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Chapter02 色付く世界
Dream 030
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私がこの世界にきてから早くも3日が経過した。
「ねえ、君いっつも一人でレベル上げしてるよね? 僕たちとパーティを組まない?」
いつものように『エンガル北方平原』でレベル上げをしていた私に、話しかけてくる男性の声が一つ。しかし私はその声に対し「ごめんなさい」と答える。
正直最初は何をやればいいのか全くわからなかった。初日はたまたまクエストを見つけることができたけど……それ以降中々良いクエストを見つけることはできなかった。
私はてっきりこの世界はゲームの世界だから、いわゆる『ストーリー』があるものだと思っていた。その『ストーリー』を進めていけば、この世界について徐々に知ることができて、そして強くなるための手段も把握することができるはずだ、と。
だけど、そんなことはなかった。ストーリーなんてものはなかったのだ。
普通そんなことあるのだろうか。
こんな、未知の世界に突然放り込まれて、チュートリアルも最初の少しだけで殆ど無い。私のようにゲームに疎い人だって大勢いるだろうが、それなのにこのゲームはちゃんと用語やシステムを理解しないとプレイすること自体が難しいタイプのものだ。しかもこの世界から現実に戻るためにやらなければいけないことは、ゲームの『クリア』だという。
クリアとは一体何をすることをいうのか?
まだまだわからないことばかりだ。だから取り敢えずはレベルを上げておいて、いずれ必ず来るであろう戦闘の時に備える。
私の職業はクレリック。パーティの後方支援役で、効率よく経験値を得るにはパーティを組むことが欠かせない。
だけどどうして私が一人でレベリングをしていてパーティの誘いを断ったのか。それには理由がある。
結論から言うと、入るべきパーティを見定めているからだ。
私の今のレベルは6。
さっき私に声をかけてきた3人組パーティーは、最もレベルが高いと思われる男性プレイヤーでも頭上に表示されていたレベルは5。
現在私が取得している攻撃用のスキルは少ない。そんな中でも一人で6までレベルを上げることができた。まあそれは序盤から結構良い武器を手に入れれたことが原因だけど。
つまり私より明らかに強い人たちが組んでるパーティに入れてもらいたいってことだ。あわよくば茨さんと……でもそれはプレイヤーの本名がわからない以上、絶望的だ。だけど、絶対に近くにいるはずなのだ。
ああ、忘れられない。茨さんのあの声、あの雰囲気、私を掴んでくれたあの手。もう一度会いたい。会ってその姿を見て、話をしたい。この世界で、あわよくば現実で、もう一度──。
私は再びこの世界で茨さんと会えることを想像しては……目の前にリポップした鳥型のモンスターを、一撃で屠った。
※
「お待たせしました。こちらメルティコーヒーとチーズケーキになります」
ひとまずレベルを7に上げたところでエンガルに戻り、ここ最近毎日通っているカフェ『メルティ』へと入って注文したコーヒーとケーキを受け取った。
円状に広がるこの街で、最も北門の近くにあるカフェがここ。マップを見ても中々辿り着けないような場所に位置しているので、いつも客が少なく居心地がとても良い。
この場所をたまたま見つけることができたのは本当にラッキーだった。
ちなみに私が頼んだメルティコーヒーの値段は300ゴールドで、チーズケーキの値段は450ゴールドだ。
ゴールドってのはお金の単位のことで、1ゴールドが1円と考えて良さそうだった。
