上 下
5 / 105
第1部

5

しおりを挟む
「何故そうなったんだ?」
セインお兄様が首を傾げながら、お皿に載っている魚を切り口に入れた。
「さあ?私が聞きたいのだけれど」
私は添えてあるレタスを口に入れた。
「ふうん。来月からこの屋敷で過ごす予定になってるからじゃないか?」
「やっぱりね、それしか考えられないよね」
お2人は留学の1年、王宮と公爵家で過ごす事になっている。単純に4で割るから、3ヶ月ずつ過ごし、最後の3ヶ月は王宮で過ごす事になっている。
要はその国の権力を持つ家とより繋がりを持つ為だ。
王宮だけではなく、政治的も考え公爵家と親密になるのは、国にとっても、帝国にとっても便利だ。
それが来月からこの屋敷で過ごす順番になっている。
「違いますよ。純粋にビビと仲良くなりたいんです!やっぱりお嬢様はビビに似ているんですよ!じゃあ明日はビビが着ている服で登校しましょう!!」
だから、私はビビじゃないってば。
「売ってないでしょ?」
すかさずスルーしようと答えたら、
「作ってます!」
エッヘン、とクルリが得意顔を見せたかと思ったら食堂から脱兎のごとく出ていった。
「・・・マジか・・・?」
「・・・うそ・・・?」
夕食時にお兄様と今日の事を話しをしていたら、この流れになった。
お父様とお母様は夜会に招待されお2人で出掛けていた。
「ミネアも持っていたが、そんなに面白いのか?そう言えばお前が誰かに似てる、とか言ってたな」
ミネア様は、グラバル伯爵家のご息女だ。
お兄様は20歳でミネア様は1つ年上。
一緒の大学に通っていてこのままいけば婚約するだろう、という仲である。高等部から知り合ったが、とても可愛らしく大人しい方だ。
「ミネア様も読んでいるの?ちょっと意外だな」
「どんなに内容なんだ?」
「推理小説なんだけど、主人公のリオン、という18歳の女性がとても活発に事件を解決していく話しなの。女性とは思えない行動派で、たまに殴り合いとかするの。私は少し過激じゃない、と思うのだけど、そこが人気があるみたいね」
「へえ、それでか。ミネアがこんな女性に少し憧れるの、とか言っていた」
「そう?少し荒唐無稽過ぎるわ。まあ、作り話だから、人それぞれの好みがあるだろうけど、私は、ちょっと気持ちが理解出来ないわ」 
「お前は殿下の婚約者だから、それでいいと思うよ。兄から見ても立派だと思っている」
「恐れ入ります、お兄様」
優しく微笑むお兄様の目が、労りを感じた。
もう、この家で誰も殿下と私のレインの仲を言わなくなった。
いや、諦めた、といった方が正しいな。
私がどれだけ忠告しているか分かっているし、結局、陛下も王妃様を、強くは言わない。
殿下の乳母であり、そうして、王妃様は私との婚約を心から祝福してはいない。
あの方の実家である伯爵家の権力が薄れるのを恐れているのは分かっている。だから、レインが都合がいいのだ。
殿下の寵愛を受けた平民。
背後から上手く操り、側室として上がらせ、その子を王位につかせる。
つまり、殿下と私との間には男子が存在しない。
ゾッとする話だが、よくある権力闘争の基本の1つだ。
陛下にしてみれば、ヴェンツェル公爵家の後ろ盾はあり、どちらが男子を産んでも直系の血は残る。
王妃様の機嫌を考えるなら、私の事よりも、レインを取るだろう。
実際陛下の側室が子を産んだ時点で、殺そうとした所をお父様達が、どうにか国外に逃がしたのだ。
そんな自己中心的で権力を握りたい王妃様に、陛下は、下手に逆らわない。
私は、只の、お飾りであればいいのだ。
笑わせる話しだわ。
そこまで分かっているのだから、私が強く婚約破棄をお父様に申し出ればいいのだけれど、
私は、
殿下を愛している。
この想いがあるだけに、私は殿下の側を離れたくなかった。
そうしてこの想いを家族は公爵様達は知っている。
だからこそ、私の意思に任されていた。
「スティング様!おまたせしました、これです!!」
感傷的になる私とお兄様の重い空気の中、ばばん、と扉を開けクルリが嬉々とした顔で持ってきた服を広げて見せた。
「嫌よ!そんな服!!」
喚く私と、
「面白いな!着替えてこいよ!」
大笑いするお兄様と、
「でしょう!早くお嬢様!!」
クルリの声に、
「だから嫌よ!そんな大きなリボン、恥ずかしいわよ!!」
食堂はそれから大騒ぎになった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

たとえ番でないとしても

豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」 「違います!」 私は叫ばずにはいられませんでした。 「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」 ──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。 ※1/4、短編→長編に変更しました。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

浮気くらいで騒ぐなとおっしゃるなら、そのとおり従ってあげましょう。

Hibah
恋愛
私の夫エルキュールは、王位継承権がある王子ではないものの、その勇敢さと知性で知られた高貴な男性でした。貴族社会では珍しいことに、私たちは婚約の段階で互いに恋に落ち、幸せな結婚生活へと進みました。しかし、ある日を境に、夫は私以外の女性を部屋に連れ込むようになります。そして「男なら誰でもやっている」と、浮気を肯定し、開き直ってしまいます。私は夫のその態度に心から苦しみました。夫を愛していないわけではなく、愛し続けているからこそ、辛いのです。しかし、夫は変わってしまいました。もうどうしようもないので、私も変わることにします。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

処理中です...