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13ー魚屋さん、とある青年と出会いましたの
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「はあ、はあ……ト、トレイザさん落ち着いてください……はあ、はあ……」
「いやその、もう落ち着きました、大丈夫です。それよりカトレアさんの方が……その……大丈夫ですか?」
「む、無論ですの……」
お金を置いて、トレイザの手を引っ張って、できるだけ店から遠くに向かって走りました。
これにはトレイザを落ち着かせる意味も兼ねていたんですが……。
私はこんなにぜえぜえ息を履いているのに、なんでこのトレイザはケロッとしているんでしょうか?
なんか不公平じゃありませんか……これ。
「でもその……ありがとうございます……」
「へ?」
「あの状況で止めていただけませんでしたら……多分半殺しでは済まなかったと思います……」
やっぱりさっさと店から出てきてよかったですね。
今目立つのは本当にご法度ですから。
それにしても、と思います。
内陸から来た、というだけでなんともぞんざいな扱いを受けたものですわ。
まさか。
この地へ来た内陸の観光者とか、全てにこんなことをしてらっしゃるのでしょうか?
だとしたら……相当まずいことになると思います。
この件は、後でエルトン様に聞いておきましょう。
この地へ来た観光者の数なんか、集計しているのかいないのか謎なのですけどね。
「はあ、はあ……やっと体力が回復してきましたの……」
「一応トランクに水筒があったと思いますが、お水飲まれますか?」
「い、いただきますの……はあ、散々でしたわね……」
人気のない路地の陰で水を飲んで休憩していますと、どこからともなく声がかかりました。
「あんたら、随分としてやられたようだな」
声のした方向に目を向けると、長靴を履いて前掛けを身につけて日焼けした肌と同じように日に焼けて褪せた茶色っぽい髪色の短髪の青年が立っていました。
「……誰ですの?」
「俺はマルタ。しがない魚屋だよ」
「はあ……その魚屋さんがなんですの?」
先ほど店の男にも嫌がらせを受けましたし、やや不信感を持って対応すると、彼は言いました。
「美味い魚を食べさせてやる」
「!」
「カトレアさん食べ物につられてはいけません!」
あらやだ、私ってば思わず立ち上がっていたようですね。
本当に食べ物につられているみたいではしたない。
「それに、いきなりそんなことを言ってくる相手……如何にもってほど怪しいでしょう?」
「そうですわね……」
確かにそうです。
まるであの料理屋での一幕を見ていたかのようなセリフ。
本当に怪しい臭いがしますわね……。
魚の匂いの方がマシです。
「結構ですの」
そう断ると、急に男は頭を下げた。
「いや、すまん! そういう意味じゃないんだって!」
「…………なんですのいきなり」
「あの連中、内陸から来た観光客とか移住者とかにしょっちゅう嫌がらせしてる連中でさ。街のみんなもまたあいつらかっていつも呆れてるんだよ」
「そうでしたのね」
この土地の領主と領民のいざこざを聞いていた私は、その説明で腑に落ちました。
聞けばエルトン様の前任たちは衝突、もしくは何もしないなんてことをしていたようですし。
アレルギーじみた反応を見せるのも仕方ないですわね。
「まあ、多少頭には来ますけど……そういう訳でしたらもう別にいいですのよ。ことを荒げるつもりもありませんし」
「なんかあんた……見た目に反してかなり大人びてるな……」
内情を知ってるだけですわね。
多分何も知らなかったら烈火のごとく怒っていますの。
もっとも立場を明かした状態だったら疎まれつつもそんな対応にはならなかったと思います。
ですが、それではダメですの。
同じ目線に立つ、中身を知ることにはつながりませんし。
あと、そういえば私の方からの自己紹介が遅れてましたね。
「あんたではなく、カトレアですの」
「ああ……名前か。わりぃ」
そう言いながらぽりぽりと後ろ髪を掻いて、マルタは言葉を続けます。
「街の連中がやったことに対して、食い物で許してくれってわけじゃないよ。単純に、魚は臭くてまずいもんだって思われたまま帰っちまうと、ますますこの街に活気がなくなるし、俺もそんな色眼鏡で魚を見て欲しくないんだ。だからイメージを払拭してもらおうと思って、呼び止めたんだよ」
「……それでもいきなり美味い魚を食べさせてやるといきなり言うのはちょっとアレですわね……」
「いやあ、丁寧な会話が苦手なもんでな……」
後ろでトレイザが「思いっきり釣られてましたけどね……」と呟いたのが聞こえました。
ちょっとトレイザ、そういうのは心の中で言いなさい。
確かに釣られてしまいましたけど!