ああ、まさか自分でお金を管理して、自分が好きなように好きなものを買える時が来るなんて思ってもいなかった。あ、このチーズケーキ、初めて食べたけどおいしい……
これ、本当に夢の中なんだよね? 味まで再現してるなんて本当にすごいなあ……
「あのー突然悪いんだけど、その杖、どこで手に入れたの?」
「ひゃ⁉︎」
誰もいないと思ってチーズケーキのあまりの美味しさにニヤけていた私。だけど突然背後から話かけられて、思わず変な声を上げてしまった。
「これは……クエストをクリアして……その報酬でもらったものです」
目の前の男性を見ると、頭上に表示されているプレイヤーネームには『クロギリ』と書かれていた。そしてレベルは9。私よりも2つ上だ。
クロギリは20代前半といった感じで、爽やかな笑顔とまっすぐな瞳が印象的な男性だった。しかしその瞳には『感情』というものが感じられず、少し不気味な感じがする。
「へえ、もしよかったらそのクエストについて教えてくれないか? 報酬は払うからさ」
初対面なはずなのに、随分と馴れ馴れしく接してくるクロギリ。いつの間にか私が座っている席の対面まで移動し、腰掛けている。
「報酬……ですか?」
「ああ。5000ゴールドでどう?」
「5000ゴールド……ですか」
「そう。5000ゴールド」
正直な感想としては結構だしてくれるんだな、だった。プレイヤーに最初から与えられているお金は10000ゴールドで、クエストを受注できる場所を教えるだけでその半分を提供してくれると言うのは実に好条件。
だけれど、教えたところであのクエストはクレリックやパラディン専用。
クロギリの職業はおそらくそのどちらでもないだろうし、その旨を一応伝えておこう。
「教えたいのは山々なのですが、この杖を報酬として貰えるクエストはおそらくクレリックやパラディンという職業専用のもののようなのです。あなたに教えたところで役に立たないように思いますが……」
「へえ、君。杖ってことはクレリックなんだ。おそらくってことは確定ってわけじゃないんだろ? 例え俺がクエスト受けれなくても報酬は払うからさ。取り敢えず案内してくれよ」
「そうですか? ……わかりました」
ちょうどレベル上げも飽きてきた頃だ。ただ道案内するってだけで5000ゴールドも貰えるなら……と、私は急いでチーズケーキを食べ、クロギリと共に店を出た。
後書き
ローレンティアはINT極振りでMATKが高いので、序盤の今ならまだ一人でモンスターを難なく倒せます。
ATEDの世界では、NPCが営む店だと代金はレジで支払うなどせず勝手に所持金から引き落とされるようになってます。
「ねえ、君いっつも一人でレベル上げしてるよね? 僕たちとパーティを組まない?」
いつものように『エンガル北方平原』でレベル上げをしていた私に、話しかけてくる男性の声が一つ。しかし私はその声に対し「ごめんなさい」と答える。
正直最初は何をやればいいのか全くわからなかった。初日はたまたまクエストを見つけることができたけど……それ以降中々良いクエストを見つけることはできなかった。
私はてっきりこの世界はゲームの世界だから、いわゆる『ストーリー』があるものだと思っていた。その『ストーリー』を進めていけば、この世界について徐々に知ることができて、そして強くなるための手段も把握することができるはずだ、と。
だけど、そんなことはなかった。ストーリーなんてものはなかったのだ。
普通そんなことあるのだろうか。
こんな、未知の世界に突然放り込まれて、チュートリアルも最初の少しだけで殆ど無い。私のようにゲームに疎い人だって大勢いるだろうが、それなのにこのゲームはちゃんと用語やシステムを理解しないとプレイすること自体が難しいタイプのものだ。しかもこの世界から現実に戻るためにやらなければいけないことは、ゲームの『クリア』だという。
クリアとは一体何をすることをいうのか?
