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115 流血表現あり
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二月に入り、学生達はこれから十日間、己の全ての力を出し切ってテストに全力で挑んでいく。
だが、吸血鬼はそんなの関係なしに、ゲートをくぐり抜けて驚異を見せつける。
「夜神大佐!式部大尉!そろそろWS・Aクラスが見えてくる頃です!」
夜神は式部大尉とその部隊と共に、走りながら目的の場所まで駆け抜ける
「了解!抜刀・蒼月!」
「抜刀・環!」
二人はそれぞれの「高位クラス武器」を抜刀して、名前を呼んで力を籠もらせる。
目的の場所には騎士服のAクラスと、クラバットにリングをしているWSがいた。
その二人も剣と槍を既に構えていて、互いに対峙したが、夜神を見てWSが剣を下げる。
「「白目の魔女」だな。少しだけ話を聞け」
「何事?」
突然の事に夜神も式部達も戸惑う。だが、相手は本当に話を聞いて欲しそうだったので、警戒しつつ話を聞く。
「分かった。話を聞こう」
夜神は刀を構えつつ、全神経を集中させる。相手が少しでも動けば直ぐに対応出来るようにする。
式部も片腕を軽く上げて「待て」と部隊に合図する。こちらも直ぐに対応出来るように、腕を上げている。
「魔女よ、私の為に皇帝の元に戻れ。今なら無傷で連れて行くことが出来るぞ?」
「ふざけるな!私を殺せば地位や名誉が授けられるのではなかったのか?皇帝がそう命令したのを知っている!」
何を言っているのか分からなかった。今まで帝國から来る吸血鬼は躍起になって、殺そうと襲い掛かる。
それをこちらは必死になって、対峙して討伐してきた。
なのに「戻れ」だと?ふざけるな!誰が皇帝の所に行くものか!私は皇帝の所有物ではない!
「皇帝のその命令は一部の貴族だけだ。大半の貴族や騎士は「無傷で連れて帰るように」だ。難しい場合は、多少の傷はやむ無しとも言われている。さすれば私は、特別に貴族の位が公爵になるのだ!貴様たちには分からぬだろう。公爵の位がどれ程凄いのか!そして子々孫々の栄華を約束されたのだ!」
光悦した顔で夜神を見る吸血鬼に背中が粟立つ。まだ、憎しみを全面にぶつけてこられたり、「殺す」と明確な意思で殺意を持って来られたほうがましだ。
胃の縁が、キリキリとしてきて気持ち悪い。これ以上、帝國も皇帝の話も聞きたくない!
「さぁ、「白目の魔女」貴様は皇帝の寵愛を受けたのだろう?それは誉れなこと。もう一度寵愛を受ければ良いだけ。私のため」
「やめろ!私は誰のモノでもない!!まして皇帝のものになった覚えもない!おぞましい!!」
WSの話を遮って、夜神は赤くなった瞳を見開いて叫ぶ。
そして、握っていた蒼月の柄を、ギュッと握り込んで駆け出す。もう片方の手は、紅月に手を伸ばし抜刀する。
「ふざけた話をこれ以上聞かせるな!!」
目にも留まらぬスピードで近づくと下からの袈裟斬りで、WSの上半身を斜めに斬り裂いて絶命させる。
いつもなら血しぶきを浴びることはない夜神は、珍しく顔に浴びていた。
だが、そんな事を気にする事もなく、そのままAクラスの元に行き、紅月で首から頭を切り離す。
式部は話を聞いて目を見張った。話では、夜神を殺すことで名誉をもらえると聞いていた。それは夜神も同じ考えだった。
けど、今の話では、「生きて連れて行くこと」で、地位が与えられる。それも貴族にとって名誉あるものらしい。
その為、夜神の心に未だに根付く「思い出したくない事」を思い出させて激怒させ、そして瞬殺された。
ずっと警戒態勢のため上げていた手をゆっくりと下ろしていく。周りで待機していた部隊も警戒を解いていく。
夜神は討伐したAクラスの前で立ち尽くす。何も考えられなかった。頬を伝う何かが顎を伝う。それが気持ち悪い。胃がキリキリしてきたと思ったら、いつの間にかその場で嘔吐していた。
「ゲホッ・・・・ウッ・・・・」
「大佐!!」
式部は慌てて夜神の元に駆けつける。踞る夜神の背中を擦る。
「大佐。夜神大佐。大丈夫よ。連れて行かせやしない。絶対そんな事をさせない。大丈夫だか。ね?」
「し、きぶ・・・・ごめん。ごめ、んなさい・・・・・」
赤くなった目からは、涙が幾筋も伝い、顔についた血しぶきを流していく。
胸辺りをギュッと掴んで、何かに耐えている夜神は先程の鬼気迫る雰囲気はすでになく、項垂れて今にも倒れそうな雰囲気だった。
