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「その、言い難いんだが、婚約解消をしたいんだ」
目の前に座る男性は、真剣な面持ちで言葉を濁しながらも、婚約解消、だけは淀むこともなく口にした。
急に喫茶店に呼び出されたが、何となく分かっていたことだ。
「構わないわ」
婚約解消を告げられた女性は、カップを持ち1口お茶を飲んだ。
こちらは、全く淀むことなくはっきりと答え、飲み終わると真っ直ぐに男性を見た。
不安一杯の表情の男性に、軽く微笑むと、男性は一気に緊張感をほぐした。
「すまないと思っているが、お互い親が決めた婚約だっただろ?好きでもない相手とどうなるのか、と不安だっただろ?俺もそうなんだ。だが、つい最近運命の女性に出会ったんだ。一目見て、心が騒がしく動いて目が離せなかった。きっと君にもそういう人に出会えるよ」
早口で勝手に言いたい事だけ言う、まだ、婚約者に女性はただ張り付いた微笑みを向けるだけだった。
リーヤとハンズはそれぞれで伯爵という爵位の貴族の家で生まれた。
2人とも嫡男、嫡女で無かった為周りも結婚に対して煩く言わなかったが、さすがにリーヤが22歳をこえると少しずつ周りが動き出した。
そうして、ハンズが浮上した。歳も近く、25歳で、家の事業も関係があり、詰まるところ、丁度いい、という所だった。
「リーヤはあまり社交的では無いからさ、もっと外に出た方がいいと思うよ。リーヤは綺麗だからきっと色んな男性が話しかけてくれるさ。俺がそうだろ?色んな女性が声をかけてくれるから、その中で伴侶を見つけるのは中々難しいと思っていたから婚約したけど、いやぁ、そうじゃなかった。直ぐにわかったよ。彼女がそうだったんだ」
「それは本当に良かったわね。中々運命の相手、と巡り会うのは難しいと聞くもの」
「その通りだ!俺は本当に運がいいんだ」
頬を紅潮させ、婚約者ハンズは、婚約者リーヤに次々とその運命の相手のやらの出会いを事細かく話し出した。
その間に幾度も目線を何処かに移し、その度に目を細めていた。
視線の先にいたのは、可愛らしい女性だった。
桃色のふわふわした髪に、大きな赤い瞳に、丸顔の守りたくなるような女性が不安そうにこちらを見ていた。
リーヤと目が合ったが逸らさず、真っ直ぐに見つめ返してきた。
「ハンズ、素敵な話しをありがとう。そんな素晴らしい女性にあえて良かったわね。私の事をそんなに気にしなくてもいいから、大丈夫よ。ちゃんとお父様には問題なく婚約解消を言うから。あそこで待っている方は、ハンズの知り合い?」
矢継ぎ早に話をしてくるハンズに流石にうんざりとしながら、リーヤは優しく促した。
「あ、わかっちゃった?本当に婚約解消が出来るのか不安でついてきたんだ。可愛いだろ、ミラーと言うんだ。男爵であまり裕福では無いけれど、これからは問題ない。勿論、婚約する時には、リーヤも招待するよ」
「ありがとう。楽しみにしているわ」
「いやあ、良かった。婚約に関しては王宮の許可が必要だから勝手には出来ないからさ、リーヤが嫌がったらどうしようかと不安だったよ」
「そうね」
「俺達は初めから間違った婚約をしたんだから破棄すべきなんだ。無駄な時間を過ごしてしまったし、運命以外の女性と婚約した、という汚点まで作ってしまった」
恋は盲目、とはよく言ったものだ。どれだけ己に酔い、相手の事を顧みず失礼な言葉を投げているのか全く気付いていない。
「ハンズ、その女性のことをとても想っているのは分かったわ。それなら、落ち着くまではその女性の事を知られてはまずいわよね?」
「そんな事は言われなくてもわかってる。彼女から言われている。君と婚約していたという汚点は消えない。だからといって婚約解消して直ぐに婚約したら、彼女が悪く言われるからな」
「そうね。ハンズの気持ちとは違って、周りは面白可笑しく噂するわ。私は円満に婚約解消した、と説明するから大丈夫よ」
「頼むよ。余計な事を言わないでくれ。俺達の邪魔しないでくれよ」
「勿論よ。応援しているし、邪魔はしないわ。さあ、もう行ってあげて。とても不安そうにこちらを見ているもの。あ、でも、あまり仲良くしては駄目よ。変な誤解をされたら彼女が困るわ」
「分かってるよ。じゃあさよなら」
「ええ、さよなら」
(永遠にね)
首を軽く傾げながらリーヤは微笑んだ。
その姿を見て満足そうな顔でハンズは立ち上がり、自分を待つ女性の席に歩いて行った。
目の前に座る男性は、真剣な面持ちで言葉を濁しながらも、婚約解消、だけは淀むこともなく口にした。
急に喫茶店に呼び出されたが、何となく分かっていたことだ。
「構わないわ」
婚約解消を告げられた女性は、カップを持ち1口お茶を飲んだ。
こちらは、全く淀むことなくはっきりと答え、飲み終わると真っ直ぐに男性を見た。
不安一杯の表情の男性に、軽く微笑むと、男性は一気に緊張感をほぐした。
「すまないと思っているが、お互い親が決めた婚約だっただろ?好きでもない相手とどうなるのか、と不安だっただろ?俺もそうなんだ。だが、つい最近運命の女性に出会ったんだ。一目見て、心が騒がしく動いて目が離せなかった。きっと君にもそういう人に出会えるよ」
早口で勝手に言いたい事だけ言う、まだ、婚約者に女性はただ張り付いた微笑みを向けるだけだった。
リーヤとハンズはそれぞれで伯爵という爵位の貴族の家で生まれた。
2人とも嫡男、嫡女で無かった為周りも結婚に対して煩く言わなかったが、さすがにリーヤが22歳をこえると少しずつ周りが動き出した。
そうして、ハンズが浮上した。歳も近く、25歳で、家の事業も関係があり、詰まるところ、丁度いい、という所だった。
「リーヤはあまり社交的では無いからさ、もっと外に出た方がいいと思うよ。リーヤは綺麗だからきっと色んな男性が話しかけてくれるさ。俺がそうだろ?色んな女性が声をかけてくれるから、その中で伴侶を見つけるのは中々難しいと思っていたから婚約したけど、いやぁ、そうじゃなかった。直ぐにわかったよ。彼女がそうだったんだ」
「それは本当に良かったわね。中々運命の相手、と巡り会うのは難しいと聞くもの」
「その通りだ!俺は本当に運がいいんだ」
頬を紅潮させ、婚約者ハンズは、婚約者リーヤに次々とその運命の相手のやらの出会いを事細かく話し出した。
その間に幾度も目線を何処かに移し、その度に目を細めていた。
視線の先にいたのは、可愛らしい女性だった。
桃色のふわふわした髪に、大きな赤い瞳に、丸顔の守りたくなるような女性が不安そうにこちらを見ていた。
リーヤと目が合ったが逸らさず、真っ直ぐに見つめ返してきた。
「ハンズ、素敵な話しをありがとう。そんな素晴らしい女性にあえて良かったわね。私の事をそんなに気にしなくてもいいから、大丈夫よ。ちゃんとお父様には問題なく婚約解消を言うから。あそこで待っている方は、ハンズの知り合い?」
矢継ぎ早に話をしてくるハンズに流石にうんざりとしながら、リーヤは優しく促した。
「あ、わかっちゃった?本当に婚約解消が出来るのか不安でついてきたんだ。可愛いだろ、ミラーと言うんだ。男爵であまり裕福では無いけれど、これからは問題ない。勿論、婚約する時には、リーヤも招待するよ」
「ありがとう。楽しみにしているわ」
「いやあ、良かった。婚約に関しては王宮の許可が必要だから勝手には出来ないからさ、リーヤが嫌がったらどうしようかと不安だったよ」
「そうね」
「俺達は初めから間違った婚約をしたんだから破棄すべきなんだ。無駄な時間を過ごしてしまったし、運命以外の女性と婚約した、という汚点まで作ってしまった」
恋は盲目、とはよく言ったものだ。どれだけ己に酔い、相手の事を顧みず失礼な言葉を投げているのか全く気付いていない。
「ハンズ、その女性のことをとても想っているのは分かったわ。それなら、落ち着くまではその女性の事を知られてはまずいわよね?」
「そんな事は言われなくてもわかってる。彼女から言われている。君と婚約していたという汚点は消えない。だからといって婚約解消して直ぐに婚約したら、彼女が悪く言われるからな」
「そうね。ハンズの気持ちとは違って、周りは面白可笑しく噂するわ。私は円満に婚約解消した、と説明するから大丈夫よ」
「頼むよ。余計な事を言わないでくれ。俺達の邪魔しないでくれよ」
「勿論よ。応援しているし、邪魔はしないわ。さあ、もう行ってあげて。とても不安そうにこちらを見ているもの。あ、でも、あまり仲良くしては駄目よ。変な誤解をされたら彼女が困るわ」
「分かってるよ。じゃあさよなら」
「ええ、さよなら」
(永遠にね)
首を軽く傾げながらリーヤは微笑んだ。
その姿を見て満足そうな顔でハンズは立ち上がり、自分を待つ女性の席に歩いて行った。
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