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第2幕

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 カランカラン、音がする。
 カランカラン、金属音。
 手足が窮屈で動かせない。
 一体どうして……?

「あ、起きた?」

 聞き慣れない少女の声。
 きっとまた犠牲者の声だ。

「加奈子ちゃんが生き残ってくれてて本当に良かったよ。もし死んでたらさ、今回は大失敗どころか超失敗で終わっちゃうもん」

 わたしの名前を……知っている?
 朦朧とする頭でいくら考えてみても、まともな答えなんて出てくるわけがない。
 見えるのは、錆びついて朽ちかけたトタン屋根の薄暗い天井だけ。それに手足が動かせないのは、ベッドの四隅に付けられた手錠で拘束されていたからだった。
 熱っぽくて気持ちが悪い。
 吐きそうで辛い。
 誰か早く助けて。

「水を……ください……」
「水? ミニリュック、ゲットできなかったの?」

 わたしの顔を覗き込んだのは、死んだはずのヤスカちゃんだった。
 顔中が血まみれで額の生傷が痛々しい。どうやら今度は、ヤスカちゃんの亡霊がわたしの相手をしてくれるようだ。

「ごめんね、冷蔵庫まで遠いから、今はわたしの唾液で我慢してよ」

 そう言ってヤスカちゃんは、身動きがとれないわたしの唇を奪った。
 生まれて初めての大人のキス。
 強引にねじ込まれる舌の感触がくすぐったい。

「ん……ングッ……んん!」

 甘い唾液と血の味が口内に広がってゆく。咽喉のどの渇きがそれすらも求め、ゴクゴクと音を鳴らして全部飲み込んでしまった。

「プハァ………うふふ、またしちゃったね。さっきのキスが初めてだったら、超嬉しいかも」

 舌舐めずりしながら顔を離すヤスカちゃんのは、冷血動物特有の、蛇のような魔性の光を放っていた。
 そして彼女は、無言のまま当然のようにスクールリボンを外すと、シャツのボタンにまで触れてくる。

「えっ……なにするの? やめてよヤスカちゃん!」
「ウフフ、決まってんじゃん、セックスだよ」
「そんな!? わたしたち、女の子同士だよ!?」
「あれ? 加奈子ちゃん知らないの? 女の子同士でもセックスできるし、男とするよりとっても気持ちいいんだよ?」
「それでも……それでもわたしはしたくない! やめてよヤスカちゃん、気持ち悪いよ!」

 わたしの願いが届いたのか、ヤスカちゃんはピタリと手を止める。
 止めたのは指先の動きだけじゃなくて、まばたきもやめてしまった。

「……は? 気持ち悪い? 気持ち悪いって、なにが? もしかして、わたしに言ってる? …………障害者を見殺しにするような薄情者の分際で……わたしを気持ち悪いって、おまえ何様のつもりだよ!?」

 そうだ……そうだった。
 ヤスカちゃんは喋れないはず。なのに目の前で饒舌に振る舞っているのはヤスカちゃんで……だけど、ヤスカちゃんは死んだはずだし……ダメだ、頭がよりいっそう混乱してきて、なにもわからない!

「……いいよ、もう。萎えたわ」

 一気に落胆した様子に変わったヤスカちゃんは、ベッドから離れて立ちあがる。

「さようなら」

 そしてそのまま、何処かへと立ち去っていってしまった。

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