リシアは花嫁になる日を十年待ち続けた。待って待って、ようやく神聖国メルタバーナまで来たというのに、肝心の婚姻相手であるユリティは神官王の職務が忙しいからと時々しか顔を見せない。部屋に来ても滞在するのはほんのわずかで、期待していた肌の触れ合いは皆無だった。
(辛抱できなくて勝手に部屋まで行ったのは悪かったと思ってるけど)
しかし、そうしてしまうほどリシアはユリティを求めていた。ところがユリティは「はしたない」と言って尻を叩いた。しかも何度もだ。叩かれるたびに痛みよりも「待ちきれなかったのは自分だけだったんだ」と思えて悔しかった。そんなリシアだが、ユリティに差し出された指と血の香りには満足している。
リシアが初めてユリティを見たのは八歳のときだ。それから十年、リシアはユリティの花嫁になることだけを夢見てきた。会えない間も毎日愛しい顔を思い返しては我慢した。我慢して我慢して、ついに我慢できなくなったリシアは十六歳になったある日、母親に花嫁になりたいと訴えた。
「ユリティの花嫁にして!」
リシアが母親にそう訴えたのは、自分の母親にそれだけの力があると知っていたからだ。母親がひと言「ウィンガラードの姫を神官ユリティの花嫁に」と囁くだけで自分は花嫁になれる。
(母様も「いいわよ」って言ってくれたのに)
ところがその後も話はまったく進まなかった。それどころか「もう少し待ちなさい」と言うばかりでリシアの話を聞こうともしない。そのままさらに二年が経った。
業を煮やしたリシアは長兄であるウィンガラード王に訴えた。「わかったよ」と口にした長兄は父王そっくりの笑みを浮かべ、それから数日後、御神託の花嫁に決まったという知らせが届いた。
御神託の花嫁というのは神官王の花嫁のことだ。そのときリシアは初めて愛しい人が神官王になっていたことを知った。
リシアがなかなか花嫁になれなかったのはユリティが神官王になるのを待っていたからだ。同時にリシアの母親はユリティ側から御神託の花嫁を求めてくるのを待っていた。ユリティが自分に頭を垂れることを願っての考えだったが、そうはならなかった。先に痺れを切らしたのはリシアのほうで、愛する若き王に頼まれれば母親も否とは言えない。
(母様が叶えるのはは兄様の言うことばかり)
父王が亡くなってすぐ、リシアの母親は新しい国王となった長兄の妃となった。ただし、このことを知るものは王城にはいない。若き王の妃は王城の奥深くにある部屋から出てくることはなく、部屋の出入りを許されているのは妃にのみ仕える存在だけだからだ。
リシアは母親が自ら望んでそうされていることを知っていた。そして長兄が望んで母親を閉じ込めていることもわかっていた。そんな二人をずっと見てきたリシアは自分もそうされたいと願うようになっていた。もちろん相手はユリティ以外にあり得ない。
(そう考えるくらいユリティのことが好き)
ここまで強く想うようになったきっかけはもう覚えていない。ひと目見た瞬間から“この人だ”とわかっただけだ。この人のそばにいるべきは自分しかあり得ないという強烈な感情は、いまもリシアの中で燃え続けている。
そんなユリティのそばにようやく来ることができた。不満げだったリシアの顔にうっとりとした笑みが広がる。
(ユリティの体、大人の人って感じがして素敵だった)
リシアは神官王の部屋に忍び込んだときのことを思い出していた。抱きついた体は想像していた以上に大きく逞しく、いずれこの体に組み敷かれるのだと想像するだけで体が火照る。初めて口にした血の味わいは素晴らしく、甘い香りに酔いしれ下肢が歓喜に震えた。身も心も喜ばせてくれる相手はすぐそこにいるのに、毎日触れることができないもどかしさに切なくなる。
「……僕だって母様みたいに毎日触れたいのに」
「お母上がどうかしましたか?」
突然の声にリシアがパッと振り返る。ようやく現れた愛しい姿に「ユリティ!」と走り寄って抱きついた。
「そういうことをしてはなりませんよ」
「だって……」
「いまはまだ婚姻式の前、本来なら潔斎すべき期間だということを忘れないように。こうして顔を合わせるのは特例中の特例だと教えたでしょう?」
「……わかってる」
