ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

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スローモーションを見ているような感じだった。
よく、「死」を感じた時に全ての動きがゆっくり見えると聞くが、まさにその通りだった。

見上げた先には、太陽の光を反射する白刃がキラキラと輝き眩しかった。
命を取られることはない。それは絶対にない。分かっている。
けど、それ以上の屈辱が待っている。きっと「死んだほうがマシ」と思う程の事が・・・・・

残像を残しながら白刃が振り下ろされる。それを操る人物は楽しそうな顔をしていた。
金色の瞳を歪め、白い牙を見せた唇は吊り上がり、これからの事を楽しむような顔だった。

あぁ・・・・・終わった
負けてしまった
負けてしまったんだ・・・・・

「負け」を考えてしまったら自然と顔が笑ってしまった。
何に対してか分からないけど笑ってしまった。
けど、本来の目的は達成された。後は、無事にみんなの元に帰るだけ。
それで、いい・・・・・いいんだ・・・・・

夜神は笑って、白刃を受け入れる覚悟を決めた。
その白刃は夜神の体を傷付けることはない。
けど、心を傷付ける白刃だ。
その、白刃が夜神に近づく寸前で地面から何・か・が生えてきて白刃を弾き返した。

「「！！！？」」

それは二人にとって摩訶不思議な光景だった。
夜神を守るようにそ・れ・は夜神に纏わりついていた。
そ・れ・は皇帝の白刃を弾き返し、狂剣から夜神を守った。
そ・れ・のせいで皇帝は、己の身を守るため何歩か後ろに後退した。
そ・れ・を見て二人は声を出した。

「い、おり君？」「荊デアドルン！！」
荊が地面から生え出てきて夜神を守る。そして、その荊は見覚えがあり、操る者を知っている。
だから夜神と皇帝は同じ方を見た。

そこには痩せて弱りきっているがいるが、意志の強さだけはずっと変わらない瞳を二人に向けている青年が鳥籠の中にいた。
地面に向けて手のひらを押し付けている姿は、何故かとても必死で、まるで命を掛けているような雰囲気が醸し出されている。
「庵君！！やめてぇぇ！死んじゃう！そんな体で力を使わないで！」
「忌々しいっっ！！早く止めさせろ！」
二人の叫び声が広場に伝わる。けど、それを遮るように庵は叫ぶ。
「凪っっ！！！負けるなっっっ！！勝て！」
この広場で唯一の、たった一人の夜神の味方の庵が叫ぶ。この二人以外は全てが皇帝の味方。貴族も騎士も全てが吸血鬼で、皇帝を絶対君主に仰ぎ、忠誠を誓う吸血鬼。

忠誠を誓うから、皇帝の命令を聞く。「止めさせろ」と命令があったのならそうするまで。
騎士達が庵に向かっていく。けど、それを邪魔するように荊が庵を守る。
「心配ない！勝つことだけを考えろ！凪っ！！」
庵が叫ぶと夜神を守るようにしていた荊が体に巻き付いていく。

不思議・・・・荊なのに、棘トゲが痛くない。確実に刺さっているのに・・・・
何故なんだろう？体が軽い？まるで荊がアシストするように纏わりついてくる。
介護現場や力仕事で使用するパワーアシストスーツのように。
体を包みこんでくれる。まるで、後ろから優しく抱き締めて、そっと、手を添えてくれるように・・・・・
庵君の優しさが包みこんでくれる・・・・・

刀を握っている手に荊が巻き付いていく。既に刀を握るのも辛くて、気合だけで握っていた。
そんなボロボロの手に巻き付いていく。優しく包みこんでくれる。そっと、手を添えてくれるように。

足腰も限界だった。だから、皇帝の体重を掛けた攻撃に耐えきれず、地面に倒れてしまった。
そんな足に巻き付いてくれる。体の負担を軽減してくれる。

私に皇帝との勝負を促してくれる。ここで終わりではない。勝負はまだ続く。負けるな・・・・・
そう、背中を押してくれる・・・・・

刀を持つ手に巻き付く荊をそっと触れる。
「庵君・・・・・あなたは本当に優しくて、強くて・・・・ありがとう・・・・・」

聞こえてなくてもいい
「ありがとう」これは本当の気持ち
「ありがとう」私に力を貸してくれて
「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」
何回言ってもまだ、足りない。だから、見ていて・・・・・今、あなたに私の気持を見せるから！

夜神は再び赤い瞳に意思を宿す。力のある強い意思を。
そして、刀を強く握る。それに合わせて荊もキュッと巻き付きを強くする。
頭から全身に伝令する「再び立ち上がれ」と。伝令は全身に行き渡り、立ち上がる為の力を作る。
それをアシストするように荊も力を貸してくれる。

夜神はゆっくりと立ち上がり、皇帝を見ると刀を正眼の構えから変化させていく。刀を握ったまま左の肩まで刀身を持っていく、肩越し構えにする。相手を見て攻守両方に適した構えを取る。

「イライラさせるナーフェンっ！！」
ルードヴィッヒは「チッ！」と舌打ちをしていた。
あと、一歩。あと、一歩で全てが終わったのに。虚しい気持ちもこれが終わり、再び小鳥だけの生活になれば元に戻ると思っていたのに、早く愚者ナールがいなくなればと思っていたのに・・・・・

邪魔をする。どうして、邪魔をするんだ？
私の前から消えろ！
小鳥の前から消えろ！その存在も何もかも消えろ！
視界に映るな！存在を映すな！
消えろ！消えろ！消えろ！消えろ！！

「視界からゲー・ミア・アオス消えろ・デン・アオゲン」
ルードヴィッヒは叫んで、庵の攻撃を止めさせるように騎士達に命令していた。
けど、庵も意地がある。そんな事に屈しないと、荊を使い騎士達の行く手を阻む。

そんな中、夜神は再び立ち上がり、己の意志で刀を構える。絶対に「打ち勝つ」と赤い瞳に強さを宿す。
ルードヴィッヒはその様子を見て、こめかみが引く付くのを感じた。

ここまで不快に感じた事も、腹立たしさを感じた事も今まであったのだろうか？
いいや・・・・無いかもしれない。
あぁ・・・・・本当にイライラするなぁ・・・・

「気にエス・ゲフェルトいらない・ミア・ニヒト・・・・・」
静かに言った。氷のような冷たさを含んでいた。
静かに刀を構える夜神を見て、ルードヴィッヒも剣を構える。

その体に巻き付く荊が、何の意味があるのか分からない。
荊が巻き付くのも気に食わない。その、荊は王弟の末裔の力・・・・
小鳥には荊より、鎖の方がお似合いだよ？
そう、鎖の方が、ね？

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よく、漫画の表現に体に荊が巻き付いている描写がありますが、あんな感じです。
ただし、結構な巻き付きで（笑）

タイトルのように大佐は、鎖か荊で絡め取られる運命なんですよ～
この、戦いを考えていた当初から、この構図をずっ～～と温めていました。
やっと書けて満足です。きっとイラストとかで表現したら、綺麗でエロい構図だなぁ～と妄想したり。誰が書いて～～と嘆いてみたり・・・・・

三人？ある意味三人の戦いは激化します。果たしてちゃんと表現出来るのだろうか？