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花のように13・終

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「あぁっ!」
「く……っ。ははっ、クリュス、すごくかわいい」

 そう言ったディニが、自分に跨がっているクリュスの顔を覗き込むように顔を寄せた。体勢は初めてのときと似ているものの、行為に慣れたからか上半身を起こしたままでいる。そのせいでクリュスの性器はディニの逞しい腹に擦られ、薄い種をとろとろと滴らせっぱなしになっていた。

「かわいい、クリュス」

 そう言われるのがなぜか恥ずかしく、思わず俯くと垂れ耳がするりと頬を滑った。それに気づいたディニが先端にカリッと牙を立てる。それだけでクリュスの後孔はぎゅうっと窄まり、これでもかとディニを食い締めた。

「上に乗ってると、すごく奥まで、届くよな」
「んっ、ん、ぁっ、ぁっ」
「それにクリュス、軽いから、ほら……簡単に持ち上げられる」

 細腰を掴んだディニが華奢な体をゆっくりと持ち上げた。すると後孔を押し広げていた肉茎がズルズルと抜け、その感触に尻尾がぶわっと膨らむ。

「顔が真っ赤なのも震えてるのも、全部かわいい。初めてのときはあんまり見ることできなかったけど、きっとかわいかったんだろうな」

「もったいないことした」とつぶやいた腕がぴたりと止まった。中途半端に貫く熱塊に自分の中が絡みつくのがよくわかる。すっかり慣れた感触だというのに、クリュスの肌はぞわりと粟立ち初心な様子を見せた。

「でも、あの笑顔だけはしっかり見えたんだ」

 腰を掴んでいた手がグイッと引き落とすように動いた。同時にディニの腰が突き上げるように動く。再び腹の奥深くを押し上げられたクリュスは、喉をさらけ出しながら「あぁ!」と嬌声を上げた。

「ぁ……ぁ……」
「すごい……甘い匂いがどんどん強くなる……出しても出しても収まらない……」

 体の奥に熱を感じるのは、ディニが種を吐き出しているからだろう。濡らされる感触に震えていたクリュスは、いまさらながら避妊薬を飲んでいないことに気がついた。思い出した途端に注ぎ込まれている種が熱くなったような気がしてくる。

(いつもと、何かが違う)

 数え切れないほど経験してきた行為のはずなのに何もかもが敏感に感じられる。なぜそうなるのかわからず、クリュスは内心戸惑っていた。ただ肌を撫でられただけで尻尾が膨らみ、唇や胸の尖りに吸いつかれただけで垂れ耳が震えるのが不思議で仕方がない。

(こういうことは、もう何度もされてきたことなのに……)

 もっとひどい行為をされたこともある。絶頂しすぎて喉を枯らしたことも、逆に性器を縛られて吐き出せずに気が狂いそうになったこともあった。そんなことをされてもどこか冷静な自分がいた。アフィーテだから感じるのだと諦め、華だからとすべてを受け入れ続けた。
 それなのに、ディニが相手だと思うだけでどこもかしこも敏感になった。ひどいことは一つもされていないのに、感じすぎるのが苦しくて水色の目からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。

「クリュス、つらい?」

 問われて、ふるふると首を横に振った。つらくはない。つらいほどの快感でも、もっと感じたい。そんな貪欲な気持ちがわき上がってくる。

「も……っと、ディニさま、もっと……」

 かろうじてそう答えると、中に収まっていた熱が再び大きく膨らんだ。

「そういうの、かわいくてちょっとずるい」

 喉をさらし、仰け反っていたクリュスを大きな手が優しく抱きしめる。そのままベッドに横たえるように押し倒された。

「んっ!」

 貫く角度が変わったからか、体に甘い痺れが走った。思わず眉を寄せると「かわいい」と笑ったディニが覆い被さるように抱きしめてきた。そのまま少し抜けていた肉茎をずぶぅと深くに突き刺す。

「ぁうっ!」

 上に乗っていたときとは違う角度に尻尾が震えた。思わず目を瞑ると、今度は垂れ耳の付け根をディニがガジガジを甘噛みし始めた。

「ひゃっ! あっ、だめ、だめですっ。耳は、だめ、だからっ」
「知ってる。兎族は耳が弱いんだよな」
「ひん!」

 れろっと舐められ縁を噛まれた。それだけで下腹が震え中の熱を食い締める。

「かわいい……クリュス、俺だけの番。かわいい花嫁……」
「んっ! はっ、は、んぅっ、ぁっ! ぁっ、ぁっ、あぁっ!」

 ズンズンと突かれて背中がしなった。ところが全身をすっぽりと覆われているため、実際には体のどこも動いていない。ぎゅうぎゅうに抱きしめられたまま、太く硬い熱塊でずちゅずちゅと何度も擦り上げられる。
 強すぎる快感と身動きできない苦しさに目を回しながらも、クリュスは必死に逞しい背中を抱きしめた。

