上 下
41 / 55
新章突入! ラストダンジョンで勇者パーティーに捨てられたから、あたしお家に帰りたいです。

惣闇に舞う孔雀(3)

しおりを挟む
 エレロイダにある安全な隠れ場所とは、ラストダンジョンのことだった。
 移動魔法陣を何度も使い、地下迷宮も迷うことなくキリ=オに導かれてたどり着いた先──そこは、異次元要塞エレロイダの中心地・総司令部だ。
 と言っても、調度品はなにも見当たらない、だだっ広いだけの空間なんだけどね。

「この奥の部屋に、ささやかながらベッドが一台あります。どうかそこで休んでください」
「あっ、うん……え? キリ=オはどうするの?」
「ボクはエレロイダを本格的に稼働させる準備をしてから、休ませてもらいます」
「ふーん……あんまり無理しないで頑張ってね」
「ありがとうございます」

 キリ=オにつられて、あたしも笑みを返す。
 マピガノスと違って彼はよく笑顔を見せてくれる。同じ竜人族でも全然印象が違う。彼のように竜人族全員が友好的であれば、きっと滅亡なんてしなかったと思うんだけど……歴史を変えることなんて、神様でも出来ない無理なことなのかな……。


     *


 あたしが仮眠したあとも、キリ=オはずっと休まずに魔力を使っていろいろと操作を続けていたようで、なにもなかった空間に、エレロイダ全体やラストダンジョン内各所の映像が細かく割られて壁面いっぱいに映し出されていた。
 その中には、ここ総司令部の画像もあって、なぜかあたしの胸の谷間がクローズアップされていた。

「ええっ?! ちょっと、キリ=オ!?」
「ハッハッハ! すみません、悪戯いたずらが過ぎました。謝罪します」
「もう!」

 少しだけ頭にきたあたしは、彼の引き締まったお尻をパチンと平手で軽くはたく。叩いてからちょっとやり過ぎたかなって、ちょびっとだけ後悔。

「おっと、クリティカルヒットです! ててて」
「んなわけないでしょ、もう。そういえばさ、どうしてあなたたちって全裸なのよ? 鎧とか着れば守備力がもっと上がるのに」
「ああ……それはですね、普段はなにかと便利な人の姿をしていますが、本来はドラゴンの姿をしているので、変身を解いたときに衣類は邪魔にしかならないんですよ」
「あっ……そっか、ビリビリって皮膚が破けるもんね」

 あたしは、変身したマピガノスの姿を思い出していた。

「おや? よくご存知で……むっ?」
「どしたの?……あ!」

 禁忌の扉が映されている画面に、大勢の竜人族が進軍してくる様子が見える。でも、マピガノスはいないようだ。

「ええっ!? ガッツリこっちに来てるじゃん!」
「ボクだけの魔力で禁忌の扉を閉じることは出来ません。こうなったら、戦うしか……」
「ちょっと!? ひとりでどこ行くのよ!?」
「この要塞には、開発されたばかりの新しい宝具がいくつかあります。それを使ってボクが時間稼ぎをしているあいだに、デレリアは逃げてください」
「そんな……絶対に死んじゃうって! 戦うなら、一緒に行きましょうよ!」
「それはなりません。また捕まってしまえば、今度こそあなたは……」
「フフッ、あたしの魔力は全回復してるから、少なくともキリ=オよりは強いわよ」
戦闘力レベルの問題じゃない! 忘れたんですか!? 我々が開発した兵器で、あなたの闇属性の魔法はすべて無効化されたことを!」
「げっ!? そうなの!?」

