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裾の長いドレスは足にまとわりついて上手く足さばきが出来ない。
だが、容赦なく皇帝から繰り出される剣をかわしていかなければならない。

剣を両手で持ち胸の前で縦に構え、皇帝は笑みを浮かべている。
どんなに足掻いても勝つ事は出来ないと言っているようで歯痒い思いをする。

夜神は下からの袈裟斬りを仕掛ける。だが、皇帝が後退って服を刀の先で掠めるだけだけだった。
それこそが夜神の狙いだった。片手で袈裟斬りから、威力が強まる両手に持ち替えて、喉元に向かって突く。
だが、刀の先を剣で受け止めて流されてしまう。

「くっ!」
バランスを崩して倒れそうになるが、一歩足を進めて何とか持ちこたえた。
そうして片手に持ち替えて、流されたままの切っ先を真横に払いながら、後ろに飛ぶ。
「動きが鈍いね。あぁ、その服のせいかな?慣れないから無理もないよね。「参りました」と言えばこれ以上はしないよ?どうする」
「断る!たとえどんな結果になろうと、最後まで諦めない」
「頑固だね。でもそこが凪ちゃんらしいね」

「陛下、このあとの予定が詰まっているので、早急にお願いしますねよ」
ローレンツは懐から懐中時計を取り出して、ルードヴィッヒに現実世界に戻ってもらうために、予定を思い出させる。

今日も午後から会合があるのだ。それまでに済まさないといけない案件が山のようなある。
本当ならばこんなことしている時間もないのに。何を考えているのか

・・・・・人間ごときに予定を狂わされるなど言語道断だ。

ローレンツは離れたところで剣の打ち合いをしている二人を見てため息をした。宰相の仕事は本当に辛いと。
我が道を行く陛下の手綱を引くのも大変だと

ルードヴィッヒは動きづらいドレスを着ているのに、剣を振るう夜神に心から賞賛した。
軍服はトラウザーズだったが、今はドレスだ。
裾が広がったドレスは似合わないと思い、裾が真っすぐ落ちたペンシルラインを多く取り寄せて着せている。
髪も肌も白からどんな色も似合っていて、今着ている瑠璃色のドレスも良く似合っている。

どんな物を着せようかと、着せ替え人形で遊ぶ子供の気持ちが分かる。ルードヴィッヒにとって夜神は愛玩人形なのだ。
そんなに愛玩人形はどうにかしてルードヴィッヒから剣か片膝を落とさせようと、必死になって食らいつく。

本等なら二本の剣を使用している。そしてその剣は人間の技術・・・・・では造ることは出来ないもので、人間達はそれを大事にして、継承していく。
たとえ仲間を打ち捨てても、武器だけは持って帰る。それが夜神にも教え込まれた理念なのだろう。
だから、ここに来たとき武器は、何も持っていなかった。あの、簪も。・・・・・

ルードヴィッヒはお互い剣を向けあって、少し離れながら牽制をしていく。その時に右目の傷にそっと触れた。
その時、夜神は放たれた弓矢の様な速さでルードヴィッヒの首めがけて突いてくる。
それを蔑むような表情で見ると、剣を握る手に力を込めて弾く。
夜神の手から剣が離れて回転しながら観覧していた騎士達の近くで音を立てて落ちていった。

ルードヴィッヒは剣のなくなった腕を掴んで、そのまま地面に倒して、首元に剣を当てて笑う。
「凪ちゃんの負けだね。けど凄いよ。ドレスでそこまで動くんだから。今日は沢山ご褒美をあげなきゃね。楽しみだね。今日はどんな・・・声を聞けるのか、夜が楽しみだね」
最後の言葉は、夜神の耳元にささやく。
「っ・・・・・・いやっ」
悔しそうな顔から怯える顔に変わる。

昨日、無理矢理体を暴かれて、何度も何度も胎内に注ぎ込まれたのだ。その時の恐怖で全身が強張る。
小刻みに震えだす体を、ルードヴィッヒは馬乗りになった状態で指先を優しく添えてツゥ━━と伝うように撫でていく。

頬から始まり、首すじ、豊かな胸、そして下腹部で止まるとゆっくりと撫でていく。
「今日の夜も沢山、可愛がってあげるからね。沢山受け止めてね?」
「あぁ・・・・・やめて、もう嫌なの」
イヤイヤと首を降って拒絶するが、そんな行為はルードヴィッヒを楽しませる行為だと夜神は気づく事はない。

「さて、ローレンツの我慢の限界が近づいているから、そろそろ行こうかな。凪ちゃん立てるかい?」
ルードヴィッヒは立ち上がり、倒れている夜神に手を差し伸べる。
夜神は怯えながらも何とかして気力を出して、それを無視して自力で立ち上がる。

「相変わらずだね。凪ちゃんらしいけど、そんな気力いつまで持つのか楽しみだね」
ルードヴィッヒは夜神には聞こえない小さな声で呟く。
近くにいる騎士に、声をかけて夜神を送るように伝えて振り返ることなく、ローレンツの所に行き、そのまま何事もなかったように歩いていった。


騎士の二人の案内で、夜神は部屋に戻る。そこには侍女がお茶の用意をしていた。
「私共も失礼致します」
そう言って騎士と侍女は部屋を出た。一人残された夜神は出された紅茶を一口飲む。

━━━━━━全力とまでは言わないが、ある程度本気で挑んだ。それこそ庵君の訓練や、ベルナルディ中佐との演習以上の力だ。
だが、今日の打ち合いをしていて皇帝は本気ではなかった。それこそ遊んでいるような感じがした。
体内から生成される「鎖」や身体、剣技様々なものが全て計り知れない。あの時感じたが、軍が束になっても勝てるのか?答えは「NO」かも知れない。

夜神は得体のない恐怖に身震いした。このままでは我々は負けてしまう。
それこそ負ければ奴らの一生「餌」として生きなければならない。
そうならないために我々、軍があるのだ。どんなことがあろうと軍は抗い続ける。

夜神はいつの間にか飲み干していたカップをテーブルに置く。テーブルには部屋を出るまで読んでいた図鑑があった。

植物図鑑だが、この世界と自分達の世界の草花は、ほぼ同じのようだ。
花にそこまで詳しくないが、誰もが知っている花なら分かる。そして図鑑には知っている花が多かったのだ。

そしてこの世界の国花は薔薇のようだ。図鑑に解説があった。ならば、あの庭に多く咲いていた薔薇には納得する。

そして、その薔薇に剣を突き立てたマークを知っている。偶然なのかは分からないが・・・・

夜神は図鑑を手に取り、パラパラとしながら眺める。長い二週間。
何処まで自分は保つのだろう。既に少しだが足元から崩れ落ちそうになる。だが泣き寝入りだけはしたくない。

パン!と図鑑を閉じてテーブルに置くと、机に向かい椅子に座る。
引き出しから紙を取り出すと、世界地図を書く。この世界の地図だ。

この紙を持って帰ることはないだろう。ならば書いて覚えるのみ。机にある羽ペンにインクをつけて書いていく。
その紙を引き出しにしまうと、夜神は本棚に向かう。新たな情報を得るために。
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