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毎夜されているように、体や髪に香油を塗られ、髪を乾かされる。白練色の髪は香油の為かサラサラと指通りの良い髪になっていった。
肌着は一切許されず、肌に直接、しっとりとした質感の絹の寝夜着を身に付けさせられる。
「・・・・・・」

着々と皇帝の為の準備される自分の姿を、鏡越しに見て吐きけがする。何のために手の込んだ準備をするのかが分からない。毎夜、毎夜繰り返される行為に対して嫌悪感が生まれる。
「陛下、お支度整いましたが、いかがいたしましょう?私共でお連れしましょうか?」

侍女長が、脱衣室のソファで寛ぐルードヴィッヒに声を掛ける。ルードヴィッヒは侍女長の声に反応して、閉じていた瞼を開き、夜神を見る。
「私が連れて行くよ。凪ちゃん行く前に飲んで。お風呂で沢山動いたから喉乾いたでしょう?」
小さなテーブルに置かれた水差しからグラスに水を注ぎ、夜神に渡した。
戸惑ったが実際、喉が乾いているのは本当なので、無言で受け取り煽るように飲む。
「喉乾いていたんだね。まぁ、あれだけ喘げば喉も乾くか」
ルードヴィッヒの皮肉な言葉に、夜神は空のグラスを投げつけたくなったが、グッと堪えてグラスを握り込むだけにとどまる。

「さて、私も喉が乾いてしまったんだよ。だから潤わせて欲しいんだよね。凪ちゃん」
ルードヴィッヒはいつもの歪んだ顔で、夜神に話しかける。夜神はグラスが必要なのかと思い、握り込んでいたグラスを手渡すが、ルードヴィッヒは夜神の握ったグラスごと手首を掴み、自分の懐に引き寄せる。
椅子に座っていた夜神はバランスを崩して立ち上がり、そのままルードヴィッヒの胸に飛び込むような形で倒れる。
「何するの?!」
「だから、喉が渇いたんだよ。飲ませてね・・・・・」
首筋を撫でると、牙を食い込ませる。
「なっ、やめ・・・・いゃ、これ、いやなの!!」
一瞬だけ、肌を突き刺す痛みがするが、すぐに別の感覚が襲う。
痛みを凌駕する快楽。体全体に甘い痺れが襲う。そのせいで力がなくなりグラスを落としてしまう。
「ぅん、あぁ━━━━、だ、めぇ・・・・」

何度もその牙で血を吸われ続け、体が知らないうちに順応に反応するようになっていた。だが、夜神はその事を知らない。心のどこかでその事を拒否している。認めたくないのだ。
「うん━━━━はぁ、喉が潤ったよ。相変わらず、蜜よりも甘い。凪ちゃんは何処も甘いけど、血が一番甘いかもしれないね。あぁ━━けど今、その顔は反則だよ。そんな表情も甘いね」

トロンと何処か呆けた顔で、ルードヴィッヒを眺めている。その瞳は赤く染まり、ルードヴィッヒを見ているようで見ていない、遠くを見つめている。微かに開いた唇からは、熱い吐息が漏れ出ている。
「フッフフフ、ハハハッ!凪ちゃん。ここではゆっくり出来ないから、お部屋に行こうね。大丈夫だよ。ちゃんと連れて行くからね」

ルードヴィッヒは力尽きて、体の重みを全て預けている夜神を横抱きにして、脱衣室を出ていく。
そして長い廊下を歩いて、自分の部屋の扉に向う。その扉をの前には護衛の騎士が常駐しており、ルードヴィッヒの姿を見ると、すぐに扉を開く。

自分の部屋から寝室に向かい、さらにその奥の部屋に向う。そこは、部屋の寝室より豪華な、ベッドがある。毎夜、夜神を気絶するまでを甚振るいたぶる部屋だ。

夜神が何かを感じたのか、大人しく部屋まで連れて行かれた時とは違い、何かを抵抗するように動き出す。
「いや・・・・・この部屋はだめなの・・・・いたくないのぉ・・・・・」
イヤイヤと、首を左右に降って拒否する。だが、ルードヴィッヒにとってはそんな行動も自分の快楽を満たす、行動の一つに過ぎない。
「嫌じゃないよ。凪ちゃんが一番気持ちよくなれる部屋だよ。我儘を言ってはだめだよ?」
クスクスと、笑いながら夜神の可愛い駄々を蹴散らせて、ベッドに横たえる。

