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4杯目 ブリューな気持ち

完敗

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「しかし、妙ですね」


 窓の外を眺めていたマスターが、振り向くことなく、まるで自分に言い聞かすように呟いた。


「どうかされましたか?」


「いえね炎魔将軍、どうして魔物たちは人の姿に化けて仕事をしているのです?慣れない姿は大変でしょうに」


 俺は、立ち上がりマスターの隣へと歩を進める。マスターの視線の先には確かに、魔物の姿を保った者は一人もいない。確かに、魔物の巨大な体躯のほうが力は発揮しやすいだろう。ホップ入りの木箱だろうがダース単位で持ちは込めるんじゃなかろうか。


「ああ、それは、設備が人間用のサイズだからです。魔物の体だと大きすぎて、バルブ一つ閉めるのにも苦労しますので」


「ははぁ、そこまでは思い至りませんでした。なるほど、よく考えているものです」


「ですが、そこに少し問題もありまして……」


 炎魔将軍が横目に俺をチラリと見る。どうやら、俺にはあまり聞かせたくない話らしい。



「構いません。話してください」


「……人に化けているせいか、彼らの思考や性質が人間に寄ってきているようなのです」


「具体的には、どうなってきているのですか?」


「魔族とは、そもそもみな姿かたちが違えども一つの群れのようなものです。ミノタウロスもオーガもオークも等しく群れの一員であり、その頂点には魔王様が君臨しています。魔王様が黒を白と言えば、それは白になり。犬を猫だと言えば、それは猫となります。しかし、その絶対的な関係性が魔物たちが人間性を手に入れたことで薄れつつあるのです」


「人間性……?」


「所謂、アイデンティティを獲得したということでしょうか?」


「そのとおりです」


「俺には、貴様は元よりそれを持っていたように見えるんだが」


「強い魔物は、確かにアイデンティティを持ちうるものだ。だがそれが、下級魔族にまで広がりつつあるということだ」


「人に化けると人に近づくということですか。興味深いものです」


 そこへ、扉が勢い良く開けられ男が入ってきた。眼帯をつけたその男の肩には、その両方に樽が抱えられていた。


「ビール……持ってきたぞ……」


 大男は、樽を無造作に机の上に置いて去っていった。炎魔将軍は、棚からジョッキを持ち出しマスターと俺に渡してくれた。


「こういうのって、ジョッキに注いで持ってくるもんじゃないのか……?」


「どうせ、おかわりするんだ。こっちのほうが早いだろう?」


 俺は、若干呆れつつも「まあ、それもそうか」と妙に納得してしまっていた。

 炎魔将軍に促され、樽にジョッキを突っ込みビールをすくいあげる。魔族の造った酒か、如何ほどの物であろうかと早速口に運ぼうとするとマスターがそれを制してきた。


「せっかくですから」


 マスターはそういって、その手に握られたジョッキを俺たち3人の中央へと伸ばす。意図を察した炎魔将軍が、忌々しそうにしかしマスターに逆らうわけにもいかず同じようにジョッキを差し出してきた。ここで、それに抗うのも大人げないだろう。


「乾杯! 」


 俺たちは、マスターの掛け声に合わせてジョッキを重ねた。
 
  
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