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Chapter01 茨の道を行け
Dream 024
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周囲は大樹で囲まれ、天からの光もなく。
ただただ地面で不規則に揺らめく発光草からの灯りだけが世界を照らす空間。
その中央で黒く、深く。異質なオーラを放つモンスターは本来ならば存在すら許されていない異常。
それは設定されていないモンスターネームと、あり得ないほどに高いレベルから窺える。
いや、そもそもレベルは100が最高じゃないのか?
「なんとかして逃げる方法を……」
尚も震える声で目の前の化け物を凝視する猫野郎も、一歩でも歩けば敵の標的にされかねないと思っているのか、全く動けないでいる。
何故か目の前の化け物は、本来の姿を開示したにも関わらず動こうともしない。
おそらくヤツが攻撃体勢に入る領域が決まっているのだろう。そこに踏み込んでしまえば終わり。
それは放たれる空気からひしひしと伝わってきている。
どうやったらコイツから逃げられる?
どうやったらこの空間に穴を開けられる?
そんな逃げの考えが渦巻くも、出口を塞がれたこの閉鎖空間で、どう足掻こうとも『戦闘』以外の選択肢は取れそうにもなかった。
相手に毒は効くだろうか?
AGIは?
そんな無意味な疑問は目の前の化け物の巨眼に飲み込まれて消え行くだけ。この状況を打開する術は全く持って見つかりそうもない。
『汝ら。どちらが、死を選ぶ』
突如、地の底から響くような声が空間を支配した。
この声は紛れもなく目の前の存在から放たれている。
まさか、喋れるモンスターがいるなんて。
もしかして俺たちと同じ、プレイヤーなのか?
喋れるなら交渉の余地はある。なんとか……なんとか俺たちが生き残るための言葉を紡ぎ出さないと。
だが、そんな思考とは裏腹に俺は言葉を出すことはできない。だから、猫野郎に目配せする。
「どちらかが死ねば、どちらかを助けてくれるってことか?」
俺と目が合った直後、猫野郎は端的に化け物に問う。
違う。そうじゃない。
どちらも助かる方法を聞き出すんだ。
『そうだ。あの方は汝らの存在を憂いている。片方がいなくならなければ、このゲームは始まらない』
わけのわからない言葉を重ねる化け物。
どうやら俺たちが両方助かる方法は……ないらしい。
おそらくコイツは『あの方』とやらの指示でこの状況を作り出している。
そしてこのゲームを始めるとはいったい。何故俺たちの片方を殺さなければならないのか。
意味がわからないことばかりだ。
だかそれを問いただそうにも……
何故俺は声を出せない?
もはや、孤独を強要された存在。
そうだとしか思えなかった。
「だったら俺を殺せ」
横で猫野郎が、言い放った。
俺は急いで首を横にふる。
やめろ、違う。そうじゃないだろ!
2人でこのゲームをクリアするって…約束しただろ…!
俺はスキル『韋駄天』を使って、猫野郎へと巻き付いた。
目の前の存在はどちらかだけを殺そうとしている。
だが今は2人同時に攻撃しないといけないような状況。
これだったら不用意に攻撃できないだろ!
『わかった』
しかし。
俺が巻きついていたはずのものが──消えた。
攻撃を受けるなら一緒に……
そう思ってキツく、キツく巻きつけていた猫野郎の実体が──突如として、灰となって消えた。
攻撃は受けてない。受けたはずがない。なのに、どうして……
『システムメッセージ:バベルの塔第1階におけるモンスター種プレイヤー数が規定に達しました。パッシブスキル詳細を確認してください』
突然に告げられる真実。
何度も聞いた、疑いようのないシステムから告げられるメッセージ。
世界から色が抜け落ちていく。
いつの間にか目の前の化け物は姿を消し、俺を囲んでいた木々も消え、辺りは見覚えのある深奥樹林へと戻っている。
本当に消え……たのか?
今まで一緒に旅した猫野郎は、あいつは、本当に消えたのか…?
一緒に世界を巡って、一緒に強敵を倒して、一緒にゲームを楽しんで、一緒にクエストをクリアして、一緒に現実の話なんかをして。
落ち着いたら──もし、現実に戻れたら──会おうなんて、約束を──。
もう、あいつの冗談を聞くことは本当にできないのか?
うあ……うぁぁぁああああ!!!!!
俺の心から何かが欠落していく。
なんで俺は喋ることができないんだ。
なんで俺だけ、殺すなら俺の方にしてくれって言えない体なんだ。
どうして、どうして、どうしてどうして!!!!
