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Chapter01 茨の道を行け

Dream 023

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 水獄の深奥密林しんおうみつりん
 そこは怪しげな大木が所狭しと林立した、陰気臭いマップ。
 そして俺たちは今、スロウルーパーの次に狩りやすそうなモンスター、デッドディグトレントと対峙していた。

 地中から無数に伸びる疾駆の巨根。
 空を裂き、大地を這い、俺たちの息の根を止めんと動き回るその様はまるで死の舞踏だ。
 そんな木の根の合間を掻い潜って攻撃を繰り出すが、敵のDEF防御力は高くHPの減りは微々たるものである。
 しかし、俺は『毒』という最強のデバフを付与できる。このエリアには毒が効かない敵も多い。だが、俺が今敵対しているデッドディグトレントには毒が効く。

 俺の保持するパッシブスキル、『致死の毒蛇』の効果により俺が付与する毒はただの毒ではなく猛毒に変化している。
 最近猫野郎が毒のデバフに侵された時に気がついたのだが、毒は一定の時間が経つか一定のHPを削れば解除される。だが、猛毒はおそらく解毒系のアイテムかスキルを使わなければ解除されない。
 それがあまりに強い、強すぎる。モンスターは解毒アイテムを使うなんてことはできないし、とりあえず毒を付与して極限まで上げたAGI敏捷力で『逃げ』の体制を取り続ければ安全にレベル上げをできるだろう。

 しかしそれを行わないのには理由がある。それは猛毒を付与して倒すことによる明確なデメリットが見つかったからだ。
 まず、アイテムのドロップ確率がめちゃくちゃ下がる。
 スロウルーパーを倒すと一定確率で『スロウルーパーの粘着皮』というアイテムをドロップする。
 猫野郎がスロウルーパーを倒した時はそのアイテムが割とドロップするらしいが、俺がスロウルーパーを毒で倒すと10体に1体くらいの確率でしかドロップしなかった。

 そして決定的なもう一つは、獲得経験値が減少するということだ。
 俺が最初にスロウルーパーを倒したことにより得られた経験値は1020。だが、猫野郎が倒したことにより獲得する経験値は2040だという。その差は実に2倍だ。
 この事実は明らかに俺の方が経験値を得ていたはずなのに、レベルアップが猫野郎の方が早いことにより発覚した。
 リスポーンされるMOBモンスターの数は決まっている。この2倍という差はかなり痛い。
 猫野郎はそれを加味して俺にスロウルーパーを多めに狩らせてくれている。だからレベルは猫野郎も俺と同じ44。

 この仕様に関しては納得している。
 おそらく水属性は毒などのデバフを司っている属性なのだろう。水獄の層だから毒が効かない敵が多い。裏を返せば、この水獄の層以外のマップに出ることができれば毒が効く相手が増えるということなのだ。
 そうなったらゲームバランスの崩壊になりかねない。
 まあ、猛毒というデバフを付与できるモンスターが極端に少ないが故のこの強さなのかもしれないが。
 おそらく人間としてのプレイヤーには猛毒を付与できるようなスキルの存在はないだろう。
 猫野郎にも『魔道士の片鱗』とかいう最強スキルがあるらしいし、モンスター種には何かしらそのモンスターに合った強いスキルが与えられていると思われる。正直これだけで他の人間プレイヤーと差がつけられているとは全く感じないが。

 前回デッドディグトレントと対峙した時には拮抗していたAGI敏捷力だったが、あれからレベルが14上がった俺にとってはもうデッドディグトレントの動きなどスローモーションに見えていた。
 HP減少によって繰り出してくる頭の枝攻撃にはまだ注意が必要だが、もうその攻撃が初見でない以上避けるのは造作もない。
 これだったら十分な安全マージンを取りながらでも戦えるな。
 なんで今までスロウルーパーしか狩ってこなかったんだろう。
 なんだか今までの2ヶ月を無駄に使ってしまったみたいで後悔の念に駆られる。
 まあ、あの2ヶ月はレベル上げというよりマップ探索に力を注いだから無駄だったわけではないが。

