17 / 31
17話 現在 真菜
しおりを挟む
「真菜、乗馬行こっか。」
次の日、ママさんからそんなお誘いがあったとき、時計の針は8時33分を指していた。ニュースでは昨日の有馬記念が流れている。
“新城、有馬記念を制す。”
12月24日15時43分。
新城選手が年の暮れの最高峰レース「有馬記念」を制すと報道は大騒ぎをした。この年齢でこのレースに勝つということは本当に大変なことのようだ。
都心では号外が配られ、夕方の番組では何度もレースの解説があった。中央から徐々に外枠へ抜け、第4コーナーを曲がって最後の直線、馬の末脚にかけた彼の競馬は称賛された。
新城選手は、競馬界の注目の的となっていた。もちろん私もテレビの前で手に汗握って応援していた。ゴールを一位で通過した時は、自分のことのように誇らしく、涙さえ滲んでいた。
「え、いいの?」
「もちろんよ。お母さんも興味あったし、この間スーパーで体験乗馬の無料チケットが当たったの。少し遠いけれど、海沿いに乗馬クラブがあるから、行ってみない?」
ママさんの誘いはとても魅力的だった。夜中に見た夢と写真はまだ頭の中をぐるぐると駆け回っていて、答えは見えてこない。
「そうなんだ。だったら行く!」
そんな時は、体を動かし、気分転換をしていれば何か名案が浮かぶかもしれない、と楽観的に思ったのだ。
乗馬クラブは車で2時間ほど走った岬の先にあった。圧倒的に真っ白なその建物は、この世の汚れから解放された世界に生まれた建築物に思えた。
広い駐車場に車を停め、中へ入る。すると、一人の男性が待ち構えていた。
「いらっしゃいませ。」
きちんとした細見のスーツを着る男は、笑顔を見せてこちらへどうぞ、と案内をする。背丈は施設長と一緒くらいだろうか、すらっとした長身だ。
「今日はどういったご用事で?」
「この娘を馬に乗せてあげたくて、予約してないんですけど大丈夫ですか?」
ママさんはそう言い、男の方を見る。
「ええもちろん。乗馬は初めてということですね?」
そう言うと男はママさんと話をする。初めての乗馬クラブということもあり、色々と並ぶ道具が珍しく、商品コーナーを眺める。ヘルメットや手袋、靴なんかもあって、中々格好良い。
「そしたら、後はよろしくお願い致します。」
5分ほど経った後、ママさんの礼儀正しい声が聞こえた。その声はなんだかいつもの彼女とは違った声に聞こえた。
担任の先生が校長先生と話している時のような、目上の人への敬意のようなものが感じられた。
次の日、ママさんからそんなお誘いがあったとき、時計の針は8時33分を指していた。ニュースでは昨日の有馬記念が流れている。
“新城、有馬記念を制す。”
12月24日15時43分。
新城選手が年の暮れの最高峰レース「有馬記念」を制すと報道は大騒ぎをした。この年齢でこのレースに勝つということは本当に大変なことのようだ。
都心では号外が配られ、夕方の番組では何度もレースの解説があった。中央から徐々に外枠へ抜け、第4コーナーを曲がって最後の直線、馬の末脚にかけた彼の競馬は称賛された。
新城選手は、競馬界の注目の的となっていた。もちろん私もテレビの前で手に汗握って応援していた。ゴールを一位で通過した時は、自分のことのように誇らしく、涙さえ滲んでいた。
「え、いいの?」
「もちろんよ。お母さんも興味あったし、この間スーパーで体験乗馬の無料チケットが当たったの。少し遠いけれど、海沿いに乗馬クラブがあるから、行ってみない?」
ママさんの誘いはとても魅力的だった。夜中に見た夢と写真はまだ頭の中をぐるぐると駆け回っていて、答えは見えてこない。
「そうなんだ。だったら行く!」
そんな時は、体を動かし、気分転換をしていれば何か名案が浮かぶかもしれない、と楽観的に思ったのだ。
乗馬クラブは車で2時間ほど走った岬の先にあった。圧倒的に真っ白なその建物は、この世の汚れから解放された世界に生まれた建築物に思えた。
広い駐車場に車を停め、中へ入る。すると、一人の男性が待ち構えていた。
「いらっしゃいませ。」
きちんとした細見のスーツを着る男は、笑顔を見せてこちらへどうぞ、と案内をする。背丈は施設長と一緒くらいだろうか、すらっとした長身だ。
「今日はどういったご用事で?」
「この娘を馬に乗せてあげたくて、予約してないんですけど大丈夫ですか?」
ママさんはそう言い、男の方を見る。
「ええもちろん。乗馬は初めてということですね?」
そう言うと男はママさんと話をする。初めての乗馬クラブということもあり、色々と並ぶ道具が珍しく、商品コーナーを眺める。ヘルメットや手袋、靴なんかもあって、中々格好良い。
「そしたら、後はよろしくお願い致します。」
5分ほど経った後、ママさんの礼儀正しい声が聞こえた。その声はなんだかいつもの彼女とは違った声に聞こえた。
担任の先生が校長先生と話している時のような、目上の人への敬意のようなものが感じられた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
プラトニック添い寝フレンド
天野アンジェラ
ライト文芸
※8/25(金)完結しました※
※交互視点で話が進みます。スタートは理雄、次が伊月です※
恋愛にすっかり嫌気がさし、今はボーイズグループの推し活が趣味の鈴鹿伊月(すずか・いつき)、34歳。
伊月の職場の先輩で、若い頃の離婚経験から恋愛を避けて生きてきた大宮理雄(おおみや・りおう)41歳。
ある日二人で飲んでいたら、伊月が「ソフレがほしい」と言い出し、それにうっかり同調してしまった理雄は伊月のソフレになる羽目に。
先行きに不安を感じつつもとりあえずソフレ関係を始めてみるが――?
(表紙イラスト:カザキ様)
DARSE BIRTHZ。(ダースバース。)
十川弥生
ライト文芸
⚠️再執筆中⚠️
第0話は完了
これは世界の謎を解き明かす物語———。
2020年3月14日、日出国(ひいずるこく)上空に突如謎の球体が出現。それにより未知の化物、化(ローザ)が全国各地に現れ、街々は壊滅的な状況となった。そんな中、たった一人の男の登場により事態は収束の一途を辿る———。
時は流れ、化(ローザ)と交戦する一つの職業が生まれた。人はそれを化掃士(かそうし)と呼ぶ。
球体が現れた衝撃の理由とは———
【完結】誕生日の奇跡
三園 七詩
ライト文芸
赤ちゃんの頃から双子のように育ったユウジとカズヤ家も隣同士で幼稚園の頃からずっと一緒。
お互いが親友と自他ともに認め会う中の二人に突然の別れが訪れた。
昔に書いた話を新たに書き直しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる