41 / 76
Chapter02 色付く世界
Dream 040
しおりを挟む
残りのモンスターは7体。
バルカンが行うという範囲攻撃に当たらないため、再び戦闘の中心部から外へと駆ける私。
そんな逃げる様子の私をモンスターたちが見逃すわけもなく、斧を振り回すゴブリンや槍を手にするスケルトンたちは一斉にこちらを凝視して追ってくる。
どうやら『技巧の道標』はかなりヘイト値が高いスキルだったらしく、バルカンに向いていたモンスターの照準が全て私に向いてしまったようだ。
だけど、私はバルカンを信じている。
バルカンの職業であるウォーリアーの説明には、敵を引き寄せて盾になりつつ、敵を一網打尽にするのが得意だと書いていた。
つまり、バルカンが言ったとおりヘイト値を上げる専用のスキルがあるということ。
私はモンスターに背を向けながら逃げる。私の背をスケルトンの槍が貫こうとしているのもお構い無しだ。
そして──宣言通りバルカンはヘイトを集めるスキルを使ってくれたようで、モンスターの大半はバルカンの方を向いた。
ただ一体、ゴブリンの一体だけは私に対する殺意の矛を収めてはくれなかったらしい。
そのよく見れば不気味で歪な顔をこれでもかと歪ませて、私の命を刈り取ろうと手に持つ斧を天高く掲げている。
私はこのゲームが始まってからバルカンに出会うまでずっと一人でレベル上げをし続けた。こんな、一対一の状況で取り乱すほど弱い存在じゃない。
ゴブリンが振り下ろした斧を錫杖の柄で受け止め、弾き返す。
そしてすぐさま土弾を形成し──放つ。
土弾で弾かれたゴブリンの小さな体は数メートル後方まで飛ばされ、そのままバルカンの攻撃範囲へと飛び込んでいき──餌食となった。
バルカンは大技を放つ。
初めて見るタイプの攻撃アクティブスキルだったが、それは圧巻の動きをしていた。
私のSTRじゃ到底持ち上げることも難しそうな大剣を軽々しく持ち上げ、振り回す。ただ振り回すという表現は正しくないのかもしれない。それはもはや舞踏のようだった。格好良い、というよりは美しいと言った方がいいのかもしれない。
それほどまでにバルカンが放った3連撃のスキルは芸術的で素晴らしかった。
バルカンを囲んでいた6体のモンスターは同時に最大だったHPゲージを全損させ、ポリゴンの塵となって空中に霧散する。
私は殆ど何もしていないに等しかったが、挑戦はクリア判定となったようだった。
ああ、そういうことか。
私はバルカンが私にATKが上昇するバフを求めた理由を悟る。
丁度、ピッタリだった。バルカンの出したダメージと、モンスターたちのHPは。
バルカンが放った3連撃はおそらくMP全てを消費するほどの大技で、しかも現に今も硬直して動けていないほどの代償がある。
つまり今もモンスターのHPが少しでも残っていようものならバルカンは硬直時間でタコ殴りになっていたはずなのだ。
それを考慮して、バルカンは調整したのだ。
3連撃でモンスターのHP全てを持っていけるようなATKまで。
もしも私がATKを上げるスキルを使っていなかったらバルカンはあの3連撃でモンスターのHPを完全に削り取ることはできず、硬直時間でやられていただろう。
それにしても、少し戦闘しただけで敵のHPがどれくらいで自分のスキルがどれくらい通用するのかを見極め私に指示を出してきたバルカンのゲーム知識と戦闘センスは凄い。
「宝箱が出たぞ。開けてみるか?」
バルカンが言う通り、魔法陣のような紋様の中心部には木でできたそこそこ大きい宝箱が現れていた。
「私が開けていいんですか? それになんだかこの宝箱、青く光って……」
「ああ、この光ってるのは追憶の断片が入っている目印みたいなもんだ。俺はもう何度か開けてるからな。お前が開けていいぞ」
「わかりました。では遠慮なく開けさせて頂きます」
私は宝箱の蓋に手をかけ、一気に開け放った。
それにより流れ込んできたのは、まさしく誰かの『記憶』だった。
※
「セブラ! 頼む……私を残して逝かないでくれ……」
セブラ、そう呼ばれたベッドの上で苦しげに青ざめた顔を見せる少年の手を握るのは、三十歳前後と思われる男性。