まだまだわからないことばかりだ。だから取り敢えずはレベルを上げておいて、いずれ必ず来るであろう戦闘の時に備える。
私の職業はクレリック。パーティの後方支援役で、効率よく経験値を得るにはパーティを組むことが欠かせない。
だけどどうして私が一人でレベリングをしていてパーティの誘いを断ったのか。それには理由がある。
結論から言うと、入るべきパーティを見定めているからだ。
私の今のレベルは6。
さっき私に声をかけてきた3人組パーティーは、最もレベルが高いと思われる男性プレイヤーでも頭上に表示されていたレベルは5。
現在私が取得している攻撃用のスキルは少ない。そんな中でも一人で6までレベルを上げることができた。まあそれは序盤から結構良い武器を手に入れれたことが原因だけど。
つまり私より明らかに強い人たちが組んでるパーティに入れてもらいたいってことだ。あわよくば茨さんと……でもそれはプレイヤーの本名がわからない以上、絶望的だ。だけど、絶対に近くにいるはずなのだ。
ああ、忘れられない。茨さんのあの声、あの雰囲気、私を掴んでくれたあの手。もう一度会いたい。会ってその姿を見て、話をしたい。この世界で、あわよくば現実で、もう一度──。
私は再びこの世界で茨さんと会えることを想像しては……目の前にリポップした鳥型のモンスターを、一撃で屠った。
※
「お待たせしました。こちらメルティコーヒーとチーズケーキになります」
ひとまずレベルを7に上げたところでエンガルに戻り、ここ最近毎日通っているカフェ『メルティ』へと入って注文したコーヒーとケーキを受け取った。
円状に広がるこの街で、最も北門の近くにあるカフェがここ。マップを見ても中々辿り着けないような場所に位置しているので、いつも客が少なく居心地がとても良い。
この場所をたまたま見つけることができたのは本当にラッキーだった。
ちなみに私が頼んだメルティコーヒーの値段は300ゴールドで、チーズケーキの値段は450ゴールドだ。
ゴールドってのはお金の単位のことで、1ゴールドが1円と考えて良さそうだった。
ああ、まさか自分でお金を管理して、自分が好きなように好きなものを買える時が来るなんて思ってもいなかった。あ、このチーズケーキ、初めて食べたけどおいしい……
これ、本当に夢の中なんだよね? 味まで再現してるなんて本当にすごいなあ……
「あのー突然悪いんだけど、その杖、どこで手に入れたの?」
「ひゃ⁉︎」
誰もいないと思ってチーズケーキのあまりの美味しさにニヤけていた私。だけど突然背後から話かけられて、思わず変な声を上げてしまった。
「これは……クエストをクリアして……その報酬でもらったものです」
目の前の男性を見ると、頭上に表示されているプレイヤーネームには『クロギリ』と書かれていた。そしてレベルは9。私よりも2つ上だ。
クロギリは20代前半といった感じで、爽やかな笑顔とまっすぐな瞳が印象的な男性だった。しかしその瞳には『感情』というものが感じられず、少し不気味な感じがする。
「へえ、もしよかったらそのクエストについて教えてくれないか? 報酬は払うからさ」
初対面なはずなのに、随分と馴れ馴れしく接してくるクロギリ。いつの間にか私が座っている席の対面まで移動し、腰掛けている。
「報酬……ですか?」
「ああ。5000ゴールドでどう?」
「5000ゴールド……ですか」
「そう。5000ゴールド」
正直な感想としては結構だしてくれるんだな、だった。プレイヤーに最初から与えられているお金は10000ゴールドで、クエストを受注できる場所を教えるだけでその半分を提供してくれると言うのは実に好条件。
だけれど、教えたところであのクエストはクレリックやパラディン専用。
クロギリの職業はおそらくそのどちらでもないだろうし、その旨を一応伝えておこう。
「教えたいのは山々なのですが、この杖を報酬として貰えるクエストはおそらくクレリックやパラディンという職業専用のもののようなのです。あなたに教えたところで役に立たないように思いますが……」
「へえ、君。杖ってことはクレリックなんだ。おそらくってことは確定ってわけじゃないんだろ? 例え俺がクエスト受けれなくても報酬は払うからさ。取り敢えず案内してくれよ」
「そうですか? ……わかりました」
ちょうどレベル上げも飽きてきた頃だ。ただ道案内するってだけで5000ゴールドも貰えるなら……と、私は急いでチーズケーキを食べ、クロギリと共に店を出た。
後書き
ローレンティアはINT極振りでMATKが高いので、序盤の今ならまだ一人でモンスターを難なく倒せます。
ATEDの世界では、NPCが営む店だと代金はレジで支払うなどせず勝手に所持金から引き落とされるようになってます。
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