「立てそう?立てそうなら早くこの場から去りましょう。誰か手伝って」
「手伝います」
「ありがとう。夜神大佐、腕貸してね。うん、そう回して・・・・それじゃ立つね」
胸を抑えてない手を、式部の肩に回してもらい、立ち上がる補佐をする。部隊の一人も夜神の肩に手を当てる。
こんな場所は早々に立ち去る方が良いに決まっている。
式部は焦る気持ちを抑えて、夜神のおぼつかない歩みに合わせて、ゆっくりと歩く。
これは長谷部室長に報告しないといけない。あまりにも残酷すぎる。殺意だけで動いているなら割り切っていける。向かってくるなら討伐するまでだ。
けど、連れていくように言われたのなら、相手はいかなる手を行使して、襲い来るのかわからない。
現に今の夜神は、精神的なものから嘔吐してしまい、フラフラの状態なのだ。もし、一人での討伐任務をしていたら今、どうなっていたのか分からない。
式部はなんとかしてヘリまで連れていくと、隊員達と一緒に夜神を乗せてヘリを出させる。
ぐったりとしている夜神の相手を隊員に任して、司令部と連絡を取り合う
「こちら式部です」
『こちら司令部。どうされました?』
「長谷部室長に繋いで下さい」
『了解しました・・・・・どうぞ』
司令部から長谷部室長に繋いでもらう。そして式部は長谷部室長に伝える
「長谷部室長!式部です」
『どうした?何か問題でも』
「はい。奴らの動きに変化が・・・・詳しいことは直接お伝えします」
もしかしたら、上層部の誰かが聞いているかもしれない。慎重に進めないと、また大変なことになってしまう。
『分かった。気を付けるように。七海も心配しているからな』
「了解しました。通信を終了します」
式部は軽くため息をする。帝國は何を考えているのか分からないのだ。
虎次郎なら何か分かるのかもしれない。凡人では考えも及ばない事を、考えるのが虎次郎だ。
早くこのモヤモヤを伝えたい。自分では処理しきれないものは手に負えない。
「夜神大佐・・・・もうすぐ本部に着くからね」
「うん・・・・ありがとう。ごめんなさい」
血しぶきに汚れた顔を、綺麗にした夜神はいつも以上に白い顔で式部を見る。
「大丈夫よ?でも今日はヘリが着いたら、そのまま早退しなさいよ。私から長谷部室長には伝えとくから、ね!」
切れ長の目をニッコリさせて夜神を見る。
「うん・・・・そうする」
床を見つめたまま力なく笑う夜神を、式部は悲痛な面持ちで見つめていた。
だが、吸血鬼はそんなの関係なしに、ゲートをくぐり抜けて驚異を見せつける。
「夜神大佐!式部大尉!そろそろWS・Aクラスが見えてくる頃です!」
夜神は式部大尉とその部隊と共に、走りながら目的の場所まで駆け抜ける
「了解!抜刀・蒼月!」
「抜刀・環!」
二人はそれぞれの「高位クラス武器」を抜刀して、名前を呼んで力を籠もらせる。
目的の場所には騎士服のAクラスと、クラバットにリングをしているWSがいた。
その二人も剣と槍を既に構えていて、互いに対峙したが、夜神を見てWSが剣を下げる。
「「白目の魔女」だな。少しだけ話を聞け」
「何事?」
突然の事に夜神も式部達も戸惑う。だが、相手は本当に話を聞いて欲しそうだったので、警戒しつつ話を聞く。
「分かった。話を聞こう」
夜神は刀を構えつつ、全神経を集中させる。相手が少しでも動けば直ぐに対応出来るようにする。
式部も片腕を軽く上げて「待て」と部隊に合図する。こちらも直ぐに対応出来るように、腕を上げている。
「魔女よ、私の為に皇帝の元に戻れ。今なら無傷で連れて行くことが出来るぞ?」
「ふざけるな!私を殺せば地位や名誉が授けられるのではなかったのか?皇帝がそう命令したのを知っている!」
何を言っているのか分からなかった。今まで帝國から来る吸血鬼は躍起になって、殺そうと襲い掛かる。
それをこちらは必死になって、対峙して討伐してきた。
なのに「戻れ」だと?ふざけるな!誰が皇帝の所に行くものか!私は皇帝の所有物ではない!
「皇帝のその命令は一部の貴族だけだ。大半の貴族や騎士は「無傷で連れて帰るように」だ。難しい場合は、多少の傷はやむ無しとも言われている。さすれば私は、特別に貴族の位が公爵になるのだ!貴様たちには分からぬだろう。公爵の位がどれ程凄いのか!そして子々孫々の栄華を約束されたのだ!」
光悦した顔で夜神を見る吸血鬼に背中が粟立つ。まだ、憎しみを全面にぶつけてこられたり、「殺す」と明確な意思で殺意を持って来られたほうがましだ。
胃の縁が、キリキリとしてきて気持ち悪い。これ以上、帝國も皇帝の話も聞きたくない!
