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序章 最果てへの旅路
エピローグ - 六王会議
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■クラウンネットワーク/同行者/教皇:エリック
「また一人、異邦から……」
〈同行者〉として英雄王のクラウンネットワークへ接続すると、すでに四人、先に集まっていた。
砂漠国家を治める覇王が、星々が流れ行く大空を見つめ、そう一言つぶやいてから振り返り、他の王たちに問いかける。
「さてみなさん、どうしますか?」
丁寧な物言いの覇王に、魔王が乱雑に下ろしたぼさぼさの前髪から鋭い眼光と強烈な殺気を向けて言葉を返す。
「強き者は儂が奪う、弱き者はくれてやる」
「残念ながら観測地域は貴方が支配する極東とは真逆の方角ですよ」
「……チッ」
覇王にそう言われた魔王は、舌打ちをして目を閉じると、すぐにクラウンネットワークから切断しいなくなった。
「あらまあ、相変わらず恐ろしい方ですね」
あれだけの殺気をぶつけられながら、ケラケラと笑う目の前の男も二つ名は覇王。
私には正直どちらも恐ろしいとしか思えなかった。
むしろわかりやすい魔王よりも、笑顔の裏に本心を隠しているであろう覇王の方が恐ろしい。
「うーん、ワタクシのところからは少しばかり遠いようですけれども……立候補しましょうかしら?」
他のお二方は?
という視線を込めて、女王は長い巻き髪を遊ばせながら残りの三者に目配せする。
「僕のところからもそこそこ遠いみたいですからねえ……?」
視線を受けた覇王はニコニコと笑いながら他二人からの答えを待つ。
どうやら他の意見を参考にして、身請けするかしないかを決めるようだった。
「あら? 珍しいですわね?」
「あなた方三国を敵に回すつもりは毛頭ありませんからね」
「そのような弱腰では、覇王の名がすたりませぬこと?」
「いえいえ、僕の名の意味は皆様のものとは大きく違いますからね。それに強欲は身を滅ぼす、それが家訓として代々伝わっておりますから……ええ、今後とも良き取引を」
笑顔で煙まく覇王。
本心としては強力な戦力になりうる〈異人〉は欲しい。
だが、現れた先が西方に存在する三国に近いのならば譲る腹づもりらしい。
「食えない男ですこと」
女王は覇王の言葉に一言だけ言い返すと会話をやめた。
これ以上話しても何も意味がないと踏んだのだろう。
国家間の摩擦を気にするなんて覇を唱える王らしくもないとも思えるが、彼の治める国の体質的には、それが最も合理的だと判断したのかもしれない。
「魔王さん以外は〈異人〉の位置がなんとなくわかるはずです。女王さんも一応という形で立候補されていますが、大きな魔力が動いた地域は聖王国と帝国の国境沿い。返答がなければこのまま女王さんが優先的に身請けするという形になりますが……?」
「あら、これまで優先的なんて言葉、ワタクシたちにはございませんでしたのに?」
「〈異人〉の数もそれなりに多くなりました。接してみればわかります。彼らは少し違うだけで基本私たちと同じですから、あまり面倒ごとに巻き込んでしまうのもいかがなものかと思いましてね」
「まあ、お口がお上手ですこと」
そんなやりとりをしたのち、覇王は改めて聞く。
「で、どうされますか?」
「余は、くだらぬお喋りに混じる気は無い」
立派な髭を蓄え結ぶ皇帝が口を開いた。
「……僕は先代からもうずっと拗れた貴方達の関係性をどうにか保とうと躍起になっているんですけどね」
「減らず口が。笑顔の裏に凶悪な獣を飼っているのが透けて見えるぞ、覇王よ」
皇帝に言われ、一度閉口した覇王は笑顔をすぐに戻し手を揉む。
「否定はしませんが、これまで通り商売のお付き合いはよろしくお願いしますね」
「こと商売に関しては信頼に値するとだけ、返しておこう」
「はあ……どうもありがとうございます」
「だが、〈異人〉に関してはどこの国も信用に値はせんのだ。これまでの経緯が示しているように、極東の魔王も、東の覇王も、西の女王も南の下品なヒゲも、ここにはおらん龍帝以外は誰も信用できん……さらに到来した〈異人〉が一人であるならば、だ」
本質を貫く皇帝の言葉に、女王と覇王は何も言い返さなかった。
