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「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ━━━━━━━━!!!!」

熱い・・・・・・

血液が沸騰しているのかもしれない。それぐらい体全体が熱い

そして、骨が軋む。まるで砕かれたような気分だ。実際は砕かれてないし、繋がっている。けど、それぐらい骨がギチギチと軋む

全ての毛穴に針を入れられているような気分になるほど、皮膚に突き刺さる痛みがある
皮膚の痛みと同じくらい、腰から臀部にかけてある、軍に対して忠誠を誓ったタトゥー部分が、が燃えるように熱い。まるでそこに直火を当てられていると錯覚してしまうほど熱い

心臓を鷲掴みされた様に掴まれて、握り潰されているぐらい心臓は痛い

頭は鈍器で殴られたような、万力でギチギチと締められていると錯覚するほど頭は痛く、耳鳴りもしてくる

息もままならない程、呼吸は満足に出来なくて「ゼーゼー」と肩で息をする

体を支えることなど出来なくて、赤い絨毯に倒れ込む。
胸辺りを掻き抱く。そうしたからと言って痛みが軽減する事はない。
「あ゛あ゛・・・・・」
頭を絨毯に擦り付けるようにして頭を振る。
綺麗に編まれたアップスタイルはぐしゃぐしゃになり、煌めくビジューボンネはいつの間にか絨毯に落ちていた。
それよりも一番驚いたのは髪の長さだろう。確かに前髪はあった。けど、床でのたうち回る夜神の前髪は肩辺りまで伸びていて、アップスタイルになっていた髪もだらんとなっている。

目に見える変化はそれだけはない。涙が溢れる瞳は赤くなり、貴族達の言っている「白目の魔女」ではなくなった。
「ゔゔっ・・・・あ゛、あ゛・・・・・」
断末魔のような声を出している唇はいつの間にか赤く、まるで血を塗ったように染まっていた。
そして、そこからチラッと見える伸びた犬歯・・・・まるで、吸血鬼の牙のように伸びている。

夜神の周りに居た貴族達は興味半分、恐ろしさ半分と様々な反応をしながら事の成り行きを見ていた。
勿論、誰一人として心配するような眼差しはない。
女性達は扇で口元を隠し、男性は腕を組んで、愉悦に満ちた顔をしていた。
けど、今の夜神はそんな事を気にする余裕など既になかった。
己の体の痛さに、引き裂かれそうな痛みに耐えるしかなかった。

そして、皇帝・ルードヴィッヒも同じ様に心配する眼差しなどなく、愉悦、悦楽、光悦・・・全てが当て嵌まるような眼差しを、苦しみ藻掻いている夜神に向けた。

ここまで来るのにどれ程の時間、待っていたのか・・・・
けど、その過程はどれも楽しかった
泣いた顔も、怒った顔も、悔しがった顔も、何かを諦めた顔も、そして、恍惚した顔も・・・・
殺したいほど憎んでいた相手によって、滅茶苦茶にされて、女の大事な処女も無理矢理奪われ、肢体の自由を奪われながら何度も、何度も嬲られた。

やっと自由になれたと思ったのに、やっと大空にその翼を広げられたのに、再び鳥籠の中に囚われてしまった。
今度は逃げられないように翼を傷付かされて、白い小鳥は飛ぶことが出来なくなってしまった。

それでいいのだ。空を飛ぶ事などしなくていい。手元にいてくれればいい。
そして、その愛らしい声で鳴いて、泣いて愉しませてくれればそれでいいのだ。
今度は、今度こそはずっと鳥籠の中で過ごしてほしいから。
その為には、大事な翼に傷をつけないといけない。
だから、その為に必要な事をしたまでだ・・・・・
人間奪って傷付け吸血鬼飛べないようにしていく。

けど、それで終わりにはしない。全て奪って、壊してまっ更にして、一から全てを刻もう。
だから、これは、その為の大事な一歩だ。

いつの間にか悲鳴のような断末魔は小さくなり、苦しい息を漏らしながら、何かに必死に耐えている夜神を、高い玉座から見下ろした。そして、唇を歪めてしまう。

這いつくばり、髪も顔もグチャグチャで、そして、何かに助けを求めたいのか必死に伸ばした・・・
あぁ、今すぐその手を握ってあげよう。持っていてね・・・

ルードヴィッヒは足取り軽く、赤い絨毯が敷かれた階段を降りていく。
マントを閃かせ歩いていく。そして、這いつくばり肩で息をする哀れな小鳥夜神を見下ろした

「あ゛・・・・ゔゔっ・・・・」
殺されそうな程の痛みで気絶出来たらきっとここまで、酷く消耗する事などなかったかもしれない。
けど、気絶したくても出来なかった。意識が遠のく事などなく、運良く霞がかったとしても痛みで再び起こされる。それを何度も繰り返す。