それでも触れたい。抱きしめたい。生まれたときから欲望に従順だったリシアの顔に不満げな色が漂い始める。
「ところで、お母上がどうかされたのですか?」
「なんでもない。元気で過ごしてるでしょ」
「そういえば、お母上のご夫君は若きウィンガラード王でしたね」
「え……?」
驚くリシアに「どうしました?」とユリティが尋ねる。
「だって、そのことは誰も知らないはずなのに」
「わたしは神官王ですよ。この世界で知り得ないことはありません」
美しく微笑む顔にリシアはすぐさまうっとりと見惚れた。
(やっぱり僕のユリティはすごい)
リシアの中にユリティへの強烈な想いが広がった。好きだという言葉では表現しきれない感情が華奢な体をがんじがらめにする。その息苦しささえリシアの体を甘く火照らせた。可憐な少女のごとき顔が妖艶な表情へと変わり、それをじっと見つめるユリティの碧眼が満足げな色を見せる。
「まるであの頃の金竜のようですね。竜の姿でも人の姿でも、こうして熱心にわたしを見つめていたのを思い出します」
「きん……なぁに? 何のこと?」
「いいえ。ところで食事はもう済みましたか?」
ユリティの言葉に白い頬がパッと赤くなった。わずかに視線を逸らすものの、すぐに期待に満ちた黒眼がユリティに向けられる。
「……まだ」
ユリティが言う食事は人としての食事ではない。いつもなら朝一番に侍女マルガの血を口にする。しかし今日は寝坊してしまい、そのままになっていた。期待するようにリシアが艶やかな唇を真っ赤な舌先でちろっと舐めた。
「ほかの人間に手を出していないことは褒めてあげましょう」
「何度も言ってるけど、ほかの男をほしいなんて思わない。……それに、こうして近くにユリティがいるんだし」
リシアから得も言われぬ色香が漂い始めた。大人の情欲を滲ませた表情は相手の劣情を刺激するもので、唇を舐める仕草はあまりに艶めかしい。そんなリシアの黒眼は神官服に隠れているユリティの首筋をじっと見ていた。
「本格的な食事は駄目ですよ」
指摘され、赤く染まった頬をぷぅっと膨らませる。
「わかってる」
「ほら、むくれていないでこれで我慢なさい」
リシアの目前に血が滲む指が差し出された。たらりと流れる血に黒眼がきらりと光る。同時に白い喉がゴクリと動いた。
リシアは二日に一度、こうしてユリティの血を口にしていた。そのせいか最近では糧であるマルガの血を薄く感じるようになっていた。口にしても満足することもなくなった。
「いい匂い」
うっとりした表情で愛しい人の手をうやうやしく握り、血が滲む指に舌を這わせる。最初は急くように忙しなく、次は味わうようにゆっくりと舌を動かした。何度も何度も舌を這わせる様子はさながら愛撫のようで、最後は丁寧に舌先で舐り肌を清めた。
「ふぅ」
満足げなリシアのため息にユリティが小さく笑う。
「おいしかったですか?」
「うん……とっても」
「それはよかった」
夢見心地になっていたリシアだが、体が異様に熱くなっていることに気がついた。一度気づくとつられたように体が渇き始める。たったいま愛しい人の血を口にしたというのに物足りない。
(違う、そうじゃない)
リシアの両足がモゾモゾと動いた。それでも体の熱をごまかすことはできず段々と息苦しくなっていく。
「これじゃあ足りない」
ドレスから覗く足が爪先立ちになった。ぐんと背を伸ばしながら華奢な両手を持ち上げ、神官服の肩に触れる。そうして抱きつくように首筋に顔を近づけた。
(とってもおいしそうな匂いがする)
鼻腔をくすぐる甘い香りにリシアの喉が鳴った。ますます渇く体に目眩がする。歯が疼き肩を掴む指に力が入る。
「駄目ですよ」
「やだ、ユリティもっと」
「我慢なさい」
「いやだ、もっとほしい」
すがりつくようにリシアが身を寄せた。そのままユリティの足に片足を絡ませるようにし、腰をグイッと押しつける。そうして「もっと」と囁きながら首に両手を回した。
「ユリティ、いい匂い……ユリティ、好き、大好き……」
リシアは抱きつく体から漂う香りに酔っていた。無意識に自分の唇を舐めながら“これは自分のものだ”と体をすり寄せる。なぜそう感じるのか考えることなくさらに体を伸ばし、欲望のままユリティの首筋へと唇を寄せた。
