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12ー海鮮実食、とても新鮮ではございませんの……
しおりを挟む私とトレイザは店へと入ります。
外の看板と比べて、店の中はこじんまりとはしていましたが、なかなか綺麗にされていました。
これにはトレイザも「ふう」と息をつきます。
でも私は見ていましたよ。
自分の椅子やテーブルをさらりを手で触ってぬるぬるしていないか確かめましたわね?
やっぱり潔癖症なんですの。
そんなトレイザは放っておいて、メニューを見ます。
メニューにはオーソドックスな料理が連なっていました。
立場上、あまり食べたことのない料理も多く。
興味を惹かれますが、今は魚料理です。
魚料理の口なのです。
「ええと、さかなさかな……」
ブツブツ呟きながらメニューを読んでいると、ごつい体をした店員さんが水を持って来てくれました。
ドンッと水の入った木製のコップを目の前に置かれます。
「ありがとうございますの」
「ご注文は」
「えっと……」
いきなりご注文はと言われましてもね……。
まだメニューすら完全に読みきってないのですが……。
正面でトレイザが、無礼者と今すぐにでも殴りかかりそうなくらいの目をしていますが、なんとか私も首を振って押さえます。
面倒ごとはダメですのよ。
私は目上以外の大抵の方から敬語を受けてきましたが、一般的な生活だと敬語なんかあまりないと聞きます。
この辺境の街ならコミュニティも狭そうですし、大体こういう感じなのかもしれません。
「チッ……決まったら呼びな」
今、舌打ちされました?
私の勘違いだといいのですが……。
「私、あまり魚料理に詳しくありませんので、この店でオススメの魚料理を出していただけませんか?」
とりあえずまた呼ぶのもはばかられますので、手っ取り早くこう尋ねますと、
「……あんた、どこの人だ?」
と、店の人は言いました。
ここは素直に答えておきましょう。
「内陸から来ましたの。旅行ですわ」
「へえ……そりゃご苦労なこった。なら取って置きのを出してやるよ」
「おお、よろしくお願いします!」
トレイザも同じものを注文して、そのまま店の人は奥へと向かっていきました。
態度的に、この店の主人でしょうか?
流石にこの対応には色々と疑問が残ったわけなのですが、まあいいでしょう。
今は目の前のトレイザをなだめることに注力しなくてはいけませんし。
「トレイザさん、どうどう」
「おじょ……じゃない、私一人で来ていたら殴っていました……」
「それだけは絶対NGですのよ?」
「わかっています……」
いい意味で捉えれば頑固店主というものなのでしょう。
職人気質な人に多いと聞きますし、そういう人は総じてスキルが高いのも鉄則ですわね。
なので、あの方の言う“取って置き”に期待するとします。
取って置きとはなんなのでしょうか。
と、とんでもない料理が出てくるのでしょうか?
それもそれで……是非食べてみたいですわっ!
◆
「お待ちどう」
少しだけ時間をおいて、店主が料理を運んで来ました。
それを見た私とトレイザは少し固まってしまいます。
「…………その……これは?」
出されたものは、棒状の干からびた何かでした。
辛うじて魚なんだろうなって言うのがわかりますが、全くもって料理とは言えません。
しかもなかなかに強烈な匂いを放っていて、トレイザの顔が青くなっています。
うーん意外ですわね、これが取って置きだなんて……。
「これが……取って置きですの?」
「そうだ! 取って置きの自作干しタラさ!」
「干しタラ?」
で、あるならば。
干からびているのも納得ですね。
干物よりも新鮮なものが食べたかったのですがね。
自家製だと言うことで目をつぶります。
それにタラというのがこの魚の名前なのでしょうか?
聞いたことがないので、是非とも味わって見なければ。
ですが……。
「ど、どうやって食べるのですか……?」
「なーにそのままかぶりつけ!」
「え!?」
かぶりつくのですか!?
こん強烈な匂いのする、干物に?
そもそも、歯が立つのかどうかが問題です。
ど、どうしましょう。
店主はほら食べてみろと言わんばかりに見つめて来ます。
外側は干からびていても、中身は柔らかいのかもしれません。
無理に付き合わせたトレイザに、味見をさせるわけにもいきませんので……。
「で、では!」
私はその干しタラとやらにかぶりついてみました。
その瞬間、歯と顎にすごい痛みを感じました。
「痛っ!!!!!!」
さらに、私の様子を見ていた他のお客さんたちが何やら笑い始めました。
「おいおい! 本当にそのまま食べやがったぜ!」
「さすが内陸から来た女だなおい!」
「え? え? ど、どういうことですの……?」
疑問を感じてキョロキョロしていると、店主が言います。
「なんでもねえよ。で、どうだ? 味は?」
「どうにもこうにも、食べれませんので味がわかりませんの」
「ばーか、噛むんじゃなくて、しゃぶるんだよ!!」
そう言ったところで、トレイザが我慢できずにテーブルを叩きつけながら立ち上がりました。
「貴様ら! 舐めてるのか!!」
店主は特にビビらず言い返します。
「俺らが舐めるんじゃなくて、お前らがそれを舐めるんだよ!」
「そういう意味じゃない!」
「い、いけませんのトレイザさん!」
トレイザの様子は本気でキレている時の表情でした。
魔物を相手にした時も、魔術を使っていた私とは打って変わって、彼女は近接戦闘で全て叩き潰していました。
ただのメイドだと思っていたのにです。
まさか私でも勝てるかわからない、どっこいどっこいの腕前だなんて知らなかったので、かなり驚きました。
そんなトレイザが本気で殴り合いをしたら、いくら屈強そうで海の男そうなこの店主でも一撃で終わるでしょう。
しかも、このトレイザは手加減なしの本気で殴りつけそうです。
テーブルが壊れなくてよかったですわ……じゃないです!
流石に大問題を起こしてしまうと後に響きます!
「なんだあ女? まさか俺とやろうってのか?」
そうとも知らずに店主はトレイザを煽ります。
トレイザからブチッととんでもない音が聞こえたところで、私は彼女の腕を掴んで店の外に出ることにしました。
「お代は少し多めにしてここにおておきますので! 失礼しますわ!」
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