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成績上位十名の学生が、本部のみに設置されている、全十部屋を巡り挨拶をしていく。

本部に設置された部屋は「第一室」から「第十室」の全十部屋あり、「室長」と呼ばれる管理者と「隊長」と呼ばれる軍人が三~四名いて、「隊員」と呼ばれる軍人は「隊長」一名につき、四~五名つく。

隊長を入れて五~六名で吸血鬼討伐をするのは、確実に生き残る人数として考えられての人数編成だ。
力も身体能力も人間とは遥かに違う、吸血鬼を相手に戦い生き残る。

その為には、互いの信頼関係がないと成立しない。
信頼関係を作り、互に切磋琢磨して技を、力を、磨き上げていく。それが「部隊」である。



懐かしい雰囲気に夜神は微笑んでいた。
扉の向こう側に人の様子が読み取れる。
大学生がこれから一年間「教育係」となった「隊長」とその「部隊」の「隊員」達に色々と教えてもらいながら、後期のテストに向けて学ぶ。
合格ラインを突破しないと、「二等兵」の階級を貰う事は出来ない。すなわち軍人になれないのだ。

その為、学生は必死になって教育係の元で学び、稽古して、討伐や補佐をしていく。全ては卒業する為、そして憧れの部隊に入隊する為。

ノックの音が聞こえると、室長である長谷部室長や、隊長である七海中佐、相澤中佐、式部大尉は顔を引き締める。
そして、二人の学生が入室して、長谷部室長の前で敬礼をする。

その顔は不安の方が大きかった。けど、見え隠れするのは不安だけではない。・・・・・第一室に来てしまった自分達のどちらかが配属される期待と希望。

「本年度の配属予定の学生です。こちらが資料です」
引率の先生が長谷部室長に書類を渡す。
「確認します」
去年は最後の一人だったから、資料の確認などとなく、すぐに学生の挨拶だったが、二人以上になると学生の順位や点数など、内申書よりは細かくないが、それでも詳細は細く書いてある。

全員で、資料を確認する。七海の言っていた通り七位と九位の学生だった。
「相澤中佐・・・・・・任せる。そして責任を持って育て上げろ」
「はっ!」
長谷部室長に敬礼をして、相澤は書類を手に取る。
「皆、いいだろうか?」
「「「異議なし!!」」」
「ありがとう」
いつもの神経質な顔を少し緩めて、書類を一枚先生に渡す。受け取った先生は、九位の学生の肩を叩き退出を促す。一瞬悔しそうな顔をしていたが、すぐに切り替えて二人で退出する。
そして、入れ替わりで、もう一人の大学の先生が入ってきて、学生の後ろに控える。

「本日より配属になりました、久慈 彰くじ あきらです。ご指導の程よろしくお願いします!」
敬礼をしたまま、自分の名前を伝える久慈君と、一年前の庵君の姿が重なる。

あの時は本当にオドオドしていた。今は全然だけど。むしろ、二重人格が酷いし、それに翻弄されているかもしれない。

「第一室 室長の長谷部 匡将はせべ きょうすけだ。一年間、様々な事を学んで頑張っていってくれ」
いつもの無表情で軽く挨拶をする。すると、それに続いて挨拶をしていく。

「久慈君、一年間よろしくね。夜神 凪やがみ なぎと言います」
いつものように微笑んで挨拶する。
「私は式部 京子しきぶ きょうこと言います。よろしくね」
切れ長の目を細めて微笑む。
「俺は七海 虎次郎ななみ とらじろうだ。よろしくな久慈青年」
無精ひげを撫でて挨拶する。
「一度会ったと思うが、私は相澤 千明あいざわ ちあきだ。よろしく」
神経質な顔を久慈に向ける

「一年間よろしくお願い致します」
久慈は敬礼して挨拶をする。
「隊員達は後から挨拶をしてくれ。それと君の教育係だが、こちらの相澤中佐が担当することになった」
「教育係になった相澤です」
長谷部室長の紹介で相澤が一歩前に出る。すると緊張していた久慈の顔が、少しだけ柔らかくなる
「相澤中佐が教育係をして下さるんですね。すごく嬉しいです」

久慈の言葉に、相澤も顔が嬉しそうになっている。
「君の腕前は何度か見たことがある。とても素晴らしい腕前だ。一緒に頑張って、さらなる先にいこう」
「はい!自分頑張ります!」

二人のやり取りが終わったのをみて、長谷部室長が口を開く
「相澤中佐から沢山の事を学んでくれ。知っていると思うが、相澤は狙撃手だ。そして久慈学生はその素質があると相澤中佐が見込んでの教育係となった。私も期待している」

無表情だが、目元が微かに優しくなっている。それは嬉しい時の表情だ。
「隊員達の挨拶に行くと良い。相澤中佐早速、教育係の仕事をするように」
「了解しました!久慈学生行こうか」
長谷部室長に敬礼をして、隊員達が控えている部屋に、相澤中佐と久慈学生は向かっていった。

「すごくいい雰囲気ですね。室長」
「そうだな、式部大尉。元々、憧れている人が教育係になったんだ。嬉しくなるのも仕方がない。互に切磋琢磨して成長していくのはいいことだ」
式部と長谷部室長の話に七海が加わる。

「久慈青年も、なかなかの好青年だね~。いいことだ。いつかは相澤が認めた腕前を見てみたいものだね~」
無精ひげを撫でながら七海は、相澤達が入っていった扉をみる。
「私も、腕前はとても気になるかも。相澤中佐はあまり人を褒めないけど、「見込みあり」なんて凄い褒め言葉だものね。楽しみ」

夜神は楽しみで仕方がなかった。部屋の誰かに、認められた人の腕前を見ることが。
それは将来、部屋の「隊長」になるかもしれないからだ。そんな人の成長を間近に見れるのは、嬉しさ以外の何者でもない。

「とても楽しみ。私も頑張っていかないと」
係ではないが、一年間互に頑張って行ければ、最高だなぁ~と、夜神も相澤達が入室していった扉をみて、微笑んだ。
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