「我慢できない。ユリティ、大好きだから、もっとちょうだい……?」
神官服の上から首筋に歯を立てた。それだけで下腹部が熱くなるのをリシアは感じていた。どうしようもなく疼く下半身をユリティの足に擦りつけながら「ユリティ」と囁く。陶酔したようなリシアの表情は、次の瞬間眉を寄せる顔へと変わった。
「いたっ」
小さな悲鳴とともにパシッと軽い音が響く。ユリティの手がリシアの小振りな尻を打ったのだ。
「嫁入り前の姫君が、はしたない」
「だってっ」
「子どもではないのだから聞き分けなさい」
「……ユリティのばか」
口では馬鹿と言いながら、リシアの両腕はユリティをしっかりと抱きしめていた。細い腕のどこにそんな力があるのかと思うほどの抱擁にユリティが腰を抱きしめ返しながら身を屈める。
「もう少しの辛抱です。それまでは御神託の花嫁として慎ましやかになさい」
耳元でそう囁くユリティの声にリシアの背中がブルッと震えた。それでもリシアは腕の力を緩めようとしない。
「婚姻式は五日後です。それが済めば、あなたは名実ともにわたしの花嫁。それまで我慢できますね?」
「そうだけど……」
「五日など十年に比べればあっという間です。それに、花嫁になれば乾く間もないほど愛してあげますよ」
「……っ」
囁かれた内容にリシアの下腹部がじわりと痺れる。はしたなく勃ち上がった花芯を悟られないように首に回していた手を解いた。
「いい子ですね、リシア」
低い声で名前を呼ばれるだけで頭がとろけそうになった。
「我慢、する」
欲望に忠実に育ったリシアにとって我慢は得意ではない。それでも我慢しようと思ったのは愛しい人の命令というだけでなく、五日後からの日々を想像したからだった。
五日我慢すれば毎日抱き合える。肌を触れ合わせることもできる。熱く火照った体を内側から潤してもらえる。
「毎日愛してくれる?」
「もちろんです」
ユリティの返事にリシアの黒眼がきらりと光った。
(十年も待ったのに)
リシアは花嫁になる日を十年待ち続けた。待って待って、ようやく神聖国メルタバーナまで来たというのに、肝心の婚姻相手であるユリティは神官王の職務が忙しいからと時々しか顔を見せない。部屋に来ても滞在するのはほんのわずかで、期待していた肌の触れ合いは皆無だった。
(辛抱できなくて勝手に部屋まで行ったのは悪かったと思ってるけど)
しかし、そうしてしまうほどリシアはユリティを求めていた。ところがユリティは「はしたない」と言って尻を叩いた。しかも何度もだ。叩かれるたびに痛みよりも「待ちきれなかったのは自分だけだったんだ」と思えて悔しかった。そんなリシアだが、ユリティに差し出された指と血の香りには満足している。
リシアが初めてユリティを見たのは八歳のときだ。それから十年、リシアはユリティの花嫁になることだけを夢見てきた。会えない間も毎日愛しい顔を思い返しては我慢した。我慢して我慢して、ついに我慢できなくなったリシアは十六歳になったある日、母親に花嫁になりたいと訴えた。
「ユリティの花嫁にして!」
リシアが母親にそう訴えたのは、自分の母親にそれだけの力があると知っていたからだ。母親がひと言「ウィンガラードの姫を神官ユリティの花嫁に」と囁くだけで自分は花嫁になれる。
(母様も「いいわよ」って言ってくれたのに)
ところがその後も話はまったく進まなかった。それどころか「もう少し待ちなさい」と言うばかりでリシアの話を聞こうともしない。そのままさらに二年が経った。
業を煮やしたリシアは長兄であるウィンガラード王に訴えた。「わかったよ」と口にした長兄は父王そっくりの笑みを浮かべ、それから数日後、御神託の花嫁に決まったという知らせが届いた。
御神託の花嫁というのは神官王の花嫁のことだ。そのときリシアは初めて愛しい人が神官王になっていたことを知った。
リシアがなかなか花嫁になれなかったのはユリティが神官王になるのを待っていたからだ。同時にリシアの母親はユリティ側から御神託の花嫁を求めてくるのを待っていた。ユリティが自分に頭を垂れることを願っての考えだったが、そうはならなかった。先に痺れを切らしたのはリシアのほうで、愛する若き王に頼まれれば母親も否とは言えない。