「ふぁ!」

 突然、それまでとは明らかに違う感覚が背中を駆け上がった。腹の奥を硬い先端に突き上げるたびに垂れ耳の毛が逆立つ。思わず見開いた目がチカチカと瞬き、掻き混ぜられるような強烈な快楽が脳天を貫いた。
 クリュスは長い髪が乱れるのもかまわず頭を振った。華のときでさえ感じたことがない感覚が恐ろしくて必死に身をよじる。しかし逞しいディニの体にすっぽりと包まれている体では腰をねじることすらできない。
 どこにも逃がせない凄まじい快感に、気がつけば「いく、いく、いく!」と濡れた声で連呼していた。

「たくさん、いって。俺が何度でも、いっぱいいかせてやるから」
「――……!」

 抱き込まれた体がびくんと大きく跳ねた。下腹にぐぐぅっと力が入り、窄まりも搾り取らんとしているかのように肉茎を食い締める。背中に爪を立て、腰に絡みつかせた両足は爪先を丸めた状態でブルブルと震えていた。

「ぐ……ぅっ!」

 ディニの低い声とともに体の奥に再び熱が広がった。後孔が異様に苦しいのはコブが膨らんでいるからだろう。
 しかし、いつもと何かが違う。勢いよく吐き出される種が、どこかへどんどんと流れ込むような奇妙な感覚がした。

(わからないけど……気持ちいい……)

 何もかもが気持ちよかった。華のときとはまったく違う法悦とも呼べる快感に全身が震える。どくどくと注ぎ込まれる種に体中が歓喜の声を上げているような気さえした。

「……やっぱり、いい匂いがする」

 囁かれた声に垂れ耳がふるりと震えた。貫く熱をなおも食い締め、体のさらに奥深くへといざない続ける。そのまま深いところを満たしてほしい、なぜかそう感じたクリュスは、その後も貪欲に種を求め続けた。

 数日後、クリュスは自分が発情していたことを知らされた。行為の後、再び熱を出したクリュスを診たふくろう族の医師が診断したのだから間違いないのだろう。

「わたしが発情……」

 思わず口に出たのは信じられなかったからだ。
 アフィーテは発情しにくい、そう言われてきた。実際、これまで発情したことは一度もなく兆候すらなかった。クリュスは間もなく三十という適齢期を過ぎた年になる。「それなのにまさか発情するなんて」と大いに困惑した。

「好きな人のそばにいるからって思えば?」
「え?」
「だから、俺のそばにいるから発情したってことにすればいいだろってこと」

 ぶっきらぼうな言い方ながらもディニの目元はうっすらと赤くなっている。戸惑っているクリュスのために言った言葉なのだろうが、本人は本当にそう思っているのかもしれない。

(……もしかして、本当にそういうことがあるのかもしれない)

 長の息子とつがったアフィーテに子ができたという話が伝わったのは昨日のことだった。子ができたということは、花嫁になったアフィーテは発情したということだ。

(ということは、わたしももしかして……)

 ふとよぎった考えに驚いた。何もかも諦めてきたはずなのに、最近はあれもこれもと欲深くなっている気がする。「自分はこんなにも強欲だったのか」と恐ろしくなる一方で、ディニに関することには次々と欲がわき上がり続けた。

(もし……もし、わたしに子ができるなら……)

 ディニは喜んでくれるだろうか。それとも驚き慌てふためくだろうか。顔を真っ赤にしながら慌てる姿を想像したクリュスは、気がつけば「ふふ」と口元をほころばせていた。

「やっぱり、クリュスにはそういう笑顔が似合うと思う」
「え?」
華街かがいにいたときの笑顔も綺麗だと思うけど、いまみたいな笑顔のほうが、やっぱり俺は好きだ」

 きょとんとしたクリュスに、オレンジ色の目が優しく微笑みかけた。

「なんかさ、無理してないっていうか、きっといまみたいなのがクリュスなんだろうなって感じがする」

(わたしらしい、ということでしょうか)

 そういえば、華だった頃は自分というものを必死に隠していたような気がする。アフィーテであることも幼い頃の経験も忘れたように振る舞い、ただ華であり続けることばかりを考えていた。そうすることが自分を守る手段だと無意識に感じていたのかもしれない。

「いまみたいな笑顔も、それ以外の顔も、もっと見たいって思ってる。俺の隣でいろんな顔を見せてほしい」

 そう言って笑うディニの顔に胸がざわついた。切ないような、それでいてくすぐったいような甘い気持ちが広がっていく。

(わたしのほうこそ、いろんなディニ様を見たいと思っているんですよ)

 若々しい姿も力強い様子も、この先どんな雄に成長していくのかそばでずっと見ていたい。

(……なるほど、これが好きになるということなのかもしれませんね)

 クリュスの頬が和らいだ。ふわりと浮かぶ笑みは、大輪の花というよりも可憐で優しい野の花を思わせる。その顔を見たディニは、途端に顔を真っ赤にし視線をうろうろとさまよわせた。
 その後、頻繁に可憐な笑みを浮かべるようになったクリュスは、瞬く間に屋敷の者たちを魅了するようになった。そのことに気づいたディニが、顔を真っ赤にしながら「クリュスは俺のだからな!」と叫びキュマたちを大いに笑わせたのだという。
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