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薬で眠っていた夜神の瞼がゆっくりと開く。そして初めに見たのは天井の白さだった。
ゆっくりと窓に顔を向ける。空は雲一つない青色が眩しかった。

「そうかあの後、薬で寝たんだった・・・・・」
答申委員会が立て続けにあり、最初は帝國で見聞きしたことを、二回目は自分に起こった事を話していった。
そして藤堂元帥と有栖川第四室長が心配してくれていたこと、色々と穢れた身でも、変わらずに接してくれる事に嬉しさを覚えたのだ。

ゆっくりと体を起こして、サイドテーブルに置いていた、ペットボトルの水を飲む。
喉が渇いていたようで直ぐに飲み干した。新たに買ってこようか迷っていると、控えめなノックが聞こえてくる。
そしてゆっくりと扉が開いて、顔だけ覗き込んでキョロキョロとあたりを見回している。

「庵君?どうしたの?」
庵の挙動不審な行動に驚いた夜神だったが、名前を呼ばれた本人は起きていたことに安堵して、安心した溜息を一つして部屋に入ってくる。
その脇に抱えたピンクの大きな魚のぬいぐるみに目が行ってしまう。
「庵君!?なにそれ・・・・・」
「夜神ちゅう、いや大佐!!起きていて良かったぁー七海少佐から差し入れです。本人曰く「一人で寂しいだろうから、添い寝の共として持ってけ!」と目茶苦茶笑いながら持たされたんですよ!すげぇぇ━━━恥しかった!周りから二度見されるし!笑われるし!」

もぉ━━!!と、廊下ですれ違った人達の事を思い出して、顔が赤くなっている庵を、夜神は見開いた目で見ていたが、何故か可笑しくなって笑ってしまった。本人には悪いと思いながらも笑わずにいられなかった。

「庵君、ありがとうね。フフフッ、それにしても大きいね。抱き枕ぐらいの大きさかな?何の魚なの?」
「夜神大佐も笑わないで下さい。サメです。それもピンクのサメ!!何処で見つけてきたのか・・・・・あっ、そうだった!」
庵は怒りながらも質問に答えていくが、何かを思い出したようで、脇に抱えたサメの抱き枕?を夜神に渡す。
夜神は突然目の前に突き付けられた鮫を、すんなりと抱き締めるように受け入れた。
そして、ナースコールを押して「夜神大佐起きてます。宜しくお願いします」とやり取りをする

渡されたサメのぬいぐるみをどうしたものかと悩んだが、モチモチの肌触りに思わず強く抱きしめてしまう。
「?!大佐!何してるんですか?」
「・・・・・モチモチしていたのでつい・・・・色々とありがとう」
何をしているんだ、と思いながらサメの顔に、自分の顔を埋めて恥ずかしさから逃げていく。
幸い、大変な思いで連れてきた庵は気づいていないようで、持っていた紙袋の中から色々と取り出していく。

「式部中尉からと、有栖川室長からです」
サイドテーブルに置いていったものは、夜神がいつも髪を染めている染剤とグレーのストールだった。
「染剤は式部中尉から、ストールは有栖川室長です。「クーラが効いて寒いだろうから、これで首元から温めるように」と、伝言も受け取ってます」
二人のそれぞれの気遣いに嬉しくなった。髪が元の色に戻ってしまったので、早く染めないといけないと思っていたし、首に付いた噛み跡や鬱血の跡が気にっていたのだ。

それぞれの差し入れに感謝を込めて受取って、ストールは早速首に巻く。
庵は更に紙袋の中から水のペットボトルを三本取り出して机に置いていく。
「喉乾くと思うので持ってきました」
「ありがとう。実は飲み干して買いに行こうと思っていたの。助かったよ」
早速そのうちの一つを手に取り飲んでいく。半分ほど飲んでやっと一息つく。

「元気そうで良かったです。それにしても七海少佐にサメを持たされたときは泣きたくなりましたよ!ゴミ袋に入れようとしたら「俺が持ってきたものをゴミ袋に入れるのはどう云うことだ!」って怒るし・・・泣く泣く状態で持っていったら周りは変な目で見るし。明日から自分変なあだ名とか付けられてそうで怖いです」
庵はため息と共に椅子に座り、七海少佐からの愛の嫌がらせ?を話す。それを苦笑いで聞いていくと扉が開き、看護師がお盆を持ってやってくる。

「夜神さん、ご飯ですよ~あら?何か可愛いいお客様がベットにいるわぁ~良いわね~はい、ここに置いときますね。食べられるだけで構いませんからね~」
早速、庵が頑張って持って来た、サメのぬいぐるみを褒める看護師を苦笑いで応えていく。
そうして、また二人だけになると沈黙が辺りを支配する。

「・・・・・看護師の方も言ってましたし、食べれるだけ食べましょう。実は自分も持ってきてるんです!」
庵がまた、紙袋を漁るとおにぎりが出てくる。
「庵君?お昼食べたんだよね?まだ食べるの?」
「昼食はしっかり食べました。そしてこれは、三時のおやつです。見て下さい!この煮玉子の入ったおにぎり!この、トロッと具合にシミシミの茶色!美味しそうでしょう!」
庵がおにぎりに入っている半分に切られた煮玉子を、指をさして説明する。
「うん、美味しそうだね」
庵の力強い説明にただ賛成するしかなかった。
「なら、一緒に頑張りましょう。大佐のペースでいいので食べましょう!」

庵は笑いながらお盆の上にある食事を準備していく。ご飯は蓋付きでそれを外すと、鮭雑炊が少なめに入っている。副菜はほうれん草のお浸しで、こちらはラップに包まれているのでそれも外していく。
レンゲを夜神に渡して、自分は椅子に座っておにぎりのフィルムを外していく。

「いただきます。大佐もほら」
「えっと・・・いただきます」
一口だけ掬って口に運ぶ。優しい味が口の中に広がる。だが、どうしても飲み込むことに少し抵抗を感じながら、時間をかけてゆっくりと飲み込む。

夜神が少し涙目になりながらも、頑張って飲み込むのを確認して、おにぎりを食べていく。
そうして半分ぐらい食べたところで、夜神はレンゲを置く。
「ごめんなさい。もう、無理みたい」
「大丈夫です。昨日より食べれたと思いますよ。時間はあるのでゆっくりと行きましょう」
庵はお盆に乗せられた薬を渡して、茶碗の蓋を閉める。

「本当はもう少し居たいのですが、相澤少佐が稽古して下さるのでそろそろ行きますね」
「ありがとう。頑張ってね」
忙しいのに時間を割いて来てくれた庵に礼を伝えると、庵はニコッと笑い、扉の前で敬礼して出ていく。

再び一人になった夜神は隣にいる、サメのぬいぐるみを撫でながらため息をする。
食事を口に運ぶのは何とか大丈夫になってきたが、飲み込む事に少し抵抗がある。
皇帝に抱かれながら、無理やり食べさせられた事が、少なからず影響しているのかも知れない。

「退院するまでに克服出来るといいけど・・・・・」
この状態が続くと、仕事にも影響が出て来ることは、頭では理解している。だが、心が追いつかないのも事実。
ぬいぐるみを撫でる手はいつの間にか止まり、再びため息をする。

窓を見ると、真っ青な空が視界に映り込む。雲ひとつなく、夏らしい空だ。
窓を締めていても蝉の鳴き声が聞こえてくる。その鳴き声を聞きながら今後、どうすべきかを考えていく夜神だった。
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