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「先生、待っていて下さいっ!!」
夜神は上着を脱いで、一番酷い腹の傷を上着を巻いて止血しょうとする。だが、余り意味もなく、上着は血を吸ってグッショリと重たくなるだけだった。
動かしたくても動かせない状況をどうするか迷っていたとき声が聞こえていた。

「そこに誰か居るのかぁ━━━」
煙幕の中から声が聞こえてきて、夜神と七海は身構える。七海は槍を構え、夜神は嵐山を背中で庇いながら、懐剣を抜く。

そうして、陽炎のようなぼんやりした輪郭がハッキリしてきて、軍服を着た二人の隊員が姿を現した。
「藤堂少将、長谷部大佐!!」
七海は安堵したが、気の抜けない差し迫った状況を伝える。
「嵐山大佐が重症です。早く救護所に連れて行かないと!!」
七海のひっ迫した声に藤堂と長谷部は、夜神の背中に庇われている人物を見る。
それは、良く知った人物だった。その人物は腹回りを軍服を巻いて、顔を青くしている。
「嵐山!!」
「すまない・・・・・早く、二人を・・・・・」
「喋るな!長谷部、ここなら第二救護所が近いな。よし、私が担ぐから手を貸してくれ!」
「バカを・・・武器を持っていけ・・・・私は、助から・・・・・」
「助かる!助かるから、喋るな!長谷部!」

軍の徹底した教え━━━━「死体は置いても、武器は持ち帰れ」嵐山は今まさにその状態だった。だか、藤堂も長谷部もそれを無視して、嵐山を助けようとする。

藤堂はおんぶの体勢をとって、長谷部と七海は嵐山の体を起こして、藤堂の背中に預ける。
藤堂は重みを感じて、立ち上がると夜神を見る。

瞳は赤くなり、涙が今も溢れている。上着は嵐山に巻いてしまったので、シャツとズボン姿だが、そのシャツは首元が乱されて、首には血の跡と、締められた跡が残っている。

吸血鬼に噛まれたようにも見える跡を見るが、今は一刻も争う。その事は後で聞けばいい。
「凪、私の弓やみんなの武器を持ってついて来なさい。七海と長谷部は嵐山が倒れないように、後ろから支えて欲しい・・・・・・・よし、行くぞ!!」

藤堂に言われた通り、夜神は他の隊員の武器を持ち、七海は長谷部と一緒に嵐山を支える。そうしてここから一番近い第二救護所に向う。



「日守先生!!助けて下さい!!」
ここは医者達にとって別の意味で戦場だった。吸血鬼によって大なり小なり傷をつけられたものが、引切りなしに訪れる。
日守はまさに「目の回る忙しさ」を体感していた。そんな忙しい中を日守は、指示を出し自ら治療に向う。
そんなさだか、名前を呼ばれるので、苛立ちを隠さず返事をする。
「分かってる!!次はどんな怪・・・・・・ちょっと!!重症じゃないの!」

日守は担がれて来た人物を見て驚く。夜神嵐山と言えば、軍の中でも上位に来る剣の使い手だ。その嵐山が、ぐったりしている。笑えないほど生きているのが不思議なくらいなのだ。
「冗談でしょう。ちょっと、そこのベットに寝かして。急いで!!」
日守の指示の元、藤堂は指を指したベットに嵐山を寝かせる。日守は急いで嵐山の容態を見ていく。

━━━━━━だめだ・・・・・

血を流しすぎている。これでは助からない。高位クラス武器保持者だから、身体強化されているが普通ならとっくに死んでいる。

日守は嵐山の容態を見てさじを投げてしまった。身体強化の為なのか生きているが、本当ならとっくの昔に死んでいる。
日守は藤堂と長谷部の顔を見て首を振る。

藤堂と長谷部は日守の行動に愕然とした。
日守の首振りに絶望したのだ。そして嵐山はそれを、遠くなる意識の中で確認する。横では夜神が涙を流して手を握り、七海は負傷した肩を押えてる。
「凪、大丈夫だから・・・・虎次郎と・・・首の処置をして・・おいで・・・」
「いや!大丈夫だから!大丈夫だから!心配しないで」
夜神は駄々を捏ねる子供のように、首を振って拒否をする。
「虎次郎、凪を連れて・・・・行ってくれ・・・・・・」
「・・・・了解しました・・・・・・凪、行くぞ!」
「いや、離して!虎次郎、ねぇ虎次郎!先生!先生っ!」
七海は夜神の片腕を掴むと、問答無用と言わんばかりに救護所から出て行く。



「━━━━━俺が、知っているのは以上です。嵐山大佐とのやり取りは藤堂元帥と長谷部室長が詳しいのでは?」
七海少佐に言われて、嵐山大佐との最期のやり取りを藤堂と長谷部は思い出す。あの時も「皇帝」と言う言葉が出ていた。



