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Chapter02 色付く世界

Dream 040

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 残りのモンスターは7体。
 バルカンが行うという範囲攻撃に当たらないため、再び戦闘の中心部から外へと駆ける私。
 そんな逃げる様子の私をモンスターたちが見逃すわけもなく、斧を振り回すゴブリンや槍を手にするスケルトンたちは一斉にこちらを凝視して追ってくる。
 どうやら『技巧の道標』はかなりヘイト値が高いスキルだったらしく、バルカンに向いていたモンスターの照準タゲが全て私に向いてしまったようだ。
 だけど、私はバルカンを信じている。
 バルカンの職業ジョブであるウォーリアーの説明には、敵を引き寄せて盾になりつつ、敵を一網打尽にするのが得意だと書いていた。
 つまり、バルカンが言ったとおりヘイト値を上げる専用のスキルがあるということ。

 私はモンスターに背を向けながら逃げる。私の背をスケルトンの槍が貫こうとしているのもお構い無しだ。
 そして──宣言通りバルカンはヘイトを集めるスキルを使ってくれたようで、モンスターの大半はバルカンの方を向いた。
 ただ一体、ゴブリンの一体だけは私に対する殺意の矛を収めてはくれなかったらしい。
 そのよく見れば不気味でいびつな顔をこれでもかと歪ませて、私の命を刈り取ろうと手に持つ斧を天高く掲げている。

 私はこのゲームが始まってからバルカンに出会うまでずっと一人でレベル上げをし続けた。こんな、一対一の状況で取り乱すほど弱い存在じゃない。
 ゴブリンが振り下ろした斧を錫杖の柄で受け止め、弾き返す。
 そしてすぐさま土弾を形成し──放つ。
 土弾で弾かれたゴブリンの小さな体は数メートル後方まで飛ばされ、そのままバルカンの攻撃範囲へと飛び込んでいき──餌食となった。

 バルカンは大技を放つ。
 初めて見るタイプの攻撃アクティブスキルだったが、それは圧巻の動きをしていた。
 私のSTR筋力じゃ到底持ち上げることも難しそうな大剣を軽々しく持ち上げ、振り回す。ただ振り回すという表現は正しくないのかもしれない。それはもはや舞踏のようだった。格好良い、というよりは美しいと言った方がいいのかもしれない。
 それほどまでにバルカンが放った3連撃のスキルは芸術的で素晴らしかった。

 バルカンを囲んでいた6体のモンスターは同時に最大だったHPゲージを全損させ、ポリゴンの塵となって空中に霧散する。
 私は殆ど何もしていないに等しかったが、挑戦はクリア判定となったようだった。
 ああ、そういうことか。
 私はバルカンが私にATK攻撃力が上昇するバフを求めた理由を悟る。 
 丁度、ピッタリだった。バルカンの出したダメージと、モンスターたちのHPは。
 バルカンが放った3連撃はおそらくMP全てを消費するほどの大技で、しかも現に今も硬直して動けていないほどの代償がある。
 つまり今もモンスターのHPが少しでも残っていようものならバルカンは硬直時間でタコ殴りになっていたはずなのだ。
 それを考慮して、バルカンは調整したのだ。
 3連撃でモンスターのHP全てを持っていけるようなATK攻撃力まで。
 もしも私がATK攻撃力を上げるスキルを使っていなかったらバルカンはあの3連撃でモンスターのHPを完全に削り取ることはできず、硬直時間でやられていただろう。
 それにしても、少し戦闘しただけで敵のHPがどれくらいで自分のスキルがどれくらい通用するのかを見極め私に指示を出してきたバルカンのゲーム知識と戦闘センスは凄い。

「宝箱が出たぞ。開けてみるか?」

 バルカンが言う通り、魔法陣のような紋様の中心部には木でできたそこそこ大きい宝箱が現れていた。

「私が開けていいんですか? それになんだかこの宝箱、青く光って……」

「ああ、この光ってるのは追憶の断片が入っている目印みたいなもんだ。俺はもう何度か開けてるからな。お前が開けていいぞ」

「わかりました。では遠慮なく開けさせて頂きます」

 私は宝箱の蓋に手をかけ、一気に開け放った。
 それにより流れ込んできたのは、まさしく誰かの『記憶』だった。



「セブラ! 頼む……私を残して逝かないでくれ……」

 セブラ、そう呼ばれたベッドの上で苦しげに青ざめた顔を見せる少年の手を握るのは、三十歳前後と思われる男性。
 おそらくは父親だろう。死にゆく我が子の手を取って、悲痛に満ちた声を漏らしている。

「クソ……! バベル教団の奴らめ、許してなるものか……!」

 ぶつぶつと呟くその声には怨嗟の感情が込められている。
 バベル教団。初めて聞く言葉だったが、このゲームのストーリーの確信を突くような存在である予感は感じた。



 そこで、私の意識は再びカペラの一室へと引き戻された。
 追憶の断片。それはまさしく誰かの記憶の追体験だった。
 この細かな記憶の欠片を集めていくことによって、ワールドクエストが進んでいき世界の真実とやらが明らかになるのだろう。
 果たして一体それがいつになるのかはわからない。だが、ストーリーが悲しいものであることだけは、この短い追憶から察することができた。
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