(母様が叶えるのはは兄様の言うことばかり)
父王が亡くなってすぐ、リシアの母親は新しい国王となった長兄の妃となった。ただし、このことを知るものは王城にはいない。若き王の妃は王城の奥深くにある部屋から出てくることはなく、部屋の出入りを許されているのは妃にのみ仕える存在だけだからだ。
リシアは母親が自ら望んでそうされていることを知っていた。そして長兄が望んで母親を閉じ込めていることもわかっていた。そんな二人をずっと見てきたリシアは自分もそうされたいと願うようになっていた。もちろん相手はユリティ以外にあり得ない。
(そう考えるくらいユリティのことが好き)
ここまで強く想うようになったきっかけはもう覚えていない。ひと目見た瞬間から“この人だ”とわかっただけだ。この人のそばにいるべきは自分しかあり得ないという強烈な感情は、いまもリシアの中で燃え続けている。
そんなユリティのそばにようやく来ることができた。不満げだったリシアの顔にうっとりとした笑みが広がる。
(ユリティの体、大人の人って感じがして素敵だった)
リシアは神官王の部屋に忍び込んだときのことを思い出していた。抱きついた体は想像していた以上に大きく逞しく、いずれこの体に組み敷かれるのだと想像するだけで体が火照る。初めて口にした血の味わいは素晴らしく、甘い香りに酔いしれ下肢が歓喜に震えた。身も心も喜ばせてくれる相手はすぐそこにいるのに、毎日触れることができないもどかしさに切なくなる。
「……僕だって母様みたいに毎日触れたいのに」
「お母上がどうかしましたか?」
突然の声にリシアがパッと振り返る。ようやく現れた愛しい姿に「ユリティ!」と走り寄って抱きついた。
「そういうことをしてはなりませんよ」
「だって……」
「いまはまだ婚姻式の前、本来なら潔斎すべき期間だということを忘れないように。こうして顔を合わせるのは特例中の特例だと教えたでしょう?」
「……わかってる」
それでも触れたい。抱きしめたい。生まれたときから欲望に従順だったリシアの顔に不満げな色が漂い始める。
「ところで、お母上がどうかされたのですか?」
「なんでもない。元気で過ごしてるでしょ」
「そういえば、お母上のご夫君は若きウィンガラード王でしたね」
「え……?」
驚くリシアに「どうしました?」とユリティが尋ねる。
「だって、そのことは誰も知らないはずなのに」
「わたしは神官王ですよ。この世界で知り得ないことはありません」
美しく微笑む顔にリシアはすぐさまうっとりと見惚れた。
(やっぱり僕のユリティはすごい)
リシアの中にユリティへの強烈な想いが広がった。好きだという言葉では表現しきれない感情が華奢な体をがんじがらめにする。その息苦しささえリシアの体を甘く火照らせた。可憐な少女のごとき顔が妖艶な表情へと変わり、それをじっと見つめるユリティの碧眼が満足げな色を見せる。
「まるであの頃の金竜のようですね。竜の姿でも人の姿でも、こうして熱心にわたしを見つめていたのを思い出します」
「きん……なぁに? 何のこと?」
「いいえ。ところで食事はもう済みましたか?」
ユリティの言葉に白い頬がパッと赤くなった。わずかに視線を逸らすものの、すぐに期待に満ちた黒眼がユリティに向けられる。
「……まだ」
ユリティが言う食事は人としての食事ではない。いつもなら朝一番に侍女マルガの血を口にする。しかし今日は寝坊してしまい、そのままになっていた。期待するようにリシアが艶やかな唇を真っ赤な舌先でちろっと舐めた。
「ほかの人間に手を出していないことは褒めてあげましょう」
「何度も言ってるけど、ほかの男をほしいなんて思わない。……それに、こうして近くにユリティがいるんだし」
リシアから得も言われぬ色香が漂い始めた。大人の情欲を滲ませた表情は相手の劣情を刺激するもので、唇を舐める仕草はあまりに艶めかしい。そんなリシアの黒眼は神官服に隠れているユリティの首筋をじっと見ていた。
「本格的な食事は駄目ですよ」
指摘され、赤く染まった頬をぷぅっと膨らませる。
「わかってる」
「ほら、むくれていないでこれで我慢なさい」