自分の死期を悟った嵐山は友である二人に、心残りでもある夜神を託す。
「すまない・・・・・凪を頼む、吸血鬼の・・・・「皇帝」は凪を狙っている・・・異常なまで・・・・執着している」
「わかった。安心しろ。凪の事は任せろ」
濁り始めた目を二人に向ける。呼吸は不規則になり、「ゼーゼー」と言いはじめる。
「・・・・待ってろ、凪を連れてくる」
長谷部は外に居る夜神を連れてくるため、一旦外に出る。そして、七海に片腕を掴まれたままの夜神を見つけると、手招きをする。

七海は悟ったのだろう。長谷部の暗い表情と手招きで、嵐山大佐の命の蝋燭は燃え尽きようとしているのを。
「夜神、すまなかった。行って来い」
手を離すと、振り返ることなく嵐山が居る救護所まで走っていく。きっとこれが最後の別れになる。ならば自分が出来るのはここまでだと七海は悟った。

長谷部大佐が手招きしているのを見て、七海が掴んでいた腕を離したと同時に夜神は走って嵐山の元に行く。
ベットのシーツを赤く染めながら、嵐山は「ゼーゼー」と苦しそうに息をしている。
「先生!!」
夜神は力のない嵐山の手を握る。その手は冷たくて、まるで氷のようだ。
「凪か・・・・・こんな時まで「先生」か?」
確かに夜神にとっては剣の先生でもある。だがそれ以外の呼び方で呼んで欲しくて、軽く指摘する。
「お父さん!お父さん!一人にしないで。もう、一人はいや。どうして、どうして大事な人たちばかり奪われるの?」
赤くなった瞳から、次々に涙が出ては頬を伝う。
「大丈夫。凪は・・・・・一人じゃ、ない・・・・・凪、蒼月と紅月を・・・・・・引き継いで、くれるね?」

━━━━武器の継承

「高位クラス武器」は意思を持つ。そして武器が認めた人間にしか武器は扱えない。
持ち主がいる間、武器は持ち主の為だけに力を発揮する。持ち主の居なくなった武器は一旦、軍が回収してもう一度使い手を探すのが基本になっている。
師弟関係であっても勝手に継承することは出来ないし、それ以上に武器が認めるかも分からないのだ。

だが、嵐山はその事は理解した上で対策済みなのだ。既に次の使い手は夜神だと、軍に周知させているし、軍も承知している。

「継承するから、するから・・・・・・」
嗚咽混じりで、嵐山の願いを叶えていく。嵐山の呼び方を、武器の継承を。
そうすることで助かるかもしれないと、混乱した頭で思ってしまう。
「ありがとう・・・・継承してくれて・・・・あぁ、沙耶さやなぎ今行くから・・・・・凪が娘で良かった・・・・凪の父親になれてよかった・・・・・」

濁ってしまった目を静かに閉じていく。力はなくとも握っていた手は、力がなくなり重力に従って布団に落ちていく。
そして体を支えていた力がなくなり、眠ったようにも見える。
だが、この状態は眠ってしまったのではないことを、夜神も近くで見守っていた藤堂も理解している。

「お父さん!お父さん!起きて!お願い目を開けて!お願いだから・・・・・・・・・・一人にしないで!!」
嵐山の体を掴み、シーツに顔を埋めて泣き崩れる。

叫びにも近い声を聞いて日守はその声の場所に行く。そのベットには眠っているような嵐山大佐と、泣き崩れる夜神、泣くのを堪えて、変わりに拳を震わせる藤堂少将がいるのを見て悟った。
日守は嵐山に近づき確認をする。瞳孔や呼吸、心拍を確認して、時計を見る。
その行為を見ていた藤堂と目が会い、一瞬戸惑ったが、無言で首を振る。そしてそれを理解した藤堂は軽く頷いた。


「スクランブル交差点襲撃事件」は吸血鬼たちの奇襲により、軍の人間が多数投入され、掃討作戦が決行される。
多くの犠牲者を出した。そして、その多くの犠牲者の中には軍の殉職者もいる。
そのうちの一人、夜神嵐山大佐は家族を守る為、皇帝からの攻撃を受ける。
そして、その家族と仲間に見守られてその生涯に幕を閉じた。

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嵐山大佐は最期は幸せだったのかはわかりませんか、少なくとも凪と出会えて幸せだったと思います。
やはり、嵐山大佐もルードヴィッヒの異常性を話してました。
どんな人からも色々と言われるルードヴィッヒの曲がった性格は嫌いではないんですがね(笑)

ここまで読んで下さってありがとうございます。感想等頂ければ幸いです
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