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第三章
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てっきりイーサンは、自らカールと会うつもりだと思っていたが、その役をウォルターに任せ、テオには夕食を作るよう命じた。
急な命令で戸惑ったが、ウォルターはオートミールを温めるだけで調理が完了するようにしてくれていた。それにボイルドマトンと酢漬けのビートルートを付け合わせれば、立派な夕食のできあがりだ。
食卓に着いたイーサンは、特に文句を言うこともなく食べ始める。テオはホッとして向かいに腰掛け、スプーンを取り上げた。
「なぜご自分でいらっしゃらなかったんです?」
テオの質問に、イーサンは顔も上げずに答える。
「君も行きたかったなら、そう言えば良かったのに」
「いえ、そういうわけでは」
「工場勤務が終わる夜分遅くに、イーストエンドをうろつくのは危険だろう?」
イーサンの言葉に、テオはつい笑ってしまう。
「何がおかしい?」
「だってイーサンは、そんなことを気にする人じゃないでしょう」
ナイフとフォークを置いたイーサンは、じっとテオを見て言った。
「僕が行くと目立つからな。ウォルターなら職工といっても差し支えない」
「でもこれまでは、目立つことを厭わなかったでしょう? オルコット夫人にも、本名を語ったくらいなんですから」
「僕はそういう風に行動すると、周囲に印象づけておいたんだよ。カールとの接触は、細心の注意を払わないといけないからね。僕の見立てでは」
イーサンはそこで急に話をやめた。
「この続きは、ウォルターが戻るまでお預けだ」
気になるがきっとイーサンは話してくれないだろう。テオは諦めて、大人しく夕食を食べることにした。
急な命令で戸惑ったが、ウォルターはオートミールを温めるだけで調理が完了するようにしてくれていた。それにボイルドマトンと酢漬けのビートルートを付け合わせれば、立派な夕食のできあがりだ。
食卓に着いたイーサンは、特に文句を言うこともなく食べ始める。テオはホッとして向かいに腰掛け、スプーンを取り上げた。
「なぜご自分でいらっしゃらなかったんです?」
テオの質問に、イーサンは顔も上げずに答える。
「君も行きたかったなら、そう言えば良かったのに」
「いえ、そういうわけでは」
「工場勤務が終わる夜分遅くに、イーストエンドをうろつくのは危険だろう?」
イーサンの言葉に、テオはつい笑ってしまう。
「何がおかしい?」
「だってイーサンは、そんなことを気にする人じゃないでしょう」
ナイフとフォークを置いたイーサンは、じっとテオを見て言った。
「僕が行くと目立つからな。ウォルターなら職工といっても差し支えない」
「でもこれまでは、目立つことを厭わなかったでしょう? オルコット夫人にも、本名を語ったくらいなんですから」
「僕はそういう風に行動すると、周囲に印象づけておいたんだよ。カールとの接触は、細心の注意を払わないといけないからね。僕の見立てでは」
イーサンはそこで急に話をやめた。
「この続きは、ウォルターが戻るまでお預けだ」
気になるがきっとイーサンは話してくれないだろう。テオは諦めて、大人しく夕食を食べることにした。
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