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御堂の寝所に抱きかかえられたまま入った時、あまりの異常な空間に鳥肌が立った。
「なに、ここ……?」
襖を開けると三人程眠れそうなくらい大きいベッド。それ以外はなにも置いてはいない。しかし壁一面にギッシリとわたしの写真が張られており、写真の中の自分と眼が合った時には身震いを隠せなかった。特大ポスターのサイズから、写真サイズまで。大きさはバラバラなのに共通することは一つ。
(カメラのピントにわたしの視線が合ってない)
朝起きて眠そうに歯を磨いているわたしも、体育の授業で水着で泳いでいるわたしも、授業中に退屈そうに頬杖ついているいるわたしも、フォンダンショコラを幸せそうに頬張っているわたしも、どれも当たり前のように過ごしているわたしの生活を映されていて、そこにカメラの存在なんか意識している様子はない。
「よく撮れているでしょう」
うっとりと微笑む男には勝手に写真を撮っていた罪悪感なんて一つもないんだろう。
(この人やっぱり普通じゃない)
駄目だ。ここにいては危険だ。この男は狂っている。そう思うのに力の入らない腕で御堂の胸を押してもなんの意味もない。むしろ楽しそうに笑う余裕があるとまできている。
「調理実習をしている写真なんかどうです? ピンクのエプロンが似合っていて――まるで私のために花嫁修業をしているかのようだ」
あまりに可愛いものだからつい使わせていただきましたよ、と続ける御堂に脳内に響く警戒音が鳴りやむことがない。
(だって写真を使うって。それはつまり……)
――それ以上のことは考えたくなかった。
「やだっ、わたしに触らないでよ!」
御堂に対して堪らないくらいの嫌悪感がわたしの胸を支配する。自分の体重を掛けて彼を押しのけようとすれば、御堂も少しは油断していたようでなんとか畳に着地することが出来た。
(良かった。早くこの部屋から出なきゃ)
もうこれぽっちもこの空間に居たくない。そんな思いで襖に手を伸ばそうとしたが、すぐに御堂の手が覆いかぶさってくる。
「お嬢さん、そんなに暴れると余計にクスリが廻ってしまいますよ」
「くすり?」
「ええ。もう立っているのも辛いのではありませんか?」
そんなもの飲んだ覚えはない。しかし、もしもさっきの紅茶に仕込まれていたとしたら……
「なにを、飲ませたの?」
「ただの媚薬ですよ。遅効性のね」
「びやく」
一瞬意味が分からずそのまま言葉に出して、ようやく彼の本意を知る。
「そう。まずは弱い筋肉弛緩剤が効き、相手の動きを鈍くした後に、ジワジワと甘く疼いてくるそうですよ。そのうち身体が熱なっていきますからね」
「熱く……?」
そんなことになんかなっていない、と彼の腕を跳ね除けようとした時だった。身体がカクンと床に崩れ落ちて、そのまま身体が動かすことが出来ないことに気付いた。
(いやだ、そんなの!)
このままでは逃げられないじゃないか。
「身体の感覚は残るようなので安心してくださいね? 私がお嬢さんに気持ちいいことを教えてあげますよ」
ちっとも大丈夫じゃないことを彼は言う。
「御堂、お願い。やめて……」
いやいやと首を横に振っても彼の笑みは深まるばかりだ。
「ふふ、可愛らしい反応ですね。けれど、それが男の欲を増幅させるのですよ」
わたしの唇にゆっくりと親指でなぞる彼は薄く笑い、そのままわたしの上着を剥ぎ取っていく。
「やっ! やだ……」
力の入らない腕で彼の手を抑えても無駄なこと。彼はどんどんわたしの衣服を脱がしていき、すぐにわたしは靴下しか纏っていない姿となる。ニーハイだけしか身に着けていないのに、御堂はネクタイすらも緩めないままキッチリとダークグレーのスーツを着こなしていることがより羞恥心を煽る。慌てて腕で胸を隠そうとすれば、あえなく彼の腕に纏めあげられてしまう。
「隠さないでください」
それは明確な命令だった。別に大きな声で怒鳴られたわけではない。けれど、彼の鋭い一声に逆らうと余計に恐ろしいことになると容易に想像ができる。そのためわたしにできるのは眼を瞑って、早く御堂のねっとりとした視線が逸れることを祈るだけだった。
「嗚呼、やっぱり想像していたモノなんかより綺麗だ……」
興奮しているのだろうか。いつもより掠れた声は妙に色っぽくて艶があり、それだけでわたしの肌がゾクリと泡立った。
「ふふ、これは良いコレクションになりそうですね」
(え……?)
