上 下
123 / 271

閑話 イタリア共同演習 12 流血表現あり

しおりを挟む
午後からの演習に向けて準備をしている中、突然警報がなりだす。

『さすが、ゲートが二つある国だ。奴らの出現率が他の国よりも高いのは知っていたが・・・・・』
『すまんなカルロ。どうやら高位クラスみたいだから、俺らが行かないと行けないみたいだ。夜神も討伐に行くみたいだ。すまねー後は伊佐田いさだ室長が指示をしてくれる。すまん』

演習に参加している数名が、討伐任務で抜けるため、七海少佐に代わって、伊佐田室長が演習指揮をすることに詫びを入れて、七海達は準備に取り掛かる。

ベルナルディ中佐は思うことがあり、伊佐田室長と色々と話をしていく。
その姿をチラッと見た夜神だったが、時間が迫っていた為、受け流して自分の準備をしていく。

そうして準備が整って移動の為、ヘリの所に集合している時に、見慣れない数名を発見する。
よく見ると、それはベルナルディ中佐を筆頭に、イタリア軍の精鋭と言われる人達がいたのだ。

『ベルナルディ中佐?どうしてこちらにいらっしゃるのですか?』
『夜神大佐ですか。日本軍の精鋭の動きを見れるチャンスを、見逃すのはもったいないと思いまして、無理を言って同行の許可を頂きました。一切、手出し・口出しをしないことを条件にですが、皆さんならそんな条件は関係ないと思いますがね』

笑っているが、その瞳は何かを隠しているのか、冷めている。
夜神が話をしていると、七海と式部がやって来る。

『ベルナルディ中佐、なぜこちらに?』
『七海少佐と式部中尉ですか。実戦での皆さんの動きを、勉強させてもらいますよ』
『勉強かぁ・・・・・いい言葉だな?ベルナルディ中佐?何をとしている?』

七海は無精ひげを撫でながら、何か含みのある言い方をする。
その言葉にベルナルディ中佐も、片眉をピクリと動かしたが、笑顔はそのままで七海を見る

『勉強だけですよ・・・・・後は純粋に夜神大佐の、強さを見たいだけですよ。これは本心です』
淀みなく、言い切ったベルナルディ中佐は片手を上げて、イタリア軍の上層部の人達のところに行ってしまう。

「カルロの野郎、何、考えてるんだか。何かしらの指示があったのは間違いないだろうが、同行の許可をするとか、うちの軍は大丈夫か?」
「おだてられたのかしら?とにかく狙いは夜神大佐でしょうから、気をつけなさいよ」
「分った」

三人のやり取りを聞いていた庵は不安になってしまった。
ベルナルディ中佐やイタリア軍の上層部が、何かを考えているのは分かったが、内容までは分からない。
だが、夜神大佐に関することだけは、何となくだが分かっている状況だ。

「夜神大佐大丈夫ですか?」
自分が出来るのは、気持ちの確認だけしか出来ない。守りたくても実力不足なのだ。それどころか逆に守られている。
歯痒い思いを募らせながら、グッと拳を握る。

「庵君?大丈夫だよ。いつもの様にしていれば問題ないよ。逆に、普段と違うことをすると、危ないからね。普段通りを心掛けようね」
微笑んで庵を見る白い瞳は「大丈夫」と語りかけているようにも見える。

「とりあえず、夜神の言う通り普段通りで行こう。庵青年も分かったか?」
「分かりました」
「よし、そろそろ移動するか。遅れたら長谷部室長がキレそうだからな」
七海は庵の肩に手を置いて、移動を促す。そしてそのまま二人はヘリに向う。
それに習い、式部と夜神も二人のあとに続く。
その時、七海は庵に小声で話しかける

「庵青年、ベルナルディ中佐の行動をしっかり見ておけ。そして俺に報告してくれ。小さいことも見逃すな」
「・・・・・了解しました」
普段と違う七海の真剣な声に、庵は「只事ではない」と察知して返事する。

そうして、日本軍とイタリア軍の少数を乗せたヘリは、ゆっくりと上昇して目的の場所に向かっていった。



「抜刀・雷神」
七海は槍を構えると、名前を読んで力を込めて、騎士服を着たAクラスの剣を叩き落として、そのまま心臓を一突きする。
吸血鬼は口から血を流して、そのまま地面に倒れて絶命する。
「討伐完了!七海隊は全員無事か?」
インカムを使って無事の確認をする。
「全員無事です。このまま次も行けます!」
「了解した。引き続き警戒しつつ、夜神のサポートをする。分かっていると思うが、イタリア軍がいるから、あまり変なことはするなよ」
「了解しました。ですが夜神大佐のサポートは必要でしょうか?」

隊員が質問するのも分かる。一人で討伐する夜神に、サポートが必要なのかと問われれば「否」と答えるだろう。
だが、今は厄介な「相手」が同伴している。

その相手に、夜神の弱点になりそうなことは、極力知られたくないのだ。特に「スティグマ」は一番厄介だ。
皇帝に付けられた、所有物の証がある事は機密事項なのだ。いくら人間には見えないとはいえ、それでもだ。

「今はサポートが必要なんだよ。夜神に対してではなく、イタリア軍の妨害をする為のサポートがな。分かったなら早く行け!俺もすぐに行く」
七海はインカム越しに、隊員に指示しながら走って、夜神がいる所までいく。

その近くでは間違いなくイタリア軍のカルロ・ベルナルディ中佐がいて、夜神を観察している事は百も承知している。
「めんどくせーよ。吸血鬼よりイタリア軍の方が厄介とか。泣けてくるねーマジで」
嘆きながらも、走るスピードは落すことなく、夜神に近づく。

