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無理させすぎたか・・・・・

庵は気絶するように眠ってしまった、夜神の頬を撫でながら一人で気落ちしていた。

けど、顔を赤らめて、悩ましげな吐息と共に名前を呼ばれ、体を善がらせてながらも、擦り寄ってくるのを目の前にすると、歯止めが効かなくなる。

「はぁぁ~~・・・・時間は大丈夫だからシャワー浴びてこよう。大佐は・・・・動けなさそうだから、ホットタオルの準備をしとくか」

起こさないように、静かに降りてベッド下に落ちているバスローブを拾い上げて、シャワーを浴びに風呂場に向かった。



「大佐、大佐!起きれますか?体、大丈夫ですか?」
軽く揺すりながら、眠っている夜神を起こす。
「ん~~・・・・」
眠いのか、体がしんどいのか、なかなか覚醒しない様子に庵は少し不安になる。
「大丈夫ですか?怠いですか?」
体の不調の原因が、自分なだけに焦りだす。

「あと・・・・・い、っぷ・・・・・・」
このパターンは前回と同じか?ならば一分後に確実に起きる。

「おはよう・・・怠い・・・・」
ゆっくりと瞼を開きながら挨拶する夜神に、前回程の驚きはなかったが、それでも一分後にちゃんと起きれることに脱帽する。
「おはようございます。起きれますか?手を貸しましょうか?」
「ん・・・・・起こして、しんどいから」

体が怠い。重い。腰が痛い。喉からカラカラする。体がベタベタする。
いま、自分の状況を羅列するだけでも、マイナス要素が多いことに、ため息がでる。

けど、愛されている。温もりが心地いい。庵君も同じぐらい思っていてくれている。
心の中はプラス要素で溢れていた。
背中に手を入れられて、ゆっくりと体を起こしてもらう。恥ずかしいので、胸を隠すように布団を手繰り寄せる。

「どこか痛い所ありますか?」
「腰が怠い・・・・庵君酷いよ。あんなに何回も・・・」
顔が熱い・・・・文句の一つや三つ言いたいのに、いざ言葉にしようとすると、恥ずかしくて言えない。

赤くなった顔で、口をワナワナさせ、泣くのでは?と、思うほど眉を下げた夜神を見る庵は、申し訳ない気持ちと「ちょっとだけ、からかいたい」と、少しだけ意地悪な気持になる。

「ん?何回もなんですか?・・・・おかしくなるほどイカされて、気持ちよくなってしまう事ですか?」
段々と近づいて耳元で話すと「ひゃ!」と息を飲む声が聞こえる。

庵に言われた言葉で、首まで赤くした夜神は「バカ!!」と近くにあった枕を、庵の顔にグリグリと押し付ける。
「冗談です。すみません真面目な話、体は大丈夫ですか?シャワー浴びに行けそうですか?」
「しんどいに決まってるでしょ!!シャワーしたいけど動けない・・・・」
顔の枕を剥ぎ取り、ベッドに投げ捨てながら夜神の顔を見る。まだ、赤くなっている顔が普段の夜神からは想像もつかない。

「ホットタオル持って来ましょうか?それなら少しはましになると思いますよ」
「お願いしてもいい?」
「はい。こんなにかわいくなった大佐は、責任持ってお世話させて頂きます」
爽やかな笑みで、とんでもない発言をしたと思ったら、一瞬でベッドから降りて風呂場に行く庵に、文句を言おうとした夜神は、口を開いたままア然としてしまっていた。

痛い腰を庇いながら身支度を終わらして、外に出ると夕方になっていることに驚いてしまった。
一体、何時間いたのか気になるが、知るのは色々と恐怖を覚えるので、考えるのは止めることにした。
「すっかり夕方になりましたね」
「・・・・・・そうだね」

夜神の考えなど知る由もない庵は「あ~ぁ」と、ため息をしながら賛同を求める。

なんだろう?庵君は二重人格なんだろうか?軍にいる時は階級に見合った言葉使いや態度をしている。
もちろん、出掛けた時も軍よりは緩くなっているが、それでもだ。
なのに二人っきりになると、顔付きから態度から、変わってしまったと錯覚するほど違うのだ。

背筋がゾクッとするほど、暗い笑みを浮かべたり、言葉は丁寧なのに有無を言わせなかったりと、二重人格だと思えるほど、普段との落差が大きい。

「庵君は二重人格?」
「何か言いました?」
「なんにも言ってないよ、それより、早くしないと門限来ちゃうよ!」
呟いた言葉を拾われて、慌てて否定して、別の話題にすり替える。門限にはまだ余裕はあるが、早目に帰りたいので少しだけ急かしてみる。
「大丈夫ですよ。でも、早目に帰った方がいいですね。明日は出勤日ですしね」
「うん。ゆっくりしたい・・・・まだ、痛い」
「すみません、反省してます」
「「は」ってなに?「は」って」
言葉に引っ掛かり問い詰めるが、流されるようにかわされてしまった。



少しだけ怠さが残ってしまったが、任務に支障をきたす程ではない事に安堵しながら夜神は部屋に行くと、相澤中佐以外は既に来ていて、それぞれの仕事をしている。

「おはよう式部に虎次郎」
「おはよう、夜神大佐」
「ぉっはよー、夜神!」
挨拶をして自分の机にいくと、見慣れた箱が置いてあった。
それは、長谷部室長が叫んでいた「沖や」の箱だ。

「何で、私の所に「沖や」の箱があるの?」
なぜだろう?と、悩んでいると部屋にノック音がして、庵が入室してくる。

「おはようございます!」
「おはよう、庵二等兵」
「おはよう、庵君」
「朝から元気だねー庵青年」
それぞれの呼ばれ方で名前を呼ばれ爽やかに笑う。

それを見ていると、やはり二重人格だと夜神は確信する。
「大佐?その手に持っているのはなんですか?」
庵に言われて、忘れていた箱の存在を思い出す。
「あぁ、これ?「沖や」の箱なの・・・・・何であるのかな?」
「夜神ぃ~忘れたのか?長谷部室長が所望していただろう?だから買ってきたんだよ。昨日は、夜神と青年は休みだったから二人の分だ。有り難く頂戴しろよ」

無精ひげを撫でて、得意げに話す七海に「へ~」と軽い返事をする。
「折角だから頂くよ。何、買ってきたのかなぁ~」
甘いものが食べられるのは有り難い。それも「沖や」の和菓子なら間違いない。

蓋を開けて固まってしまった。それは飴色のタレがたっぷりと掛けられた、みたらし団子だったのだから。

「・・・・・・・」
「くっ、ぶっ!ふっ━━」
無言になる夜神と、必死に笑いを堪える庵だったのだ。

「何かあったの?ちょっと、大佐!顔がなんか引き攣ってるわよ?」
「青年!なんでそんなに笑いを堪えてるんだよ」
二人の落差のある態度に、顔を見合わせる二人だった。

「庵君・・・・・・全部食べていいよ」
「大佐・・・好き嫌いは駄目ですよ?」
「・・・・・・二重人格」

二人の奇妙なやり取りを、黙って見守るしかない式部と七海だった。

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虎次郎からの爆弾攻撃をくらい、重症の夜神大佐でした。(笑)

きっとこの攻撃は暫く響くでしょう。
立ち上がれ!負けるな!大佐!!
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