おそらくは父親だろう。死にゆく我が子の手を取って、悲痛に満ちた声を漏らしている。
「クソ……! バベル教団の奴らめ、許してなるものか……!」
ぶつぶつと呟くその声には怨嗟の感情が込められている。
バベル教団。初めて聞く言葉だったが、このゲームのストーリーの確信を突くような存在である予感は感じた。
※
そこで、私の意識は再びカペラの一室へと引き戻された。
追憶の断片。それはまさしく誰かの記憶の追体験だった。
この細かな記憶の欠片を集めていくことによって、ワールドクエストが進んでいき世界の真実とやらが明らかになるのだろう。
果たして一体それがいつになるのかはわからない。だが、ストーリーが悲しいものであることだけは、この短い追憶から察することができた。
バルカンが行うという範囲攻撃に当たらないため、再び戦闘の中心部から外へと駆ける私。
そんな逃げる様子の私をモンスターたちが見逃すわけもなく、斧を振り回すゴブリンや槍を手にするスケルトンたちは一斉にこちらを凝視して追ってくる。
どうやら『技巧の道標』はかなりヘイト値が高いスキルだったらしく、バルカンに向いていたモンスターの照準が全て私に向いてしまったようだ。
だけど、私はバルカンを信じている。
バルカンの職業であるウォーリアーの説明には、敵を引き寄せて盾になりつつ、敵を一網打尽にするのが得意だと書いていた。
つまり、バルカンが言ったとおりヘイト値を上げる専用のスキルがあるということ。
私はモンスターに背を向けながら逃げる。私の背をスケルトンの槍が貫こうとしているのもお構い無しだ。
そして──宣言通りバルカンはヘイトを集めるスキルを使ってくれたようで、モンスターの大半はバルカンの方を向いた。
ただ一体、ゴブリンの一体だけは私に対する殺意の矛を収めてはくれなかったらしい。
そのよく見れば不気味で歪な顔をこれでもかと歪ませて、私の命を刈り取ろうと手に持つ斧を天高く掲げている。
私はこのゲームが始まってからバルカンに出会うまでずっと一人でレベル上げをし続けた。こんな、一対一の状況で取り乱すほど弱い存在じゃない。
ゴブリンが振り下ろした斧を錫杖の柄で受け止め、弾き返す。
そしてすぐさま土弾を形成し──放つ。
土弾で弾かれたゴブリンの小さな体は数メートル後方まで飛ばされ、そのままバルカンの攻撃範囲へと飛び込んでいき──餌食となった。
バルカンは大技を放つ。
初めて見るタイプの攻撃アクティブスキルだったが、それは圧巻の動きをしていた。
私のSTRじゃ到底持ち上げることも難しそうな大剣を軽々しく持ち上げ、振り回す。ただ振り回すという表現は正しくないのかもしれない。それはもはや舞踏のようだった。格好良い、というよりは美しいと言った方がいいのかもしれない。
それほどまでにバルカンが放った3連撃のスキルは芸術的で素晴らしかった。
バルカンを囲んでいた6体のモンスターは同時に最大だったHPゲージを全損させ、ポリゴンの塵となって空中に霧散する。
私は殆ど何もしていないに等しかったが、挑戦はクリア判定となったようだった。
ああ、そういうことか。
私はバルカンが私にATKが上昇するバフを求めた理由を悟る。
丁度、ピッタリだった。バルカンの出したダメージと、モンスターたちのHPは。
バルカンが放った3連撃はおそらくMP全てを消費するほどの大技で、しかも現に今も硬直して動けていないほどの代償がある。
つまり今もモンスターのHPが少しでも残っていようものならバルカンは硬直時間でタコ殴りになっていたはずなのだ。
それを考慮して、バルカンは調整したのだ。
3連撃でモンスターのHP全てを持っていけるようなATKまで。
もしも私がATKを上げるスキルを使っていなかったらバルカンはあの3連撃でモンスターのHPを完全に削り取ることはできず、硬直時間でやられていただろう。
それにしても、少し戦闘しただけで敵のHPがどれくらいで自分のスキルがどれくらい通用するのかを見極め私に指示を出してきたバルカンのゲーム知識と戦闘センスは凄い。
「宝箱が出たぞ。開けてみるか?」
バルカンが言う通り、魔法陣のような紋様の中心部には木でできたそこそこ大きい宝箱が現れていた。
