上 下
46 / 91

45

しおりを挟む

 「随分、遅かったな」

  御堂さんはわたしを待つこともなく、ドンペリを飲んでいた。お前も飲めとばかりにグラスを差し出され、形ばかりの乾杯をして、口に含む。
 初めて飲む高いお酒の味は、やけに苦く炭酸が強いように思い、正直美味しいと感じない。それでも仕事である以上、飲まない訳にはいかなかった。



  会話もない気まずい部屋の中で、わたしが出来るのはお酒を呑むことだけだ。延長の確認も既に言ってあるため、ボーイがこの部屋にやってくるのは灰皿の交換とアイスペールの交換時のみ。
 お互い無言のまま飲んでいると、どうしてもお酒を飲むスピードが上がり、いつの間にかわたしの方がお酒に呑まれてしまったようだ。


 (あつい……)

  涼しいくらいだと感じていた室内は、お酒を多く飲んだ影響からか身体が火照り、じっとりと汗ばむ。
 潤む視界の端で、ウイスキーを口にする彼の姿が艶めかしく映った。

 「ペースが早過ぎたんじゃないか」

  諫めるような口調ではあるが、彼は甲斐甲斐しくペットボトルのキャップを取って渡してくれた。だというのに距離の感覚すらも狂ってしまったのか掴めずに、そのまま太腿に溢してしまう。

 「……あ」

  下腹部が濡れていくさまが気持ち悪く、内腿を擦り合わせる。その途端、やけに粘り気のある感触が肌に伝う。

(どうして……)

 先程、彼に触れられた名残がまだ燻っているのだろうか。もしも御堂さんに知られたら、と想像するだけで羞恥で眩暈がしそうだ。

 (絶対に知られたくない)

  こんな恥知らずのような身体にいつの間になってしまったのか。
 彼にだけは悟られたくなくて、慌ててテーブルにあったおしぼりで乱暴にドレスを拭く。けれど御堂さんの手に掴み取られ、阻止されてしまう。

 「ドレス痛んじまうぞ。借りモンなんだろうから、もっと丁寧に扱ってやれ」

  そのままおしぼりは奪われ、丁寧にしみ抜きをされていく。けれど他意はないとしても下腹部の際どいところを彼に触れられている感覚に身体が疼く。

 「あの、もういいですから……」

  これ以上ボロが出る前に止めてほしい。触れられるたびに反応しそうになっていることを隠すのは、もう限界だ。

 「……いや、飲ませ過ぎた俺にも責任はある。お前は気付いていないかもしれないが、さっきから妙に顔も赤いし、目も潤んで――相当酒に呑まれてしまったみたいだな」

  本来であれば、突然彼の態度が軟化したことを疑った。だがこの時、酔いと身体の火照りがバレなかった安堵で頭がいっぱいになっており、何も変だと思わなかった。

  ――だから彼の含み笑いさえも見逃してしまうのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

【短編ホラー集】迷い込んだ者たちは・・・

ジャン・幸田
ホラー
 突然、理不尽に改造されたり人外にされたり・・・はたまた迷宮魔道などに迷い込んだりした者たちの物語。  そういった短編集になりはたまた  本当は、長編にしたいけど出来なかった作品集であります。表題作のほか、いろいろあります。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【短編集】エア・ポケット・ゾーン!

ジャン・幸田
ホラー
 いままで小生が投稿した作品のうち、短編を連作にしたものです。  長編で書きたい構想による備忘録的なものです。  ホラーテイストの作品が多いですが、どちらかといえば小生の嗜好が反映されています。  どちらかといえば読者を選ぶかもしれません。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ
恋愛
 剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。  そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。  予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。  リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。 基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。 気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。 ※表紙、作中、オマケで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています ※連載中のサイトは下記4か所です ・note(メンバー限定先読み他) ・アルファポリス ・カクヨム ・小説家になろう ※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。  Hamu's Nook> https://mutsukihamu.blogspot.com/

逆襲妻~二股夫を追い出し若き社長を食らう

青の雀
恋愛
人形作家で主婦の美和子は、ある早朝奇妙な夢で目が覚める 顔はよくわからないが、体つきから明らかに若い男からの愛撫に身を蕩けさせられている夢 近頃、旦那とご無沙汰だからか、変な夢を見てしまったのだと思っていた 旦那の和男とは、いわゆる職場結婚で子供ができたことをきっかけとして、美和子は、人形作家としてデビューする 人形作りは、娘時代に趣味でやっていただけだったが、いわゆるプロはだしで当時から大勢のファンがいた 専業主婦にならず、家で仕事をする美和子は、子供を育てながら、和男の帰りを待っている ある時、和男のワイシャツに口紅が付いていることに気づく 問い詰めると喧嘩に発展し、髪の毛を掴んでひっ張られる暴行を受ける 売り言葉に買い言葉で、和男はそのまま家を出ていってしまう 言いすぎたことを反省した美和子は、和男を迎えに行くべき、探しに行くが…和男が美和子の同期入社の女子社員と浮気している現場を目撃してしまう 悲しくて、つらくて、つい自分を慰める行為に夢中になる そんなとき、偶然出会った若い男性に和男の不満をついこぼしてしまったことから急接近 その男性に手マンでイカされ、女としての自信を取り戻す 夫に復讐すべくある行動を起こす… よくある話です 初夢にこんなストーリー性のある夢を見たことから書きます

処理中です...