リシアの目前に血が滲む指が差し出された。たらりと流れる血に黒眼がきらりと光る。同時に白い喉がゴクリと動いた。
リシアは二日に一度、こうしてユリティの血を口にしていた。そのせいか最近では糧であるマルガの血を薄く感じるようになっていた。口にしても満足することもなくなった。
「いい匂い」
うっとりした表情で愛しい人の手をうやうやしく握り、血が滲む指に舌を這わせる。最初は急くように忙しなく、次は味わうようにゆっくりと舌を動かした。何度も何度も舌を這わせる様子はさながら愛撫のようで、最後は丁寧に舌先で舐り肌を清めた。
「ふぅ」
満足げなリシアのため息にユリティが小さく笑う。
「おいしかったですか?」
「うん……とっても」
「それはよかった」
夢見心地になっていたリシアだが、体が異様に熱くなっていることに気がついた。一度気づくとつられたように体が渇き始める。たったいま愛しい人の血を口にしたというのに物足りない。
(違う、そうじゃない)
リシアの両足がモゾモゾと動いた。それでも体の熱をごまかすことはできず段々と息苦しくなっていく。
「これじゃあ足りない」
ドレスから覗く足が爪先立ちになった。ぐんと背を伸ばしながら華奢な両手を持ち上げ、神官服の肩に触れる。そうして抱きつくように首筋に顔を近づけた。
(とってもおいしそうな匂いがする)
鼻腔をくすぐる甘い香りにリシアの喉が鳴った。ますます渇く体に目眩がする。歯が疼き肩を掴む指に力が入る。
「駄目ですよ」
「やだ、ユリティもっと」
「我慢なさい」
「いやだ、もっとほしい」
すがりつくようにリシアが身を寄せた。そのままユリティの足に片足を絡ませるようにし、腰をグイッと押しつける。そうして「もっと」と囁きながら首に両手を回した。
「ユリティ、いい匂い……ユリティ、好き、大好き……」
リシアは抱きつく体から漂う香りに酔っていた。無意識に自分の唇を舐めながら“これは自分のものだ”と体をすり寄せる。なぜそう感じるのか考えることなくさらに体を伸ばし、欲望のままユリティの首筋へと唇を寄せた。
「我慢できない。ユリティ、大好きだから、もっとちょうだい……?」
神官服の上から首筋に歯を立てた。それだけで下腹部が熱くなるのをリシアは感じていた。どうしようもなく疼く下半身をユリティの足に擦りつけながら「ユリティ」と囁く。陶酔したようなリシアの表情は、次の瞬間眉を寄せる顔へと変わった。
「いたっ」
小さな悲鳴とともにパシッと軽い音が響く。ユリティの手がリシアの小振りな尻を打ったのだ。
「嫁入り前の姫君が、はしたない」
「だってっ」
「子どもではないのだから聞き分けなさい」
「……ユリティのばか」
口では馬鹿と言いながら、リシアの両腕はユリティをしっかりと抱きしめていた。細い腕のどこにそんな力があるのかと思うほどの抱擁にユリティが腰を抱きしめ返しながら身を屈める。
「もう少しの辛抱です。それまでは御神託の花嫁として慎ましやかになさい」
耳元でそう囁くユリティの声にリシアの背中がブルッと震えた。それでもリシアは腕の力を緩めようとしない。
「婚姻式は五日後です。それが済めば、あなたは名実ともにわたしの花嫁。それまで我慢できますね?」
「そうだけど……」
「五日など十年に比べればあっという間です。それに、花嫁になれば乾く間もないほど愛してあげますよ」
「……っ」
囁かれた内容にリシアの下腹部がじわりと痺れる。はしたなく勃ち上がった花芯を悟られないように首に回していた手を解いた。
「いい子ですね、リシア」
低い声で名前を呼ばれるだけで頭がとろけそうになった。
「我慢、する」
欲望に忠実に育ったリシアにとって我慢は得意ではない。それでも我慢しようと思ったのは愛しい人の命令というだけでなく、五日後からの日々を想像したからだった。
五日我慢すれば毎日抱き合える。肌を触れ合わせることもできる。熱く火照った体を内側から潤してもらえる。
「毎日愛してくれる?」
「もちろんです」
ユリティの返事にリシアの黒眼がきらりと光った。
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