「人数が少なければ少ないほど、〈異人〉の質は良くなる。此度は一人。今まで異邦から来た者の中ではまた異質」
そう、前提としてこの世界に来るために倒すことになる敵の存在を顧みれば、より少なければ少ないほどに、渡ってきた人たちの力は大きく強い。
あくまで、この世界では。
かつて私たちが最初に足を踏み入れ、その存在を示したように、王達と他その価値を重んじる者達の中では、それが一般的になっている。
「龍帝以外はすでに動いているのだろう?」
睨む皇帝に、覇王はただひたすら笑顔のままで黙秘を貫いていた。
「まあよい。余は主らの顔を見にきたのだ。一人でやってきた〈異人〉を前にして、どういう表情をしておるのかをな……だが、覇王の下らんおべんちゃらで興が冷めた。これにて失礼しよう」
皇帝は言うだけ言って消えて行った。
「……まったく、今回も前と同じですね」
皇帝が消えてから、やれやれとため息をつく覇王。
「まあ、それは仕方ないことですのよ? もっともワタクシは商売に関しても貴方を信用してませんけども」
「いやはや、おきついお言葉で……僕と致しましてはもう少しお互いが協力できれば、もっとより良いお付き合いができると思うんですが」
「ならばワタクシのところからもっと買いなさい」
「取引量で言えば僕のところは西にも東にも、それこそ全地域で多くありますから、あまり角が立つ商いはしたくないんですよ。ですから、それなりの理由と言うことで……島一つ、いただけないですか?」
「それは無理ですの……まあ、この場で関係のない話はやめにして、先ほどからずっとだんまりを決め込んでます英雄王は、どう考えてますの? どこの国よりもまだ信用できますわね」
女王は覇王との話をやめにして、私の隣に立つ英雄王に視線を向けた。
私を〈同行者〉として、この場に連れて来てくれているお方だ。
「………………我、然りげ無くバカにされてなかった? 皇帝に」
私はため息をつきながら手で顔を覆った。
仮にも国を一つまとめ上げた英雄で、その王である方がこの場で何を言っているんだ。
「英雄王さん、話聞いてました?」
「王の名が廃れますことよ?」
こればっかりは否定できなかった。
つまり、同意見。
「ビウトリウス……全員からバカにされています」
「それ、エリックも入ってる?」
「はい」
「……立つ瀬がないな、我」
そんな落ち込む英雄王を女王と覇王がフォローする。
「英雄王、しっかりなさい。貴方はあの老獪よりはまだ信用できるタイプの王であるのですわよ?」
「そうです。いつも良き取引をさせていただいてありがとうございます。貴方の髭も立派です」
さっきまでの物々しい空気とは一変する。
まだ女王と覇王は、喧嘩腰で出て行った魔王と皇帝よりも話がわかる人物だ。
皇帝が言っていた通り、腹の内で何を考えているかは私にもわからないが。
そんな二人にフォローされ、「そう?」と機嫌を取り戻した英雄王ビクトリウスは話を戻す。
「そもそも〈異人〉を我らの戦力として考えることがおかしい。そして我の髭の方が綺麗に整えていて美しく、あんなぼさぼさの髭こそ不衛生では無いか?」
「ビクトリウス、私怨がセリフに混ざってますよ」
「でも一言分は返しておかないと」
「それ、皇帝がいる時に言ってください」
「クソ、自然な口調の中にさりげなく我をバカにする言葉を織り交ぜて、言い返す順番が来る前に逃げるとは、皇帝め」
「……話が進まないから続きを言いなさいな」
「すまん」
女王に睨まれて、素直に謝ったビクトリウスは言葉を続ける。
「〈異人〉をどうするか。そんなことを話し合うことがすでにおかしいぞ、覇王」
「はあ……でも一応国家間でのやりとりもございますし、そちらの〈同行者〉さんなんか貴方の国の頂点まで食い込んでるじゃ無いですか?」
笑顔のままで私を見つめる覇王。
視線で身体中を隈なく調べられているような感覚がする。
この視線にはクラウンネットワークに出入りするようになってから今だ慣れない。
皇帝の言った通り、調和を取り持とうとしても覇王は覇王のようだ。
「これは我が独断で決めたことである。思うことがあるなら、権利を半分、分け与えたらいい」
「うーん……〈異人〉はある意味危険な存在ですし、僕も下の者から彼らについて色々と言われていますから、そこまで思い切った決断はできませんね」