 なんかよくわからないけれど、そういうことらしい。
 つまりあたしは、今も昔も、やっぱり要らない存在みたい。

「……そんな悲しそうな顔をしないで。あなたが悲しむと、なぜかボクまでとても心苦しくなります」
「うん……ごめんね。ちょっといろいろとあって、ね」
「…………」

 なにやら考え込むキリ=オ。
 深いため息のあと、

「わかりました。あなたも宝具を使って一緒に戦いましょう」

 そう言ってくれた。


     *


「えっ、宝具って……これのことなの?」

 それは、いつか見た、なんか先っぽのほうが蜥蜴トカゲみたいな三本指がギュインて内側に曲がったような形をしていて、古代文字によく似た模様が柄の全体に細かく彫られてる、不気味なオーラと存在感を放つ槍なのか杖なのかよくわからない物だった。

「ええ、そうです。これは一見すると普通の槍ですが、とてつもない破壊力を秘めた武器でもあります。一瞬にして生命体を溶かしてしまうんですよ」
「へぇー、そんなスゴい槍だったんだ。置いてきて損しちゃったな」
「? とにかく、デレリアは扱いやすいこれを。ボクはこちらのつるぎを使います」
「それもなにか特殊な効果があんの?」
「いえ……ただ単純シンプルに、どんな物も斬ることが出来ます」
「どんな物も? それはそれでスゴいわね」

 ふたつの宝具を装備したあたしたちは、ラストダンジョンに続々と侵入してくる竜人族の兵士たちを協力して倒し続けた。
 それでも、一向にその数が減らない。むしろ、増えている気がした。

「おかしい……どうやら援軍要請をしたみたいだ。それにマピガノスの姿が見えないのも不気味でならない」

 マピガノスは絶対にいるはず。
 だって、ラストダンジョンの地下迷宮に閉じ込められていたのだから。

「ねえ、もしかしてさ、マピガノスは総司令部を抑えるつもりじゃない?」
「……なるほど。あそこへの移動魔法陣は、ひとつだけじゃない。しかし、このまま向かうのも退路が断たれて危険です。それにこの状況で戦力が二分されるのも厳しい」
「どうすんのよ、それじゃ!? 迷ってるあいだにもアイツ──」
「デレリア、危ない!」

 戦闘では一瞬の油断が命取りになる。
 ましてや、百戦錬磨の竜人族を相手にするなら尚更だ。
 脇腹が熱い。
 生暖かい感覚が広がっていく。
 この感覚は、矢で射ぬかれたときと同じで大嫌いだ。

「くぅ……あ……」

 膝から崩れるあたしを、キリ=オが受け止めて支えてくれた。

「デレリア…………ウォオオオオオオオオオオオッ!!」

緑青の肌を突き破り、岩石のような皮膚が現れる。怒りのオーラを放ちながら、キリ=オは竜の姿に変身した。


     *


 それから先のことはよく覚えてはいないけれど、傷だらけの変身したキリ=オに横抱きにされたまま、総司令部までたどり着き、ベットにあたしは寝かされた。

「キリ=オ……敵は……どうなったの?」
「そんなことはどうだっていい。今はゆっくりと休むんだ」
「だけどあなたも……酷い傷……」

 ゴツゴツとした身体からあふれ出る群青色の血液にそっと触れる。
 冷たくて硬い皮膚。それでも、流れる血はたしかに温かかった。

「ボクは……大丈夫だから。デレリア、ボクはようやくわかったんだ。今になって……遅いけど、わかったんだよ」

 キリ=オがなにかの言葉をあたしに優しく語りかけてくれている。けれども今のあたしには、どんな言葉も──部屋の外の爆発音ですらも聞き取り難くなっていた。

「お願い……キリ=オ……お願いが……あるの……あたしを……あたしの身体を食べて……」
「?! デレリア、なにを言うんだ!」
「あたしはもうすぐ死ぬわ……だけど、あたしが死んでも、マピガノスたちは別の女神を捕らえるはずよ。だから止めなくちゃ……お願い、キリ=オ……あなたなら……あなたになら……」
「デレリアッ!!」

 そこで、あたしの意識は途切れてしまった。

 あたし、このまま死んじゃうのかな……?

 キリ=オは……。

 デレリアは……。

 ふたりは、いったいどうなったの?





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!

蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。 家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。 何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。 やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。 そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。 やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる! 俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

処理中です...