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白練色の髪に軽く唇を落とし、いつの間にか側にいたローレンツを見上げると、軽く笑い、眠っている夜神を横抱きにして立ち上がる。
「ね、私とローレンツと凪ちゃんのだけの秘密になったよね?」
「えぇ、そうですね」
客間で懸念していた事はこれで解消してしまった。
白いお嬢さんを壊すために、自分達の生活も何もかも奪ったのは白いお嬢さんの先祖だと教えた。
最初は戸惑っていたが、その姿を見た途端、何かが崩壊したのだろう。
自分達が苦しんでいる間、お嬢さんはいい生活をしていたと勘違いする。
着ている物が明らかに違いがある。一目見ただけで分かる。
後は、勝手に勘違いしたまま、自分達を正義だと言って始末しょうとする。
そこを、控えていた騎士達が逆に始末していく。
そして、目の前で限界ギリギリだったお嬢さんは、陛下の言葉に踊らされて真っ逆さまに落ちていき、心を壊していった。

・・・・・茶番だな。
けど、お嬢さんには耐え難い苦痛だろう。肉体的出なく心身的に。
この、餌達も勝手だな。
お嬢さんは取り戻すために闘っていたのだが・・・・
まぁ、私には関係ない事だ。

「陛下、この後はいかが致しますか?」
「ん~~この餌達に家族はいたのかな?」
「夫、妻、子供と居ますよ」
念の為、この餌達の家族構成は把握している。

「そうなんだね・・・・・私の為に命をかけて頑張ってくれた餌の家族に貴族の称号を与えよう。士爵の称号を与えてあげようか」
「本気ですか?それは余りにも・・・・」
餌の中でも、本当に我々に対して素晴らしい偉業を成した者にだけ「士爵」の称号が与えられる。

けど、それ以外に与えられる場合もある。
「私はこの世界の皇帝だよ?国民の為にを提供するのも立派な仕事の一つさ」
どうやら、この「士爵」の称号は後者の方だ。
長い時間を生きる我々には、娯楽に飢えている。
だから、娯楽が必要なのだ。
他愛の無いことを仰々しくし、偉大な功績だと讃え貴族の称号を与える。
けど、貴族の殆どは吸血鬼だ。貴族に対して誇りを持っている。その中に餌が混じるなど言語道断と不快を示す。
だから虐めるのだ。目に見え分かる事から、本人にも分からない事まで徹底的に。
そして、その餌は貴族の称号を返還する。耐えきれなくて。

そして、餌の暮らしに戻ってもそこに安穏も何もない。
貴族に魂を売った裏切り者とレッテルを貼られ、餌の社会からも孤立する。
そうして、全てに絶望して命を断つ事が多い。
そして、貴族は遊ぶのだ。一体、この餌はどれぐらい持つのかと・・・・
一ヶ月?半年?一年?
餌が崩壊するまでの期間を賭け事に興じて楽しむ。
これが後者の称号を与える意味だ。陛下はこの、後者の意味で与えるようだ。
「畏まりました。そのように手配致します」
「ありがとうローレンツ。あぁ、あと、君達」

ルードヴィッヒは後ろに控えている騎士達に声をかける。
「「はっ!」」
声をかけられた騎士達は短い掛け声と共に姿勢を但し、ルードヴィッヒを見る。
「ご苦労だったよ。私の大切な小鳥が傷つかず済んだのは君達のおかげだよ。死体とはいえまだ時間も経ってない。まだ、新鮮だよ。思う存分、血を啜ることを許すよ。今回の褒美だよ。たまにはグラスから飲むのではなく、直接飲みたいものだよね?」

吸血鬼の食事は「血液」だ。この吸血鬼の世界には連れ去られた人間が多くいる。
だからといって、勝手に血を啜っていいとは限らない。
我々に定期的に血の提供をしているのだ。
そして、提供された血を食事する。
中には、金の為、贅沢の為に自ら血を啜らせる事をする餌もいる。

我々、吸血鬼と餌である人間の合意の元、直接血を啜ることが可能だ。
好き勝手には出来ない。もし、してしまったら罰せられるのは吸血鬼側だ。
そんな明確な線引をしている。これは餌に対する一応の敬意を示している。