意識は遠のく事なく、体の全てが書き換えられる様に痛みが延々と続く。潰されるような、引き千切られるような、握り潰されるような、そんな訳の分らない痛みがずっと襲う。
声は枯れ始め、涙や涎、汗で顔も体も汚れてしまった。
けど、そんな事を気にする余裕など既にない。叶うならば「殺してくれ」と「楽になりたい」と、今の現状から目を背け、現実逃避ばかりが頭を埋める。けど、それさえも痛みで散漫してしまう。

一体、この地獄のような苦行はいつまで続くのだろう?永遠と?それともあと少し?誰か教えて・・・・
涙で霞んで分からないけど、遠くに誰かいる?
ねぇ、貴方なら私を助けてくれるの?

夜神は朦朧とした意識で必死に手を伸ばした。助けて欲しくて。この、痛みから救って欲しくて。
すると、その人物は夜神の近くまで来てくれた。
フィンガーレスグローブから覗く指先の爪は赤く、まるでマニキュアを塗ったように、いつの間にか染まっていた。
その手を金色の瞳をした人物は握ってくれた。そして、体を起こしてくれる。

先刻までの酷い痛みはなくなったといえ、未だに痛みは残り続けている。
「あっ・・・・・ゔゔっ、っぅ・・・・」
荒い息を繰り返している体を起こし、涙で霞んだ視界で周りを見る。
滲み、ボヤけた視界では色とりどりの衣装を着た女性達が、男性達が見えた。
そのどれもが、興味、興奮、蔑むの眼差しを向けている。
誰も心配した眼差しなど向けていない。

あぁ、そうだった・・・・
ここは、吸血鬼達の巣窟
そして、ここにいるのは貴族達だ
みんな、私を殺したい程憎んでいる
息子や父親、夫、兄弟、友達、恋人・・・
娘、母親、妻、姉妹・・・・
そう呼ばれる人物達を討伐してきた
私は「白目の魔女」と忌み嫌われる存在だから
だから、そんな視線を投げかけるのか・・・・

徐々に遠のく意識の中で、自分に向けられる視線を解釈していった。
背中は逞しく、そして温かい誰かの胸に預けている。
力が入らないのだ。体力の消耗しきった体は力など一切入らないから。
その、人物は黒い手袋をした手で顎を掴み、ボロボロの顔を吸血鬼達に曝け出させる。
もう片方の腕はズレ落ちないように、痙攣しているのかと思ってしまうほど、激しく上下運動を繰り返す腹部辺りに回している。

おかしくなっている耳元で、その人物は私にだけ聞こえる声で囁いた。
甘く、とても甘く、けど、それは毒にも等しい程の甘さだった
「おめでとう凪ちゃん・・・・憎い、憎い吸血鬼になったよ?気分はどうかな?死にたい?殺して欲しい?けど、それは駄目だよ・・・・けど、心ならいくらでも殺してあげるからね。ズタズタにして、ボロ雑巾の様にしてあげる。そうしたら人形のようになってしまうのかな?あぁ、それも素敵だね。私だけのお人形さんピュップヒュン?」

その毒の正体は、殺したいほど憎んで、憎んでいるのに、翻弄され、全てを奪った吸血鬼だった。
集落も、お母さんも、友達も、先生も、処女も、居場所も、庵君も、そして人間さえも・・・・・
私の全てを奪った吸血鬼・・・・・

「な・・・らぁな・・・い・・・・・」
掠れた、力の無い声で呟くのが限界だった。
意識は朦朧としてきて、自分が起きてるのか、寝ているのかも定かではない。

━━━━━━人形なんかにならない
━━━━━━吸血鬼なんかにならない
━━━━━━皇帝のモノになんかならない
ならない、絶対になるものか・・・・・

結局、何にならないのかちゃんと言いたいのに、言えない不甲斐なさが悔しい
徐々に薄れゆく意識の中で、自分を支えているこの世界の絶対的権力者━━━━━━皇帝ルードヴィッヒ・リヒティン・フライフォーゲルの言葉に逆らいながら意識を手放した。

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とうとう、大佐は人間までも奪われました。
さて、今度は何を奪われるのか?
どこまで毟り取ればルードヴィッヒは気が済むんでしょうね?
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