わたしが疑問に思ったことを口にするよりも早くパシャリとカメラの音が響き渡る。
「御堂、今の音は?」
「お嬢さんの美しい姿をカメラに納めただけですよ」
当然だとばかりに言い切る彼に一瞬言葉を失いそうになる。
「…………なんでそんなものを」
「お嬢さんが私から逃げようとしたらいけませんからね――いわば保険です。借金の回収でも女を風俗に飛ばす手段でもあるんですよ。最初の内に映像を撮ってしまって逃げる気を削いでしまう手段は古典的ですが未だに有効な手ですからね」
これでお嬢さんは私から離れられませんね、と口付ける御堂にわたしは思い切り睨み付けてやる。
「いやっ! 今すぐに消して下さい」
「これでお嬢さんを繋ぎ止められるというのに、どうして消す必要があるのですか? 大丈夫。お嬢さんが良い子でいれば私しか見ませんよ」
つまりわたしが離れようとした瞬間に公表するというのだ。
「ひどい。どうしてそんなことをするんですか」
「どうして……? 私が貴方を愛しているからですよ、お嬢さん」
「本当に愛しているというのならこんなひどいことはしないはずですっ!」
「ひどい? それならばお嬢さん。私はここ一年ずっと貴方に優しく接してきたつもりです。それなのに貴方は私を怖がって、ひたすら私に関わらないように避けていただけじゃありませんか。だから私も思ったんです。徹底的に貴方を調教してやろうと。例え貴方が私を嫌いでも、身体が私を求めるようにしてしまおうと」
長い告白はどこまでも歪で、それがわたしが御堂を狂わせてしまったのだという確かな証拠でもあった。
「なに、ここ……?」
襖を開けると三人程眠れそうなくらい大きいベッド。それ以外はなにも置いてはいない。しかし壁一面にギッシリとわたしの写真が張られており、写真の中の自分と眼が合った時には身震いを隠せなかった。特大ポスターのサイズから、写真サイズまで。大きさはバラバラなのに共通することは一つ。
(カメラのピントにわたしの視線が合ってない)
朝起きて眠そうに歯を磨いているわたしも、体育の授業で水着で泳いでいるわたしも、授業中に退屈そうに頬杖ついているいるわたしも、フォンダンショコラを幸せそうに頬張っているわたしも、どれも当たり前のように過ごしているわたしの生活を映されていて、そこにカメラの存在なんか意識している様子はない。
「よく撮れているでしょう」
うっとりと微笑む男には勝手に写真を撮っていた罪悪感なんて一つもないんだろう。
(この人やっぱり普通じゃない)
駄目だ。ここにいては危険だ。この男は狂っている。そう思うのに力の入らない腕で御堂の胸を押してもなんの意味もない。むしろ楽しそうに笑う余裕があるとまできている。
「調理実習をしている写真なんかどうです? ピンクのエプロンが似合っていて――まるで私のために花嫁修業をしているかのようだ」
あまりに可愛いものだからつい使わせていただきましたよ、と続ける御堂に脳内に響く警戒音が鳴りやむことがない。
(だって写真を使うって。それはつまり……)
――それ以上のことは考えたくなかった。
「やだっ、わたしに触らないでよ!」
御堂に対して堪らないくらいの嫌悪感がわたしの胸を支配する。自分の体重を掛けて彼を押しのけようとすれば、御堂も少しは油断していたようでなんとか畳に着地することが出来た。
(良かった。早くこの部屋から出なきゃ)
もうこれぽっちもこの空間に居たくない。そんな思いで襖に手を伸ばそうとしたが、すぐに御堂の手が覆いかぶさってくる。
「お嬢さん、そんなに暴れると余計にクスリが廻ってしまいますよ」
「くすり?」
「ええ。もう立っているのも辛いのではありませんか?」
そんなもの飲んだ覚えはない。しかし、もしもさっきの紅茶に仕込まれていたとしたら……
「なにを、飲ませたの?」
「ただの媚薬ですよ。遅効性のね」
「びやく」
一瞬意味が分からずそのまま言葉に出して、ようやく彼の本意を知る。
「そう。まずは弱い筋肉弛緩剤が効き、相手の動きを鈍くした後に、ジワジワと甘く疼いてくるそうですよ。そのうち身体が熱なっていきますからね」
「熱く……?」
そんなことになんかなっていない、と彼の腕を跳ね除けようとした時だった。身体がカクンと床に崩れ落ちて、そのまま身体が動かすことが出来ないことに気付いた。
(いやだ、そんなの!)