そんな理由で直接血を飲むことが出来ないが、この世界の皇帝陛下が許可したのだ。
「宜しいのでしょうか?陛下・・・・」
「勿論だよ・・・ほら、早くしないと鮮度がどんどんと落ちてしまう。私もそろそろ部屋に戻るから気にせず啜ればいいよ。丁度三人で分け合えばいい・・・・・」
笑いながら提案して、ルードヴィッヒは騎士達に背を向けて歩き出す。
すると、騎士達は騎士の礼をして見送る。ローレンツはそのままルードヴィッヒの一歩後を付いて行く。

「ローレンツはよかったのかい?」
「血が啜れるのは魅力的ですが、所詮は死体。出来れば生きた状態がいいですね。なので遠慮させて頂きますよ・・・・・・陛下・・・」
ローレンツの少し強張った声でルードヴィッヒは立ち止まる。
「なんだい?ローレンツ」
「・・・・呪いは、陛下を蝕んでいた呪いは無くなりましたか?」

幼い頃からずっと見ていた。苦悩して、時には恐れていた。
その呪いの正体を今日こんにちまで分からなかった。
けど、明かされて、全てを悟り、気の済むまで付き合った。
その結果が今、皇帝の腕の中で全てを放棄して、己を壊し、赤子のように眠る白いお嬢さんの全てを手に入れて、満足しているようにも見える。
見ようによっては、解呪しているようにも見える。

「・・・・そうかもね。無くなったのかも知れないし、新たな呪いになったのかも知れないし・・・それはこれからかな?」
「そうですか・・・・白いお嬢さんは血で汚れてしまいましたね。侍女長に湯浴みの準備をさせておきますので、部屋でお待ち下さい。準備が整い次第お呼びいたします」
これ以上は聞かないことにしょう。今は静観しておくほうがいいのかもしれない。

ローレンツは別の話題にすり替えて「呪い」の話は終わらした。
ローレンツのちょっとした気遣いに苦笑いをして、ルードヴィッヒの腕の中で眠る夜神を見る。
顔や頭に赤い斑点が目立つ。先程、友達の血を浴びて付いてしまった血は、白い髪や肌には映える
が、早く落としたいとも思える。
「ありがとう。宜しく頼むよ。では、私は部屋に大人しく待っているから・・・・私の部屋に来てもらうように頼んでおいてね」

ルードヴィッヒの言葉を聞いて、ローレンツは「かしこまりました」と返事して城の廊下の左右に其々分かれる。
ルードヴィッヒはそのまま自分の部屋にいくと、部屋の前で待機していた騎士に扉を開けてもらい部屋に行く。
そのまま、自分の寝室まで行くと、広い寝台に夜神をそっと寝かせると、ベッドを軋ませて上がる。

「侍女長に綺麗にしてもらおうね?ドレス姿も合っていたけど、この服もいいね。今度は白いワンピースとか良いかもしれないね?」
頭を撫でて、頬を撫でて、そのまま首筋を撫でる。
夜神自身が傷つけた跡と、先程友達に付けられた締め跡を撫でて、心臓の部分で止まる。

鷲掴みし、まるで「命を握っている」と誇示する。
「あぁ、手に入れた。全部だ!全部だよ。頭の天辺からつま先まで誰にも渡さない。髪の一筋もだ。瞳には私を映し、声は愛らしく私の名前を呼び、愛を囁やくんだよ?いいね?」
眠っている白いヴァイセ・クライナー・フォーゲルを閉じ込める、呪いにも似た剥き出しの独占欲の言葉を浴びせる。
「さぁ、私の為に歌っておくれ・・・・・」
見下ろす金色の瞳は愉悦、独占欲、愛憎全てが混ざった暗い光が、仄暗い炎が見えていた。

侍女長が来るまでルードヴィッヒはずっと、夜神に呪いにも似た言葉と視線を浴びせ続けていた。
本当に呪っているようにも見えるぐらい、延々と浴びせ続けていた。



朝日の中、目を覚ます。自分の腕にはスヤスヤと寝息をたてる小鳥がいる。
そっと、抱きしめると「ん~~」と、言いながらモゾモゾと動き出す。
「おはよう。凪ちゃん」
ルードヴィッヒが声を出すと、ゆっくりと瞼が上がる。
赤い目をこちらに向けると、寝起きなのか、それとも別の要因なのか、硝子のような光も意思もない瞳を向ける。
「・・・・・・」
「おはよう。凪ちゃん。挨拶出来るかな?」
ルードヴィッヒの声を聞いて、赤い唇がゆっくりと動き出す。
「・・・・・お、はよ、う・・・・」
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