上向きの夜神に覆いかぶさり、無防備な首筋に赤い跡を付けていく。寝夜着の腕のリボンを外すと、簡単にはだけてしまい寝夜着の意味がなくなってしまった。
そして、唇はそのまま下の白くて無防備な双丘に、跡を付けていく。
「つ、ん、あっ、だめ!」
引き離そうと、ルードヴィッヒの肩を押していくが、力が入らず、それどころか快楽を逃がすために、シャツを握りしめた。
「溺れて良いんだよ。深く深く、浮くことが出来ないぐらい溺れて・・・・誰も責めないから。凪ちゃん」
「・・・・・おぼれるの?」
色の牙と胸の愛撫で、考えることに霞がかっている夜神は、ルードヴィッヒの言葉を繰り返して聞くことしか出来ない。
たとえ、そこで答えをもらっても、今の状態の夜神では、その答えを理解するのは難しいだろう。
「そうだよ。今は快楽に溺れてしまえばいいんだよ。大丈夫。ちゃんと溺れさせてあげるから」

その言葉が合図だったのか、ルードヴィッヒは執拗に夜神の肌に鬱血を残し、泣きながら「やめて」と制止を求めているのを、笑いながら一蹴して、胎内に己の楔を打ち込み、白濁を何度も注ぐ。
最後は拒否も拒絶も出来ないぐらい、力尽きなすがままの夜神を気絶するまで追い込んでいった。

夜神が帝國来て、十日が過ぎようとしている。最初の頃と比べると随分大人しくなってしまった。連日連夜の皇帝からの執拗な行為に体も心も限界が来ている。
そして追い打ちのように侍女長の精神的な攻撃が更に拍車をかける。

ローレンツは長い廊下を歩いて、執務室に向かっているところだった。その向こうから侍女長が歩いてくる。
「侍女長殿。少し宜しいですか?」
「宰相殿。いかがされました?」
ローレンツは侍女長を呼び止めて話をする。その内容は陛下が異様なほど執着している夜神のことだ。
「あの白いお嬢さんの爪を整えているのは侍女長なんだよね?」
夜神の爪は、最初は整えて磨かれているだけだったが、最近はマニキュアをしている。それも血のように赤色のマニキュアだ。
「えぇ、しておりますよ。それが何か?」
「毎日、整えながら、何やら言っているみたいですね?我々は知ってます。ま━━陛下はその事に対して、喜んで許可してますが、どうしてそのようなことを?」
何故知っているのか・・・・それは夜神に付けた「影」からの報告があったからだ。
「影」は暗部の総称だ。皇帝の命令で手足となっていて、国に害する者をひっそりと闇に葬る。
隠密に優れているため夜神が一人で居るときは必ず配置される。

その「影」から報告があったのだ。侍女長が城で働く人間の爪を脅しの材料にして、夜神を精神的に甚振っていることを。
「「白目の魔女」は「スティグマ」を授かっているんですよ?そんな人間に身体的に害をなせばどうなるかご存知ですよね?」
「知ってますよ。それと関係あるのですか?」
「こちらの指示に従ってくれませんので、代わりの案としてお伝えしてるまでです。そのおかげでちゃんと聞いてくれて、仕事がスムーズに進みますのよ」
笑っているが、その笑いは何処か不気味だった。目と口が異様なほど歪んでいるだ。
「なるほど。もしかして貴方の復讐の為かと思いましたよ?本当はそうではないのでしょうか」
「・・・・」
ローレンツは侍女長の表情を見る。

不気味な顔は変わらない。だが、全身が微かに震えている。
「ご存知でしたか。そうですよ。あの子の仇をとるのは母親の務めです。優しいあの子は魔女に殺されたんですよ!!なのに、その魔女の世話をしないといけない。この手で殺したいのに!!でも、そんなことをすれば、一族が滅んでしまいます。だから人間を使うんですよ。それであの魔女がおかしくなれば、私は満足なんです」

侍女長の異様なほどの奇行は復讐の為だった。身体に害をなすことは禁じられているが、心に対しては何も言われていない。
それを利用して憎い相手に復讐しているのだ。
「やはりそうでしたか。大丈夫です。私はそのことで侍女長を罰するつもりはありません」
「そうですか。他に御座いませんのなら、失礼いたします。そろそろ、「手入れ」の時間になりますから」
侍女長はニッコリして、一礼して歩き出す。その後ろ姿をローレンツはため息混じりで見つめる。
「分かっていたけどやっぱりね。侍女長これ以上おかしくならなければいいけど。それにしても白いお嬢さんは、軍人なだけに多方面からの恨みがすごいなぁ━━━」

ローレンツは侍女長のやり取りで、改めてルードヴィッヒが厄介ごとを持ち込んだことに対してため息をする。
だが、嘆いていても仕方がない。あと、数日もすれば人間の世界に返すのだから、それまでの我慢だと思い、ローレンツは執務室に向った。
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