「さぁ、「白目の魔女」貴様は皇帝の寵愛を受けたのだろう?それは誉れなこと。もう一度寵愛を受ければ良いだけ。私のため」
「やめろ!私は誰のモノでもない!!まして皇帝のものになった覚えもない!おぞましい!!」
WSの話を遮って、夜神は赤くなった瞳を見開いて叫ぶ。
そして、握っていた蒼月の柄を、ギュッと握り込んで駆け出す。もう片方の手は、紅月に手を伸ばし抜刀する。
「ふざけた話をこれ以上聞かせるな!!」
目にも留まらぬスピードで近づくと下からの袈裟斬りで、WSの上半身を斜めに斬り裂いて絶命させる。
いつもなら血しぶきを浴びることはない夜神は、珍しく顔に浴びていた。
だが、そんな事を気にする事もなく、そのままAクラスの元に行き、紅月で首から頭を切り離す。
式部は話を聞いて目を見張った。話では、夜神を殺すことで名誉をもらえると聞いていた。それは夜神も同じ考えだった。
けど、今の話では、「生きて連れて行くこと」で、地位が与えられる。それも貴族にとって名誉あるものらしい。
その為、夜神の心に未だに根付く「思い出したくない事」を思い出させて激怒させ、そして瞬殺された。
ずっと警戒態勢のため上げていた手をゆっくりと下ろしていく。周りで待機していた部隊も警戒を解いていく。
夜神は討伐したAクラスの前で立ち尽くす。何も考えられなかった。頬を伝う何かが顎を伝う。それが気持ち悪い。胃がキリキリしてきたと思ったら、いつの間にかその場で嘔吐していた。
「ゲホッ・・・・ウッ・・・・」
「大佐!!」
式部は慌てて夜神の元に駆けつける。踞る夜神の背中を擦る。
「大佐。夜神大佐。大丈夫よ。連れて行かせやしない。絶対そんな事をさせない。大丈夫だか。ね?」
「し、きぶ・・・・ごめん。ごめ、んなさい・・・・・」
赤くなった目からは、涙が幾筋も伝い、顔についた血しぶきを流していく。
胸辺りをギュッと掴んで、何かに耐えている夜神は先程の鬼気迫る雰囲気はすでになく、項垂れて今にも倒れそうな雰囲気だった。
「立てそう?立てそうなら早くこの場から去りましょう。誰か手伝って」
「手伝います」
「ありがとう。夜神大佐、腕貸してね。うん、そう回して・・・・それじゃ立つね」
胸を抑えてない手を、式部の肩に回してもらい、立ち上がる補佐をする。部隊の一人も夜神の肩に手を当てる。
こんな場所は早々に立ち去る方が良いに決まっている。
式部は焦る気持ちを抑えて、夜神のおぼつかない歩みに合わせて、ゆっくりと歩く。
これは長谷部室長に報告しないといけない。あまりにも残酷すぎる。殺意だけで動いているなら割り切っていける。向かってくるなら討伐するまでだ。
けど、連れていくように言われたのなら、相手はいかなる手を行使して、襲い来るのかわからない。
現に今の夜神は、精神的なものから嘔吐してしまい、フラフラの状態なのだ。もし、一人での討伐任務をしていたら今、どうなっていたのか分からない。
式部はなんとかしてヘリまで連れていくと、隊員達と一緒に夜神を乗せてヘリを出させる。
ぐったりとしている夜神の相手を隊員に任して、司令部と連絡を取り合う
「こちら式部です」
『こちら司令部。どうされました?』
「長谷部室長に繋いで下さい」
『了解しました・・・・・どうぞ』
司令部から長谷部室長に繋いでもらう。そして式部は長谷部室長に伝える
「長谷部室長!式部です」
『どうした?何か問題でも』
「はい。奴らの動きに変化が・・・・詳しいことは直接お伝えします」
もしかしたら、上層部の誰かが聞いているかもしれない。慎重に進めないと、また大変なことになってしまう。
『分かった。気を付けるように。七海も心配しているからな』
「了解しました。通信を終了します」
式部は軽くため息をする。帝國は何を考えているのか分からないのだ。
虎次郎なら何か分かるのかもしれない。凡人では考えも及ばない事を、考えるのが虎次郎だ。
早くこのモヤモヤを伝えたい。自分では処理しきれないものは手に負えない。
「夜神大佐・・・・もうすぐ本部に着くからね」
「うん・・・・ありがとう。ごめんなさい」
血しぶきに汚れた顔を、綺麗にした夜神はいつも以上に白い顔で式部を見る。
「大丈夫よ?でも今日はヘリが着いたら、そのまま早退しなさいよ。私から長谷部室長には伝えとくから、ね!」
切れ長の目をニッコリさせて夜神を見る。
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