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新しい比乃子、爆誕!
第3話 逃走せよ!
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「それについてはDDに代わり、ワシが話してしんぜよう」
現れたのは、白衣姿の小柄な老人だった。
手術台に拘束されたわたしの傍まで、足音をたてずに近づいてくる。総白髪の頭は燃えさかる炎のように逆立ち、口もとも仙人のような長い白髭で覆われた容姿はまさに、ディス・イズ・ザ・マッド・サイエンティストだ。
「ふーむ……どれどれ」
その老人は、白衣の前ポケットから見覚えのある生徒手帳を取り出すと、指先を舐めてからページを捲りだす。
「キミの名前は……火野比乃子さんか。火野さんはのう、とっても優秀な人間じゃから、我々に選ばれたんじゃよ」
「はぁ? 選ばれたって…………やだ、これってスカウトだったの!? ムホホォ(ここでゲスい笑顔になるわたし)……で、わたしはどこの芸能事務所からデビュー? 地下アイドルスタートでも、ライブ出演料はちゃんと寄越しなさいよね!」
「うむぅ? キミはいったい何を言っておるのじゃ? 芸能事務所は関係ないぞい。キミはな、改造人間の被験者として選ばれたんじゃよ」
「改造……人間……?」
この髭爺は真顔でなにを言ってるんだろう。
改造人間だなんて汚れキャラ、神レベルのアイドルになるわたしに不必要な設定だし。
ああ、そうか。
これも夢なんだ。夢の続きなんだ。
そうでなければ、ジャクソン伍長や手術室の拘束プレイなんて、非現実的な出来事があるはずないじゃない。
「……とまあ、そういう訳で、今から脳改造も済ませて完璧な改造人間にしてやるぞい。今度目覚めた時には、忠実なる我らの戦士として週六の残業四時間(帰宅後にも書類作成等の必要性あり)でバリバリ働くのじゃぞ! ガッハッハッハ!」
「ちょっ、なにが『ガッハッハッハ』よ! そんなブラック過ぎる労働時間、国が暗黙の了解をしても絶対に神様がゆるさないんだからね! それに、改造人間だなんて全然意味がわからないし、冗談はよしてよ!」
いくら夢でも、わからないことだらけの納得がいかないことだらけな話に、わたしは下着姿だけど本気でぶちギレた。
「とーにーかーくッ! これを外してください!」
「言われて簡単に外すのなら、はじめから拘束などせんわい。大体、改造は無事成功したし、変身すれば自力でどうにかなるはずなんじゃがのう?」
大の字に広げられた手足をばたつかせるわたしの要求に、納得がいかない様子で髭爺が首をかしげる。
「あっ……ううっ……朝食が消化されて、なんだかお腹が……と、トイレ……うら若き乙女だから、こんなところで漏らしたくないです……ウォォォ……」
「ホワット?! 白神博士、シスターがなにを漏らすのか知らないけどよ、後片づけはソーリーだぜ!」
「うーむ、なにか嫌な予感がするが、どれ、外してやるかいの」
「ありがとうございます! 優しいおじいさんって、とても素敵で、見ているだけでも癒されますよね!」
感謝の気持ちと御世辞を口走りながら、手足の革ベルトを外し終えるのを確認したわたしは、起き上がりざまに髭爺のこめかみをグーで殴ると、手術室のドアを体当たりでぶち開けて全速力で廊下を走って逃げた。
裸足で逃げるわたしは、冷たい廊下に体温を奪われながらも出口を必死に探す。全速疾走で風を切る下着姿の身体も肌寒いし、夢にしてはずいぶんとリアルに感じられた。
それにしても、無事にこの施設から逃げ出せたとして、うら若き乙女が下着姿のままで助けを求めるのも、夢とはいえ、なんか嫌だ。
勘を頼りに進んでいけば、出口の代わりにロッカー室のプレートが付けられた扉をみつけた。
ここだったら洋服のひとつくらいはあるだろう。
注意深く廊下を見渡してから、そっと開けて中へ入る。
室内は結構な広さで、ハリウッド映画や海外ドラマとかに出てくる、スポーツ選手の控え室みたいな感じだった。
手当たり次第に施錠されていないロッカーを探す。
すると、〝吉田(孝)〟と書かれたネームプレートのロッカーが勢いよく開いた。
プロ野球の電光掲示板じゃないんだから、フルネームにしてやれよと心の中でツッコミを入れつつ、プラスチック製のハンガーに掛けられている黒い衣服を手に取る。
背に腹は代えられない──。