「私が開けていいんですか? それになんだかこの宝箱、青く光って……」
「ああ、この光ってるのは追憶の断片が入っている目印みたいなもんだ。俺はもう何度か開けてるからな。お前が開けていいぞ」
「わかりました。では遠慮なく開けさせて頂きます」
私は宝箱の蓋に手をかけ、一気に開け放った。
それにより流れ込んできたのは、まさしく誰かの『記憶』だった。
※
「セブラ! 頼む……私を残して逝かないでくれ……」
セブラ、そう呼ばれたベッドの上で苦しげに青ざめた顔を見せる少年の手を握るのは、三十歳前後と思われる男性。
おそらくは父親だろう。死にゆく我が子の手を取って、悲痛に満ちた声を漏らしている。
「クソ……! バベル教団の奴らめ、許してなるものか……!」
ぶつぶつと呟くその声には怨嗟の感情が込められている。
バベル教団。初めて聞く言葉だったが、このゲームのストーリーの確信を突くような存在である予感は感じた。
※
そこで、私の意識は再びカペラの一室へと引き戻された。
追憶の断片。それはまさしく誰かの記憶の追体験だった。
この細かな記憶の欠片を集めていくことによって、ワールドクエストが進んでいき世界の真実とやらが明らかになるのだろう。
果たして一体それがいつになるのかはわからない。だが、ストーリーが悲しいものであることだけは、この短い追憶から察することができた。
10
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
いや、一応苦労してますけども。
GURA
ファンタジー
「ここどこ?」
仕事から帰って最近ハマってるオンラインゲームにログイン。
気がつくと見知らぬ草原にポツリ。
レベル上げとモンスター狩りが好きでレベル限界まで到達した、孤高のソロプレイヤー(とか言ってるただの人見知りぼっち)。
オンラインゲームが好きな25歳独身女がゲームの中に転生!?
しかも男キャラって...。
何の説明もなしにゲームの中の世界に入り込んでしまうとどういう行動をとるのか?
なんやかんやチートっぽいけど一応苦労してるんです。
お気に入りや感想など頂けると活力になりますので、よろしくお願いします。
※あまり気にならないように製作しているつもりですが、TSなので苦手な方は注意して下さい。
※誤字・脱字等見つければその都度修正しています。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」
マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。
目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。
近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。
さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。
新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。
※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。
※R15の章には☆マークを入れてます。
無人島ほのぼのサバイバル ~最強の高校生、S級美少女達と無人島に遭難したので本気出す~
絢乃
ファンタジー
【ストレスフリーの無人島生活】
修学旅行中の事故により、無人島での生活を余儀なくされる俺。
仲間はスクールカースト最上位の美少女3人組。
俺たちの漂着した無人島は決してイージーモードではない。
巨大なイノシシやワニなど、獰猛な動物がたくさん棲息している。
普通の人間なら勝つのはまず不可能だろう。
だが、俺は普通の人間とはほんの少しだけ違っていて――。
キノコを焼き、皮をなめし、魚を捌いて、土器を作る。
過酷なはずの大自然を満喫しながら、日本へ戻る方法を模索する。
美少女たちと楽しく生き抜く無人島サバイバル物語。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる