サラブレッドの銃弾

みん

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17話 現在 真菜

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「真菜、乗馬行こっか。」

 次の日、ママさんからそんなお誘いがあったとき、時計の針は8時33分を指していた。ニュースでは昨日の有馬記念が流れている。

“新城、有馬記念を制す。”

12月24日15時43分。

新城選手が年の暮れの最高峰レース「有馬記念」を制すと報道は大騒ぎをした。この年齢でこのレースに勝つということは本当に大変なことのようだ。

都心では号外が配られ、夕方の番組では何度もレースの解説があった。中央から徐々に外枠へ抜け、第4コーナーを曲がって最後の直線、馬の末脚にかけた彼の競馬は称賛された。

新城選手は、競馬界の注目の的となっていた。もちろん私もテレビの前で手に汗握って応援していた。ゴールを一位で通過した時は、自分のことのように誇らしく、涙さえ滲んでいた。

「え、いいの?」

「もちろんよ。お母さんも興味あったし、この間スーパーで体験乗馬の無料チケットが当たったの。少し遠いけれど、海沿いに乗馬クラブがあるから、行ってみない?」

ママさんの誘いはとても魅力的だった。夜中に見た夢と写真はまだ頭の中をぐるぐると駆け回っていて、答えは見えてこない。
「そうなんだ。だったら行く!」

そんな時は、体を動かし、気分転換をしていれば何か名案が浮かぶかもしれない、と楽観的に思ったのだ。

 乗馬クラブは車で2時間ほど走った岬の先にあった。圧倒的に真っ白なその建物は、この世の汚れから解放された世界に生まれた建築物に思えた。

広い駐車場に車を停め、中へ入る。すると、一人の男性が待ち構えていた。

「いらっしゃいませ。」

きちんとした細見のスーツを着る男は、笑顔を見せてこちらへどうぞ、と案内をする。背丈は施設長と一緒くらいだろうか、すらっとした長身だ。

「今日はどういったご用事で?」

「この娘を馬に乗せてあげたくて、予約してないんですけど大丈夫ですか?」

ママさんはそう言い、男の方を見る。

「ええもちろん。乗馬は初めてということですね?」

そう言うと男はママさんと話をする。初めての乗馬クラブということもあり、色々と並ぶ道具が珍しく、商品コーナーを眺める。ヘルメットや手袋、靴なんかもあって、中々格好良い。

「そしたら、後はよろしくお願い致します。」

5分ほど経った後、ママさんの礼儀正しい声が聞こえた。その声はなんだかいつもの彼女とは違った声に聞こえた。

担任の先生が校長先生と話している時のような、目上の人への敬意のようなものが感じられた。
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