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Chapter01 茨の道を行け

Dream 004

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『AST起動。システムをバージョンセカンドに移行させます。……移行完了しました』
 
 脳内に突如、機械的な女性の音声が響き渡った。
 いや、脳内というよりは空間全体に響き渡った感じだろうか。
 ていうか何だ? バージョンセカンド? 全く意味がわからないし、目を開けてるのにあたりは真っ暗で不安すぎる。
 俺、昨日は珍しく日が昇る前に寝て……それから何もしてないよな?
 もしかして拉致監禁? いや、俺のことを監禁したところで全く価値なんてないだろうし……
 
 そうこう考えている内に、突如視界が一転して真っ白に変化した。

ATEDエイテッドへようこそ! まずは職業ジョブ選択から始めよう!』

 そうしてパンパカパーンという陽気なファンファーレと共に現れた、水色のウィンドウ。
 そこに書かれていたのはなんと待ち望んでいた画面……ATEDのスタート画面だった。

 おいおい、冗談だろ?
 ATEDエイテッドのリリース……いや、ドリーマーズインターネットのサービス開始まであと一ヶ月以上あったはずだが?
 しかも俺はログインした記憶なんてない。ってことはつまり、何らかのシステム上のエラーが起きて、強制的にドリーマーズインターネットにログインしてしまったってことなのか? んなバカな!

 そういえばネットニュースで専門家が言っていた。ドリーマーズインターネットの危険性についてを。
 ドリーマーズインターネットは電波によって対象者を一時的な睡眠状態にさせることが可能だ。
 つまり開発者が意図的に、好きなタイミングでユーザーを昏睡状態に陥れることができるということ。
 法律がまだ完全に定まっていないドリーマーズインターネットを悪用するような人物が現れた場合、世界は混乱に陥る。

 まさしく、今の状況は専門家が危惧していたものなのでは?

 この世界から脱出するには運営が設けたログアウトのボタンを押すことしかない。
 だが、そのログアウトのボタンとやらは全く見当たらない。
 職業ジョブ選択とやらを完了してチュートリアルを終えれば出てくるのかもしれないが、それも怪しい。

 もしもログアウトボタンがこのままずっと出ないままだったら。
 俺は永久的にこの世界に囚われ、二度と目を覚ますことができない……?
 だとしたら大変だ。もうじき大学も始まるというのに……

 んまあ大丈夫か。
 運営はこの状況を把握してるだろうしすぐに対処するだろ。
 もしかしたらこの状況になってるのが俺だけで、ちょっとしたATEDエイテッドの先行プレイが楽しめるかもしれない。
 そうなったら俺は本来いるはずのないベータテスターとしてちやほやされるんじゃないか? グフフ。想像したら笑いが止まらん。

 とりあえず職業ジョブ選択だな。これに関しては『莫大な数の職業がある』という情報くらいしか調べてないからよくわからん。
 あーあ、リリースまで後一ヶ月になったら様々な情報が少しずつ解禁されるはずだったのに。
 まあ多少は情報が解禁されているが……なんかちょっと嬉しいような悲しいような。

 俺はウィンドウをタップし、現れた数十にも及ぶ職業一覧を眺めた。
 えーと……
 ソードマンにアサシン、メイジにアーチャーと言った有名どこから、MMOにおいてはあまり聞いたことのないサモナー…それにスミスなんかまで。
 その総数は……およそ30ってとこだろうか?
 しかも聞いた情報によるとこの職業から更に分岐して進化した職業になれるらしい。
 これ、やっぱ攻略情報とか無しに選ぶのは怖いな。
 だけどそんなものはもちろん無く、カンとセンスで選ぶしかない。
 正直興味あるのはメイジとかウィザードとか魔法使い系の職業だが……剣士も捨てがたい。
 ええい、これ職業選択だけで数時間くらい使いそうだぞ?

 ん? 何だこれ。
 職業一覧を最後までスクロールして見つけたもの。
 そこに書かれていた文字によって、俺はレムを受けた日に翔子博士から言われたことを思い出す。

『ランダム』

 そうだ。翔子博士は俺に妙なことを言ってきた。「職業選択にランダムがあれば、迷わずそれを選べ」と。
 何か意味があるのだろうか。
 もしかしてランダムを選ぶことによって隠し職業になれるとか?
 それだったらいいがあの博士性格悪そうだったからなぁ~。

 まあいいか。ちょうどいい。
 別にどの職業になっても楽しめるだろうし、職業チェンジもできないわけではないだろうから。
 まあ、非戦闘職になるのはちょっと嫌だけど。
 ということでランダムを選択。
 そして次に表示されたのは……

『プレイヤーネームの設定に失敗しました。この職業は容姿を選択できません。ゲームを開始します』

 そんなわけのわからない文章だった。
 待ってくれよ。
 プレイヤーネームが無しで容姿の選択もできない?
 まさか本名で、この姿のままでやれってか?
 背中に冷や汗が滲んでいるのがわかる。
 ……って妙に感覚がリアルだな。これは本当に夢の中の世界なのか?

 俺の中で疑問が渦巻いていくのに対して容赦なく変化していく視界と『感覚』。
 それはまるで手足がなくなるような……そんな歪な感覚だ。
 ああ、もう始まんのか。始まっちゃうのか。楽しみだ!

 ──そうして世界は光に満ち始める。
 完全に視界が変化し完璧に世界を知覚できるようになる。
 そこで俺は明確な違和感に気づいた。

 あまりに視界が低い。
 それに何だ? 俺は寝転がっている?
 地面に広がる泥の不快な感覚が直接腹に伝わってくる。
 
 おい、嘘だろ⁉︎
 あまりに信じ難い事実に気づく。

 何だこれ、なんなんだこれ。
 俺、手無いよな? それどころか足も無いよな⁉︎
 そう。あるのは頭と腹部にかけての感覚だけ。それに腹部の感覚は異常なほどまでに長い。

 あれ、もしかして、もしかしてだけど……

 俺、人外になっちゃいました?

 声に出したはずなのに、それは意味を持たない奇怪な音となるだけで、虚しく泥中に吸い込まれていくのだった。
 声も出せないのかよ。
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