何も考えられなくなった俺の頭では、周囲を闊歩するデッドディグトレントの異常性に気がつくことなど、できやしなかった。
ただただ地面で不規則に揺らめく発光草からの灯りだけが世界を照らす空間。
その中央で黒く、深く。異質なオーラを放つモンスターは本来ならば存在すら許されていない異常。
それは設定されていないモンスターネームと、あり得ないほどに高いレベルから窺える。
いや、そもそもレベルは100が最高じゃないのか?
「なんとかして逃げる方法を……」
尚も震える声で目の前の化け物を凝視する猫野郎も、一歩でも歩けば敵の標的にされかねないと思っているのか、全く動けないでいる。
何故か目の前の化け物は、本来の姿を開示したにも関わらず動こうともしない。
おそらくヤツが攻撃体勢に入る領域が決まっているのだろう。そこに踏み込んでしまえば終わり。
それは放たれる空気からひしひしと伝わってきている。
どうやったらコイツから逃げられる?
どうやったらこの空間に穴を開けられる?
そんな逃げの考えが渦巻くも、出口を塞がれたこの閉鎖空間で、どう足掻こうとも『戦闘』以外の選択肢は取れそうにもなかった。
相手に毒は効くだろうか?
AGIは?
そんな無意味な疑問は目の前の化け物の巨眼に飲み込まれて消え行くだけ。この状況を打開する術は全く持って見つかりそうもない。
『汝ら。どちらが、死を選ぶ』
突如、地の底から響くような声が空間を支配した。
この声は紛れもなく目の前の存在から放たれている。
まさか、喋れるモンスターがいるなんて。
もしかして俺たちと同じ、プレイヤーなのか?
喋れるなら交渉の余地はある。なんとか……なんとか俺たちが生き残るための言葉を紡ぎ出さないと。
だが、そんな思考とは裏腹に俺は言葉を出すことはできない。だから、猫野郎に目配せする。
「どちらかが死ねば、どちらかを助けてくれるってことか?」
俺と目が合った直後、猫野郎は端的に化け物に問う。
違う。そうじゃない。
どちらも助かる方法を聞き出すんだ。
『そうだ。あの方は汝らの存在を憂いている。片方がいなくならなければ、このゲームは始まらない』
わけのわからない言葉を重ねる化け物。
どうやら俺たちが両方助かる方法は……ないらしい。
おそらくコイツは『あの方』とやらの指示でこの状況を作り出している。
そしてこのゲームを始めるとはいったい。何故俺たちの片方を殺さなければならないのか。
意味がわからないことばかりだ。
だかそれを問いただそうにも……
何故俺は声を出せない?
もはや、孤独を強要された存在。
そうだとしか思えなかった。
「だったら俺を殺せ」
横で猫野郎が、言い放った。
俺は急いで首を横にふる。
やめろ、違う。そうじゃないだろ!
2人でこのゲームをクリアするって…約束しただろ…!
俺はスキル『韋駄天』を使って、猫野郎へと巻き付いた。
目の前の存在はどちらかだけを殺そうとしている。
だが今は2人同時に攻撃しないといけないような状況。
これだったら不用意に攻撃できないだろ!
『わかった』
しかし。
俺が巻きついていたはずのものが──消えた。
攻撃を受けるなら一緒に……
そう思ってキツく、キツく巻きつけていた猫野郎の実体が──突如として、灰となって消えた。
攻撃は受けてない。受けたはずがない。なのに、どうして……
『システムメッセージ:バベルの塔第1階におけるモンスター種プレイヤー数が規定に達しました。パッシブスキル詳細を確認してください』
突然に告げられる真実。
何度も聞いた、疑いようのないシステムから告げられるメッセージ。
世界から色が抜け落ちていく。
いつの間にか目の前の化け物は姿を消し、俺を囲んでいた木々も消え、辺りは見覚えのある深奥樹林へと戻っている。
本当に消え……たのか?
今まで一緒に旅した猫野郎は、あいつは、本当に消えたのか…?
一緒に世界を巡って、一緒に強敵を倒して、一緒にゲームを楽しんで、一緒にクエストをクリアして、一緒に現実の話なんかをして。
落ち着いたら──もし、現実に戻れたら──会おうなんて、約束を──。
もう、あいつの冗談を聞くことは本当にできないのか?
うあ……うぁぁぁああああ!!!!!
俺の心から何かが欠落していく。
なんで俺は喋ることができないんだ。
なんで俺だけ、殺すなら俺の方にしてくれって言えない体なんだ。
どうして、どうして、どうしてどうして!!!!
何も考えられなくなった俺の頭では、周囲を闊歩するデッドディグトレントの異常性に気がつくことなど、できやしなかった。
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