その夜神は、クラバット姿のSクラスと、対峙しているのが見えてくる。そして離れたところには、ベルナルディ中佐の姿も確認する。
「何事もなければ御の字だな」
そう、呟いて七海は握り込んでいた槍を更に力を込めて握り込む。

「抜刀、蒼月・紅月!」
夜神はクラバットリングをつけたWSダブルエスの目を見ながら、二振りの刀を抜刀する。近くにはベルナルディ中佐と庵がいて、それぞれ相手を牽制しているのが伝わる。

「吼えよ!蒼月!」
青い柄巻きの蒼月を、吸血鬼の心臓に狙いを定めて、跳躍で懐に入る。
だが、吸血鬼もその動きを分かっていたのか、剣を抜きながら、横に移動してかわす。

「「白目の魔女」!!死ね!」
吸血鬼は剣を構えると、夜神に向かって剣を振るう。その剣を夜神は刀で受けて止める。数度、互いの剣と刀が、振るう、受け止めるを繰り返す。

そして、首を掠めるように、吸血鬼の剣を体を反らして、凌ぐと、蒼月で剣を下から上に弾くようにして、相手が一瞬怯んだところに、紅月で心臓を貫く。

動きが鈍くなった吸血鬼の腹に、思いっきり蹴りを食らわせて、地面に叩きつけるようにして倒れさせると、蒼月を喉に突き立てる。

絶命した吸血鬼を、赤くなった瞳で見る。感情など一切ない氷のような冷たい表情で一瞥いちべつすると、二振りの血のついた刀を、それぞれ振って納めていく。

WS相手に一人で討伐する夜神を見て、ベルナルディは高揚を覚えた。
軍最強と言われる夜神の強さは知っているが、それは話や、映像と言ったのもので、自分の目では見たことはなかった。
話の盛り過ぎでは?と、訝しかった事もある。
けど、実際目の前で見せられて、改めて軍最強の言葉は偽りなどではないと実感した。

剣さばき、体の動かし方、そして、命を奪う冷酷さ。
全てにおいて、想像の上をいっていたのだ。
『夜神大佐。怪我はしなかったでしょうか?』
いつもの軽い口調ではなくて、階級が上の者に対しての、礼節を持った口調で聞く。

『ベルナルディ中佐・・・・・えぇ、大丈夫です。少しはの役にたてましたか?』
『はい、とても参考になりました。ありがとうございます』
『そうですか。良かったです』
いつもの微笑みをベルナルディ中佐に向ける。

すると、近くまで来ていた七海がやって来る。
「夜神、何にもなかったか?」
「虎次郎、大丈夫なかった」
含みのある言い方に、七海は気が付いて対応する。
「分かった。ではそのままヘリに戻れ。ベルナルディ中佐はこちらで対応する」
「了解」

『よっ!カルロ!夜神の剣技に心奪われたか?』
夜神の肩を軽く押して、ヘリに戻るように促していく。そして七海は、ベルナルディ中佐の所まで行って、肩をバシバシと叩いていく。

『虎か。とても凄いものを見られたよ。参考になった、ありがとう!さて、我々もヘリに行こうか』
『あぁ、行こうぜ!おっと・・・』
「庵青年も行くぞ!」
ベルナルディ中佐の近くで待機していた、庵を呼び三人でヘリに向かう。三者三様の思惑をそれぞれ抱えて。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄追追放 神与スキルが謎のブリーダーだったので、王女から婚約破棄され公爵家から追放されました

克全
ファンタジー
小国の公爵家長男で王女の婿になるはずだったが……

私が悪役令嬢? 喜んで!!

星野日菜
恋愛
つり目縦ロールのお嬢様、伊集院彩香に転生させられた私。 神様曰く、『悪女を高校三年間続ければ『私』が死んだことを無かったことにできる』らしい。 だったら悪女を演じてやろうではありませんか! 世界一の悪女はこの私よ! ……私ですわ!

捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」 パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。 夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる…… 誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。

もふもふの王国

佐乃透子(最低でも週3更新予定)
ファンタジー
ほのぼの子育てファンタジーを目指しています。 OLな水無月が、接待飲み会の後、出会ったもふもふ。 このもふもふは…… 子供達の会話は読みやすさ重視で、漢字変換しています。

転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。 神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。 職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。 神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。 街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。 薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。

【完結】飽きたからと捨てられていたはずの姉の元恋人を押し付けられたら、なぜか溺愛されています!

Rohdea
恋愛
──今回も飽きちゃった。だからアンタに譲ってあげるわ、リラジエ。 伯爵令嬢のリラジエには、社交界の毒薔薇と呼ばれる姉、レラニアがいる。 自分とは違って美しい姉はいつも恋人を取っかえ引っ変えしている事からこう呼ばれていた。 そんな姉の楽しみは、自分の捨てた元恋人を妹のリラジエに紹介しては、 「妹さんは無理だな」と笑われバカにされる所を見て楽しむ、という最低なものだった。 そんな日々にウンザリするリラジエの元へ、 今日も姉の毒牙にかかり哀れにも捨てられたらしい姉の元恋人がやって来た。 しかし、今回の彼……ジークフリートは何故かリラジエに対して好意的な反応を見せた為、戸惑ってしまう。 これまでの姉の元恋人とは全く違う彼からの謎のアプローチで2人の距離はどんどん縮まっていくけれど、 身勝手な姉がそれを黙って見ているはずも無く……

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

処理中です...