一瞬だけ躊躇したけれど、覚悟を決めたわたしは、〝吉田(孝)〟の残り香が染みついた黒い衣服を身につけることにした。
現れたのは、白衣姿の小柄な老人だった。
手術台に拘束されたわたしの傍まで、足音をたてずに近づいてくる。総白髪の頭は燃えさかる炎のように逆立ち、口もとも仙人のような長い白髭で覆われた容姿はまさに、ディス・イズ・ザ・マッド・サイエンティストだ。
「ふーむ……どれどれ」
その老人は、白衣の前ポケットから見覚えのある生徒手帳を取り出すと、指先を舐めてからページを捲りだす。
「キミの名前は……火野比乃子さんか。火野さんはのう、とっても優秀な人間じゃから、我々に選ばれたんじゃよ」
「はぁ? 選ばれたって…………やだ、これってスカウトだったの!? ムホホォ(ここでゲスい笑顔になるわたし)……で、わたしはどこの芸能事務所からデビュー? 地下アイドルスタートでも、ライブ出演料はちゃんと寄越しなさいよね!」
「うむぅ? キミはいったい何を言っておるのじゃ? 芸能事務所は関係ないぞい。キミはな、改造人間の被験者として選ばれたんじゃよ」
「改造……人間……?」
この髭爺は真顔でなにを言ってるんだろう。
改造人間だなんて汚れキャラ、神レベルのアイドルになるわたしに不必要な設定だし。
ああ、そうか。
これも夢なんだ。夢の続きなんだ。
そうでなければ、ジャクソン伍長や手術室の拘束プレイなんて、非現実的な出来事があるはずないじゃない。
「……とまあ、そういう訳で、今から脳改造も済ませて完璧な改造人間にしてやるぞい。今度目覚めた時には、忠実なる我らの戦士として週六の残業四時間(帰宅後にも書類作成等の必要性あり)でバリバリ働くのじゃぞ! ガッハッハッハ!」
「ちょっ、なにが『ガッハッハッハ』よ! そんなブラック過ぎる労働時間、国が暗黙の了解をしても絶対に神様がゆるさないんだからね! それに、改造人間だなんて全然意味がわからないし、冗談はよしてよ!」
いくら夢でも、わからないことだらけの納得がいかないことだらけな話に、わたしは下着姿だけど本気でぶちギレた。
「とーにーかーくッ! これを外してください!」
「言われて簡単に外すのなら、はじめから拘束などせんわい。大体、改造は無事成功したし、変身すれば自力でどうにかなるはずなんじゃがのう?」
大の字に広げられた手足をばたつかせるわたしの要求に、納得がいかない様子で髭爺が首をかしげる。
「あっ……ううっ……朝食が消化されて、なんだかお腹が……と、トイレ……うら若き乙女だから、こんなところで漏らしたくないです……ウォォォ……」
「ホワット?! 白神博士、シスターがなにを漏らすのか知らないけどよ、後片づけはソーリーだぜ!」
「うーむ、なにか嫌な予感がするが、どれ、外してやるかいの」
「ありがとうございます! 優しいおじいさんって、とても素敵で、見ているだけでも癒されますよね!」
感謝の気持ちと御世辞を口走りながら、手足の革ベルトを外し終えるのを確認したわたしは、起き上がりざまに髭爺のこめかみをグーで殴ると、手術室のドアを体当たりでぶち開けて全速力で廊下を走って逃げた。
裸足で逃げるわたしは、冷たい廊下に体温を奪われながらも出口を必死に探す。全速疾走で風を切る下着姿の身体も肌寒いし、夢にしてはずいぶんとリアルに感じられた。
それにしても、無事にこの施設から逃げ出せたとして、うら若き乙女が下着姿のままで助けを求めるのも、夢とはいえ、なんか嫌だ。
勘を頼りに進んでいけば、出口の代わりにロッカー室のプレートが付けられた扉をみつけた。
ここだったら洋服のひとつくらいはあるだろう。
注意深く廊下を見渡してから、そっと開けて中へ入る。
室内は結構な広さで、ハリウッド映画や海外ドラマとかに出てくる、スポーツ選手の控え室みたいな感じだった。
手当たり次第に施錠されていないロッカーを探す。
すると、〝吉田(孝)〟と書かれたネームプレートのロッカーが勢いよく開いた。
プロ野球の電光掲示板じゃないんだから、フルネームにしてやれよと心の中でツッコミを入れつつ、プラスチック製のハンガーに掛けられている黒い衣服を手に取る。
背に腹は代えられない──。
一瞬だけ躊躇したけれど、覚悟を決めたわたしは、〝吉田(孝)〟の残り香が染みついた黒い衣服を身につけることにした。
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