 しばらくして俺の攻撃スキル、『水刃』によりHPデッドディグトレントのHPは尽きた。それによって1580経験値を獲得。毒を使わないで倒したため、獲得経験値は減少していないはずだ。
 スロウルーパーのレベルは44、デッドディグトレントのレベルは58。
 今回HPの半分を猫野郎に削ってもらったことを考慮したスロウルーパーとデッドディグトレントの経験値差は……孤独ナル者の3倍経験値を考慮しなければ340くらいか。
 スロウルーパーよりも数が多いみたいだし、この辺のデッドディグトレントを根絶やしにするのも日課に加えればさらにレベル上げのペースは上がるだろう。
 
「なあアレ、レアなモンスターなんじゃね?」

 俺が倒したデッドディグトレントが灰となり、開けた視界に見えた先。
 猫野郎が示すそこには黄金色に輝く小さな鼠型のモンスターがいた。
 頭には風呂敷のようなものを被っており、髭を揺らしながらつぶらな瞳でこちらを睨む様はまるで物語に聞く鼠小僧だ。
 
『トレジャーマウス Lv10』

 照準タゲを合わせて確認できたモンスター名。
 なんとも弩直球な名前だ。これは出る場所が確定しているレリックフェアリーよりも報酬に期待できる。

「あ! 逃げた!」

 猫野郎が不用意に近づいた結果、猛スピードでトレジャーマウスは駆け出した。
 そのAGI敏捷力は驚異的で、倒せば明らかにレアアイテムが手に入ることが確定的。
 急いで後を追う。
 
「こんな所に道があったなんてな!」

 木々の合間を抜け、今まで見たこともない道を通っていく。
 探索しきったと思っていた場所で新たな場所を見つけた時の興奮。これは冒険の醍醐味の一つだ。
 
 樹林を抜け、一気に視界が開ける。
 
 ……こんな場所、なかったはずだ。
 ミニマップを確認するが、何故かこの場所はマップに示されていない。
 指定のルートを通らないと出現しない隠しマップ?もしかしてトレジャーマウスってのは倒したらアイテムが貰えるのではなく、アイテムがある場所へ案内してくれる存在なのか?
 だったら何かがあるはずだが──

「なんだあれ……」

 猫野郎が怯えたように呟く。
 トレジャーマウスはいつのまにかどこかに行き、目の前に広がっているのは小さな泉。
 その中央には小島が。
 そして小島の上。視線がこれでもかと吸い込まれる。
 そこいたのはまるで鳥籠のようにぶら下がる格子状の卵のような物体。
 光を全て飲み込んでしまいそうなほどに漆黒なその物体はゆらゆらと宙に浮かび、光る草木に不気味に照らされて異質なオーラを纏っている。

 照準を合わせてもモンスター名は出てこない。
 俺は……俺たちはトレジャーマウスにここまで誘導されたのか?
 いずれにせよ、アレには手を出さないほうがいい。俺の頭の中では耳鳴りのようなサイレンが鳴り響いていた。
 間違いなくあれはヤバイ。

 踵を返そうとしたとき、猫野郎が震えた声を横で漏らした。

「俺たち……ここを通ってきたよな……?」

 振り返る。
 そこにはあったはずの……通ってきた小道が無くなっていた、、、、、、、

 いつの間にか周囲は闘技場のように高い樹木で覆われ、出口の類が一切見えない死の空間と化している。
 明らかにトラップ

 こんな、序盤で?
 俺たちここで死ぬのか?

 ──瞬間。
 空間に死の気配が立ち込め──爆散した。

 目の前の籠状の物体からコウモリの羽のように巨大な4本の手が生え初め、亀裂が入り、そこから真紅の瞳を有した巨眼が顕われる。
 地球上のどの生物にも属さない外見。
 今まで見てきたATEDエイテッドのモンスターは、地球に実在している生物をモチーフにしたものが多かった。
 だが今回は違う。
 初めて見る、明らかな異形型モンスター。
 
 もう一度照準を合わせる。
 すると今度はモンスター名とそのレベルが表示された。

『豁サ逾槭ワ繝シ繝? Lv126』

 明らかに存在してはいけないモンスターだった。
 存在しないはずのモンスターだった。
 横を見ると、猫野郎も絶望したように目の前の化け物に見入ることしかできていなかった。
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