Dreamers In ATED 〜突然ゲームの世界に囚われたと思ったら、モンスターとしてプレイすることになった〜

Prologue

「後方支援隊！　前線の回復とATK攻撃力強化のバフを急げ！」

「わかってる！　クールタイムが追いつかない！！！」

　広大な空間に、若い男女の一際大きな声がこだまする。
　錫杖を掲げ、剣を降り、様々なスキルを駆使して攻撃を仕掛けるプレイヤーたちにその声は焦りをもたらし、その波紋は少しずつだが広がっていく。
　それでもなお統制の取れた動きを見せるプレイヤーたちは、敵である凶悪なボスモンスターの姿を前にして怯むことなく魔法攻撃と物理攻撃を叩き込んでいるが、ボスモンスターのHP減少はわずかなものである。
　
　ブレスを含んだ咆哮、毒に塗れた必殺の鋭爪、動きを硬直させる邪悪な魔眼。
　そのどれもが確実にプレイヤーたちの統率を崩していき、ボスモンスターは己の力を見せつけていく。
　
　このゲーム世界でのHPの全損は、現実世界に二度と戻ることができないことを意味する。
　
　その恐怖が、十分にレベルを上げ、積み上げてきた装備に身を包み、歴戦の経験を重ねてきたプレイヤーたちの動きを鈍らせた。
　蔓延る叫声。
　その巨体ではあり得ないはずのAGI敏捷力で後方支援隊のプレイヤーたちを蹴散らし咆哮する姿はまさしく『魔』の権化。
　一瞬にして空間は恐怖と、塵となって消え行く同胞たちに向ける哀絶に満ちた怨嗟の声で満ち満ちた。

　そんな光景を前にして、臆せずモンスターの懐に飛び込むプレイヤーが一人。
　彼はシステムによって認められた最高峰の武器を片手に、己の『過去』との断絶を図った──