「そうですわね。これには覇王の意見に同意ですわ。だから王の品位を疑われるのですことよ? ワタクシから忠告しておきますが英雄王、貴方はもう少し王としての立場を自覚したらどうですの?」
「品位と立場は食えん……さて、話が再びそれてしまったが、それこそ彼らは我らと同じ。取り込み従え、制御するなんてできない。うるさい髭の言う通り、確かに一人でやって来た〈異人〉は、これまでのことを考えればかなり貴重な人材となり得るが、中には言うことを聞かん痴れ者もいる」
「そう言うのは【死地】へぶち込めばいいんですの。それに品位は食べ物ではありませんのよ?」
「まあまあ、落ち着いてください女王さん。英雄王さんの話も理解できるでしょう?」
「むう……そうですわね。ですが、ワタクシがいつ〈異人〉を信頼していないと言いましたこと? 王冠を分けることとはまた別の話ですのよ? で、結局英雄王は何が言いたいんですの?」
「──来る者は拒まんさ」
その言葉で、女王と覇王は、
「相変わらず楽観的ですこと。お国柄かしら?」
「前と一緒ですか……まあ、皇帝さんに足元を掬われないようにお気をつけてください」
呆れ顔でそう告げると、そのままクラウンネットワークから切断した。
残された空間で、ビクトリウスがつぶやく。
「龍帝以外の全員が、今回やってきた一人を取りに行く腹づもりだな」
「……あまり荒事を立てるのはどうかと思いますけどね」
「ハッ、すでに十分荒れているからな。覇王はなんとか調和をなんぞ言っていたが、見たか、クソ髭に見透かされた時のあの顔。まだまだ先代の様に自分の心を謀ることはできないと見た!」
「一切隠そうとしない貴方も貴方ですけど……とりあえず龍帝以外と言っていましたが、動くんですか?」
ビクトリウスは、王達の〈異人〉獲得競争に非を唱えたようにも見えるが、きっと最後のセリフで彼も獲得に動くと他国の王に思われてしまったのだろう。
だから、これ以上の会話は無理だと判断し、女王と覇王はすぐにクラウンネットワークから切断したのだ。
「……どうしようか。確かに皇帝と覇王に取られると面倒だが……かと言ってこっちから無理やり獲得に行くのもなあ……」
「ああ、つまり何にも考えてなかったってことですか」
「あ、うん」
恐ろしく軽いノリに戦慄しかけた。
この世界に国家はたくさんあるが、世界から王として認められ畏怖される者は六人。
その内の四人とこうして合間見えてもこの調子。
いや、逆に考えて王の器なのかもしれない。
それ故に、私たちは彼側についているとも言える。
「それを考えるのがエリックだろう。冠を分けた教皇ともあろうお前が、何を畏まっている。うるさい髭に我がさりげなく罵られた時、ちゃっかり言い返さんか!」
「無理言わないでください、また戦争に発展します」
「来たら対マンでぶん殴りたいのに、奴は滅多に表に出て来んからな……まあいいか、とりあえずエリックはどう考えている?」
「……私は……獲得する方向で動きたいですね」
「ほう」
私の言葉に興味を持ったビクトリウスが、ヒゲを撫でながら聞いてきた。
「お前も我と同じで、〈異人〉獲得にあまり熱心ではないと思っていたが……?」
「ああ、確かに他の人はどうでもいいですけど。今回一人で来たということに引っ掛かりを覚えましてね」
「ふむ……まさか今回来た者を知っているということか?」
「そうです」
この世界へと来る経緯を考えると、一人で来るという事実は他の王が強いと確信してた事実よりも、もっと驚愕なものになる。
向こう側で、あの敵を、一人で討伐したプレイヤー。
これと言った確信を得ていないが、そんなことが可能な奴を一人だけ知っているということだ。
「もったいぶらずに早く言わんか」
「……もしかすれば、古い知り合いの可能性があります」
「ほう」
「そうすれば、動き出した各国の王の意思など関係なく、こちら側についてくれるでしょう」
「それは本当か?」
「ええ」
向こうのゲーム内時間を考えれば、10年は軽く超える付き合い。
私達がこちらへ来てから、早6年。
そう考えると随分と時間がかかったようにも思える。
もっとも、この世界との時間軸の関係性がわからない以上、はっきりとしたことは言えない。
彼はまだ私達のことを覚えてくれているのだろうか……?
