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第四話 冬~片桐遥香と相葉歩幸の場合~
冬⑩
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クリスマスの翌日からは宣言通り、私は相葉のことを知るために、相葉の働いているファミレスへ通った。
相葉が働いているファミレスは個人経営のもので、すぐ近くにチェーン店のファミレスがごろごろあるからか、あまり人は来ない。
だから店主に事情を話すと二つ返事でうなずいてくれた。
ちなみに店主というのが、実はクリスマスの日に接客をしてくれたあのウェイターだったのは、密かな驚きだったりする。
コーヒーを飲みながら、読書や勉強をしつつ、相葉を盗み見る。
相葉が上がるころには裏口で待って、一緒に帰る。
最初はどことなく嫌がっていた相葉も慣れたのか、単純に諦めたのか、そんな毎日を受け入れ始めていた。
気がつけば休憩時間には話しかけに来てくれるようになった。
気がつけば目が合うようになった。
気がつけば座っているテーブルまで迎えに来てくれるようになった。
気がつけば――……。
どんどん近づいていく距離に、私はどこか浮かれていた。
だからかもしれない。
冬休みが明けて登校日初日。
私は熱を出した。
*
ピピピッと音を立てて体温を測り終えたことを私に知らせる体温計。
脇の下から取り出して数字を見る。
三十八度三分。身体が熱くて重い。
「私、もう仕事行くけど。勝手に学校行かないでよー」
慌ただしく私の部屋を覗くお母さん。
口を開くのもだるいくらいの身体の重さに、声に出さずに、それは小学生のときの話でしょ、と心の中で突っ込む。
もう流石に、周りに熱をうつしてはまずいことぐらい理解している。
「それじゃ、戸締りしておくけど、気をつけてね。行ってきます」
いってらっしゃい、と口の動きだけで言う。
なにが原因か、なんてわかっている。
間違いなく毎日のあの外出だ。
相葉とはいつもケンカばっかりだったのに、今では普通の会話ができる。
まるで一年以上前。
一年生の夏休み前に戻れたような気がして、浮かれていた。
少し体調が悪くても、どうにかなるなんて思ったのが間違い。
よく考えれば、高校を休むなんて初めてだ。
彩香は心配しているだろうか。田口君はたぶん呆れてるかな。相葉は――。
相葉はどうなんだろう。
心配してくれているのかな。
それとも自己管理もできないなんて、って呆れられてるかな。
そんなことを考えていたら、瞼がどんどん重くなっていって、私は夢の世界へ引きずり込まれていった。
相葉が働いているファミレスは個人経営のもので、すぐ近くにチェーン店のファミレスがごろごろあるからか、あまり人は来ない。
だから店主に事情を話すと二つ返事でうなずいてくれた。
ちなみに店主というのが、実はクリスマスの日に接客をしてくれたあのウェイターだったのは、密かな驚きだったりする。
コーヒーを飲みながら、読書や勉強をしつつ、相葉を盗み見る。
相葉が上がるころには裏口で待って、一緒に帰る。
最初はどことなく嫌がっていた相葉も慣れたのか、単純に諦めたのか、そんな毎日を受け入れ始めていた。
気がつけば休憩時間には話しかけに来てくれるようになった。
気がつけば目が合うようになった。
気がつけば座っているテーブルまで迎えに来てくれるようになった。
気がつけば――……。
どんどん近づいていく距離に、私はどこか浮かれていた。
だからかもしれない。
冬休みが明けて登校日初日。
私は熱を出した。
*
ピピピッと音を立てて体温を測り終えたことを私に知らせる体温計。
脇の下から取り出して数字を見る。
三十八度三分。身体が熱くて重い。
「私、もう仕事行くけど。勝手に学校行かないでよー」
慌ただしく私の部屋を覗くお母さん。
口を開くのもだるいくらいの身体の重さに、声に出さずに、それは小学生のときの話でしょ、と心の中で突っ込む。
もう流石に、周りに熱をうつしてはまずいことぐらい理解している。
「それじゃ、戸締りしておくけど、気をつけてね。行ってきます」
いってらっしゃい、と口の動きだけで言う。
なにが原因か、なんてわかっている。
間違いなく毎日のあの外出だ。
相葉とはいつもケンカばっかりだったのに、今では普通の会話ができる。
まるで一年以上前。
一年生の夏休み前に戻れたような気がして、浮かれていた。
少し体調が悪くても、どうにかなるなんて思ったのが間違い。
よく考えれば、高校を休むなんて初めてだ。
彩香は心配しているだろうか。田口君はたぶん呆れてるかな。相葉は――。
相葉はどうなんだろう。
心配してくれているのかな。
それとも自己管理もできないなんて、って呆れられてるかな。
そんなことを考えていたら、瞼がどんどん重くなっていって、私は夢の世界へ引きずり込まれていった。
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