上 下
46 / 55
新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

光と闇の戦士たち(3)

しおりを挟む
 グワシィィィィィィィン!

 巨大な幻影が音を立てて、割れた鏡のように砕け散る。続けざまに左右の前肢が虚空を薙げば、長大な真空波がマルスとあたしのパーティーを襲った。

「うおおおおおおおおおおおおッ!」

 おっさんがプリシラをかばって攻撃を二度受ける。すぐに体力は無くなり、また瀕死状態になってしまった。

「ありがとうガルラス、すぐに回復を……」

 早口で唱えられる回復魔法。
 あっちには回復役がいてくれるから大丈夫かもしれない。けれど、こっちのパーティーは、ダイラーに頼ってしまうと彼の真価が発揮出来ない。かといって、あたしの回復魔法は初歩レベル、焼け石に水程度だ。

「おまえたち、体力がヤバくなってもオレをあてにするなよ……オレは、自分の得意技にたっぷりと魔力を使いたいからな」
「フッ、はじめからあてにはしていない。そっちこそ先に倒れるなよ」
「ちょっと、ふたりとも……!」

 ダイラーとミメシスが、また険悪な雰囲気になりかかってる。
 でも、回復アイテムはなにも持ってはいないし、これ以上ダメージを受けてしまうと、プリシラの負担が多過ぎて勝てる相手にも勝てなくなってしまう。いったいどうすれば──。

 パチン……パチパチパチパチ……!

「えっ? なになに?」

 ダ=ズールの口が左右に開いてゆく。大気中の魔素マナが次々と咽喉のどに吸い込まれて……って、まさか、またアレを放つの!?

「クソッたれ!」

 ダイラーが飛ぶ!

氷刃連撃魔法アイス・カッター!』

 シャシャシャシャシャーン!!
 シャシャシャシャシャーン!!

 解き放たれる無数の氷の斬撃。
 大きく開けられた口内を的確に連発で狙い撃つ。
 けれど──攻撃を止めるまでには至らなかった。

闇黒波動砲ナイト・コア……!!』

 あたしたちは耐えた。
 マルスたちも今回は耐え抜いた。
 それでも、光と闇の戦士たちは、全員が瀕死状態になってしまった。
 プリシラがこっちを気にしていたので、あたしは力の限り大声で叫んだ。

「あたしたちは大丈夫だから、プリシラはマルスたちを回復して!!」
「う、うん! ロアもがんばって!」

 本当は全然大丈夫なんかじゃないし、がんばれない。
 だけど、別パーティーのあたしたちまで回復していたら、プリシラの魔力がすぐに無くなってしまう。
 それは、みんなの死を意味していた。
 三回死んだあたしたちは、次こそ死ねばそれまでだ。転生なんてありえない、永遠の死──魂は無へと還る。

(本当にどうしたらいいのよ……ダイラーはまだ動けないし、あたしの回復魔法じゃ話にならないし……)

 と、そのときだ。
 あたしは、とっておき・・・・・を思い出した。

「そうだ……そうよ……アレがあるじゃない! この中にまだ、アレがあるはず……!」

 ウエストポーチを漁って、ボロボロの御守りをひとつ取り出す。
 これは、メイドのセーリャが旅の餞別としてくれたものだ。
 もしも本当に辛くて挫けそうになったら、そのときにこれを使ってください──そう涙ながらに言って、贈ってくれた御守り。すでにボロボロなのは、セーリャのうちに代々伝わる家宝だからだそうだ。
 今までなんとか頑張ってこれたけど、今回ばかりはもうどうしようもない。あたしは、念じられるだけ強く念じて、御守りを天高くぶん投げた。

「お願いセーリャ、あたしたちを助けて!」

 シュルルルルルル……………………ピカーッ……!

 虚空を高速回転するボロボロの御守りから、まばゆいばかりの青白い光線がいくつも放たれる。やがてそれは、暗雲の空いっぱいに広がっていき、超巨大な魔法陣をえがきはじめた。

「あれって……召喚魔法?」
「むうっ……あの図柄は……天界の者か?」

 ダイラーが言うように、あれは天使たちを司る光の使徒の図柄によく似ていた。つまり、聖なる力を持つ大天使が召喚される可能性が極めて高い。

「やった! ありがとう、セーリャ!……って、あらっ?」

 突然、上空の魔法陣が反転して上下逆さにもなる。こんな図柄、見たことも無いんですけど!?

「あれは……堕天だてんの紋様か……?」

 あたしのとなりで、ミメシスが苦しそうにつぶやいた。

「堕天て…………えっえっ? 結局、どんな召喚獣が出てくるのよ!?」

 ゴゴゴゴゴ……ゴゴゴゴゴ……!

 奇っ怪な紋様の中心にある巨大な魔法円の中から、背中の右側にだけ黒い翼をもつひとりの人物が現れる!

 そして、あの見覚えがあるメイド服と笑顔は──。

「いやーん、もうー! 遅いっ! ロアお嬢様ったら、がんばり屋さんだから、全然呼んでくださらないんだもーん! プンプン!」

 わが家のメイドであり無二の親友でもある、セーリャだ!!

「えっ!? 本当にセーリャなの?」
「もちろんでこざいます……ぴとっ♡」

 片腕に片乳をこすりつけながら抱きついてくるこの仕草、間違いなく御本人様だ。

「ロア、知り合いなのか?」
「あら? トカゲ野郎の分際で、ロアお嬢様を呼び捨てにするなんて……死にたいのかよ、てめぇ?」

 にっこりと笑顔で威嚇するこの姿勢スタイル、間違いなく御本人様だ。

「おまえは、冥界の……」
「おっと! それ以上は、すとーっぷ♡」
「ん?!」

 セーリャが、なにかを言いかけたミメシスの唇を右手の人差し指だけで制止する。ミメシスはなにかを知っているのかな?

「ねえ、セーリャ……あなたっていったい……」
「わたくしはわたくし、単なるロアお嬢様の愛玩動物です……ポッ♡」
「やめて、マジで! 知らない人が聞いたら、そんな関係なんだって誤解しまくるから、マジでやめて!」
「ウフフ、とりあえず……チュッ♡♡」
「なんでキスしたの!? なんで今このタイミングでほっぺにキスしたのかな!?」

 とにかくなぜか、四人目の仲間として、メイドのセーリャがあたしたちのパーティーに加わった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

処理中です...