「ふむ、いいことを聞いた」
「では早速戻りましょう。多分、彼の一番の友人がすぐに動いてくれるはずです」
頷くビクトリウスと共に、私はクラウンネットワークから切断した。
ユウ……、ついに、この世界へ……。
もし来ていたら、再会を喜ぶべきか、それとも巻き込まれてしまったことを悲しむべきか。
悩みどころですよ、本当に。
「また一人、異邦から……」
〈同行者〉として英雄王のクラウンネットワークへ接続すると、すでに四人、先に集まっていた。
砂漠国家を治める覇王が、星々が流れ行く大空を見つめ、そう一言つぶやいてから振り返り、他の王たちに問いかける。
「さてみなさん、どうしますか?」
丁寧な物言いの覇王に、魔王が乱雑に下ろしたぼさぼさの前髪から鋭い眼光と強烈な殺気を向けて言葉を返す。
「強き者は儂が奪う、弱き者はくれてやる」
「残念ながら観測地域は貴方が支配する極東とは真逆の方角ですよ」
「……チッ」
覇王にそう言われた魔王は、舌打ちをして目を閉じると、すぐにクラウンネットワークから切断しいなくなった。
「あらまあ、相変わらず恐ろしい方ですね」
あれだけの殺気をぶつけられながら、ケラケラと笑う目の前の男も二つ名は覇王。
私には正直どちらも恐ろしいとしか思えなかった。
むしろわかりやすい魔王よりも、笑顔の裏に本心を隠しているであろう覇王の方が恐ろしい。
「うーん、ワタクシのところからは少しばかり遠いようですけれども……立候補しましょうかしら?」
他のお二方は?
という視線を込めて、女王は長い巻き髪を遊ばせながら残りの三者に目配せする。
「僕のところからもそこそこ遠いみたいですからねえ……?」
視線を受けた覇王はニコニコと笑いながら他二人からの答えを待つ。
どうやら他の意見を参考にして、身請けするかしないかを決めるようだった。
「あら? 珍しいですわね?」
「あなた方三国を敵に回すつもりは毛頭ありませんからね」
「そのような弱腰では、覇王の名がすたりませぬこと?」
「いえいえ、僕の名の意味は皆様のものとは大きく違いますからね。それに強欲は身を滅ぼす、それが家訓として代々伝わっておりますから……ええ、今後とも良き取引を」
笑顔で煙まく覇王。
本心としては強力な戦力になりうる〈異人〉は欲しい。
だが、現れた先が西方に存在する三国に近いのならば譲る腹づもりらしい。
「食えない男ですこと」
女王は覇王の言葉に一言だけ言い返すと会話をやめた。
これ以上話しても何も意味がないと踏んだのだろう。
国家間の摩擦を気にするなんて覇を唱える王らしくもないとも思えるが、彼の治める国の体質的には、それが最も合理的だと判断したのかもしれない。
「魔王さん以外は〈異人〉の位置がなんとなくわかるはずです。女王さんも一応という形で立候補されていますが、大きな魔力が動いた地域は聖王国と帝国の国境沿い。返答がなければこのまま女王さんが優先的に身請けするという形になりますが……?」
「あら、これまで優先的なんて言葉、ワタクシたちにはございませんでしたのに?」
「〈異人〉の数もそれなりに多くなりました。接してみればわかります。彼らは少し違うだけで基本私たちと同じですから、あまり面倒ごとに巻き込んでしまうのもいかがなものかと思いましてね」
「まあ、お口がお上手ですこと」
そんなやりとりをしたのち、覇王は改めて聞く。
「で、どうされますか?」
「余は、くだらぬお喋りに混じる気は無い」
立派な髭を蓄え結ぶ皇帝が口を開いた。
「……僕は先代からもうずっと拗れた貴方達の関係性をどうにか保とうと躍起になっているんですけどね」
「減らず口が。笑顔の裏に凶悪な獣を飼っているのが透けて見えるぞ、覇王よ」
皇帝に言われ、一度閉口した覇王は笑顔をすぐに戻し手を揉む。
「否定はしませんが、これまで通り商売のお付き合いはよろしくお願いしますね」
「こと商売に関しては信頼に値するとだけ、返しておこう」
「はあ……どうもありがとうございます」
「だが、〈異人〉に関してはどこの国も信用に値はせんのだ。これまでの経緯が示しているように、極東の魔王も、東の覇王も、西の女王も南の下品なヒゲも、ここにはおらん龍帝以外は誰も信用できん……さらに到来した〈異人〉が一人であるならば、だ」
本質を貫く皇帝の言葉に、女王と覇王は何も言い返さなかった。
「人数が少なければ少ないほど、〈異人〉の質は良くなる。此度は一人。今まで異邦から来た者の中ではまた異質」
