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車内から見えてくる景色はだんだと知っている景色になってくる。
三週間居なかっただけなのに、ここまで懐かしさを覚えてしまうのは、きっとこれが最後の光景になってしまうと、早く思ってしまったからかもしれない。

蒼月と紅月を握り込んでいた事に気がついてその握力を弱める。
車が一度止まるのを確認すると、軍の正門で受付をしているところだった。
「分かっていると思いますが、余計な事は言わない・しない事です。もし、したらどうなるか分かってますよね?」
本條局長の冷めた目で見られて、一瞬顔を背けたくなったが、何故か真っ向から受け立つ勢いで睨み返す。
「ご心配なく」
他に色々と言いたいことはあるが、これ以上何かをする気力は今の夜神にはなかった。

軍の施設の玄関に着くと、そこには既に藤堂元帥と七海中将が待っていた。
二人の顔を見て夜神は顔を歪める。
会いたいけど会いたくない。会ったら泣いて「行きたくない」と「助けて」と、懇願したくなるからだ。
けど、頭の片隅では「逃げたら死ぬまで後悔する」と「お前の大切な人達を見殺しにするのか」と、渦巻いて語りかける。

車は停車して、本條局長は先に降りる。それを見た後夜神も降りようと体を動かすが、固まってしまったかのように動かない。正確には動けなかった。

この車を降りたら私は・・・・・・・
また、一人で耐えて、そして・・・・

「凪?大丈夫か?」
少ししか離れていないのに、凄く懐かしい声に聞こえるのはきっと自分の心が弱っている証拠なのかもしれない。
こちらを心配そうに見てくる藤堂元帥は、眉を寄せて苦悩の眼差しを向けていた。

きっと、藤堂元帥も色々と悩んでいたのかもしれない。だからそんな顔を、声をしていたのかもしれない。
「・・・・・・大丈夫です」
心配をこれ以上かけさせたくない一心で微笑んで、持っていた刀と紙袋を持って降りる。
先に降りた本條局長は鼻で笑って、この寸劇を見ていた。まるで「くだらない」と言っているようにも見える雰囲気だ。

そのまま、知った廊下を歩いて元帥室に行く。不思議な事に誰にも会わなかったのは、きっと本條局長が何か指示していたのかもしれない。
そして、部屋のソファに座り今後の話をしていく。
していくと言っても、本條局長の指示、命令だけで藤堂元帥の言い分は鼻であしらわれる。

「では、一週間頼みましたよ藤堂元帥?けして逃がそうなどと思わないように」
「何故、軍の人間を起用せず、そちらの人間が夜神大佐の保護をするのですか?」
場所は軍に移動したが、監視するのは上層部の人間に藤堂元帥は異論を唱える。だが、「何か問題でも?」と鼻で笑われる。
「身内可愛さで仕事を放棄しないためですよ?の為にこうしてるまでです。えぇ、元帥と違ってね?」
「・・・・・藤堂元帥」
夜神はこれ以上聞くに耐えなくて口を挟んでしまった。
「私は大丈夫ですから、お気になさらず・・・・」
「・・・・・」
心配そうにこちらを見てくる顔に、少しぎこちなかったかもしれないが、微笑んで見つめる。
眉をしかめながら目を閉じたが、深い深いため息をすると、本條局長に向かって藤堂元帥は口を開く
「分かりました・・・・・所で何故、夜神大佐はこんなに痩せてしまったのですか?食事を与えなかったのですか?」

元々、線の細い子だったが、この三週間あまりで更に細くなっているのは気の所為ではない。頬も少し痩けている。
藤堂は夜神の変わってしまった姿を追求する
すると、本條局長はわざとらしい大きなため息をして、夜神を見る。
「ご心配なく。ちゃ~んと三食出してましたよ?ですが「約束の日」が近づくにつれて食が細くなってしまったんですよ。ねぇ、?」

何かを含んだ言い方と視線に夜神は耐えられなくて、視線を自分の膝に向けると、小さな声で「そうです」と本條局長の言葉を肯定していた。
本当は、上層部のせいで!!と、言いたかったがそれは言えなかった。
夜神は車内でのやり取りを思い出す。それは脅しとも言えるものだった



『藤堂元帥には元帥でいて欲しいですよね?』
冷ややかな目で藤堂元帥について話してくる本條局長に、夜神は驚いたが、言葉の通りだと心から思っている事なので返事する
『もちろんです』
『なら、元帥はあなたの見せしめで痩せた姿に文句でも言ってくるでしようね』
『・・・・・本当の事を言うなと事ですか?』
軟禁に近い状態で、時間の狂った夜神は日に日に食事量が減ってしまった。結果、体は少し痩せてしまった。
『夜神大佐は軍を去りますが、藤堂元帥は軍に残る人間です。けど、私の一言で藤堂元帥のいる場所は変えられますよ?』
『なっ?!脅しですか!』
『いいえ、事実を述べてるまでです。どうしますか?二人で仲良く軍を去りますか?』
歪んだ顔で見てくる本條局長に睨むことしか出来なかった。

私は後少しで軍からいなくなる。けど、藤堂元帥は残りこれからも軍を牽引していく大事な存在だ。
そんな存在をなくしてはいけない。
『分かりました。何も言いません。これで満足ですか?』
『もちろんです。あぁ、それと我々の事も言わないように。帝國と人間世界のであるの事をね?』
『橋渡し?スパイの間違いではなくて?』
『大佐?それは侮辱だと言いましたよね?』
夜神の胸元のシャツを掴み、苛ついた顔を向ける本條局長に、夜神は目を背けることなく見続ける。

表情の変わることのない夜神を、ギリギリと奥歯を噛みながら見ていたが、落ち着いたのだろう。掴んでいた手を力まかせに押して夜神を座席に叩きつける。
『っ・・・・・・』
『あ~~大佐?これ以上私を苛つかせないで下さいね?藤堂元帥や周りのお仲間を、これ以上失いたくなければね?』

━━━━私には軍から誰かを引きずり落す権限がある

本條局長の言いたいことが伝わってくる。それを理解して夜神は無言になった。これ以上何を言っても意味がない。
まして、今の夜神には火に油を注ぐ発言しか出来ない。
なら、黙るのが互いのためだと

『初めっから大人しくしてればいいんだよ・・・・・おっと、失礼。従順になれば誰も傷付きませんよ?』
荒い言葉がきっと素の本條局長なのかもしれない。けど、もうどうでよかった。
そして、車内は再び沈黙に支配された。

視線を背けた夜神を訝しがる藤堂元帥だったが、これ以上は詮索出来ないと判断する。
「本條局長の話を信用しましょう。では部屋に案内します」
これ以上話を続けても意味がない。可能なら本人に確認するのが早い。
なら案内して本條局長は早々に帰ってもらうのが妥当。
藤堂はそう判断する。
そして、部屋の案内をする為立ち上がる。
「そうしてもらえると助かります」
そう言って本條局長も立ち上がる。最後の夜神はゆっくり立ち上がる。

これから向かう先に何があるのか。そして、さらに更にその先には・・・・・
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