このままでは逃げられないじゃないか。
「身体の感覚は残るようなので安心してくださいね? 私がお嬢さんに気持ちいいことを教えてあげますよ」
ちっとも大丈夫じゃないことを彼は言う。
「御堂、お願い。やめて……」
いやいやと首を横に振っても彼の笑みは深まるばかりだ。
「ふふ、可愛らしい反応ですね。けれど、それが男の欲を増幅させるのですよ」
わたしの唇にゆっくりと親指でなぞる彼は薄く笑い、そのままわたしの上着を剥ぎ取っていく。
「やっ! やだ……」
力の入らない腕で彼の手を抑えても無駄なこと。彼はどんどんわたしの衣服を脱がしていき、すぐにわたしは靴下しか纏っていない姿となる。ニーハイだけしか身に着けていないのに、御堂はネクタイすらも緩めないままキッチリとダークグレーのスーツを着こなしていることがより羞恥心を煽る。慌てて腕で胸を隠そうとすれば、あえなく彼の腕に纏めあげられてしまう。
「隠さないでください」
それは明確な命令だった。別に大きな声で怒鳴られたわけではない。けれど、彼の鋭い一声に逆らうと余計に恐ろしいことになると容易に想像ができる。そのためわたしにできるのは眼を瞑って、早く御堂のねっとりとした視線が逸れることを祈るだけだった。
「嗚呼、やっぱり想像していたモノなんかより綺麗だ……」
興奮しているのだろうか。いつもより掠れた声は妙に色っぽくて艶があり、それだけでわたしの肌がゾクリと泡立った。
「ふふ、これは良いコレクションになりそうですね」
(え……?)
わたしが疑問に思ったことを口にするよりも早くパシャリとカメラの音が響き渡る。
「御堂、今の音は?」
「お嬢さんの美しい姿をカメラに納めただけですよ」
当然だとばかりに言い切る彼に一瞬言葉を失いそうになる。
「…………なんでそんなものを」
「お嬢さんが私から逃げようとしたらいけませんからね――いわば保険です。借金の回収でも女を風俗に飛ばす手段でもあるんですよ。最初の内に映像を撮ってしまって逃げる気を削いでしまう手段は古典的ですが未だに有効な手ですからね」
これでお嬢さんは私から離れられませんね、と口付ける御堂にわたしは思い切り睨み付けてやる。
「いやっ! 今すぐに消して下さい」
「これでお嬢さんを繋ぎ止められるというのに、どうして消す必要があるのですか? 大丈夫。お嬢さんが良い子でいれば私しか見ませんよ」
つまりわたしが離れようとした瞬間に公表するというのだ。
「ひどい。どうしてそんなことをするんですか」
「どうして……? 私が貴方を愛しているからですよ、お嬢さん」
「本当に愛しているというのならこんなひどいことはしないはずですっ!」
「ひどい? それならばお嬢さん。私はここ一年ずっと貴方に優しく接してきたつもりです。それなのに貴方は私を怖がって、ひたすら私に関わらないように避けていただけじゃありませんか。だから私も思ったんです。徹底的に貴方を調教してやろうと。例え貴方が私を嫌いでも、身体が私を求めるようにしてしまおうと」
長い告白はどこまでも歪で、それがわたしが御堂を狂わせてしまったのだという確かな証拠でもあった。
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