そう、前提としてこの世界に来るために倒すことになる敵の存在を顧みれば、より少なければ少ないほどに、渡ってきた人たちの力は大きく強い。
あくまで、この世界では。
かつて私たちが最初に足を踏み入れ、その存在を示したように、王達と他その価値を重んじる者達の中では、それが一般的になっている。
「龍帝以外はすでに動いているのだろう?」
睨む皇帝に、覇王はただひたすら笑顔のままで黙秘を貫いていた。
「まあよい。余は主らの顔を見にきたのだ。一人でやってきた〈異人〉を前にして、どういう表情をしておるのかをな……だが、覇王の下らんおべんちゃらで興が冷めた。これにて失礼しよう」
皇帝は言うだけ言って消えて行った。
「……まったく、今回も前と同じですね」
皇帝が消えてから、やれやれとため息をつく覇王。
「まあ、それは仕方ないことですのよ? もっともワタクシは商売に関しても貴方を信用してませんけども」
「いやはや、おきついお言葉で……僕と致しましてはもう少しお互いが協力できれば、もっとより良いお付き合いができると思うんですが」
「ならばワタクシのところからもっと買いなさい」
「取引量で言えば僕のところは西にも東にも、それこそ全地域で多くありますから、あまり角が立つ商いはしたくないんですよ。ですから、それなりの理由と言うことで……島一つ、いただけないですか?」
「それは無理ですの……まあ、この場で関係のない話はやめにして、先ほどからずっとだんまりを決め込んでます英雄王は、どう考えてますの? どこの国よりもまだ信用できますわね」
女王は覇王との話をやめにして、私の隣に立つ英雄王に視線を向けた。
私を〈同行者〉として、この場に連れて来てくれているお方だ。
「………………我、然りげ無くバカにされてなかった? 皇帝に」
私はため息をつきながら手で顔を覆った。
仮にも国を一つまとめ上げた英雄で、その王である方がこの場で何を言っているんだ。
「英雄王さん、話聞いてました?」
「王の名が廃れますことよ?」
こればっかりは否定できなかった。
つまり、同意見。
「ビウトリウス……全員からバカにされています」
「それ、エリックも入ってる?」
「はい」
「……立つ瀬がないな、我」
そんな落ち込む英雄王を女王と覇王がフォローする。
「英雄王、しっかりなさい。貴方はあの老獪よりはまだ信用できるタイプの王であるのですわよ?」
「そうです。いつも良き取引をさせていただいてありがとうございます。貴方の髭も立派です」
さっきまでの物々しい空気とは一変する。
まだ女王と覇王は、喧嘩腰で出て行った魔王と皇帝よりも話がわかる人物だ。
皇帝が言っていた通り、腹の内で何を考えているかは私にもわからないが。
そんな二人にフォローされ、「そう?」と機嫌を取り戻した英雄王ビクトリウスは話を戻す。
「そもそも〈異人〉を我らの戦力として考えることがおかしい。そして我の髭の方が綺麗に整えていて美しく、あんなぼさぼさの髭こそ不衛生では無いか?」
「ビクトリウス、私怨がセリフに混ざってますよ」
「でも一言分は返しておかないと」
「それ、皇帝がいる時に言ってください」
「クソ、自然な口調の中にさりげなく我をバカにする言葉を織り交ぜて、言い返す順番が来る前に逃げるとは、皇帝め」
「……話が進まないから続きを言いなさいな」
「すまん」
女王に睨まれて、素直に謝ったビクトリウスは言葉を続ける。
「〈異人〉をどうするか。そんなことを話し合うことがすでにおかしいぞ、覇王」
「はあ……でも一応国家間でのやりとりもございますし、そちらの〈同行者〉さんなんか貴方の国の頂点まで食い込んでるじゃ無いですか?」
笑顔のままで私を見つめる覇王。
視線で身体中を隈なく調べられているような感覚がする。
この視線にはクラウンネットワークに出入りするようになってから今だ慣れない。
皇帝の言った通り、調和を取り持とうとしても覇王は覇王のようだ。
「これは我が独断で決めたことである。思うことがあるなら、権利を半分、分け与えたらいい」
「うーん……〈異人〉はある意味危険な存在ですし、僕も下の者から彼らについて色々と言われていますから、そこまで思い切った決断はできませんね」
「そうですわね。これには覇王の意見に同意ですわ。だから王の品位を疑われるのですことよ? ワタクシから忠告しておきますが英雄王、貴方はもう少し王としての立場を自覚したらどうですの?」
