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しおりを挟むわたしが咳き込めば、大きな手で背中をさすられる。その手はどこかぎこちない。
そして落ち着いた頃を見計らって、御堂さんはサイドテーブルに置いてあったペットボトルの水をわたしに差し出す。
キャップまで取られて渡されたミネラルウォーター。その気遣いを有難く思いながら口を付ければ、身体に染み渡る冷たさが心地良くてうっとりと目を細めた。
「熱があるんだ。とりあえずベッドで横になって休め」
促されるまま再び布団に入ると、ゆっくりと頭を撫でられる。
再び訪れるとろりとした眠気。しかしそれに身を委ねれば、この穏やかな時間が終わってしまう。だから抗おうとしたのに、大きな掌が目を覆った。
「御堂さん……」
「今は寝て、回復しておけ」
視界が暗くなったことで、うつらうつらと眠気がやってくる。
今度はそれに逆らわずに、素直に瞼を閉じた。
再び起き上がると身につけていたパジャマは違う物に変わっていた。
(御堂さんが着せてくれたのかしら?)
だとしたら、なんだか申し訳ない。
眠って重たくなっている人間に服を着せるのは重労働だ。それをさせてしまったことへの申し訳なさと、着せ替えられて肌を見られていることへの恥ずかしさ。二つの感情が交差したのち、ひとまず彼にお礼を言おうとベッドから抜け出す。
御堂さんが居たのはキッチンだった。
部屋に入ると換気扇が作動しているのにも関わらず、どこか焦げ臭い。洗い場には鍋と皿が散乱しており、彼はその中心で林檎を剥こうとしていた。
御堂さんの近くには食べる所が大幅に削られた不恰好な林檎がいくつも皿に置いてあり、茶色に変色していることからそれなりの時間が経過していることが分かった。
(わたしのために?)
皮剥きに苦心している彼は未だわたしが部屋に入ってきていることにすら気付いていない。
真剣な横顔にどう声を掛けようか迷って、それでも着替えのお礼を言う為に、彼の名を呼んだ。
「御堂さん」
「……っ!」
珍しく彼は動揺したのか包丁がまな板に落ちる。大丈夫ですか、と声を掛けると無骨な彼の手に何枚か絆創膏が貼ってあることに気付く。
「それは……」
格好が悪いと思ったのか、後ろ手に回してわたしから見えないようにした。しかし、一度見てしまったのだ。手当しますから見せて下さい、と言い募る。
「ただの擦り傷だ」
「……消毒はしましたか?」
「放っておきゃ治るだろう」
ふぃっと顔を背ける彼に、わたしは近付いて彼の手を掴む。
「おい」と声を荒げられたが、不思議と怖くはない。それよりもと傷ぐ口を確認する。
傷が付いていたのはどこも林檎を持っていた左手。
既に血は止まっているものの、適当に絆創膏だけ貼って処置を済ませたその場所は見ているだけで痛々しい。
幸いにも救急箱はダイニングテーブルに置かれていた。きっとそこには消毒液も置いてあるはずだろう。
けれど、一つ気になることがあった。
「……どうしてこんな怪我までして、林檎を剥こうとしたんですか?」
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