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部屋に着くと扉をノックして入室する。
既に庵は来ていて、長谷部室長が座る机の前に立って待っていた。
「遅くなりました。お呼びだと聞きましたがどうされましたか?」
庵の隣に並んで立ち、どんな要件で呼び出されたのかを確認する。

「要件は「高位クラス武器」についてだ。藤堂元帥より許可がでた。後期テストで成績一位の者から順に「高位クラス武器」と対面してくるように。と通達がきた。明日、特別保管庫に行くように。夜神大佐はしっかりとサポートをして欲しい」
無表情で、長谷部室長が書類を見ながら伝える内容に「いよいよか・・・」と緊張してしまう。

もちろん、期待はしているし、「絶対、武器が認めてくれる」と自分の感が告げている。庵君は何故か分からないが、武器が存在を認めてる感じがするのだ。
それに、自分が所持している「高位クラス武器」の中でも「月桜」が時々鳴くのだ。まるで会えたことが嬉しくて、感極まったような感じで鳴くから、不思議に思ってしまう。

そんな理由で?と、思ってしまうかもしれないが、古くから家の家宝として代々伝わる物だから、意味のあるものだと信じているし、意志ある武器だから、もちろん相手を選ぶ。
私を使い手として認めているが、別の意味で庵君を認めていると思ってしまう。使い手としてでなく別の何かとして。

ならば、「高位クラス武器」も認めてくれると信じている。使いこなせるかは別としても、まずは認めてくれないと意味がない。その為の対面なのだ。

「明日の件、了解しました」
並んで挨拶をする。明日はどうなるかは分からない一日だが、楽しみでもある一日だ。
「庵君、頑張ろうね!でも、庵君なら大丈夫だよ」
「大丈夫なんですかね?明日の事なのに今から不安です」
不安で仕方ない!と、訴える表情を夜神に向ける庵に、いつもの微笑みを向ける。

全ては明日にならないと分からないが、それでも夜神は大丈夫だと信じていた。



「お疲れさまです。第一室所属、夜神凪大佐と庵海斗二等兵です。藤堂元帥より、新人隊員の「高位クラス武器」の対面許可が出た為参りました」
敬礼しながら特別保管庫の管理をしている軍人に挨拶する。庵も一歩後で控えて、夜神と同じように敬礼する。

「はっ!了解しました。藤堂元帥より許可は出ていますので、このまま進んで下さい。夜神大佐はご存知だと思いますが、保管庫に入れるのは庵二等兵のみです。大佐は扉前で待機していてください」
同じく敬礼して挨拶をする軍人の言葉を聞いて、気を引き締める。
「了解しました。では、進みます。庵君行くよ!」
「はい!!」

「特別保管庫」と書かれた扉をくぐる。そして、廊下を歩くと「高位クラス武器」と書かれた扉をが現れる。
「ここだよ。この扉は庵君しか入れないからね」
扉を指さして説明する。ゴクリと生唾を飲む音が庵から聞こえてくる。

「武器が選んでくれた瞬間は分かるからね」
「どんなふうに教えてもらえるんですか?」
あまりにも想像がつかなくて、庵は尋ねると、夜神は少し困った顔をして口を開く。
「ちょっとホラー現象に近いかな?」
「マジですか?!えっ・・・・・・例えば」
少しだけ不安になる庵が面白くて、少しだけ悪戯心が生まれる。それは普段なら考えつかないが、この前散々されたことを思い出して、少しだけ溜飲を下げようと考える。

「例えばね・・・・・・突然ね・・・・・」
「突然・・・・・・・」
緊張がはしる。庵の唾を飲む音だけが大きく聞こえる。
「・・・・・・ワァァ!!」
「?!」
「びっくりした?」
庵の肩をポンと押して驚かすが、目を大きく見開いて驚くだけで、たいした驚きはなかったので拍子抜けしてしまう。
「あれ?」

「・・・・・すみません、大佐」
気まずそうに答える庵に、気恥ずかしくなりクルリと庵に背中を向ける。とてもではないが今は顔を見られたくない。
「今のは忘れて・・・・・武器が選んでくれた時は、武器が教えてくれるから。例えばだけど仄かに光ったり、鳴いたり、武器が勝手に落ちたりする話もきいたことがあるよ。あとは基本冷たい武器だけど、握ると温かったりするんだよ」
少しだけ早口で伝えていく。話していると少し落ち着いてきて、やっと庵の顔を見る事が出来るまでになり、クルリと向かい顔を見る。

「だから、何かしら知らせてくれるからね」
「分かりました。認めてもらえるように頑張ります」
軽く頷いて意気込む庵に、微笑んで頷く。
「庵君なら大丈夫だよ。自信をもってね」
「はい!では行ってきます」
意気込んだままの勢いで、扉を開き中に入る庵の背中を見つめ夜神は目を閉じる。それは祈りにも似ていた。

間接照明で仄かに照らされていたが、中に入ると直ぐに灯りがつく。
様々な武器の類いが、整然と並んでいる。
刀や槍を初めとしたよく見かけるものから、苦無や鉄扇など特殊なものや、扱いが不明な物まで様々だ。

武器が選んでくれる・・・・とは言えこれだけの量を前にすると、いったいどの武器が応えてくれるのかも分からない。
庵はとりあえず全ての武器を見る為、歩き回る事を決めた。

コツ、コツ、コツ・・・
静寂の中、庵の靴音だけが聞こえる。気になった武器は片っ端から握り込むが、鉄や木特有の冷たさしか感じられない。夜神の言うように「温かさ」はしなかった。

「自分では役不足なんだろうか・・・・・・」
自信がなくなっていき、焦りだけが残る。
夜神大佐は「大丈夫」と言っていたが、これだけ何も反応がないのは「選ぶ余地なし」と言われているようなもので、実力も力もないと言うことだ。

折角、守るためにここまで来たのに、肝心なものを得られなかったら意味がない。
「・・・・・・ため息しか出てこない」
端の方まで行ったが、特に変わったことはおきなくて、項垂れながら扉の所まで戻っていく。

すると、どこからか花のような匂いがしてくることに気が付いた。
一瞬、自分の袖の匂いを嗅ぐが、花系の香水をしていないことを思い出してやめる。

そうなると、何処からしてくるのかが気になってきて、深い深呼吸を鼻でする。そして、少しずつ移動しながら香りが段々と強くなる所を見つける。

そこは刀類だけが纏められている所で、庵は鼻を近づけながら鞘を触っていく。
どれも鉄特有の冷たさしかなかった。残りも少なくなって焦りだした時に、一際強く匂いがする刀があった。

白い鞘に白い柄巻きの刀に目を奪われる。何かに惹かれるように手を伸ばして鞘に触れる。
指先からじんわりと温かいものが体に入り込む。懐かしいような、探して探してやっと見つけたような気持ちがこみ上げてくる。
堪らずガッと鞘を握り込むと、花の香りが強くなる。

━━━━━━見つけた!!

庵はその刀を抜く。鈍色の刀身を想像していたが、その刀は薔薇色の刀身をしていたことに驚く。
見たこともない刀に不安がこみ上げてくる。けど、その刀身に写し出された自分の顔を見てその不安はなくなる。

何故か分からないが、ずっと前から探していたような気がするのだ。理由は分からないが見つけたことで、体のバランスが整ったような感じがする。
きっとこれが武器に選ばれた感覚なのかもしれない。

納刀すると、その刀を手にとって扉に向かって歩き出す。
きっと、「高位クラス武器」を手にして、戻ってくることを信じて待っている夜神愛しい人の所に。
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