「品位と立場は食えん……さて、話が再びそれてしまったが、それこそ彼らは我らと同じ。取り込み従え、制御するなんてできない。うるさい髭の言う通り、確かに一人でやって来た〈異人〉は、これまでのことを考えればかなり貴重な人材となり得るが、中には言うことを聞かん痴れ者もいる」
「そう言うのは【死地】へぶち込めばいいんですの。それに品位は食べ物ではありませんのよ?」
「まあまあ、落ち着いてください女王さん。英雄王さんの話も理解できるでしょう?」
「むう……そうですわね。ですが、ワタクシがいつ〈異人〉を信頼していないと言いましたこと? 王冠を分けることとはまた別の話ですのよ? で、結局英雄王は何が言いたいんですの?」
「──来る者は拒まんさ」
その言葉で、女王と覇王は、
「相変わらず楽観的ですこと。お国柄かしら?」
「前と一緒ですか……まあ、皇帝さんに足元を掬われないようにお気をつけてください」
呆れ顔でそう告げると、そのままクラウンネットワークから切断した。
残された空間で、ビクトリウスがつぶやく。
「龍帝以外の全員が、今回やってきた一人を取りに行く腹づもりだな」
「……あまり荒事を立てるのはどうかと思いますけどね」
「ハッ、すでに十分荒れているからな。覇王はなんとか調和をなんぞ言っていたが、見たか、クソ髭に見透かされた時のあの顔。まだまだ先代の様に自分の心を謀ることはできないと見た!」
「一切隠そうとしない貴方も貴方ですけど……とりあえず龍帝以外と言っていましたが、動くんですか?」
ビクトリウスは、王達の〈異人〉獲得競争に非を唱えたようにも見えるが、きっと最後のセリフで彼も獲得に動くと他国の王に思われてしまったのだろう。
だから、これ以上の会話は無理だと判断し、女王と覇王はすぐにクラウンネットワークから切断したのだ。
「……どうしようか。確かに皇帝と覇王に取られると面倒だが……かと言ってこっちから無理やり獲得に行くのもなあ……」
「ああ、つまり何にも考えてなかったってことですか」
「あ、うん」
恐ろしく軽いノリに戦慄しかけた。
この世界に国家はたくさんあるが、世界から王として認められ畏怖される者は六人。
その内の四人とこうして合間見えてもこの調子。
いや、逆に考えて王の器なのかもしれない。
それ故に、私たちは彼側についているとも言える。
「それを考えるのがエリックだろう。冠を分けた教皇ともあろうお前が、何を畏まっている。うるさい髭に我がさりげなく罵られた時、ちゃっかり言い返さんか!」
「無理言わないでください、また戦争に発展します」
「来たら対マンでぶん殴りたいのに、奴は滅多に表に出て来んからな……まあいいか、とりあえずエリックはどう考えている?」
「……私は……獲得する方向で動きたいですね」
「ほう」
私の言葉に興味を持ったビクトリウスが、ヒゲを撫でながら聞いてきた。
「お前も我と同じで、〈異人〉獲得にあまり熱心ではないと思っていたが……?」
「ああ、確かに他の人はどうでもいいですけど。今回一人で来たということに引っ掛かりを覚えましてね」
「ふむ……まさか今回来た者を知っているということか?」
「そうです」
この世界へと来る経緯を考えると、一人で来るという事実は他の王が強いと確信してた事実よりも、もっと驚愕なものになる。
向こう側で、あの敵を、一人で討伐したプレイヤー。
これと言った確信を得ていないが、そんなことが可能な奴を一人だけ知っているということだ。
「もったいぶらずに早く言わんか」
「……もしかすれば、古い知り合いの可能性があります」
「ほう」
「そうすれば、動き出した各国の王の意思など関係なく、こちら側についてくれるでしょう」
「それは本当か?」
「ええ」
向こうのゲーム内時間を考えれば、10年は軽く超える付き合い。
私達がこちらへ来てから、早6年。
そう考えると随分と時間がかかったようにも思える。
もっとも、この世界との時間軸の関係性がわからない以上、はっきりとしたことは言えない。
彼はまだ私達のことを覚えてくれているのだろうか……?
「ふむ、いいことを聞いた」
「では早速戻りましょう。多分、彼の一番の友人がすぐに動いてくれるはずです」
頷くビクトリウスと共に、私はクラウンネットワークから切断した。
ユウ……、ついに、この世界へ……。
もし来ていたら、再会を喜ぶべきか、それとも巻き込まれてしまったことを悲しむべきか。
悩みどころですよ、本当に。
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