「そういうわけでしたら、ぜひ新鮮な魚が食べられるところへ案内して欲しいですの! 昼食を逃して私とトレイザはお腹ペコペコですし」
「おう! だったらとっておきの場所を紹介してやるよ!」
「わ、私は魚はもう……」
あの匂いを思い出して再び顔を真っ青にするトレイザ。
「まあまあトレイザさん、魚を専門で扱ってるお店のことでしょう? ならば信用に値しますの!」
「いやその、もう落ち着きました、大丈夫です。それよりカトレアさんの方が……その……大丈夫ですか?」
「む、無論ですの……」
お金を置いて、トレイザの手を引っ張って、できるだけ店から遠くに向かって走りました。
これにはトレイザを落ち着かせる意味も兼ねていたんですが……。
私はこんなにぜえぜえ息を履いているのに、なんでこのトレイザはケロッとしているんでしょうか?
なんか不公平じゃありませんか……これ。
「でもその……ありがとうございます……」
「へ?」
「あの状況で止めていただけませんでしたら……多分半殺しでは済まなかったと思います……」
やっぱりさっさと店から出てきてよかったですね。
今目立つのは本当にご法度ですから。
それにしても、と思います。
内陸から来た、というだけでなんともぞんざいな扱いを受けたものですわ。
まさか。
この地へ来た内陸の観光者とか、全てにこんなことをしてらっしゃるのでしょうか?
だとしたら……相当まずいことになると思います。
この件は、後でエルトン様に聞いておきましょう。
この地へ来た観光者の数なんか、集計しているのかいないのか謎なのですけどね。
「はあ、はあ……やっと体力が回復してきましたの……」
「一応トランクに水筒があったと思いますが、お水飲まれますか?」
「い、いただきますの……はあ、散々でしたわね……」
人気のない路地の陰で水を飲んで休憩していますと、どこからともなく声がかかりました。
「あんたら、随分としてやられたようだな」
声のした方向に目を向けると、長靴を履いて前掛けを身につけて日焼けした肌と同じように日に焼けて褪せた茶色っぽい髪色の短髪の青年が立っていました。
「……誰ですの?」
「俺はマルタ。しがない魚屋だよ」
「はあ……その魚屋さんがなんですの?」
先ほど店の男にも嫌がらせを受けましたし、やや不信感を持って対応すると、彼は言いました。
「美味い魚を食べさせてやる」
「!」
「カトレアさん食べ物につられてはいけません!」
あらやだ、私ってば思わず立ち上がっていたようですね。
本当に食べ物につられているみたいではしたない。
「それに、いきなりそんなことを言ってくる相手……如何にもってほど怪しいでしょう?」
「そうですわね……」
確かにそうです。
まるであの料理屋での一幕を見ていたかのようなセリフ。
本当に怪しい臭いがしますわね……。
魚の匂いの方がマシです。
「結構ですの」
そう断ると、急に男は頭を下げた。
「いや、すまん! そういう意味じゃないんだって!」
「…………なんですのいきなり」
「あの連中、内陸から来た観光客とか移住者とかにしょっちゅう嫌がらせしてる連中でさ。街のみんなもまたあいつらかっていつも呆れてるんだよ」
「そうでしたのね」
この土地の領主と領民のいざこざを聞いていた私は、その説明で腑に落ちました。
聞けばエルトン様の前任たちは衝突、もしくは何もしないなんてことをしていたようですし。
アレルギーじみた反応を見せるのも仕方ないですわね。
「まあ、多少頭には来ますけど……そういう訳でしたらもう別にいいですのよ。ことを荒げるつもりもありませんし」
「なんかあんた……見た目に反してかなり大人びてるな……」
内情を知ってるだけですわね。
多分何も知らなかったら烈火のごとく怒っていますの。
もっとも立場を明かした状態だったら疎まれつつもそんな対応にはならなかったと思います。
ですが、それではダメですの。
同じ目線に立つ、中身を知ることにはつながりませんし。
あと、そういえば私の方からの自己紹介が遅れてましたね。
「あんたではなく、カトレアですの」
「ああ……名前か。わりぃ」
そう言いながらぽりぽりと後ろ髪を掻いて、マルタは言葉を続けます。
「街の連中がやったことに対して、食い物で許してくれってわけじゃないよ。単純に、魚は臭くてまずいもんだって思われたまま帰っちまうと、ますますこの街に活気がなくなるし、俺もそんな色眼鏡で魚を見て欲しくないんだ。だからイメージを払拭してもらおうと思って、呼び止めたんだよ」
「……それでもいきなり美味い魚を食べさせてやるといきなり言うのはちょっとアレですわね……」
「いやあ、丁寧な会話が苦手なもんでな……」
後ろでトレイザが「思いっきり釣られてましたけどね……」と呟いたのが聞こえました。
ちょっとトレイザ、そういうのは心の中で言いなさい。
確かに釣られてしまいましたけど!
「そういうわけでしたら、ぜひ新鮮な魚が食べられるところへ案内して欲しいですの! 昼食を逃して私とトレイザはお腹ペコペコですし」
「おう! だったらとっておきの場所を紹介してやるよ!」
「わ、私は魚はもう……」
あの匂いを思い出して再び顔を真っ青にするトレイザ。
「まあまあトレイザさん、魚を専門で扱ってるお店のことでしょう? ならば信用に値しますの!」
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